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# 1200【 前回までのおはなし 】 公園で暮らしていた3匹の子猫。 そしていつの間にか ひとりぼっちになってしまった くつしたを 私は飼っていく決心をし、幸せにすると決めました。前回を読む >>はじめから読む >>くつしたが部屋の中で過ごすようになって2ヶ月ほど経ったある日。冬が近付いた窓の外は 冷たい雨が降っていました。くつしたは窓の外を見て過ごすのが日課になっており、やはり時々は 「外へ行きたい」 と訴えたりしました。この日も、少し開けた窓から吹き込む風の匂いを嗅いで 「にゃーにゃー」 と鳴いていました。ペット禁止のアパートで、よそに聞こえないか気にしながら、私はくつしたを抱き上げ、窓の外がよく見える高さに持ち上げました。目線が少し変わると 見える景色の違いに興味を惹かれる様子で、しばらくは大人しく抱っこされたままキョロキョロと公園を見ていました。しかし、しばらくすると、やはりまた 「外へ行きたい」 と鳴き出し、網戸に鼻を寄せました。 「ごめんね、くーちゃん。 でも、一人で外へ行かせてあげるわけにはいかないんだよ。 ひとりで行ったら、どうやって戻ってくるか分からないでしょ? 階段のぼるの分かる? どのドアか分かる? くーちゃんが戻ってきてもピンポン押してくれないと分からないよ。 そしたらなかなか部屋には入れないんだよ。 くーちゃんが外に行ったら心配だよ。 前みたいに、くーちゃん見つからなかったらどうしようって とっても心配になるんだよ。 雨降ってるの見える? もう外は寒くなったんだよ。 くーちゃん、寒いのまだ知らないでしょ。 おうちの中みたいに、のびのびして寝られないんだよ。 そうだ、今度みんなで一緒にお散歩行こうね。 お外 行きたいのは分かるけど、今はガマンしてね。 くーちゃんがガマンする分、 くーちゃんがもっと楽しくなるようにするから。 くーちゃんがお外行きたいって思わなくなるぐらい楽しくするから お外は見るだけにしようね。 ありがとね。」私は一生懸命 くつしたに話しました。 きっとまだすぐには分かってもらえないだろうけど、 もしかしたらずっと分かってもらえないかもしれないけど もう決めたから。 くーちゃんを丸ごと守るには、そうするしかないから。抱っこされたまましばらく外を眺めたあと、くつしたは諦めたように腕から飛び降り、ごはんを食べて毛づくろいをしました。するともう外のことは忘れたように 「遊んで遊んで」 と走り回り、疲れて床の上にペタンと伸びるまで 私の振る猫じゃらしを追いかけました。ペットショップで小さな胴輪を見つけ、「これでお散歩しよう」 と買いました。初めてくつしたに着せたとき、くつしたは飛び上がって逃げようとしました。体にまとわりつく謎のヒモ。どうやっても体から離れず、半ばパニックになりながら 狂ったように飛び跳ねたので、すぐに捕まえて脱がせました。 「無理かもしれないな・・・。」そう言いつつ、何日かしたら 「もう大丈夫かも」 とまた着せてみて、また飛び跳ねる、というのを繰り返しました。抱っこしたまま着せて そのまま外に連れ出し、抱っこのまま近所を散歩すると、久しぶりの外の空気と景色に気を取られて、謎のヒモを着せられていることまでは気が回らないようでした。それが分かってからは胴輪を着せるのも楽になり、着せられているくつしたも徐々に慣れて嫌がらなくなりました。それで、ときどき休みの日にみんなで散歩に行くようになりました。連れ出すときは人に見られないように、何でもないような布の手提げ袋にくつしたを入れ、さっとアパートを出ました。くつしたもそのスリルを楽しんでいるかのように袋の中では大人しくじっとして、公園に着くと元気よく袋から頭を出し、それから木に登ったりして 久しぶりの外を楽しみました。ヒモで繋がれているので行きたいところまでは行けず、途中でバランスを崩しそうになりながらも 次第にヒモの長さと引っ張られる強さを覚え、少しずつ上手に散歩できるようになりました。 遠出をするときも、くつしたに留守番させるのが忍びなく、というよりは私たちが寂しいがために くつしたを連れて出かけました。初めて車に乗ったときは、少し驚いたように車の中を走り回り、しまいには まるの着ているジャンパーに胸元からもぐり込み、袖の中まで入って出られなくなったりもしましたが、後部座席の窓の横にお気に入りの場所を見つけて 指定席のようにそこに座るようになりました。旅行にも連れて行きました。初めて行く旅館でも、くつしたは私たちの手を煩わせることなく家と同じように落ち着き、旅を楽しんでいるようでした。 くつしたが来て1年としないうちに、私たちは引っ越しを決めました。猫を飼っているのがバレたわけでもなく、くつしたのこと以外にも色々と都合や理由があったのですが、今度はくつしたも堂々と一緒に暮らしたいということで、もちろんペット可の物件を探しました。引っ越しのときも、新しいうちも、くつしたは動じることなく すぐに新しい生活に慣れてくれました。そこで何年か過ごし、さらにまた引っ越しました。くつしたが楽しいように、くつしたが気持ちいいように、そして漠然と 幸せのようなものを感じてくれたら。ここにいてよかった、ここにいるのがいい、そう思ってくれたら。くつしたはいつも幸せに暮らしています。しかし、その幸せは私たちが勝手に思う幸せで本当のところは分かりません。きっとくつした本人にも分からないかも知れません。でも私は確信しています。くつしたは、幸せだと。くつしたは自分の世界しか知りません。きっと他の猫と自分を比べるようなこともしないのだと思います。小さな、でも無限のくつしたの世界の中でくつしたが幸せなら、それは世界で一番幸せだということになると思います。世界中の家々で、愛、のようなものをもらっている猫たち。それはきっと、みんなが「世界で一番幸せな猫」 なのです。かつてのくつしたのように 野で暮らす猫たちが、それぞれ世界で一番幸せな猫になることを祈って。 おわり。 ⇒ 一番最初のくつした写真HOMEくつした公園にいた3匹の子猫兄弟のうちの1匹大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とする9/11 00899First updated 2010年09月11日 19時02分22秒
2010年09月11日
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# 1199【 前回のおはなし 】くつしたを飼う決心をし、新たに生活が始まりました。昼は公園、夜はアパートという半々な生活を続けるつもりでしたが・・・前回を読む >>はじめから読む >> 二日目の朝、私は前日と同じように 早い時間のうちにくつしたを公園へ放しに行きました。前日と同じようにくつしたは駆けて行き、まると私は仕事に出かけました。その日もまた、くつしたのために仕事を頑張り なるべく早く帰る努力をしましたが、「くつしたは待っていてくれる」 という安心感から 昨日よりは少し遅い帰りになってしまいました。まるも 残業がちょっと長引いて、と同様に少し遅く、二人そろって公園に行ったのは9時ごろでした。それでも、またくつしたは呼べばすぐに 「おかえり」 と走ってくるだろうと まるも私も気楽な気持ちでいました。 「くつしたー。」 チッチッチッチッ・・・何度か呼びましたがくつしたは出てきません。 「くつしたー。」 チッチッチッチッ・・・少し移動しながら呼びましたがくつしたは現れません。 「遅くなったからスネちゃったかな。」そう言いながら、なかなか見つからないくつしたを探すため 二手に分かれて公園のあちこちを歩きました。私は公園の外に出て、植え込みに沿って歩きました。すぐ向かいはアパートなので、他の住人に気付かれないようささやくような小さい声で「くつしたー」 と呼び続けました。 どうしたんだろう。 遅くなりすぎて、もうどこかで寝ちゃったのかな。 寂しくなって、他の人に付いて行ったんじゃないよね・・・。 車にひかれたりしてないよね・・・。どんどんどんどん心配になりました。 もっと早く帰ればよかった。気楽に考えていた自分を 猛烈に反省しました。 「くつした・・・、くつした・・・!」少し泣きそうになりながら私は呼び続けました。ざわざわと公園の木が風に揺れて、私の声も掻き消されそうです。街灯のない暗がりで 木の枝だけが大きな影となって動いています。風の音と木の葉のこすれる音の中にくつしたの声が混じっていないか必死で耳を澄ましました。私の思い込みか、あるいは希望がそうさせるのか、ときどき 「ニ~・・・」 と消え入るような音が聞こえ、そして次の瞬間には聞こえなくなってしまいます。 くつしたの声? それとも風の音・・・、その空耳を祈るような気持ちで辿りました。 「くつした・・・」 「・・・・・ニ~・・・」歩くうち、たしかに小さな声が聞こえ、私は目を凝らしてあらゆるものを見つめました。 地面、石垣、草、木・・・植え込みの中に小さく光るものが目に留まり、もう一度よく見ると 猫のような形をした黒い影の中から目が二つ、じっとこちらを見ていました。 「あっ、くつした・・・!」驚かせない精一杯の小さな声でやさしく くつしたを呼び、そっと手を伸ばしました。くつしたは じっと動かずこちらを見たまま 「ニ~」 と小さく鳴きました。それはまるで 「どうしてひとりにしたの」 と訴えているようで、私は思わず 「ごめん、ごめんね。」と謝りながら、伸ばしていた手をさらに伸ばしてくつしたを捕まえ、植え込みの中から引き出しました。 よくこんな暗闇で見つけられた。 気付いてよかった。 くつしたが呼んでくれてよかった。私は少しホッとして、遠くにいたまるの方へ歩きながら 「いたよー。」 と告げました。まるも探しながら不安になっていたようで、くつしたの顔を見るとホッとしたように 「隠れてたのかー。」と くつしたの頭をぐいぐいと撫でました。まるに くつしたのいた場所を教え、呼んでもなかなか出てこなかったことを説明しました。 やっぱり寂しかったのかな、 それとも何か怖い思いをしたのかな。 誰かにいじめられたのかな。 カラスに追いかけられたのかな。お互いに思いつくことを言い合い、そのたびにくつしたの頭を撫でました。 「見つからなかったらどうしようかと思った。」と私は言い、そして思わず続けて 「もう外には出さない。ずっと家にいてもらう!」と宣言していました。 くつしたに寂しい思いをしてほしくない。 くつしたに怖い思いをさせたくない。 そして何より、くつしたを他の誰のものにもさせたくない。私が、くつしたをもう手放せなくなっていたのです。たった二日で 私はくつしたを失うことなど考えられなくなりました。遅かれ早かれそうなるはずだったような気もしました。ぬるま湯に浸かったような頭でぼんやり 「大丈夫だ」 などと考えていた自分に、このことがムチを打ってくれたのだと思いました。二日前の決断など、覚悟ではなかったのです。このときやっと、私はくつしたを飼っていくことを心の底から決意しました。 くつしたを守って、そして可愛がっていこう。 色んなことがあるかもしれないけど、乗り越えて行こう。 「もし、ネコ飼ってるのバレて、 出て行って下さいって言われたらどうする? そのときは、くつしたを公園に戻す?」まるは確認するように、私に聞いてきました。私はすぐに答えられました。 「そしたらペット飼えるとこ探して引っ越す。」 「そっか。よかった。」ずっと隠して飼うのは無理かもしれない。いつかは引っ越さなければいけない。今すぐは無理だけど、生活していく中で少しずつ解決して行こう。そんな風に思えました。そうして、くつしたは 我が家の猫になりました。くつしたには少し不自由な思いをさせるし、不満に思うこともあるかもしれない。でも、それ以上に楽しいことを与えてあげて、それ以上に幸せにしてあげよう。私のわがままな思いや勝手で 今まで振り回してきたけど、もうついでだから、これからも私のわがままに付き合ってもらおう。 くつした、もうくつしたは 私とまるのために存在しているんだからね。 いや、違うな。 くつしたのために 私とまるが存在しているんだ。 それでいいや。アパートに帰ったくつしたは、さっきまでの心細さを忘れるように、そしてもう一人になるのはいやだと言うように玄関から部屋へ小走りで駆けて入りました。 グーグーとモーターの音を立てながらごはんを食べ、 毛づくろいをして、眠りました。エピローグに続く >> HOMEくつした公園にいた3匹の子猫兄弟のうちの1匹First updated 2010年09月11日 11時00分44秒
