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2008.08.18
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一体誰かは分からないけれど、俺だって、いつまでもぼーっと、見守っているつもりはない。ミリに向かって、気持ち足早に歩き出した時に、ミリがよろけるのが見えた。あ、あぶねっ。駆け寄ろうとして、隣の男がミリを抱きとめるのを目にする。てか、触んなよっ、大体抱いてる時間、長すぎるだろ、離せよって、思った時、ミリが顔をあげその男を見あげた。男が左手でミリの腰をだきながら、右手をそっとミリの頭の方に上げようとするのが見える。まさか、、、抱き寄せて、、、キスする気かよ?させるかよっ。

俺が、叫ぶと、ミリが、ふわりとこちらを向いた。男も同時に。俺は男が動きを止めたのを見て、ゆっくりと近づいていく。ミリはやっと力を抜いたらしい男の腕から離れ、俺の方に、2、3歩近づいてくる。
「ケースケ」
嬉しそうな顔で俺を見るミリ。なんだよ、ご機嫌だな。俺には、、背中向けて寝たくせに。そんなにその男といて楽しかったわけ?俺はミリがいなくて、心配で駆け出してきたのに。なんて、きっと憮然とした顔をしているはずの俺にも、ニコニコとミリは、
「どうしたの?こんな時間からどこかに行くの?」
ったく、何言ってんだか。
「こんな時間に家にいないから、探しにきたんだよ」
ぶっきらぼうに言ったにもかかわらず、ミリは嬉しそうに、

と答える。その言い方に相当酔ってるな、って気づく。俺は、男に一度目をやってから、ミリに無愛想に聞く。
「・・ダレ?」
「あ、紹介するね。お父さんの病院に新しく来た新谷先生。で、新谷先生。こっちが、ケースケです」
「はじめまして。」
差し出された手を俺は心もち強く握り返す。新谷、と呼ばれた男は、
「あなたがミリさんの。こんなかっこいい人だったんですね。これじゃかなわないな。」
とポツリと言う。俺はつい、言ってしまう。
「今、一体、何時だと思ってるんですか?」
俺が初対面の人間相手に、怒っているのにやっと気づいたらしいミリが、
「ちょっと、ケースケ」
慌てて割って入ろうとするけれど、新谷は、

屈託なくそう言ってから、
「じゃあ、美莉さんをお願いします。僕は、ここで失礼します。ケースケさん、また、改めまして。」
と俺に頭を下げる。ミリが横から、
「今日はありがとうございました。お気をつけて」
「はい。美莉さん、ほんとに、今日はありがとうございました。」

「じゃ、また、おやすみなさい」
遠ざかる新谷を見送って、振り向く美莉。無邪気に、
「帰ろっか?」
というが、俺は気持ちが治まらず、ミリを睨んでしまっていた。
「・・・なに?」
不安げに見つめかえすミリ。
「誰だよ、あれ?」
「誰って、、今、紹介したじゃない」
「そんなことじゃなくて、どういう関係?」
「どういう関係もなにも、、今日は、新谷先生の誕生日で・・」
「お父さんと食事じゃなかったのかよ?」
「お父さんは仕事でこれなくなったの。なにそれ、ヤキモチ?」
楽しそうに茶化すミリだが、俺、さっきミリが目の前で、他の男の腕の中にいたことが頭から離れなかった。
「・・・怒ってんだよ、俺は」
「怒って、、?」
「だって、完全に浮気だろ?他の男とその男の誕生日にディナーして、そんなに酔っ払って、こんな時間に帰ってくるなんて」
ミリは、呆然とつぶやく。
「浮気、、、って。。」
「それに、アイツの腕になんか抱かれて。アイツ、俺が声かけなかったら、絶対キスしようとしてた」
「まさか」
言い返そうとするミリに、
「なにかのあてつけかよ?」
俺のキスシーンのことで悩んで落ち込んでるはずのミリを、なんとか宥めようと必死で頭を悩ませてたのに。他の男と、2人で、楽しく飲んでたなんて。・・・自分勝手なことは100も承知ながら、自分でも、歯止めがきかなかった。
「そんな・・・」
一気に酔いがさめたような顔をしたミリが、俺を見上げる。
「・・・ごめん。そんなに怒んないで。ただ、もうアリタリアに入ってから、お父さんが来れないって言ってきたから・・。誕生日の先生一人残して帰れないじゃない。ケースケには、、ちゃんと説明したら分かってもらえると思ったんだもん。気を悪くしたなら、謝るわ。だから、許して?」
その率直な謝罪に、俺は急に我に返り、とても恥ずかしくなる。そんなこと言えた立場かよ?俺は、、今、ミリを苦しめているのに。
「・・・ごめん。浮気だなんて、、言い過ぎた。確かに、、ヤキモチだよ。ほんと、ごめん。ミリが謝ることないんだ。俺、どうかしてた」
「ううん。私も悪かったんだ。ケースケのことで、少し、もやもやしてた気持ちを忘れたいって思いもあったから。心配させちゃってごめん。」
ミリはそこまで言ってから、一度目を閉じ、もう一度、俺を見上げて言う。
「ねぇ、ケースケ、私、夕べのことも、ごめんね。ケースケのお仕事だもんね。辛いし、苦しいけど、きっと、ちゃんと受け入れるようにがんばるから」
「ミリ・・」
やっぱり今日はずっと悩んでたんだな。。ごめん、、と心の中で詫び、辛いのに、きっと、必死で、受け入れようとしてくれているミリがどうしようもなく愛しくなって、そっと、抱き寄せようとした時に、ミリは、思い出したように尋ねた。
「そういえば、メールの返事、くれなかった・・ね?」
「ん、、?あぁ。。見る暇なくて」
苦しい言い逃れ。
「いつなの?心の準備がしたいから。。」
不安げに、でもどこまでも、イノセントに覗き込む瞳に、俺は、いたたまれず、少し目を逸らしてから言った。
「今日・・だったんだ」
言い終える時に視線を戻すと、ミリは、目を閉じるところだった。でも、ちゃんとまた目を開けて俺を見る。哀しそうな瞳で。
「そ、、なんだ?」
「ああ、ちゃんと1回で決めたよ?」
きっと言っても仕方のない、気休めにもならないことを付け加える。
「うん」
頬が歪んで、、無理に笑おうとしているのが分かる。でも、ミリは笑えなかった。
沈黙の時間。
やがて、
「帰ろぉ・・」
力なくつぶやき、血の気の引いた表情のまま、家に向かって歩き出す。
そして、また、よろけるミリ。
抱きとめようと、腕を出した俺を避けるように身をよじり、近くの木に手をつく。
ミリ。。。。
呆然とする俺の目の前で、ミリは、自分でも自分の反応に驚いたような顔をしている。

そう、夕べと同じ。
いや、もしかしたらそれ以上に。
ミリの体は俺を避けていた。


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最終更新日  2008.08.18 00:23:31
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