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2015.05.03
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カテゴリ: 突発性難聴体験記
自分の周りで突発性難聴を体験した人は意外と多い。職場の人間、友人等、私が突発性難聴になったことを知って、「自分もなった。大変だった」とか「結局今も聴力が回復せず、左耳で電話に出れない」などと打ち明けてくれた人達が少なからずいて驚いた。直接話を聞いた人だけで7人もいる。そのうちの4人は今も聴力の低下や耳鳴りや聴覚補充現象で苦しい目に会っている。皆顔に出さないので鈍感な私が気がつかなかっただけなのか。
厚労省の報告では、毎年3000人から4000人に1人の発症頻度とされているが、実際はもっと多いのではないだろうか?

ここ10年ほどの間に、医療界では各疾患に対する治療ガイドラインが次々と作成されている。日本には多くの医師がいる。勉強熱心な医師もいればそうでない医師もいるだろう。場合によっては最新の知識に接すること無く、昔ながらのやり方に固執している医師もいる。しかしそれでは患者が最も有益な治療を受け損ねてしまう可能性がある。全国の医師がすべからく患者に最善の診断と治療を行えるよう、あるいは自分のところで治療不可能なら速やかに適切な施設に紹介できるよう、その時点での最新知見に基づいた方針を学会がまとめたものがガイドラインである。

例えば私の専門である産科領域では、産科診療ガイドラインが日本産婦人科学会によって作られており、妊婦、新生児の各疾患に対する早期診断法や適切な治療について事細かく解説されている。これは3年に一度改訂されるので、新しい版ができた瞬間から改訂に向けて専門家や一般臨床医から広く意見を求めて次回の改訂の準備がなされる。
もし不幸にして妊婦や新生児が亡くなったり後遺症を負ってしまった場合は訴訟となることが多いが、そのときに医療側に過失があったか否かはガイドラインに沿った医療行為がなされていたかどうかがで判断される。

第一版の産科ガイドラインが出版されたのが2008年だったと記憶しているが、出版される前には、「そんなものを作ったら、裁判の時に医療側が不利になるんじゃないか」とか、「全ての医師に最新の知識を要求するのは無理じゃないか」とかいろいろと批判があったようだ。しかし学会側としては、「訴訟が多いからこそ全ての産科医が高いレベルの医療を提供できるようにしていくべきで、そのためには具体的なガイドラインがどうしても必要だ」との考えで出版に踏み切った。その判断は全く正しかったと思う。
もちろん診断も治療も難しい病気は数多くあるので、ガイドラインに従えば大丈夫というほど医療は単純では無い。しかし日進月歩の医学の中でリアルタイムに最新の知識とそれに基づく治療の選択枝を示すことは医師にとっても患者のとっても非常に有益である。そして現実問題として産科ガイドラインが作成されてから訴訟件数は減っているのである。

突発性難聴についても、これほど多くの人を苦しめ治療の難しい病気であれば当然ガイドラインがあるものと思っていた。しかし調べてみると中耳炎や良性発作性頭位めまいや副鼻腔炎などのガイドラインはあるが、突発性難聴のガイドラインは存在しないのである!
この総説によると、
「ガイドラインを作ることで現場の医師の裁量権を縛りはしないか,訴訟が起こった場合ガイドラインが悪意を持って利用されないかなどが懸念されたものと記憶している。そのような事情で突発性難聴の診療ガイドラインの作成は中断して今日に至っている」

難しい病気であるからこそ全国の耳鼻科医が最新の知見と治療の選択肢を知っておくべきなんじゃないか!その上で患者と相談し治療方針を決める。これがインフォームド・コンセントというものだろう。
現状では突発性難聴患者がどんな治療を受けられるかは全く運任せで、私のような医療関係者ですら自分で調べてあれこれ考えたあげく八方ふさがりになるのが現状である。そりゃ治療の進歩が無いのも当然じゃないか。





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Last updated  2015.05.04 11:25:39
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