2010年09月11日
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# 1198【 前回のおはなし 】公園でひとりぼっちになってしまったくつした。 私はついに迎え入れる決心をしました。前回を読む >>はじめから読む >>映画の余韻もすっかり冷め、ショッピングセンターから急いで帰ると すぐ公園へ向かい、公園の入り口で 「くつした」 と小さく呼びながら、いつものように 「チッチッチッチッ」 と舌を鳴らしてくつしたを待ちました。茂みの中にでもいたのか、くつしたはすぐに現れ小走りで寄ってきました。 「お待たせ。」 「くつした、一緒におうちに行こうか。」もう私は躊躇なく くつしたのそばにしゃがんで、両脇からくつしたをそっと抱き上げました。くつしたはいやがることもなく私の手に収まりじっとしていました。手のひらにすっぽり入るほど小さくはないくつしたをなるべく隠すように、私はおなかの辺りにくつしたを抱え、アパートの住人に気付かれないように こっそりと部屋へ帰りました。 階段を上り、 廊下を歩き、 ドアの前に立つ。その次々に現れる見慣れない景色に目を丸くしていたくつしたは、玄関ドアを開けて中に入ると 蛍光灯に照らされた明るい世界を見て、眩しそうに目を細めました。 「ちょっと待って。」抱えていたくつしたをまるに託し、買ってきたばかりのペット用ボディタオルを出してきて、それでモミモミとくつしたの体を拭きました。もがもがと手足をバタつかせながらくつしたは抵抗しましたが 「部屋に入るときだけだからね」 と指の間まで拭いて もういいよ、と床に降ろすとボサボサの毛を2、3度舐めただけで、くつしたは部屋の奥へのそのそと進みました。 「ここがくつしたの家だからね。」私は台所でくつしたのために浅めのお皿を探し、キャットフードと水を準備し始めました。まるは買ってきた洗い桶に猫砂を入れて部屋の隅に置きました。ここでおしっこするんだよ、と説明するより早く くつしたは、のそのそと洗い桶に足を入れ、砂の匂いと感触を確かめるように顔を近付けながら くるくると回ったあと、砂の上にしゃがんで用を足しました。 「すごい。この子、教えてないのにトイレができる。」まるは驚いて言いました。うちへ来て手が掛からないように ちゃんと知ってるんだ、と分かるような分からないような説明をしながらくつしたを褒めました。キャットフードの入ったお皿をくつしたの前に置くと、ぐるぐると喉を鳴らしながらポリポリと食べました。公園にいるときよりも一所懸命に食べ、気が済むまでおなかに入れると、あらためて部屋の中を こわごわな様子で歩き回りました。しかしここは安全な場所だともう分かっているかのように、歩きながらも ぐるぐると喉を鳴らし、何かに顔を近づけ 勝手にビックリして少し飛びのくとき以外は、ずっとそれを言い続けていました。ゆっくりした 「ぐるぐる」 という響きよりは 「ぐーぐー」 あるいは 「ブーブー」 という表現が近いと思える、高速で細かく連続するような音でした。私は思わず 「子猫ってモーターで動いてるの?」と聞きました。くつしたは寝るときまでモーターを回しっぱなしでした。布団に上がって一緒に寝てもいいよと誘ってみましたが、くつしたは枕元の布団の外で、敷布団の下に敷いたマットレスにもたれるようにうずくまり、「ここでいいの」 と言うように丸まって眠り始めました。指で撫でると 「グー・・・」 とモーターの音は大きくなり、まだ熟睡はしていないようでしたがそれでも顔を上げたりすることもなく気持ちよさそうに寝続けました。私は何だかうれしくて、自分が寝付くまで何度もくつしたを指で撫でました。小さく途切れかかっていたモーターの音がまた大きくなり、そのたびにくつしたの熟睡を妨げているのは分かっていましたが、それでもその可愛い寝顔や背中に触れてみずにはいられませんでした。翌朝、まるも私も仕事に出かけなければならなかったので、予定通り くつしたには私たちが帰るまで公園で過ごしてもらうことにしました。時間帯によっては他の住人と顔を合わすことになるので、朝起きたらすぐ、顔も洗わないうちにとりあえず服に着替え、くつしたを抱えてアパートの階段を下りました。公園の入り口あたりでくつしたをそっと地面に下ろし、 「夜まで待っててね。」 と、放しました。元気なくつしたは、うれしそうに、すぐに走って桜の木の向こうに消えました。くつしたの気がそれているうちに私はさっとアパートの部屋へ戻りました。カーテンを少し開けて窓から外を覗くと、ときどき茂みの間から飛び跳ねるくつしたの姿が見えました。楽しそうにしているのを見て少しホッとし、私は自分の仕度を始めました。仕事中も くつしたはどうしているかな と気になり、と同時に迎えに行くのが楽しみで、とにかく早く帰れるよう 私は必死で仕事をこなしました。まるも同じだったようで、アパートに帰り着いたのは ほぼ同じぐらいの時間でした。公園の入り口あたりを見渡しましたが くつしたの姿は見えませんでした。「チッチッチッチ・・・」 と いつものように舌を鳴らしてみましたが なかなかくつしたは現れません。 「くつした、くつした。」近所に聞こえないぐらいの大きさの声で呼んでみました。何度か呼ぶうちに、ふとどこかで小さな猫の鳴き声が聞こえたような気がして、「しっ!」 と耳を済ませてから もう一度 「くつした」 と小さく呼んでみました。 「ニー・・・」と 微かな声がたしかに聞こえました。どこから声がするのか分からず、何度も呼びながらその小さな声をたどりました。頭の上から聞こえたような気がして見上げると、公園の入り口に立つ桜の木の枝にくつしたは小さくうずくまり 不安そうな顔でこちらを見下ろしていました。 「くつした、降りておいで、ほら。」と手を伸ばしましたが くつしたのいる枝までは届かず、くつしたも困ったようにじっとしたままです。 「飛び降りておいで。」と、さらに手を伸ばしましたが、「ニー」 と か細く答えるばかりで、自分では降りられないのだと言うように動こうとしませんでした。 「まる、あれ取って。」私はわざと木の実でも採るような言い方でまるに頼みました。まるはワシワシと木に登り、腕を伸ばして枝に“なっている”くつしたをつかみました。くつしたはそうされるのを待っていたかのように素直に捕らえられ、まるは そのまま木の中腹から下にいる私へくつしたを手渡しました。くつしたを両手で受け取ると やわらかさと生温かさが手に伝わり、私はくつしたを両手でそっと包みました。 「今日は遅いなーと思って、木の上で待ってたのか。」木から下りてきたまるが くつしたの頭をなでながら言いました。くつしたは何とも答えず、ただ私の手の中でじっとしていました。 「またおうちに帰ろうか。」昨日と同じように くつしたを隠すようにしてアパートに帰りました。玄関でまた もがく くつしたの体を拭き、はい終わり、と床に降ろすと、二日目は少し慣れた様子で部屋の中を嗅ぎ回り、迷うことなくトイレで用を足し、落ち着いた様子でお皿のキャットフードを食べ、布団の横で安心したように眠りました。くつしたがいるだけでアパートの狭い部屋は一気に明るくなりました。くつしたの行動のひとつひとつが目新しく 可愛らしく おもしろく、 「ごはん食べてる」 「寝転んでる」 「棚の上に飛び乗った」 「また隙間に入った」と、いちいち声に出して、まると私はくつしたの話ばかりしました。くつしたは部屋の中を荒らすこともなく、壁や柱で爪を研ぐこともなく、トイレの失敗もなさそうで、私は少し心配しすぎていた自分を可笑しく思ったりしました。 「この生活、大丈夫そうだね。」部屋の中でもくつしたはおりこうさんだし、朝 公園に行くのも楽しそうだし、夜はちゃんと待っててくれたし、何の問題もなく 明日からも過ごせて行けそうな気がしました。しかし、そんな安直な考えによる生活はたった二日で破綻してしまうことになるのでした。次回に続く >>First updated 2010年09月10日 22時21分06秒
2010年09月10日
