PR

Favorite Blog

三度目の鑑賞!「ウ… New! yhannaさん

蒼い華 十五 New! 千菊丸2151さん

そんな、一日。 -☆丸-さん
なまけいぬの、お茶… なまけいぬさん
おれ兵隊だから 天の字さん

Free Space

PVアクセスランキング にほんブログ村

Keyword Search

▼キーワード検索

2017/02/19
XML

*今回、2話連続更新です。
はじめに、 「天地の狭間(6)」 からお読みください。

~~~~~~~~~~~~~~~~~

一方、フィアノーヴァ城を取り囲む部隊の中に、ユベールの姿もあった。
「再装填準備・・・!」
砲兵隊を指揮する将官の号令を聞きながら、彼は瞼を閉じ、つとめて心を鎮める。
狙いは城壁、よもやレティシアの身に危害は及ぶまいが。
それでも国主の居る城を砲撃するなど、はじめ誰もが二の足を踏んだ。
だが切り札であったグリボーバル砲を封印した今、勝利するには想定外の手法を持ち出すほかなかった。
それは同時にグストーの不退転の決意を、騎士たちに示すものでもある。

既に数度の砲撃を受けて、西向きの城壁の一部に、ほころびが見え始めていた。
あとわずか、人ひとり通れる幅でよい――
じりじりと、もどかしいだけの時間が過ぎていく。
城を守備する兵は1個大隊程度だろう。包囲側が数的には有利だ。
外側に張り出した側塔から散発的な応射もあるが、牽制程度である。
しかし北方からの援軍が到着してしまえば、敗北は避けられないだろう。
ザンクトブルクに籠城するアドルフやロイ・・・彼らが持ちこたえられず、早々に兵を返されても負けだ。
勝機は、いまこの時にしかない。

ユベールの陣に、先ぶれの早馬が到着した。
「ザンクトブルク方面から、アルブレヒト殿率いる騎兵隊が転進!その数、およそ1000!」
周囲にどよめきが起こる。
やはり――全軍を足止めすることはできなかった。
「第一砲兵隊は城壁の攻略を優先せよ。歩兵隊、竜騎兵隊は迎撃準備!」
「ローレンツ大尉、フィアノーヴァの迎撃砲も準備整いました。」
「よし。」
城の背面を見上げると、ジャン達が占拠した砲門も斜角の調整に入っているようだ。
歩兵部隊が方位転換し、幾重にも横隊を組む。
ユベールは竜騎兵隊と共に側面を固め、来るべき時を待つ――
間もなくして、丘陵の彼方に漆黒の染みが現出した。
「総員、構え銃(つつ)!」
壮年の歩兵隊長の号令が飛ぶ。
「距離2000・・・1500・・・!」
信号用の真紅の隊旗が揚がり、一度二度と大きく左右に振られる。
「砲撃用意――撃て!!」
フィアノーヴァの砲門が、その本来の主に向かって一斉に火を噴いた。

耳を聾する爆音とともに、巻き上がった巨大な噴煙が黒獅子の騎兵隊を吞み込む。
爆風で飛ばされた味方の装具がアルブレヒトの背を打ち、誰かの血が頬を濡らした。
畳み込むように前方から撃ちこまれたのは、敵歩兵隊の銃弾であろう。
棹立ちになった愛馬をいなし、彼はそれでも前進を命ずる。
被害をつぶさに確認する時間はなかった。
この場に留まれば、さらなる銃撃を受けかねない。
「臆するな!私に続け!」
黒獅子の一喝に、生き残った騎兵たちがすぐさま陣形を整え、参集する。
いまだ薄けむりの中、馬を駆るアルブレヒトが部隊の先頭に立つ。
やがて喉を焼くような空気がやわらぎ、視界が開ける。
その前方に――

「伏せよ・・・!」
危難を察したアルブレヒトの号令も、間に合わなかった。
彼らの行く手を扇状に取り囲むように展開した竜騎兵隊が、一斉にカービン銃の引き金をひいた。
ある者は馬に、ある者は自らの体に銃弾を受け、次々と斃れ伏す。
先ほどの砲撃に加え、被害は部隊の半数近くに及ぶだろう。
それでも長年フランス軍と渡り合い鍛え抜かれた精兵の、歩みを止めるには不足であった。
(陛下・・・!)
フィアノーヴァの城壁の無残に砕かれていく様が、アルブレヒトを逆上させた。
「フーベルト・・・ローレンツ!」
敵陣の内に褐色の青年将校を見いだすと、黒獅子の騎士は馬の脇腹を蹴る。
一度は捕えながら、レティシアの心を思んばかり情けをかけたは己の甘さ。
この男を討てば、残りは烏合の衆ではないか――
アルブレヒトは馬上でサーベルを抜き、ただ一点めざし敵兵の波に突入する。

「ローレンツ大尉!お下がりください!」
誰かがそう叫んだ時、ユベールの眼前には既に騎馬のアルブレヒトが迫っていた。
灰色の双眸が冷徹な光をたたえ、ユベールを捉える。
馬上から振り下ろされる一撃を剣でいなし、跳ね返す。
