読書日和 ~Topo di biblioteca~

読書日和 ~Topo di biblioteca~

2005.10.13
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 ドッグ・ヴィルと呼ばれる閉鎖的な村に、グレースという女性が
 何者かに追われて逃げ込んでくる。
 2週間で村人全員に気に入られること(=無償で要求される肉体労働をこなすこと)を
 条件に村での滞在を許されるグレースだったが、やがて警察に手配されていることが
 発覚し、事態は急転する…。

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演じるために用意された場所が特異。

そこにわずかな家具と小道具があるだけの場所で全てが演じられるという試み。

場所も特異だけどそれ以上に後味の苦い内容でもあります。
グレースには重い枷の付いた首輪がつけられ、徹底して村人たちから虐げられる。
閉鎖的な空間で、一人の人間に向けられる悪意と歪んだ欲求に
ぞっとしない人間はいないはず。
けれどそんな感情が「自分の中に存在していない」とは決して言えない所が
この映画の一番怖ろしいところなのです。
正視するに耐えないシーンが続き、途中で席を立とうと何度も思いました。
だけど結末を見ないことにはもっともっとこの不気味さに取り付かれたままに
なりそうで、とにかく耐えに耐えたた記憶が…。
そして驚愕のラスト。

柊の中では未だに答えは出せません。
容赦なくこういう命題を突きつけてくるところ、この監督の一番の個性かもしれない。

ラース・フォン・トリアー監督作品。
とにかく徹底して役者を精神的に追い込むやり方で、自分の望む演技を
引き出す人だと思ってました。

主演のビョークと言い争ったという逸話や、
この「ドッグ・ヴィル」の試写会でも主演のニコール・キッドマンが、
自身が虐げられるシーンを観ることが出来ずに途中退席したなんて話が
伝わってくる程だから、相当厳しい要求をする人なんだろうな、と。

だからこの映画のメイキングは是非、観たいと思っていたんです。

“役者というのは自分の経験や感情を切り売りする汚い、つらい仕事”
演劇をテーマにしたある作品にこんな台詞があって、以来その言葉が
忘れられずにいます。
この「ドッグ・ヴィル」を観ているとホントにそう思う。

役の上とはいえ、虐げられる側を演じるニコール・キッドマンがじっと
自身に掛かってくるストレスに耐えてる様子が目に焼きついてます。
悲惨としかいいようのないシーンを撮り終えた後、じっと監督の肩に
寄りかかって耐えていた姿…。
メイキングを撮ってるカメラに「助けて」と何度もおどけて見せていたけれど
それが彼女の本心にも思えて哀しくなったほどです。
演じるって楽しいばかりじゃないんだな、なんて当たり前のことを思う。

彼女を虐げる村人たちを演じる役者さんたちは更にきついかもしれない。
自分の中の負の感情をカメラの前で曝さなくてはならないのだから。
日の差さない倉庫の中での何週間にも及ぶ撮影。
「ずっと青空を見ていない」といった役者さんのコメントにぞわっと鳥肌が
立ちました。
閉鎖的な村を演じているけど、実際に役者たちは閉鎖的な空間に身を置いて
グレース同様に追い詰められていたんだなあ…。

でもこのメイキングを最後まで観ていくと、一番追い詰められているのは
監督自身だったんだって気づきます。
一つの作品を総括するって並大抵の才能では出来ないことですね。
監督自身が抱えている不安。それを昇華するには納得のいく作品を
作り上げる以外に方法はないんだなあ、と。

撮り終えた瞬間、素の自分に戻るようなのめり込み方じゃない。
役者たちのあの集中力。

「役者」という人種を心からすごい!と思いました。

「ドッグ・ヴィル」本編をもう一度観る勇気は今のところ柊にはありません。
でも、これは一見の価値ありの映画だと思ってます。
「面白いか、面白くないか」という基準で映画を観るのではなく、
後味が悪かろうと、不快だろうと、自分がどう感じるのか、観たあとに何を
考えるのか…試してみる観方もあるんじゃないかと思います。

どーですか??






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最終更新日  2005.10.13 00:21:48 コメント(2) | コメントを書く


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