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# 1197【 前回のおはなし 】他の2匹がいなくなり、公園でひとりぼっちになったくつしたを家に連れてくるかどうか決断の猶予がなくなりました。しかし私はすぐには覚悟できず・・・前回を読む >>はじめから読む >> 翌日、2004年9月12日、日曜日。かねてから予定していた映画を まると見に行きました。くつしたをどうするか、夜の数時間では結論が出せるわけもなく 気持ちを急かさないよう自分を落ち着かせながら、なるべく日常の雑事の中でくつしたのことを判断したいと思いました。昼近くに起きて、車で出かけました。ショッピングセンターの中にある点心の店で遅めの昼食をとり、そのままショッピングセンターと繋がる建物へ入り、キャラメルポップコーンの甘い匂い漂うシネマコンプレックスの映画館で手に汗握るようなハラハラドキドキの映画を見ました。映画を見ている最中は 完全にその世界に浸り、氷の溶けかけたコーラをときどき静かに吸うこと以外は 現実の何もかもが自分の中から消えているようでした。。物語が結末を迎え、エンドロールが終わりかけたとき頭に浮かんだのは、くつしたのことでした。まるも多分そうだったのですが、お互いそのことには触れず おもしろかったと映画の感想を言いました。館内が明るくなり、ざわざわと人が出口へ向かうのに付いて廊下へ出ました。非日常の世界から一歩一歩現実へと近付き、正面の大きな窓を見ると外はもう日が暮れて真っ暗でした。 くつした、待ってるな・・・。ふとそう思い、急に気持ちが焦りました。でもまだ慌てるなと自分に言い聞かせ、「このあとどうする?」と話しながら自然と足はショッピングセンターに戻る通路へ向かいました。ショッピングセンターで何を見るともなしにうろうろしながら私は頭の中で必死に決断する答えを探しました。すでに思案の幅は くつしたを迎えるかどうかではなく、迎えるに当たってその覚悟が出来るか、というものになっていました。 部屋の中をぐちゃぐちゃにされたらどうする? ま・・・、それぐらいのこと。 トイレじゃないところでおしっこされたら? まぁ・・・掃除すればいいだけのこと・・・かな。 ネコがいることバレたらどうしよう。 バレないように・・・頑張ろう。 あんな小さな猫だけど、本性は凶暴な獣だったりして 夜中に豹変して襲ってきたら? ・・・そんなことあるわけないか。思いつく限りの状況や出来事を、くつしたとの生活で想像してみました。自信が持てることは あまりありませんでした。でも覚悟しようと思えば できることばかりでした。私はふと、いい案を思いつきました。私にも、そしてくつしたにも負担の少ない生活の方法だと思えるものを。私は急に気持ちが軽くなり、歩きながら 「うん・・・!」 と決断の合図を口に出してみました。「何が?」 とまるが聞きましたが、もう一度 「うん」 と自分に確かめるように頷いて、自分なりのプランを話しました。+ + +平日の朝から晩まで、仕事に出かけるまると私は家を空ける。その間くつしたには、これまで通り公園で過ごしてもらえばいいんじゃないか。今まで自由に外を走り回っていたくつしたも、急に狭い誰もいない部屋に閉じ込められたらストレスになるだろうし、留守中に大きな声で鳴かれたとしても対処のしようがない。それで近所に気付かれでもしたら、たちまちその生活が破綻してしまいそう。それはなるべく避けなければ。とりあえず朝 出かける前にくつしたを公園へ連れて行き、そして夜 帰ってきたらくつしたを迎えに行く。夜だけゆっくり安心して食事と睡眠をとってもらう。+ + +そういう半分半分な生活をとりあえず始めてみようと提案しました。それがうまく行くかどうか分かりませんでしたが、とりあえずそうしてみるのが最良だと そのときは思えました。まるは それでいいと納得してくれました。きっと、もっと思うことはあったのかも知れませんが、最初からきっちりと決めてしまっては 私が長続きしないと思って私の意見を優先してくれました。 とりあえず、そうと決まったら、 「何が必要かな。」と、くつしたを迎え入れるための物を買いに行きました。台所用品のコーナーで手ごろな大きさの洗い桶を選び、それをくつしたのトイレとすることにしました。トイレ用の砂は、片付けの手間やゴミが出ないということで木くずを固めた水に流せるタイプを選びました。これまでずっと外にいたくつしたをそのまま部屋に上げるのは少し抵抗があったので、ペット用のボディタオルという 濡れティッシュの大判タイプみたいなものも買いました。必要最低限のものだけ買うと、今さらながら 「急いで帰ろう、くつしたが待ってる!」と車に乗り込みました。次回に続く >> << No.1196 No.1198 >>謝HOME* この話の登場人物 *くつした公園にいた3匹の子猫兄弟のうちの1匹*グレーの尾長「しっぽ」真っ黒「クロちゃん」足先だけ白「くつした」大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とするすんごい今さらになったけどやっと、つづき書きました。「次のはー?」と、ときどきリクエストしてくれた人、大変おまたせしました。9/10 00838First updated 2010年09月10日 17時36分32秒
2010年09月10日
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# 517【 前回のおはなし 】公園で生まれ、母を失った3匹の子猫たち。 私たちと出会い、このままの毎日が続くと思っていた呑気な私の知らぬところで、 くつしたはひとりぼっちになっていました。前回を読む >>はじめから読む >> 2004年9月11日、土曜日。本来 その日は休みでしたが、仕事のスケジュールが立て込んでいた私は午後から出勤すべく、近くのコンビニでミネラルウォーターとチョコレート それに栄養ドリンクを買って、昼前に出かけました。まるは私を見送ったあと、しばらく部屋でのんびりしていましたが、窓の外のいい天気を見てせっかくの休みに部屋で閉じこもっているのはもったいないと思い、車で出かけることにしました。近場の店でちょっと遅めの昼食をとり、どこへ行くともなしに日が傾くまでドライブを楽しみ、その後 本屋へ寄って少し立ち読みをしたあと、出たばかりの釣りの雑誌を買って帰りました。アパートに着いたまるは、駐車場で車から降りました。すると待ち構えていたように くつしたが現れ、しっぽを立てて小走りで近寄ってきました。くつしたは近くまで来ると、その人間がまるかどうか確認するように小さく一言「にゃ・・・」 と声を出しました。 「おう、くつした。 どうした?」まるが声をかけると、くつしたは確信したように 「 にゃーー 」と力強く大きな声で鳴きました。くつしたの鳴き声を聞いたのは、これが初めてでした。何となくいつもと違うくつしたの様子を不思議に思い、まるは辺りを見回してみましたが、他の2匹の姿は見えません。 「どうした? ひとりか」と聞いてみると、くつしたは 『ぐるぐる…』 と喉を鳴らす音を発しながらまるの足元をグルグル回りました。今まではキャットフードを食べているときぐらいしか体を触らせることはなかったのにこのときのくつしたは、自分から まるの足に体をすり寄せてきました。 もしかして、2匹はいなくなってしまったのではないか・・・。くつしたの落ち着かない様子を見ながら まるは何となくそんな気がしました。 「すぐごはんを持ってきてやるからな。」そう言って、甘えるくつしたをどうにか落ち着かせながら まるはさっとアパートへ走り、急いで台所のキャットフードを持って部屋を出ました。くつしたは階段の下で待っていました。怖がらせないよう 静かに階段を下り、公園まで一緒に歩きました。そして いつもの植え込みのブロックの上にキャットフードを盛りました。くつしたは、ごはんを食べるのも忙しい、でも甘えるのも忙しい、そんな風にまるにすり寄ったり まるがどこへも行かないか確認するように顔を上げたりしながら 少しせわしなくキャットフードを食べました。やはり クロちゃんとしっぽの姿はありません。夜遅いわけではなく、他の住人からもまだエサをもらっていないであろう夕方のこの時間帯、いつもなら少し遅れてでも みんな集まってきていました。くつしたの今までにない甘え方や寂しがる様子を目の当たりにしてそのときまるは、くつしたが一人ぼっちになったのだと分かりました。くつしたの背中を撫でながら、まるは無性に くつしたを連れて帰りたくなりました。でも勢いだけで連れて帰ることは出来ません。 「どうしようねぇ・・・」まるは くつしたの見上げる目を見つめながら呟きました。しばらく公園で一緒に過ごしました。空腹が満たされたくつしたはちょっと安心した様子で、いつものように葉っぱを追いかけたり木の根っこの周りを走ったりしながら一人で遊び始めました。ずっとくつしたのそばに付いていたい気持ちはありましたが、このまま一緒にいると帰るタイミングを無くしそうな気がしたのでまるはそっと部屋に戻りました。夜になって私が帰ると、 「 くつした、ひとりぼっちになっちゃったみたい。」まるは まずこう切り出しました。そして夕方の様子を細かく教えてくれました。くつしたがひとりぼっちになってしまった、その言葉を聞いた瞬間から 私にはピンとくるものがありました。その頃はもう、夜の公園に現れるときも3匹そろっていないこともあったので、もしかするとこの一日二日の間に1匹ずつ どこかへもらわれて行っていたのかも知れない。そういえば、階段の下に置かれていた小さなお皿もなくなっていた。きっとアパートの住人の誰かが、それぞれのお気に入りを部屋で飼うことにしたのだろうと想像しました。あぁそうか。そう思うと同時に、私は瞬間的に小さな怒りを覚えました。あの台風の日 、私たちは私たちなりに考え、議論して、誰かを選べば 残った誰かが今以上に辛くなるからと連れ帰ることに慎重になったのです。それをいとも簡単に、自分によくなつく可愛い子だけを手元に置くなんて・・・。でもその勝手な怒りを堂々と口に出来るほど、私は子猫たちに何かをしてやっていた訳ではありませんでした。そして子猫たちの将来についても、何を考えていた訳でもないのです。いつか3匹とも共倒れになってしまうよりは、1匹ずつでも面倒を見てもらえる場所があるのなら、その方がいいのかも知れません。否、いいに決まっている。それでも、寂しさのあまり まるに鳴き寄ってきたくつしたの姿を想像して、私は胸が苦しくなりました。きっと頼るものは 私たち以外にないのです。 「 どうしようか・・・。」私たち二人は それぞれに呟きました。私もまるも、ある一つの結論を頭に浮かべていました。 「まるは・・・、もう連れて来たいんでしょ?」私は聞きました。 「そりゃあね・・・」まるは答えました。もうその選択しかないのかも知れない。私もくつしたのことを考えると、やはりうちに連れて来たい気持ちは まると同じでした。ただその選択は、私には非常に大きな決断を必要とするものでした。まるは私の判断に任せているようでした。食事の用意、お金の管理、部屋の掃除など、暮らしの主導権を握る私が「よし」と決断できない限りは、きっとうまく行かないと思ったのです。私も そう自分で思っていました。まるは、かつて動物に携わる仕事をしていたことがあり、動物の扱いや飼育については豊富な経験や知識を持っていたので、そういう面では 何ら心配することはありませんでした。しかし今の日常生活において、いつも先に出かけるまるよりは、私の方がくつしたの世話をする時間が長くなるはずで、毎朝出かける前にエサの用意をしたり、トイレ用の砂を換えたり 部屋の中を片付けたり、帰ってからも 散らかされているかもしれない部屋の掃除やわずかではあっても洗う食器の量が増えたり・・・。食事をする時間も 眠る時間もギリギリのこの日常でそんな細々としたことが きっと負担に感じることもあるでしょう。私に出来るだろうか。今よりさらに自分の時間を削られ、それがこの先何年もずっと続く。それに耐えられるのだろうか。しばらく私は沈黙して考えました。色んな場面を思い浮かべてシミュレーションしてみましたが、実際に家の中で動物を飼ったことのない私には、現実味を伴って想像することは難しくすぐに結論など出せるものではありませんでした。 とにかく、少し時間をとって考えることにしました。次回に続く >> * この話の登場人物 *ネコチビーズ子猫たちグレーの尾長「しっぽ」真っ黒「クロちゃん」足先だけ白「くつした」○○さん仮に「まる」とする人間のオス