黒獅子の騎士は馬を乗り捨て、一息に間合いを詰めると再び打ち込む。
鋭い直線。
それをユベールは受けようとするが、互いの刃が触れ合った瞬間、体の軸が崩された。
(く・・・っ!)
一太刀の、なんという重みだ。
ギリギリと刃が軋みをあげる。
足元から崩れ落ちそうになるのを懸命に耐え、ユベールは重心を入れ直す。
力を逃して間合いを取ろうとするが、間髪入れず二撃、三撃と加えられていく。
ユベールには、相手の剣先を読むのに長けているという自負があった。
敵がどこに打ち込んでくるか、その視線や腕の動きで察知できる。
だからこそ戦場でも生き延びられた。
だがアルブレヒトの剣は予測していてすら、かわすことを許さない。
そうなのだ――フライハルトの正統なる頂点に立つ、これが黒獅子の騎士の剣――
周囲は騎兵と竜騎兵の乱戦となっていた。
剣を合わせる最中にも、アルブレヒトは一言も発しなかった。
だがユベールには、黒獅子の騎士が躊躇なく彼の命を奪う心づもりなのだと知れた。
力の衝突では勝ち目はない。
足を使って距離を取ろうとした隙に、再び踏み込まれ至近からの一撃。
ユベールが刃で受けた刹那、アルブレヒトは刀身を返し、そのまま横薙ぎに薙いだ。
「っ!!」
衝撃に跳ね飛ばされ、ユベールは斜め後方に倒れこんだ。
体を回転させ、起き上がろうと片膝をつく。
だがアルブレヒトから視線を外さない彼の足もとに、赤黒い液体が染みを作っていた。
左手首から膝に生温かくしたたる血潮、痛みがないのは腕が感覚を失ったせいであろう。
剣を取り落したユベールに、黒獅子の騎士はなおも剣をふりかざすが――
足もとをかすめて金属製の矢が撃ち込まれ、彼は周囲に視線を走らせた。
数名の竜騎兵が指揮官を守ろうと、二人の間に割って入る。
そこへ壮年の騎士が駆け寄った。
「アルブレヒト様、西側の城壁がもちません・・・!」
淡い灰色の瞳でユベールを睥睨すると、アルブレヒトは踵を返して去った。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2017/02/19 04:09:58 AM
コメント(4) | コメントを書く


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


Re:天空の黒 大地の白(5-81)天地の狭間(7)(02/19)  
千菊丸2151  さん
black_obelisk様、お久しぶりです。



こちらは最近小説を更新していないのですが、コメントを下さってありがとうございます。
また、お邪魔いたしますね。 (2017/02/19 09:31:04 PM)

うわ~アルブレヒト様~!  
yhanna  さん
 ユベールと、いつか正面からの戦いがあるかも、と以前からかすかに予感していましたですが、ついに現実のものとなったのですね。

 古き良き時代の象徴たるアル様、はなばなしく散るのでしょうか?
 そしてユベールは、彼の思いをも受け止めつつ、生き抜いていってほしいですね!
 続きを期待しています。

 戦闘の描写もすばらしく、映画を見ているようです。城や兵の配置図とか、公開してほしいです。 (2017/02/19 10:55:33 PM)

Re[1]:天空の黒 大地の白(5-81)天地の狭間(7)(02/19)  
black_obelisk  さん
千菊丸2151さん

アルブレヒトも、ユベール相手なら決して負けないと思うのですが。
自分で直接兵を指揮しない、軍略だけで戦場を操るグストーが作者も若干憎らしく感じます。
ところで、私も最近すごーく視力の衰えを感じるんです。
ネットかキンドルのやりすぎかもしれません(汗)

(2017/02/23 11:57:21 PM)

Re:うわ~アルブレヒト様~!(02/19)  
black_obelisk  さん
yhannaさん

特に戦闘シーンを書くときは「情景が目に見えるように書く」を目標にしているので、映画みたいと言っていただけるのは、とても嬉しいです。
ただ実は、城の配置とか、特にフィアノーヴァ城とザンクトブルクの距離感が曖昧になってきました。
お、大人の事情で!(笑)

ユベールとアルブレヒトの直接対決は、どのタイミングにするか長いこと迷いましたが、城外戦になりました。
この後は・・・筆がスムーズに運んでくれるといいのですが(=_=;) (2017/02/24 12:49:58 AM)

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: