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ひろ。です。「blue night」完結しました~。最後までお付き合いくださいましてありがとうございました。いつもどおり、いえ、いつも以上に、感謝です。途中、私事で、何ヶ月も中断したにもかかわらず、たくさんの方に、読んでいただけたこと、とても嬉しく励みになりました。本当にありがとうございました。正直、当初は、短編であげる予定だったので、プロットもほとんど字にして残してなくて、再開しようとしたときには、書きかけの続き以外なんの手がかりもなく、結末さえどうすりゃいいのか、さっぱりでした。過去の自分に電話して聞きたかったです、ほんとのところ。で、案の定、すぐにつまっちゃって、たしか、書き始めの予定では、テツヤと蒼夜以外、出すつもりではなかったんだけど、、困ったときの、レギュラー頼み、ということで、悠斗と慶介の登場、と相成りました。いいんです、彼らもきっと暇だったでしょうから(^^)。(リアル・ケースケだけが、成り行き上、突然出入り禁止を言い渡され実害を被りました。ゴメンね)なんか、ありったけ苦しんだ割には、いろいろカバーしきれない、矛盾点も、、、目に付くあらが多くて申し訳ないんですが、いつもどおりアップしてしまったのは、もう訂正はしません。色々、後悔の多い作品ですが、でも、まあ、これもいい思い出になることでしょう。ならないと、、困る。(^^;)とにかく、難はありつつも、書く体勢を取り戻し、もう今は書きたくて書きたくて仕方がないので、どわーーって書き続けますね。また、よろしくお願いしま~す。ながさわ ひろ。 ←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.26
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☆慶介と悠斗☆碓氷と蒼夜が、千夜のスピーチに紛れて、会場のドアをこっそりと出てきたとき、、、手をつないでいる碓氷と蒼夜を見て、一瞬で総てを理解した慶介と悠斗は、にっこりと笑って道をあけた。2人に軽くうなずき、こっそりと、でも相当足早にその場を去る後姿を見ながら、悠斗は、「役に立てたみたいだな」「だな」慶介は簡潔に受けてから、悠斗を睨んで言う。「だけど、お前、碓氷さんに、100人とか、まで言わなくてもいんだよ」「だって、事実だろ?」「昔の話だよ」「ま、いいじゃん。うまくいったみたいだからさ」慶介は、ふと思いついたように言う。「悠斗、お前、分かってると思うけど、美莉には今日のこと、一切言うなよ。」「・・・あ~、、ダメ?」「当たり前だろ?変に誤解されたら困るんだからな」「だけど、、ちょっとだけなら、言っていいか?」うつむきがちに上目使いに聞く悠斗。慶介は、目つきを鋭くして言う。「お前、、まさか・・」悠斗は拝むように手を合わせて言う。「ごめん、もう、言っちゃったんだ」「はあ?」「さっき、黙ってろって言われて頭きてさ~。ていうか、ちょっとあわててさ。ちょこっとメールで。。いやまぢで送るつもりはなかったんだけど・・つい、送信ボタンを。このケータイまだ買ったばっかでなれなく、、て、、さ。。」慶介は、一瞬目を閉じ横を向いてから、細目を開けて悠斗をみて、「なんて?」「『ケースケが女の子ナンパしようとしてるから、なんとか言ってやってくれ』って・・」ケースケは、唇をゆがめて、少し噛んでから、内ポケットのケータイを取り出す。メールを確認して、ため息をつく。「なんて言ってる?怒っちゃってる?」たずねる悠斗を無視して、慶介は1通メールを送る。「あ~、慶介、謝るんなら、メールじゃなくて、電話したほうが・・」まだ無視する慶介に、悠斗は言う。「おい、マジで怒ってんの??電話しろよ。俺から、ちゃんと美莉ちゃんに謝るからさ、許してくれよ。きっと、すぐに仲直りできるって。大体、俺、2人のこと心配してさ、、あ、」悠斗は胸ポケットのケータイを取り出す。楓からメールだ。画面を見て、凍りつく悠斗。