2008年09月09日
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# 455【 前回のおはなし 】私とまる以外の人間にも心を開き、なついていく3匹の子猫たち。私は嫉妬し、そしてしだいに気持ちが薄れ・・・前回を読む >>はじめから読む >> その日、くつしたは一人ぼっちでした。昨日の夜おそく、 アパート1階のいつもの部屋の窓が開き、 またクロちゃんはうれしそうに走って行きました。お皿に入った食べ物を差し出され、それに誘われるまま 窓から部屋の中に入って行きましたが、その後 窓は閉められてしまいました。階段下の部屋のドアが開き、しっぽも またいつかのように招き入れられて 中でごはんをもらっているようでしたが、その晩は再びドアが開くことはありませんでした。くつしたはアパートの影でしばらく待ちました。夜がもっと夜になり、辺りがすっかり静かになってもクロちゃんとしっぽは戻ってきませんでした。くつしたはひとりで公園のねぐらへ帰り、いつもは3匹で寝ている場所に小さく丸まって眠りました。朝になって公園が明るくなると元気が出ました。朝はいつも 何をやっても楽しい気分で、この日も木の高いところまで登って遠くを見たり、茂みの虫を追いかけたりして遊びました。他の2匹と追いかけっこをしたいと思いましたが、どこを探しても姿が見えず、長いかくれんぼは夕方になっても終わりませんでした。公園が暗くなってくると おなかが空き、少し不安になりました。いつもなら、みんな別々に遊んでいても どこからか声が聞こえたり葉っぱの上を走り回る足音がしたり、茂みの中に匂いが残っていたりするのに今日はクロちゃんもしっぽも気配すら感じません。いつもより公園は広くて、そのどこからもクロちゃんやしっぽの自分を呼んでくれる声はありませんでした。どうして2匹はいないのか、何をしているのか、考えても答えは分からずただ心細いという気持ちだけが大きくなっていきました。遊んだあと疲れたねと毛をなめ合ったり、おしりとおしりをくっつけて座ったりすることもひとりでは出来ないことばかりで、くつしたは何もすることがなくなり公園の中をぽつぽつと歩きました。あとは、夜になって おなかが空いたときごはんを持ってくる いつもの人間が現れるのを待つしかありませんでした。公園を出たくつしたは すぐ向かいの駐車場へ行き、いつももぐりこむ車の下に小さくうずくまりました。何も考えずに じっと、じっと薄暗い道路を見つめ続けていました。しばらくすると遠くから音が近付き、一台の車が角を曲がって駐車場に入ってきました。くつしたの目の前に大きなタイヤが止まり、大きな音も止むとドアが開いて 中から靴を履いた足が地面に下りてきました。嗅ぎなれた匂いがして、くつしたは弾かれたように車の下から飛び出しました。車のドアを閉めた人間は、すぐ足元の小さな影に気付き 「おー、くつした。」と優しく呼びかけてくれました。その瞬間、くつしたは さっきまで考えまいとしていた空腹や寂しさ、不安な気持ちやそして何だか分からないさまざまな感情が止め処なくこみ上げ、思わず 「 にゃー 」と大きく一声 鳴きました。母がいなくなってしまったある日。その日から今日まで、強くあろうと精一杯に頑張ってきたくつした。それもクロちゃんやしっぽが一緒にいたからこそ 辛いと感じることなく楽しく暮らしていられたのでした。夜、あたたかさが恋しいときは共に眠り、元気が出ないときも追いかけっこをしてるうちに何だか楽しくなれた、そんな2匹がいなくなることなど 昨日まで考えたこともありませんでした。ひとりぼっちになり、ほかに頼るものがなくなったくつしたは寂しさのあまり、そのとき初めて泣いたのでした。次回に続く >> さりげなく応援して下さると感謝です。HOMEはじめましての方くつした我が家の箱入娘 ・くつしたプロフィール* この話の登場人物 *ネコチビーズ子猫たちグレーの尾長「しっぽ」真っ黒「クロちゃん」足先だけ白「くつした」大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とする7/13 00365
2008年07月13日
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# 453【 前回のおはなし 】台風の激しい風雨の中、公園でじっと耐えているであろう 3匹の子猫たち。心配するまるをよそに、私は冷めた思いで窓の外を見ていました。前回を読む >>はじめから読む >>台風のあと、子猫たちは 何事もなかったかのように いつも通りの元気な様子で姿を現しました。朝 カーテンを開けると、窓の外には公園を駆け回る子猫たちが見え、草むらに隠れるクロちゃん、茂みから飛び出すしっぽ、そして勢いよく木に登るくつした。それらを見て、やはり私は ほっとせずにはいられませんでした。台風が過ぎても、依然として私たちと3匹の関係は何も変わっていません。このペット禁止のアパートで3匹の子猫たちを飼うことは無理でしたし、また3匹の中から1匹だけを選んで連れてくることなども出来そうにありません。結局はこれまでと同じように 外でエサをやるという中途半端な世話を続けるだけでした。子猫たちがアパートの他の住人からもエサをもらったり可愛がられたりすることを私は嫉妬の混じった複雑な気持ちで見ていましたが、台風のあと やや冷めてしまった私の心は、子猫たちの今後へつながるのであれば 私たち以外にもいろんな選択肢があっていいのだと思うようになっていました。ある朝、公園へ散歩に来た一人の年輩のご婦人がベンチに腰掛け、まだ秋の色に染まろうとしない木々の葉っぱを眺めていました。少し離れたところをくつしたが走り回り、その姿がご婦人の目に留まります。くつしたも人間の姿に気付き、足を止めてベンチの方をじっと見ました。ご婦人がやさしい顔でくつしたに微笑み、手招きします。すると、少し考えたくつしたは小走りで駆け寄り、なんとベンチにひょいと上がると ご婦人と並ぶように その隣に腰を下ろしたのです。私は少し驚きました。警戒心の強いくつしたなら 絶対に駆け寄ったりしないと思って見ていたのです。そんなに そのご婦人がやさしそうだったのか、それともくつしたは もうまると私以外の人間にも心を許すようになったのか。その意外な光景に何だか切なさを感じ、私は窓から目を背けました。次の朝、出かけようとアパートの階段を下りると、1階の狭いベランダにくつしたの姿がありました。人影を感じたくつしたは、エアコンの室外機の陰にさっと身を隠し 低い姿勢でこちらを見上げています。 「 くつした 。」私はやさしく呼びかけました。しかしくつしたは、警戒したように鋭い目で私を見上げるだけです。ギラリと光る黄色い目の真ん中に 野性味あふれる黒く細長い瞳。 「何だか 目がこわいな・・・。」そう感じてしまい、私はもう続けて呼ぶことをせずにその場を離れました。私はきっと、まると私にだけなついてくれる子猫たちが可愛かったのです。 別の人にエサをもらうクロちゃん、 誰かの部屋に入って行くしっぽ、 知らない人とベンチに並ぶくつした、どれももう 私たちが絶対的な 『1番』 であることを示していませんでした。まるは変わりなく 子猫たちに毎日キャットフードを持って行っていました。私のように つまらない考えに左右されることなく純粋に3匹を愛し、3匹を可愛いと思っていたのです。気持ちの薄れた私は、しだいに急いで帰ることをしなくなりそのため 公園へ一緒に行くのも付き合えないことが多くなりました。でも時々、夜帰ってきた私を迎えるかのように子猫たちがアパートの影から現れ、甘えるように足元に集まるのを見ると 心は大きく揺れました。子猫たちのそばにしゃがみ、帰りに買い物してきたスーパーの袋の中から子猫たちが食べられそうなものを探して、小さくちぎったものを地面に置いてやりました。食べている間、私は指で子猫たちの背をそっとなでました。もう3匹とも私に触られることを許すようになっていました。私は心の中で、この子猫たちが私とまるだけのものであってほしいと願いました。どうするつもりもないくせに、この関係がずっと続けばいいと思っていたのです。子猫たちが食べ終えると、私は子猫たちから逃げるように部屋に帰らなければなりませんでした。私を帰らすまいと、あるいはどこまでも一緒についてこようとする子猫たちの隙をついて階段を駆け上がると、その下で子猫たちの声が聞こえます。そっとのぞくと クロちゃんとしっぽが大きな声で鳴きながら私を探してウロウロしています。くつしたもその横でじっと辺りを見つめています。早くあきらめて・・・。祈るように部屋に入った私は、3匹の必死の思いを健気に感じるよりも、その声が他の住人たちに聞かれることを心配していました。もし声が聞こえたら、また誰かが子猫たちを手なずけようとしてしまう。そんな勝手な思いの私に、選択の余地などない決断のときが訪れてしまうのでした。次回に続く >> HOMEはじめましての方くつした我が家の箱入娘 ・くつしたプロフィール* この話の登場人物 *ネコチビーズ子猫たちグレーの尾長「しっぽ」真っ黒「クロちゃん」足先だけ白「くつした」大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とする ◆ 読んで下さった皆さまへ ◆ コメント欄に一言あります。7/11 00389
2008年07月11日
