11月23日(土)
「短歌セミナー」(抜粋:後藤)(2)
著者:馬場あき子(短歌新聞社)
発行:平成二十一年十月十日
1.事実について(2)
事実と真実(2)
父が建てし家に父亡き後を住み灯ともす時の息子さびしき 佐佐木幸綱
「父が…灯ともす時」までが事実です。「息子」たる自覚のさびしさ。それは、父の存在を意識させます。父との継承の意志があり、結句の「さびしさ」を生みます。「事実」に「真実」の感動が含まれる時、読みがふくらんできます。
母が墓に生きて幸せなりしかと問ひしが今は墓に問はるる 蒔田さくら子
これは、墓参りを繰返した結果に生れた真実の声でしょう。「生きて幸せなりしか」と問いかける娘の問いが、時間の経過の後に、母から問いかえされてくる。作者は自ら生きる過程において母の生の思いもわかるようになっているのです。こんな真実の声の向うには沢山の事実が累積していることは想像にかたくありません。
事実の強みは、事実そのものが強いのではなく、歌人の受け止めている事実の捉え方に反映し、そこに生れる真実な心なのです。
(つづく)
「短歌セミナー」(抜粋:後藤)(5)2… 2024.11.26
近藤芳美著「新しき短歌の規定」より(1… 2024.11.26
短歌集(484) 渡辺直己(6) 2024.11.26