観るつもりもなかった映画「おくりびと」を、今更ですがピカデリー新宿の大スクリーンで観ました。一般に馴染みの薄い遺体をきれいにして棺に納める納棺師を主人公にした映画です。米国アカデミー賞外国語映画賞を日本映画で初めて受賞したからという、我ながら実にどうもミーハーな事情です。いや実は日本人の死生観みたいなものに外国人が共感するということはどういうことなのか、その意味を知りたいという罰当たりな好奇心だったかもしれません。しかし半ばにもいかないうちに、大いに感動してしまいました。とても地味な映画ですが、「僕らはみんな生きている」「壬生義士伝」の滝田洋二郎監督らしくユーモアもあり感動もある近頃珍しい、いい映画でした。
所属するオーケストラが不況で解散になり失業した音楽家が郷里の山形に帰り、求人広告を勘違いして就職したのが、納棺師の会社。本木雅弘が演じる人生に迷うこの男が、新人納棺師として~人の最期をおくるしごと~に目覚めていく物語です。「死」というものに否応もなく向き合う仕事に就いてしまった男、夫の仕事に嫌悪感を感じ逃げ出すがやがて理解し尊敬していく広末涼子演じるその妻、その師匠であり雇い主であるベテラン納棺師に山崎努、その会社の事務員の女に不思議な存在感がある余貴美子、子供の頃から世話になっていた銭湯の主人で幼なじみの母親に吉行和子、その銭湯の常連客で実は焼き場の職員だった男に『武士の一分』の笹野高史と、キャストが渋い。みんな実にいい仕事してまっせ。
人には誰にも必ず来るものと知りながら、何となく遠ざけたり、忌み嫌ったり、不浄なものであると思い込んでいる「死」。ひとり一人の人生が異なっているように、次々に登場する死者たちの表情や事情、納棺式に集まっている肉親・知人たちの姿態は実に多様です。天寿を全うして幸せにおくられる人もいますが、自殺や孤独死、病死や事故死、けっして幸せとは思えない遺体も多い。残された者達の愛憎渦巻く中で、納棺師は尊厳をもって遺体を整えていく。やがて参列する人々の中に、安らぎや真実の愛が芽生えることもある。
そうか、人は「死」と向き合うとき、文化や宗教の壁を越えて普遍的な境地を見出すことができるのです。それは欧米人にも通じる人類共通のもの。大上段に構えることなくユーモアも忘れることなく、淡々と死に行く人をおくる。そのおくりびとを通して見えてくるものは、尊厳ある死者への愛、残された者たちの間にもなくてはならない愛、そして輝くような命の素晴らしさなのです。
「死」をテーマにすると「生」が見えてくる。生死が見えると愛が見えてくる。まさに釈尊やイエス・キリストの悟りと救いがそこには見えるのです。これなら欧米人にも直感的に理解できる、アカデミー賞外国語映画賞は取るべくして取ったということかもしれませんね。人の死をこれだけ見せながら、こんなに清々しい印象が残るとは驚きです。死者がたくさん出てくると思って何となく敬遠していた人にこそ、観ていただきたいお薦め映画です。
追伸:3月24日(火)に迫ったお遍路バトルトークもこの映画のように清々しいものになればいいなと思っています。ご興味のある方はぜひご参加ください。詳しくは下記をご覧ください。
バトル・トーク観戦予約開始!「『死』を歩く旅~四国遍路と生きる意味」 http://plaza.rakuten.co.jp/epub777/diary/200902200000/
お遍路について http://plaza.rakuten.co.jp/epub777/diary/200902220000/
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