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# 216【 前回のおはなし 】私たちとの関わりが深くなるごとに、生活の場を公園の外へと移しつつある子猫たち。困惑する私たちをさらに揺さぶるかのように、台風の雨と風はしだいに強くなって行きました。前回を読む >>はじめから読む >> 2004年、 9月の初め。土曜の夜から吹き始めた風は徐々に激しくなり、日曜は朝から雨が窓を打ち付けていました。軒を流れる雨を見ながら、私とまるは出かける気もなく部屋で過ごしていました。 「チビちゃんたち、大丈夫かな・・・。」時折強くなる雨の音を聞いてまるが口を開きました。 「ちゃんと濡れない場所にいるかな。」それは私も考えていたことでした。こんなに強い横風と激しい雨では、少々の物陰では簡単に濡れてしまうのではないかと思えました。アパートのベランダに置かれたエアコンの室外機の陰、公園の茂みの中、駐車場の車の下。私の想像できる場所はそれくらいしか浮かびませんでしたが、しかし そもそも毎日ねぐらにしている場所も私たちには分からないので、きっと私の知らない安全な場所で身を潜めているのだろうと思い直しました。何も風雨に耐えているのは子猫たちだけではなく、他の野良猫たちも同様に、そして今まで幾度となく雨や風、寒さや暑さをしのいできている訳ですから、そう簡単に台風の雨ぐらいでどうにかなることはないんじゃないかと考えたのです。 「大丈夫じゃないかなぁ。ちゃんと濡れない場所、見つけてると思うよ。」私はまるに答えました。 「そうだといいけど・・・。」まるの言葉を、私はそのまま頭の中でも繰り返しました。大丈夫だとは思うけれど、親のいない小さな子猫たちが初めて直面する自然の猛威。排水溝の溜まった水に流されたり、打ち付ける雨に体温を奪われたり、そんなこともあるかも知れない。そう考え出すと気持ちはどんどん不安になりました。はっとするほどの大きな音で 雨が窓を打つたび、私たちは窓の方に目をやり 「大丈夫かな」と繰り返しました。 「こんなに横から降ってると、隠れてても濡れてしまうよね・・・。」まるの考えていることは分かっていました。 「台風がどっか行くまでの間だけ、連れてきて休ませてあげたいね。」それは私も何度となく考えていたことでした。もしうちに連れて来られたら、子猫たちは雨に濡れることも激しい風の音に怯えることもなく思う存分 ごはんを食べて、ゆっくり手足を伸ばして眠ることが出来るでしょう。しかし私はそれが現実的なことだとは思えませんでした。 「連れて来ようと思っても、クロちゃんはすぐ捕まえさせてくれると思うけど、 しっぽと、特にくつしたなんかは逃げちゃうんじゃないかな。」 「そうだね・・・。」 「もし くつしただけ残っちゃったら きっと隠れて出て来ないだろうし、 そうなったら雨の中に一人で余計に可哀相だね・・・。」 「うん・・・。」 「それに、一度家の中のあったかい生活を知ると、今度 外の生活が余計に辛くなるよ。 一回連れて来たら、あとずっと面倒見るつもりじゃないと・・・。」 「ここはペット禁止だし、1匹だけならどうにか隠していられるかも知れないけど 3匹ともは絶対無理だよね。そうしたらあの中で1匹だけなんて選べないよ。」私は思いつくことを全部 口にしてみました。それらは全部、まるも分かっていることばかりだったので同じ気持ちを私が代弁したに過ぎませんでした。1匹を選ぶということは、他の2匹が今以上に辛い思いをするということになります。人懐っこくて甘えん坊のクロちゃんは手放しで可愛いと言えます。毛並みの色も美しく、最近どんどんなれてきたしっぽも可愛い。しかし 警戒心を持ちながらも私たちを受け入れようとする意地らしいくつしたもまた同様に可愛いのです。1匹だけを決めることは、あってはならないことのように思えました。それはまるも同じでした。分かってはいるけれど、まるは 今何も出来ないこの状況をどうにかしたいという思いが私より強かったのです。まるは 頑張れば3匹とも隠して飼うことが出来るかも知れないと可能性を見出そうとしていましたが、逆に私はそんな危うい生活は続けるのが難しいと考えていました。何より、私はそんな面倒は困ると思っていたのです。正直なところ、手一杯な自分の生活を犠牲にしてまで子猫たちの面倒を見るつもりはありませんでしたし、それがずっと続くことへの覚悟など到底出来そうにないと思えたのです。私は、自分がまるほどには子猫たちに愛情を持っていないのだと知りました。そう自覚すると、私の中で子猫たちへの心配はすーっと遠のき、たくましい彼らならどうにかしてこの台風を耐えるだろうと、あとは積極的なまるの言葉にも曖昧な答えを返してその場をやり過ごすだけになりました。私は冷めた思いで窓の外の雨を見ていました。翌朝、雨はすっかり上がり、台風一過の高い空がまだ地面に残る水たまりを青く光らせていました。自転車置き場の横にあった子猫たちの糞の跡は雨に流されなくなっていました。それを見て、私はもはや問題など何もなくなったかのように晴れ晴れしい気持ちになりました。台風の激しい雨は、子猫たちへの私の気持ちも洗い流してしまったかのようでした。次回に続く >>
2007年09月09日
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# 077【 前回のおはなし 】3匹の中で一番 警戒心の強いくつした。ごはんも食べずに遊んでばかりでしたが、ふと それは母猫のそばで安心して遊ぶ子猫の姿なのだと気付きました。前回を読む >>はじめから読む >>子猫たちにエサをやるようになって数日、少し困ったことになりました。どうやっても子猫たちがアパートまで付いてくるようになったのです。子猫たちがごはんを食べ終え 遊び始めるのを見届けると、隙を見て走って帰るのですが、私たちがいなくなったことに気付くとあわてて追いかけてくるのです。私たちの姿が見えなくなった後でも、既に私たちが公園の道を挟んだ向かい側へ帰ることを覚えてしまった子猫たちは、細い道を渡り 狭い通路を通ってアパートの敷地内へ入り込み、私たちが上った階段の下までやって来るとそこからどこへ行ったものかとその場をうろうろとしていました。階段を上ることを覚え 2階までやって来られると厄介なので、私たちは3匹に気付かれないようそっと部屋の中へ入るのですが、そうするとドアの外、階下から子猫たちの鳴き声が聞こえてくるのです。それは普段の「にゃ~にゃ~」という可愛いものではなく、「ニャーオニャーオ」という母猫を呼ぶようなとても大きな声です。私たちを探し 呼んでいることは明らかでしたが、今出て行ったところで結局は私たちがここに居ることを分からせてしまうだけなので、私とまるはその声が聞こえなくなるまでいたたまれない気持ちでドアの前にいるだけでした。そんなことが数回続くと、やはりアパートの住人の中にも子猫たちの存在に気付く人が出てきました。特に1階の人などは窓のすぐ外で鳴かれる訳ですから、否が応でもその声を耳にしてしまいます。窓を開けて見るとそこに小さな子猫たちがうろうろしている。少しでも猫が好きな人なら、やはり構いたくなるのが当然なのでしょう。狭いベランダに入り込み、窓枠に前足を掛けて背伸びし、部屋の中から何か食べ物をもらっている風なクロちゃんの姿を時々見かけるようになりました。別の部屋の玄関ドアが少し開き、そこから中に招き入れられるしっぽの様子を目にすることもありました。そして階段の下あたりに、残飯か何か食べ物が入った小さな器が置かれるようになりました。私は少し困惑しました。みんなが子猫たちを可愛がり 世話をするのは子猫たちにとってありがたいことかもしれませんが、ペット禁止のアパートで堂々と猫を飼うような真似をするのは何かと問題になるのではないかという不安があったのです。中には猫や動物が嫌いな人もいるかも知れません。アパートの清掃に来る人が小皿を見つけて管理会社に連絡するかも知れません。いや、それ以前に私は 『私たちだけの子猫』 でなくなってしまうことに複雑な思いを抱いていたのです。夜、私やまるが帰ったときに アパートの脇で子猫の声を耳にし、いつものようにチッチッチッチッ…と舌を鳴らして呼んでも、既に別の人に食べ物をもらおうとしているクロちゃんなどは寄って来ないこともありました。また3匹そろっているときでも、いつも食べ物をもらう部屋の窓が開くとクロちゃんとしっぽはそちらへ走って行ってしまうこともありました。くつしただけはそういう姿を目にすることはなく、相変わらず警戒心は強い様子でした。私たちには随分と馴れて、しゃがむとそばまで寄って来て足元でごはんを食べるようになりました。食べている間、そーっと指で背中をなでると 食べるのに夢中なのかしばらくはそのままなのですが、ふいになでられていることに気付きビクッとして飛びのきます。しかしまたすぐに戻ってきて、今度は耳を背中の方へ向けながら続きを食べるのでした。公園に置くキャットフードも減るのが遅くなりました。夜中にカーテンを開けて見ると、別の大きな猫がそれを食べていたりしました。朝、木に登ったり草の間を飛び跳ねたり いつものように元気に公園を走り回る3匹を見ると安心しましたが、それでも子猫たちの生活の場が公園からアパートへ移りつつあるのではないかと 少し不安に思っていました。そして、さらに困ったことが起きました。ある朝、急いで仕事へ向かおうと自転車を出していたとき、何かすごい異臭が鼻を突きました。なんだろうと臭いをたどると、自転車置き場のすぐ横に1箇所だけコンクリートで舗装されていない場所があり、そこに小さな糞らしきものが落ちているのです。子猫たちのいずれかのものに間違いないと思いました。当たり前のことですが、ごはんを食べれば排泄をするのです。今までは全ての生活の基盤が公園だったため 用を足すのも公園の中だったのでしょうが、この数日アパートの敷地内で食事をすることが多くなり その近くにトイレとなる場所があれば、そこで用を足すのは自然なことでしょう。これは予想できたことでしたが、実際にそれを目にするまでは 正に臭いものに蓋をするが如く気にしないようにしてきたことでした。あらためて、私たちの行動による影響を考えさせられ、そしてこれからどうして行くべきなのか考えなくてはならなくなりました。そんな折、大きな台風が日本に接近し しだいに風と雨が激しくなっていきました。次回に続く >> HOME はじめましての方 ・くつしたプロフィールくつした我が家の箱入娘* この話の登場人物 *ネコチビーズ子猫たちグレーの尾長「しっぽ」真っ黒「クロちゃん」足先だけ白「くつした」大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とする野良猫・捨て猫の今
2006年12月08日
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# 072【 前回のおはなし 】ついに私は子猫たちと対面し、彼らとの交流が始まりました。毎晩のキャットフードを心待ちにする3匹は、まだまだ幼い小さな子猫でした。前回を読む >>はじめから読む >>毎晩、子猫たちにキャットフードを持って行くのが日課となり、それが毎日の楽しみになりました。朝はどこにも姿の見えない子猫たちが、夜になるとずっと待っているのか何時に帰っても 呼べばすぐに現れ、うれしそうに足元へ寄って来ました。また、私たち以外の人間になついている様子もなく、それが一層 可愛らしく思え、さらには私たちの中に独占欲とも言える感情が生まれていました。 ほかの誰にも触らせたくない・・・黒チビちゃんから託された 私とまるだけの子猫たち。 私たちだけがその存在を知り、私たちが子猫を守っている。 そんな風に思っていました。しかし、いくら私たちが運命を感じ 愛情を持ったところで、それは第三者から見れば 気まぐれに猫にエサをやる無責任な人間と何ら変わりなく、 実際 ペット禁止のアパートへ連れて帰ることも出来ず、 また一度に3匹とも手元に置いて育てて行けるような自信もありませんでしたので、私たちはただ夜の闇に紛れて こっそりと子猫たちに会っていました。3匹の様子は相変わらず、クロちゃんは甘えん坊で鳴いたりすり寄ったり、しっぽはおっかなびっくり 食べたり見上げたり、そしてくつしたは食べずに動き回ってばかり。そう、くつしたは遠くから回り込んでのぞきには来るのですが、近くまで寄ってキャットフードを確認すると クルッと向きを変えて走り出し、近くの木に登ってみたり、落ち葉と追いかけっこしたり、まるで落ち着きがありません。