月夜茶会

月夜茶会

2012.01.21
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月夜茶会開設2400日突入記念です!

●桜井美奈子の日記より

 水瀬君がバカでアホで単純で救いがたいほどの子供だって、何度思ったかは忘れたけど、実はそんな私の予想の遥か斜め上の存在だったと、今回ばかりは思い知らされた。

「超能力?」
「そう」
 お昼にルシフェルさんとお弁当を食べた時のことだ。
 何故か水瀬君がお弁当も食べずに自分の席でじっ。とスプーンを見つめてる。
 お弁当、忘れたのかと思ったら、昨日からずっとあの調子なんだという。
「ほら」

「昨日、テレビで超能力者の番組やってたでしょう?」
「ああ。思い出した。スプーン曲げがどうのって」
「そう。それ」
「あれ見て感動したそうで……台所からフォーク持って来るなり、曲がれ曲がれってうるさくて」
「で、曲がったの?」
「まさか」
 ルシフェルさんからティラミスの載ったお皿を受け取った。ルシフェルさんのお菓子、おいしいんだよねぇ……。
「最後はフォーク睨み付けて、“曲がらないと指で曲げちゃうぞ!”だって」
「へぇ?」
「魔法騎士が何で超能力なんかに興味を持つかが、今ひとつ理解出来ないのよね。私には」
「……同感」


 ついに飽きたのかと思ったら、スプーンを手にしたまま、水瀬君が近づくなり、「やってみて」とルシフェルさんにスプーンを突き出した。
「何を?」
「だから。スプーン曲げ」
「……」
 ルシフェルさん、スプーンを受け取ると指に挟んでいとも簡単にスプーンをへし曲げた。やっぱり騎士の力って強いなぁ。

「何で曲げろと?」
「超能力!」
「私、そんなのない」
「ルシフェにはその才能があるんだよ!」
「いらない」
「テレビで言ってたもん、超能力は訓練すれば誰でも身につくって!」
「……私、そんな訓練受けたことない」
「超能力者になりたくないの!?」
「なりたくない」
「何で?」
「何でって……」
 さすがにルシフェルさんもあきれ顔だ。
「あのね?何かでスプーン曲げたとして、それに何の意味があるの?」
「カッコイイとか、仕事で便利とか」
「使わないから、そんなの……そうね」
 ルシフェルさんは、ぽつりと言った。
「どうせなら、お金を生み出す力とかなら欲しいかな」
「……ルシフェ」
 水瀬君は、ルシフェルさんを見下すというより、哀れむような顔で言った。
「今は超能力の話しているんだよ?」
「……殴ったあと、このスプーンで脳みそほじくり出してあげようか?」


「超能力には、スプーン曲げ以外にも」
 スプーンをねじ曲げられた挙げ句、こよりのようにされた水瀬君は、かつてスプーンだった金属の塊を弄ぶルシフェルさんの前にカードを取りだした。
「カードを使った手品が」
「今、手品って言った」
「い、言い間違えただけだもんっ……さぁっ!」
 水瀬君は、カードを四枚、両手で広げてルシフェルさんに突き出した。
「一枚取って」
「……」
 無言でカードを引き抜いたルシフェルさん。
「……で?」
「これは透視の超能力!―――あなたが引いたカードはジョーカーですっ!」
「……」
「……」
 自身満々に断言する水瀬君だけど、私達は沈黙するしかなかった。
 問題はカードの引かせ方だ。
「これ、わかって当然でしょ?」
「あのね、水瀬君」
 私も言うしかなかった。
「カードの中身を見ながら引かせて、それが何のカードだったなんて、当てたも何も」
「……そういうものなの?」
「当たり前でしょう!?」
「でも、ババ抜きなら僕の勝ちだもん!」
「……好きにして」
「じゃあ、僕も色々やったんだから、何かルシフェ達も超能力見せてよ!」
「忘年会の隠し芸じゃないの……だから、ないって言ってるでしょう?」
「……あ、そうだ」
 私はふと思いついた。
 葉子に頼まれて、昨日渡すの忘れてたアレ……あ、あった。
「水瀬君?」
「何?」
「窓際に立って、後ろ向いて?」
「?これでいい?」
「うん。私も超能力見せてあげる」
「えっ!どんな!?僕でも出来る?」
「やってみるから、それで判断して」
「うんっ!ちなみに何?」
 私は虫眼鏡をカバンから取り出して、水瀬君の黒いブレザーに焦点を当て、何をしようとしているかを教えてあげた。
「これから水瀬君が燃え出す手品です♪」

