11月23日(土)
近藤芳美著「新しき短歌の規定」より(97)
岩波書店藤芳美集第六巻「新しい短歌の規定」よりの転載です。
(注)表現を少し変えたり、省略したりしています。
「『丘の上』を読みて ―― 五島美代子小論」(4)
僕は『丘の上』を一つの愛情の生態史として読みます。作者の愛情はほとんど自らの肉の一片に打ち込んだような愛児への愛情から、ようやく一個の人格となり、「女性」として「母」に切り返して来る成長した「娘」への何か不安な切ない愛情に遷移して行きます。そうして今ははげしい戦争の時代に生きて行こうとする作者に、更に次の如き作品がある事を面白く感じます。
まこと傾けてをとめらは嫁ぎ年まねく傷つきゆくをあまた見て来し
をみな子の幸はみじかしまれにして生命光る妻は見つつたふとき
をとめらに火をつけあるき一せいの聖火のなかに吾は死ぬべし
この場合「をとめ」はすでに自分の「娘」ではない。作者の「女性」は「娘」と離れることにより、かって純一な、だがいささか生物じみた愛情を、今も一つ広い世界に拡張させて行きます。歌はれて居る事実は、狭い作者の周囲かもしれません。しかしこの愛情の拡張は、一人の「女性」の成長の、大きな意味の一つの具象なのでしょう。
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