しまいにはクロちゃんやしっぽも それに触発されて、みんなでその辺を走り回る。 なんだかもう3人で楽しそうだから・・・、 「 じゃあね。 また明日ね。」と、帰りかけると いち早くクロちゃんがそれを見つけ、スタタタッ…と追いかけて来るのです。 「 ついて来ちゃだめだよ。 追いかけっこの相手はあっちでしょ。」言い聞かせても、無邪気で楽しそうな目は 私たちを見上げるばかりです。仕方なく また公園の中へ引き返し、しばらく3匹が遊ぶ様子を眺めてから 「今だ!」と隙を突いて走って帰らなくてはなりませんでした。次の日、同じようにくつしたをはじめ3匹が、食事もそこそこに遊び始める様子を見て あることに気付きました。 これって、母猫のそばで遊ぶ子猫の様子に似てるよね・・・。私の頭の中には、かつて私が幼い頃 家の庭に来ていた野良猫タマとその子供たちの光景が思い浮かんでいました。タマが留守の間、草むらに隠れて姿を現さない子猫たち。 タマが戻りテラスの端に寝転ぶと 7匹の子猫たちはプロレスを始めたり、追いかけっこしたり・・・。 きっとそれは、タマがそばにいて安心できるからなのでしょう。そして今、私の目の前にいるこの子猫たちは、どうやらまると私がいることに安心して、まるで母猫が帰ってきたかのような感覚でいるらしいのです。急に母を失い、寂しさと怖さでいっぱいだった数日間。 食べ物を持って現れる私たちに「母」を重ね合わせているのかもしれません。そうか・・・、と思い知りました。警戒してばかりだと思っていたくつしたが、実は一番うれしさを 体いっぱいで表現していたのです。他の2匹より少しだけ発育が進んでいるくつしたは、 きっと その心理も少しだけ複雑なのかも知れません。もちろん警戒心もありますから 素直にすり寄って来ることは出来ませんが、それでもうれしさは抑えられず、食べることよりも 遊ぶという行動が優先されるみたいなのです。風に揺れるだけの草を相手にくつしたは全速力で駆け寄り、そして全速力で逃げるという遊びを繰り返しています。目はきらきらと輝き、足は力強く地面を蹴ります。その姿に「怯え」は見えません。 私たちは ただエサを運んでいるだけじゃないんだ・・・食べ物以外にも与えているものがある。私たちの存在意義を見出したようで、「気まぐれで無責任な人間」 は 少しだけ黒チビちゃんに応えられたような気がしました。夏が終わり、 秋が大きな雨雲を連れて近付いていました。次回に続く >> はじめましての方 ・くつした、という名前です。・くつした、生活2周年。くつした我が家の箱入娘* この話の登場人物 *ネコチビーズ子猫たちグレーの尾長「しっぽ」真っ黒「クロちゃん」足先だけ白「くつした」大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とする子猫たちの親らしきかつての迷い猫仮に「黒チビ」とするタマ私が小学生のころ7匹の子猫を残しこの世を去った野良猫野良猫・捨て猫の今
2006年11月17日
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# 070【 前回のおはなし 】まるがエサをやり始めて数日、子猫たちは随分と馴れてきたようでした。話に聞くだけで 未だその姿を見たことがない私でしたが・・・前回を読む >>はじめから読む >>その日はいつもより早くに仕事を片付け、やや急いで家に帰りました。まるはまだ帰っていなかったので、先に子猫たちを見に行きたい気持ちもありましたが、やはりまるを待つことにしました。しばらくするとまるも帰ってきました。 「 もう見た? 駐車場の車の下にいたよ。」とまるが言うので、 「 まだ。 まると行こうと思って。」と言いながらキャットフードを用意して、まるがカバンを置くや否や子猫たちに会いに行きました。 「 いつもね、この辺で呼ぶと来るんだよ。」公園の入り口に立って、チッチッチッチッ…とまるが舌を鳴らしました。私もそれを真似て、チッチッチッチッ…とやりながら どこから出て来るのか辺りを見回しました。すると、道を挟んだアパートの駐車場の方から タッタッタッタッ、と1匹の小さな影が現れました。 「 あっ、来た・・・。」姿勢を低くして 小走りで近寄ってくる子猫は、暗がりの中シルエットだけでしたが その足先だけは白く、はっきりと浮かび上がって見えました。 「 ほんとだ、くつした履いてる。」足もとまで走り寄ってくる子猫と目が合いました。これが、私とくつしたとの初めての出会いでした。続いて、手前の方にある車の下から ピョンピョンと走ってきた小さな影、クロちゃんでした。「にゃ~んにゃ~ん」と甘えた声で足もとをぐるぐる回るクロちゃんは、本当に人懐っこい子でした。しっぽ 来ないね・・・、と待っていましたが 「 そのうち出て来るよ。」とまるが言うので、植え込みのブロックの上にキャットフードを出し始めました。待ってました、とばかりにクロちゃんはポリポリとキャットフードをかじります。その体はほんとに小さくて、キャットフードの一粒が大きすぎるように感じるほどでした。私たちの声と音を聞きつけたのか ようやくしっぽが現れ、いつもは見ない私の姿に戸惑っているように木の陰からこちらを見ていました。 「 大丈夫だよ。」やさしく声をかけ しゃがんだままじっとしていると、ゆっくりこちらに歩み寄り 耳をピンと立てながらクロちゃんの隣で食べ始めました。並んでいるとしっぽの体はクロちゃんよりやや大きいようです。そしてその2匹よりさらに少し大きいのがくつしたでしたが、一番はじめに走り出てきた割には、くつしたは木の根っこの上をぴょんぴょんと走り回り、キャットフードを食べる様子がありません。 「 くつした。」 「 こっちおいで。」何度も声をかけますが、黙々と食べ続けるクロちゃんとしっぽを見るだけで 自分は寄って来る素振りを見せません。他の2匹より少しだけよく育っているくつしたは、知能や警戒心も他の2匹より発達しているのかも知れません。それから比べると、クロちゃんはほんとに無邪気で、まるで赤ちゃんのようでした。ゆっくり落ち着いて食べさせてあげよう、ということで私たちはそっと帰りました。私たちの住む部屋は、アパートの2階の角。窓からは公園が目の前に見えます。子猫たちのエサ場にしている植え込みのブロックも見えます。帰ってすぐ、窓から子猫たちの様子を見ましたが、すでに3匹の姿はなく キャットフードだけ残っていました。次の日の朝、また公園へ行って確認しましたが、まだ半分くらいキャットフードは残ったままでした。まるの手でひと握りぐらいのキャットフードでしたが、子猫たちの小さな胃袋からすると多すぎるのか、それとも次の日まで食いつなぐために取ってあるのか、しかしその日の夜になるときれいになくなっていました。そうやって、私たちと子猫たちとの交流は始まっていきました。この先どうなるのか、どうするのか、まだ何の見当もつかない状況でしたが、子猫たちに母親がいないことは もはや明らかでした。昼間どうやって過ごしているのかは分かりませんでしたが、夜になると公園の入り口近く、もしくはアパートの駐車場に潜んで私たちが現れるのを待っていました。その姿を見ると可愛くて仕方ありませんでしたが、ふと、 かつてあの小さな体で一人ぼっちだった黒チビちゃんは、どれほど苦労をして大きくなったのだろうな と、思ったりするのでした。次回に続く >> はじめましての方 ・くつした、という名前です。・ここが気持ちいいの~、の図。・くつした、生活2周年。くつした我が家の箱入娘* この話の登場人物 *ネコチビーズ子猫たちグレーの尾長「しっぽ」真っ黒「クロちゃん」足先だけ白「くつした」大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とする子猫たちの親らしきかつての迷い猫仮に「黒チビ」とする野良猫・捨て猫の今
2006年11月11日
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# 068【 前回のおはなし 】私が黒チビちゃんらしき黒い猫の死に遭遇し、まるが公園で3匹の子猫たちと出会った今日。偶然が重なった一日、私たちは 子猫を託されたのではないかと感じたのでした。前回を読む >>はじめから読む >>次の日、まるは仕事から帰るとひと握りのキャットフードを用意して公園へ行きました。野良猫にエサを与えるということは、その場だけの感情による無責任な行為で、進んで賛成することはできない、はずでした。しかし、出会った子猫たちが、あの黒チビちゃんの子供ではないか、黒チビちゃんらしき猫が死んでしまい子猫たちがみなしごになってしまったのではないか、そして私たちが子猫たちを託されたのではないか、という話を聞いて まるは3匹の子猫たちを放っておけない気持ちになったのです。公園で出会ったとき おなかを空かせている様子だったことを思い出し、ますます心配になったまるは、 「 ごはん あげてもいいかな。」と私に同意を求めてきました。 「 うん。 いいんじゃないかな。」私は、すぐにそう答えました。子猫たちと自分が無関係だと思えない私は、身勝手なようですが、この子猫たちにエサをやることは例外だと思いました。むしろ 飢えているであろう子猫たちを助けるのは、託された身としては当然のように思ったのです。公園の入り口で、まるが チッチッチッチッ・・・と舌を鳴らすと すぐにどこからか真っ黒い子猫の「クロちゃん」が出てきました。昨日と同様にまるの顔を見上げて「にゃ~」と人懐っこく甘えてきます。その声につられるように、尾がピンと長いグレーの子猫 「しっぽ」が現れ、そしてさらに足先だけが白い黒毛の子猫 「くつした」が少し離れたところまでやってきました。 「 おなか 空いてるでしょ。」そう言いながらしゃがんで、植え込みを囲うブロックの上に持ってきたキャットフードをポロポロと出すと、まずクロちゃんが寄ってきてクンクン…と匂いをかぎ、初めての食べ物に興味を示しました。食べるかな・・・心配するまでもなく、コリッ…コリッ…とかじり始め そのうち夢中で食べるようになりました。続いてしっぽも おそるおそる寄ってきて、ちらっちらっと時々こちらの様子を伺いながら食べ始めました。くつしたはと言うと、なかなか近寄ってくることが出来ず キャットフードよりもまるに焦点を合わせて 小走りに辺りを行ったり来たりしていました。 「 くつしたもおいで。」やさしく声をかけますが、なかなか警戒心が強いらしく 結局まるが見ている間にはキャットフードを口にすることはありませんでした。クロちゃんとしっぽが食べても、まだ十分にキャットフードは残っていましたので 「まぁ後でゆっくり食べるだろう」とまるはその場をそっと離れました。次の日の朝には、きれいにキャットフードがなくなっていました。きっとくつしたも食べてくれたのだろうと想像してうれしくなり、3匹への可愛さがますます強くなりました。2、3日続けてキャットフードを持って行くうち、3匹はだんだんとまるに馴れてきました。いつもチッチッチッチッ…と舌を鳴らすと集まってきて、まるの出すキャットフードを心待ちにしているようでした。そーっと手を伸ばして、一心不乱に食べている背中に指を近付ける。クロちゃんは最初ビクッとして食べるのを止めましたが、またすぐにカリッコリッとキャットフードを食べ始め、食べている間はまるが背中に触れることを許すようになりました。しっぽは、手が伸びてくるのを感じただけでパッと飛び退き 触らせてはくれませんでした。くつしたはようやく まるが見ている前でもキャットフードを口にするようになりましたが、それでも2口3口食べると まるが何もしないでもパッと走って遠のき、また用心しながら近寄ってきて少し食べる という風に、まだまだ警戒心は強いようでした。その間 私は毎日仕事で帰りが遅く、未だ子猫たちと対面できていませんでした。まるから 「今日はこんなだったよ」と聞かされ、その姿を想像するたびに 私も早く会いたいという気持ちが高まりました。 「 明日こそは早く帰る!」そう決意して、翌日はまると公園に行く約束をしました。私と子猫たちとの対面の時が 近付いていました。次回に続く >> はじめましての方・くつした、という名前です。・ここが気持ちいいの~、の図。・くつした、生活2周年。くつした我が家の箱入娘* この話の登場人物 *子猫たちの親らしきかつての迷い猫仮に「黒チビ」とする大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とするネコチビーズ子猫たちグレーの尾長「しっぽ」真っ黒「クロちゃん」足先だけ白「くつした」野良猫・捨て猫の今