 数分後。
「あ、戻ってきた」
「ひ、酷いよ桜井さんっ!」
 ブレザーの背中が黒焦げになった水瀬君がずぶ濡れになって戻ってきた。
「どう?人体発火の超能力」
 面白くてつい笑ってしまった。
「ううっ……す、スゴい」
「でしょう?」
「でも、クラスメートを焼き殺すのはダメだよ?ね?もう止めてね?」
「考えておくわ」
「うん。じゃあ、次は予知能力!」
「……萌子ちゃんに聞きに行ったら?」
「高いもん!お兄ちゃんである僕にだって似たような力は」
「……あるわけないでしょ」
「あるもんっ!ルシフェ」
「……これから先、会話は全て一秒百円が必要です」
「どこのぼったくりライン使ってるの?僕には見えるよ。数年後にはルシフェルが博雅君に捨てられて落ちぶれ果てた、それはもう惨めな姿が……」
「……へぇ?」
 ボキリボキリ
 ルシフェル拳が鳴った。
「あっ!?そう遠くない未来に、僕がルシフェルに殴られる予感が!」
「褒めてあげるわ」
 ルシフェルさんが椅子から立ち上がった。
「ご褒美に一発サービスしてあげるから、歯を食いしばりなさい」



 夜。
 葉子と一緒にご飯を食べた後のことだ。
 私は食後のお茶を飲みながら、目の前でお手伝いとして洗った食器を布巾で拭う葉子の手にフォークやスプーンがあるのを見て、ぽつりと言った。
「スプーン曲げなんて、出来るはずないのにねぇ」
「スプーン曲げ?」
 洗い物をしていたお母さんが一瞬、手を止めた。
「あの超能力ってヤツ?」
「そう。私のクラスに熱中している子がいてね」
「ふぅん?」お母さんは、そう呟くなり洗い物を再開した。
「お姉ちゃん。スプーン曲げってなぁに?」
「ん?スプーンを握って。曲がれっ!て強く思うとスプーンが曲がるっていうのよ」
「へぇ?」
 葉子は手にしていたスプーンをじっと見つめだした。
「ああ、葉子?あり得ないから、そんな真面目に」
「曲がれぇ……曲がれぇ……」
 我が妹ながら、その熱心な顔つきがとても可愛い。ホント、抱きしめてあげたい。
 だけど―――
「……えっ?」
 その時、私と葉子の目の前で、葉子の握っていたスプーンがまるで溶けでもしたかのようにへにゃりと曲がった。
 私はそれを確かに見た!
 本当に曲がった!
 嘘みたいっ!
「お、お母さんっ!」
「お母さぁん。見て見て!」
 驚いた私と自身満々にスプーンを差し出す葉子に、お母さんは再び洗い物の手を止めた。
「何?美奈子、さっさと飲み終えたら、お風呂の準備を手伝いなさい。何でもかんでも葉子の方がお手伝いしているなんて、お姉ちゃんとして恥ずかしくないの?」
「そうじゃなくて!」
「ほら、お母さんっ!」
「何?葉子、あら?」
「スプーン、曲がれって言ったら曲がったの!」
「スゴイでしょ?お母さんっ!」
 興奮気味に言う私だけど、お母さんは曲がったスプーンを葉子から受け取るなり、
「そうねぇ……でも、これだとご飯が食べられないわ」と困りが顔だ。
「え?そうじゃなくて……」
「まぁ、これ美奈子のだから、スプーン使うお料理を美奈子の分だけなくせばいいんだけど」
「それ、解決じゃないっ!」
「でも葉子、たいしたものねぇ」
「えへへっ」
 お母さんに頭を撫でられて満面の笑みを浮かべる葉子。
「……まぁ、いいか」
「へ?」
 お母さんは、掌で曲がったスプーンを撫で始めた。
「直れぇ……直れぇ……」
「ちょ?お母さん?」
 何して―――そういいかけて、私は動きを止めた。
 びっくりしたなんてもんじゃない。
 お母さんの手の中で、葉子が曲げたスプーンが元通りになっていくんだ!
「……えっ?」
「ほら、直った」
 にこっと笑ったお母さんの手の中には、どこも曲がっていないスプーンが一本、光っていた。
「葉子?これ、もう一回磨いたら、棚に戻してね?」
「はぁいっ!」
「……どうしたの?美奈子、さっさとお風呂準備して」


 超能力者。

 それはもしかたら、意外な所にいるのかもしれない。

 そう思う出来事だった。





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最終更新日  2012.01.21 14:20:39
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