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2015/02/07
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「伝令!伝令――っ!」
その喇叭の響きは階上の女王の耳にも届く。
「神聖なるローマ・カトリック教会とマインツ大司教の名のもと、フライハルトの女王に告ぐ!即刻、フーベルト・ローレンツ大尉の引き渡しに応じられよ!大尉は教会への冒涜の罪にて召喚を受けた。これは大司教による、正式な要請である!」
二階の小ホールを会議所にして集う騎士たちから、戸惑いの声が漏れる。
「引き渡し要請?大司教様から?!」
マインツ大司教といえば、ドイツ地方を治める三人の大司教の首座、つまりドイツ・カトリック界の頂点に位置する人物である。
「随分と早耳な・・・ジークムント公の一派が、隙を見て大司教に密告したのでしょうか。」
フォルクマールは手にした召喚状を黒獅子の騎士に手渡す。
「ローレンツ大尉は聖堂内で発砲したとか。背教的行為に問われれば、罪は重い・・・どうします、アルブレヒト。引き渡しますか。」
フォルクマールのさりげない問いかけに、赤毛の騎士テオドールはぞくりとした。
この重大事案を、自分たちは女王の裁定なしに決しようとしている。
あたかも彼女の意志など存在しないかのように。

結局、ユベールの身柄は大司教のもとへ移送されると決まった。
慌ただしく準備が進められ、翌々日にはユベールを乗せる護送馬車が支度を整え城門前に停まっていた。
テオドールに引き連れられて城の扉から一歩踏み出したユベールは、久方ぶりに浴びる陽光に眩暈をおぼえる。
わずかひと月前に英雄として歓呼を受け凱旋した将校の連行される様子を、城に駐留する兵士たちや下働きの者たちが固唾をのんで見守っていた。
「アルブレヒト様が、よい弁護人を手配すると・・・貴殿を見捨てたわけじゃない。」
テオドールがそう言って寄こしたが、申し開きが受け入れられなければ、これがフライハルトでの最後になるかもしれない。
ユベールは振り返って、彼を幽閉してきた城の全景を見やる。
このどこかにレティシアがいる・・・言葉を交わせぬまま別れるのが、心残りだった。
「さぁ、こちらへ。」
護送兵に促され、彼が馬車に乗り込もうとした時だった。
「待って・・・ローレンツ様!」
「ティアナ・・・?」

大事そうに長い包みを抱えてきたティアナは、ユベールの前で巻布をとく。
中から現れたのは一振りの剣。
ユベールがカイムから譲り受けた、あの長刀――幽閉の折に押さえられていたものだ。
「道中の守りにと。許しを得ました。」
「ありがとう・・・ティアナ。」

だが彼女は片膝をつき、余人に聞かれぬよう注意深く囁いた。
「ローレンツ様、私がお伝えすることを、どうか何もおっしゃらず・・・お心にしっかりと刻んでください。」
心の中で幾度も復唱した文言を、忠実に再現する。
「エクレシアの葡萄樹に宿るのは、守護の証。陛下の、御心を託す――」
「・・・・!」

レティシアの心・・・ならこれは、女王からの伝言なのだろうか。
「私はこれで戻ります。・・・どうぞ、ご無事で。」
ティアナは長い敬礼の後に、踵を返して人波に消えた。

ユベールが馬車に乗り込み、出立の号令がかかる。
ゆっくりと流れ始めた車窓の景観に視線をやりながら、ユベールは思いをはせる。
(エクレシアの葡萄樹・・・)
エクレシアとは、教会の語源となった古代ギリシャ語である。
(教会の葡萄樹に宿る・・・・)
ふと視界に入った車内に、置かれていたのはカイムの剣。
(・・・・まさか!)
ユベールは剣を急ぎ手に取ると、手で触れて隅々まで確かめる。
かつてシャルロットが教会の葡萄樹の根元に埋め、ユベールの元へ渡るようレティシアに委ねたのだと聞いた。
柄を握ると、かすかな違和感が腕を伝う。
抜き身にして数度手首を返し、ユベールは柄の先端を解体する。
柄と刀身の間にできる空間から、絹で巻かれた小さな物体が転がり出た。
親指の先ほどの、小さく硬質な・・・
布をほどいたユベールは、己の心臓が早鐘のように打つのが聴こえた。

陛下の、御心を託す―――

ユベールの手の内に収まった、それは・・・黄金色のシグネット。
国主としての権能の証。
フライハルト王家の紋章が彫り込まれた、印章指輪であった。


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Last updated  2015/02/08 12:42:34 AM
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