2006年11月03日
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# 066【 前回のおはなし 】黒チビちゃん、そして猫たちの生きる意味とは? 悲しい再会から複雑な思いに駆られる私に まるからの報告とは、3匹の子猫たちとの新しい出会いでした。前回を読む >>はじめから読む >>私が黒チビちゃんらしき猫の姿を見た、まったく同じ日のまるの出来事。その日 まるが帰ると、日が暮れて薄暗くなった公園の入り口に 小さな影の動くのが見えました。何かと思ってよく見ると、草の陰から小さな真っ黒い子猫がぴょこぴょこと出てきました。 「あれ? 何してるの、一人?」そう声をかけると 『にゃ~』 と人懐っこく寄ってきます。あの黒チビちゃんより少し大きいかな、と見ていると、その後ろからもう一匹 しっぽのピンと長いグレーの子猫がぴょんと出てきました。 「あれ、二人いるのー。」まるの足もとで2匹は楽しそうにちょこちょこと歩き回っています。驚きながらも その可愛さに思わず顔がほころびます。するとどこからか、さらにもう1匹 足の先だけ白くあとは真っ黒な子猫が現れ、少し警戒した様子で離れたところからこちらを見ていました。 「あらー、3つもいるの。」『にゃ~、にゃ~』と1匹目の黒い子猫は甘えてきます。親猫は・・・、 周りに姿はなさそうです。昨日までは影も形も見なかった子猫たち、一体どこから来たのか。おなかが空いているのか まるの足元から離れようとしない黒い子猫。食べ物など持ち合わせているわけもありませんし、そもそも公園の野良猫にエサを与えるという行為には あまり賛同できません。 一時の感情で可愛がり、あとはどうにでも暮らせというのは無責任だと思うからです。 「じゃあね。」その場を立ち去ろうとするまるを追って黒い子猫はアパートまで付いて来ようとします。公園の他にはアパートと数件の家ぐらいしかない 行き止まりのような路地。車の通りが少ないとは言え、道路に出てしまうのは やはり危険です。あわてて公園へ引き返し、また3匹で遊び始めた隙に さっと走ってアパートへ帰りました。この話を聞き終わるころ、私は興奮していました。玄関のドアの前に立ったまま、続けて私は話し始めました。 「実は今日、」朝、すぐそこの道端に猫が死んでいたこと。それがどうもあの黒チビちゃんに思えること。せっかく助けたのに死んでしまう結果になったこと。その短い命の意味について考えたこと。そして、黒チビちゃんが子供を産んでいたら と考えていたこと。今日、同じ日に お互い「猫」に出会うという偶然。まるが出会った子猫たちは、あの死んでいた黒い猫の子供ではないか。急に母親がいなくなり、おなかが空いて不安になった子猫たちは 母を探して出てきたのではないか。今日 突然、子猫たちがあらわれたこと、子猫たちの周りに母猫の姿が見えなかったこと、これならタイミング的につじつまが合います。黒い猫が、大して広い通りでもなく、そんなに交通が頻繁ではない道で、なぜ車にはねられるような結果になったのか。これは子猫を持つ母猫だったら、という仮定で納得が行きます。タマの記憶にも繋がりますが、子を持つ母猫は とっさの判断力が落ちるようです。子育ての最中だったとしたら、どうして? という疑問に答えが出るような気がするのです。そしてやはり、黒い猫は あの黒チビちゃんなのではないか。今日それぞれが見たもの。私たち二人ということに意味がある。他の誰でも意味がない。どちらか片方だけでも意味がない。私たち二人に、見せられたのだ。私は、枯れ葉のように散らばったひとつひとつの出来事が、大きな軸に吸い寄せられ、歯車のように噛み合って行く感覚を味わっていました。黒チビちゃんの短い一生。その最後は唐突にやって来ます。命の消え行くはかない一瞬、思い浮かぶのは子猫たちのことだけでしょう。守らなければならないものを守れなくなる予感。薄れる意識の中で、記憶は、あの1年前の公園のベンチに巻き戻され、・・・ 一生のうち 最初で最後だった 人間のあたたかい手。 あの大きな手なら。あのとき偶然出会った黒チビちゃんと私たち、そしてその子猫たち。私たちは今日という1本の線の上でつながっています。まると私は 子猫たちを託されたのではないでしょうか。他人から見ればただの些細な出来事。私たちにしか実感し得ない偶然の出来事。黒チビちゃんの母としての執念が、私たちと子猫とを引き合わせたのでしょうか。このときはただ この不思議な偶然に感動するばかりでした。次回に続く >> はじめましての方 ・くつした、という名前です。・くつした、生活2周年。くつしたようやく登場。* この話の登場人物 *ある夜 出会った生まれてわずかの迷い猫仮に「黒チビ」とする大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とするネコチビーズ子猫たちグレーの尾長「しっぽ」真っ黒「クロちゃん」足先だけ白「くつした」
2006年10月27日
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# 063【 前回のおはなし 】ある朝 出かけた私は、道端に命なく倒れている黒い猫を目にしました。それは、以前 助けたことのある あの黒チビちゃんのようでした。・・・前回を読む >>はじめから読む >>その日、朝見た光景が目に焼きつき、さわやかに晴れた空とは対照的にどんよりとした気持ちのまま 私は職場に着きました。周囲との挨拶もそこそこに、 まるで前日からそこに居続けているかのように仕事が始まり、スケジュールに追われる私は 黒チビちゃんらしき猫のことを思い出してばかりもいられませんでした。早く まるにも教えたい・・・、という気持ちはありましたが、いい知らせではないだけに どう伝えたらいいのか迷い、お昼休みに いつものとおりメールのやり取りはしましたが、その内容は他愛のないものに終始しました。その日も仕事は多忙を極め、休憩をとる暇もないまま夜になり ようやく一区切りついたときには既に9時を回っていました。さて、帰るか・・・ 帰り支度をしていると、先に帰っているまるから 1本のメールが入っていることに気付きました。 『帰ったら報告することがあるよ。』何のことか さっぱり見当が付きませんでしたが、「私も報告しないといけないことがあるんだ・・・」 と また黒チビちゃんのことを思いながら帰途に就きました。うちに帰るまでの30分、 自転車をこぎながら私は考えていました。あの黒い猫が黒チビちゃんなら、あのとき、車にひかれないようにと助けたのに 結局は車にはねられて死んでしまった。あのとき死んでいても同じことだったかもしれない。助けたことは無意味だったのだろうか。でも、あんなに小さなままで死んでしまうのは あまりに可哀相だった。たとえ1年でも生きたことに意味があるのではないか。どんな意味が?人間だってよく言う、『生まれたことに意味がある』。生きているものは みんな必ずいつかは死ぬ。何年生きたから意味があるとか、何年しか生きられなかったから意味がないとか、そんなことはない。どれだけ生きたかではなくて、どのように生きたかが大事だと。例えば、世に名を残すとか、人のために尽くすとか、誰かに必要とされるとか。・・・でも、そんなこと猫には?野良として、十分な食糧があるわけでもなく、暑さ寒さに耐えて暮らすことは苦労ばかりだったはず。そんな中で 少しは楽しいこともあったのだろうか。もっと根本的なことがあるはずだ。なぜ生き物は 生きるのか。それは種を保存するため、子孫を残すためだと言われている。その生が形を変えて 次の生へ受け継がれたら、それがセミのように短い一生でも、その生には意味があるのではないか。私は、あの黒チビちゃんを助けたことが 自分の自己満足だけに終わりたくないという思いから、自問自答を繰り返していました。同時にタマのことも思い出していました。タマは7匹の子猫を育てる必死さのあまり、普段は見えるものが見えなくなり、普段は用心できることにも注意散漫になってしまい、結局は命を落としてしまいました。子猫の存在がそうさせたのは皮肉なことですが、しかし 生を繋いだということでは その一生に意味があったと言えるのかもしれません。 『 黒チビちゃんはメスだったのだろうか。 そして、 子供を産んでいたのだろうか・・・。』そうだったら少しは救われるのに・・・、 そう思いながら 朝 あの黒い猫が倒れていた場所まで戻って来ました。もうそこに 猫の姿はありませんでした。通りすがりの人か、公園を管理する職員が片付けたのだろうと思いました。もう一度あの姿を見ないで済んだことに、少しほっとして通り過ぎ、すぐにアパートに着きました。 「 おかえり。」家に帰ると まるが明るい顔で迎えてくれました。「あのね、」 と早く話したがっているその素振りで、まるの報告というのがいい知らせなのだということが分かりました。私の話は後でいいや、先にまるの話を聞こう、そう思い「どんな話?」とたずねると、 「 今日ね、帰ってきたら公園のとこに 子猫が3匹いたよ。」私は、まるの話も 猫のことだという偶然に驚きました。さっきまで考えていた猫の子供というキーワードも、まるからのテレパシーによるものではないかという不思議な感じさえ覚えました。 「どういうこと?」私はその話に喰らいつきました。それは、今日という それぞれの一日がひとつに繋がっていく偶然の話でした。次回に続く >> 野良猫・捨て猫の今 はじめましての方 ・くつした、という名前です。・ここが気持ちいいの~、の図。・くつした、生活2周年。くつしたもうすぐ登場します。* この話の登場人物 *ある夜 出会った生まれてわずかの迷い猫仮に「黒チビ」とする大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とする
2006年10月21日
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# 059【 前回のおはなし 】ある夜、散歩に出た 私とまるは、道路の真ん中で立ち往生していた 黒い子猫に 遭遇します。車にはねられないようにと助け出した その子猫を公園に連れて行き・・・前回を読む >>2004年。夏も終わりに近づく 8月のある朝、私は いつものように仕事へ行くため自転車に乗ってアパートを出ました。その頃の私は 疲れ切っていて、季節の移ろいや道端の草花に目を向けるような余裕などはありませんでした。ただ眠い頭をぼんやりとさせたまま自転車をこいで行くのですが、それでもアパートを出てすぐ、角を曲がって公園の横を通る道へ来たとき、通りの向こう側、道端のわずかに積もった落ち葉の上に 何やら動物がうずくまっているのは目に入ってきました。 「 猫 かな。」黒くて、犬よりは小さい 丸いもの。こんなとこで寝ているよ、日なたぼっこでもしてるうちに眠くなったのかな、そう思いながら近づき、通り過ぎざまにちらっと見て その瞬間 愕然としました。もう その体に命はなかったのです。寝ているだけとは違う力の抜け方、 傷や血が見えるわけではなく ただ眠るように目を閉じているだけでしたが、 もう動かないことは、なぜか明らかでした。公園から飛び出し 道路を横断しようとしたとき、車にはねられたのだと思いました。死んでいる猫など 間近で見たのは初めてかもしれない…、 金縛りにあったような感覚でもうひとつ、脳裏をよぎったことは、 「 あの黒チビちゃんじゃないか …? 」大人の猫だということは間違いありませんでしたが、小柄できゃしゃな体格。まだ成長段階の若い感じ。 あの子を助けたのは たしか1年ぐらい前だっただろうか。何より、全身真っ黒な毛並み。何の確証があるわけでもありません。その間も 自転車は走り続けていましたが、何だか怖くて、戻って確認しようなどという気にはなれませんでした。黒い猫など他にもいる、そう思いながらもどこか直感めいたものが体を貫き、おかしなことに 「 ちゃんと大きく育ってたんだ~ … 」などと能天気なことを考えては、すぐに さっきの現実を思い出して また頭は暗い気持ちに支配されて行くのでした。車にはねられた猫。 私には、このことで思い出す ある1匹の猫がいました。 「 タマのはなし 」タマは、私が小学生の頃 よくうちの庭に遊びに来ていた野良猫でした。ほかに2匹の兄弟がいて、かわるがわるやって来る その猫たちに、我が家ではいつしか食事を出すようになっていました。3兄弟の中で タマだけがメス。 どこか貫禄のある風貌で、食事には来るものの私たちに甘えたり なついたりするような素振りは見せませんでした。ある年の春、タマは隣の空き地になっている草むらで 7匹の子猫を生みました。こっそり産み育てていたらしく、ある朝カーテンを開けると 窓の外にはヨチヨチ歩きの小さな小さな子猫たちがタマのまわりで群れていて、私たち家族はとても驚かされました。完全に心を許してはいないものの、我が家を頼って近くで産んでくれたんだ、と少しうれしく思ったりもしました。そうは言っても、野良猫であるタマが7匹の子猫を育てるということは大変らしく、乳を飲ませるのにも体力を使い、また7匹それぞれの行動を見守ることにも神経を使い、タマの目つきは さらに鋭さを増していました。人間が子猫に近付くのも心配そうなタマでしたので、私たちはなるべく親子を刺激しないよう ただその微笑ましい光景を眺めているだけにしました。子猫たちがそろそろ乳離れをし、私たちの出すキャットフードや残飯などの固形物を食べ始める頃になると、タマは自分でもどこからかエサとなる食べ物を調達してくるようになりました。虫であったり、ゴミをあさったものであったり、 あるときなど、自分の体の半分ほどもある大きな牛のレバーのかたまりを、ラップのかかったパックごと持って来たことがあり、驚かされました。どこか近所の台所に忍び込み、スーパーで買ったままのレバーを盗んできたようで、 盗まれた家を探して返しに行くわけにもいかず、私たちはただ ヒヤヒヤするばかりでした。タマは子供たちを養うのに必死で、その執念はひしひしと伝わってきました。可愛いだけと思っていた猫のタマが いつの間にか人間の私たちをしたたかに利用するたくましい母になっていて、その強さは小学生の私など足元にも及ばない頼もしいものでした。しかしその無鉄砲な行動に 私は少し危うさも感じていました。ある秋の日の夕方、近所の人の知らせで タマが車にひかれて死んだことを聞きました。家のすぐそば、 町内のゴミ置き場の前でした。きっとゴミをあさっていたのでしょう。人に見つかれば追われるのを知っていて、神経はアンテナのように張り巡らされていたはずです。気配を感じ、方向も確認しないままその場を走り出し 自ら車の前に飛び込んで行ったようです。それほどまでに、タマは疲れていたのかもしれません。もうすぐそれぞれに一人立ち、という子供たちを残してタマはいなくなってしまいました。野良猫が、野良猫として人間のそばで暮らすのは、決して楽なことではないのかもしれません。こちらが100%任せろという気がなければ、向こうも100%頼っては来ないのです。タマが車の前に飛び出した「理由」を思い出していました。私が考えごとをしている間も、相変わらず 自転車は通い慣れた道を走って行きます。 「 あの子はどうして 道路に飛び出したんだろう … 」そうして私はまた 黒チビちゃんのことを考えるのでした。この悲しい再会が、後になって思えば くつしたと出会う運命に繋がる偶然のひとつだったのです。次回に続く >> トラコミュ 野良猫・捨て猫の今 はじめましての方 ・くつした、という名前です。くつした今回も登場しません。* 前回からの登場人物 *ある夜 出会った迷い猫仮に「黒チビ」とする大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とする
2006年10月13日
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# 057くつしたの生い立ちを語る上で、忘れることの出来ないエピソードがあります。いま思えば、この黒いチビ猫との出会いがすべての始まりだったのかも知れません。それは、私たちがくつしたと出会う 1年かさらに少し前のこと。 その夜、私とまるは散歩に出ました。家を出て数分、大きな幹線道路沿いの歩道を 運河にかかる橋の近くまで来たときのことでした。ふと何か小さな鳴き声が耳に入りました。 「まる、何か聞こえる。」そう言って耳を澄ますと、行き交う車の音に混じってかすかに「ピャ~ピャ~」と、か細い声が聞こえます。辺りを見回しましたが何も見当たりません。さらに視界を広げると、道路の中央 分離帯の雑草の陰に子猫らしきものが動いています。行く当てを見失った子猫が たまたま車の途切れたすきに道を渡り迷い込んだのでしょうが、再び道路に出れば走ってきた車にはねられかねません。 一瞬どうしようかと思いました。しかし躊躇している間にも子猫は動き回り、道に出てしまいそうです。 「とにかく、」と、車の途切れた一瞬を狙って横断し、おどろいて逃げようとする子猫を まるがすばやく捕まえ、そしてさらに道を渡って歩道に戻り、なんとか子猫を助け出しました。とても小さい真っ黒な子猫でした。やっと目が開いたばかりといった感じ、出しっぱなしの爪は始終 体を捕まえられているまるの手を引っかいていました。母猫とはぐれて迷子になったのでしょうか。どこから来たのか見当もつきません。 「どうしよう…」正直 困りました。その辺に放したのでは、また道路へ出てしまいます。かと言って、うちに連れて帰るわけには行きません。当時、うちはペット禁止のアパートでした。親猫を探そうにも手がかりがありません。飼ってくれる人を探そうにも、もう明日の朝から二人とも仕事です。 どこか安全なところへ放してやるしかありませんでした。考えた末、住んでいるアパートの目の前にある公園へ連れて行くことにしました。そこは木が多く広い公園で、数匹の野良猫も住んでいます。気のいいメス猫が子猫の面倒を見てくれるかもしれません。「猫おばさん」なる 野良猫たちに毎日エサをやりに来るご婦人もいます。ここなら食いはぐれることなく生きていけるかもしれません。それに、もしかしたらこの子猫もここで生まれて、母猫もここにいるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、子猫を放す適当な場所を探して公園を歩きました。奥の茂みに近いベンチのそばに子猫を下ろしました。ふと見ると、少し離れたところに大きな白猫が座ってこちらを見ています。 「あ、シロさん。お願い。 この子の面倒を見てやって。」そんな勝手な言い分を聞くわけでもありませんが、シロさんは興味ありげに子猫に近寄りました。クンクン…嗅ぎ慣れない匂いだったのか、シロさんは 「シャーッ!」と威嚇します。それでも子猫は平気でシロさんに近寄って行きます。しかしシロさんは後ずさりしながら さらにペシペシ!と 軽い攻撃までしています。 「あぁ、だめか…」とあきらめかけていると、ようやくシロさんも相手が抵抗しない弱い存在だと分かったらしく、あらためてそっと子猫に近付き そばに座りました。なんか大丈夫そう…、 と少し安心した私とまるは、 「シロさん、その子 お願いします。 チビちゃん、ごめんね。 大きくなってね。」そう言って その場を後にしました。面倒を見てやれないのに中途半端に助けたこと、そしてまた公園に野良猫を増やすこと、色んな無責任さを頭では理解しつつ、しかしこれが私たちのしたことでした。その後どうしているのか、その黒チビちゃんを見かけることはありませんでした。 「きっとシロさんを頼りにして大きくなっているよね。」相変わらず勝手で楽観的な考えをしながら、時々思い出すことはあっても日々の忙しさで普段はもう半ば忘れかけていました。意外な形で再会することになるまでは。次回に続く >> HOME はじめましての方 ・くつした、という名前です。・ここが気持ちいいの~、の図。・くつした、生活2周年。くつした今回は登場しません。* 今回の登場人物 *生まれてわずかの迷い猫性別不明仮に「黒チビ」とする大人その1人間のオス○○さん仮に「まる」とする大人その2人間のメス私(me)仮に「みー」とする 野良猫・捨て猫の今
2006年10月08日
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