「・・・」しばしの沈黙の後、慶介を睨んで、「・・・おい、ケースケ、おま、、今、楓にメールしたのかよ」慶介はニヤっと笑って、「目には目を。メールにはメールを。同じ内容でな」悠斗は、口を開くが、なかなか言葉が出てこない。でもなんとか搾り出して言う。「っなんでだよ、俺は、なんもしてね~じゃんっ」「しただろ。美莉にいらね~メール」「だからってさぁ、、」しょげる悠斗に、慶介は言う。「で、楓、なんて?」「美莉ちゃんは?」お互い、メールを見せ合う二人。美莉→ケースケ:ナンパ~っ?!ひどいっ。キライっ。大ッキライ(><)。ケースケのバカ(;;)もう、別れるからっ。楓→悠斗:ナンパしてるって??・・なんだか、らしくないけど、何事も経験だよね。頑張って(^^)どんなだったか聞かせてね。お互いのメールを見て、ポツリと呟く。「これって、、」「どっちの方が愛されてるわけ??」顔を見合わせて考えてみても、答えは出ない。二人は同時に軽くため息をついて、「でも、」「とりあえず」「電話しなくちゃ」「だな」うなずきあって、互いの相手にあわてて電話をかけ始める2人。だった。<完>←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.25
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「あ~あ~あ~、こんなとこにいた。おい、ど~すんだよ、どうやって出て行けばいんだよ~、おい。。ていうか、お前ら一体いつのまに。大体テツヤ、お前、いくらなんでもあんな場所でキスするなんて、、何考えてるんだよっ。第一、蒼夜は素人なんだぞ」千夜の楽屋に逃げ込んでいたテツヤと蒼夜を見つけて、水野はいくつもの質問を浴びせる。テツヤは、それらの質問には、簡単に、「わりぃ」とだけ答え、向かいのソファに腰を下ろした千夜に言う。「さっきは助かったよ、ありがとう」「碓氷くんにお礼を言ってもらう必要ないわ。娘のためだもの」と優しい視線を蒼夜に送る千夜。ソファに並んで座る二人をみて、微笑んで、言う。「蒼夜、あなたの初恋のお相手が、まさか、碓氷くんだったなんてね」「・・・ごめんなさい、お母さん。」・・・たった一つの言いつけも守れなくて。。千夜は笑って、「何も謝ることないじゃない。幸せ、なんでしょう?さっきと全然、違うわ、あなた」蒼夜は嬉しそうに微笑んで頷く。水野は、千夜の隣に腰を下ろし、「おい、千夜、認めるのかよ?この2人のコト。あんなに会わせないって言ってたのに。。いいのか?」「いいも悪いもないじゃない。もう、こうなっちゃってるのに。蒼夜の話じゃ、とっくに寝たみたいだし」「なにぃっ?!テツヤ、、お前っ」コブシを握って立ち上がる水野の手にそっと触れ、一旦、二人に、そして、碓氷に視線を移してから、千夜は、「まあまあ、興奮しないで。ヤリ逃げだったら許せないけど、、でも、まあ、、碓氷くんだって、本気でないならわざわざ私の娘にいかないでしょ」テツヤは大きくうなずいて、「俺、本気だよ、水野。さっき話したみたいに」社長室での会話を思い出し、水野は座りなおしたが、まだ不満げに、「それにしてもさ~。」千夜は、隣の水野を見て、「水野くんはイヤなの?蒼夜とあなたの親友が付き合うのは。・・それって、やっぱり父親としての嫉妬なのかしら?」千夜の言葉を理解するのに、3人とも、少し時間がかかった。そして、「ええええ~~~~っ 」声を揃えて同時に驚き、その後、「なんだよ、お前らいつのまに」「水野くんが私のお父さんなの?」「蒼夜の父親って、俺なの?」それぞれに驚きを口にする。千夜は、涼しい顔で、「そういうこと。蒼夜の相手、分かっちゃったから、私のも教えることにしたわ」水野は、隣にいる千夜と、向かいに座る蒼夜を何度も往復してみながら、「・・・そんな、まさか・・」「まさかって何よ。私と寝たこと、忘れちゃった?」水野はブンブン首を振って、「忘れてなんてないよ。忘れられるわけないだろ?あれは、俺の人生最高の夜だったんだから」そういう水野に満足そうに、「でしょ?」「だ、、だけど、待てよ、だって、、千夜、、、蒼夜は、、愛してる人の子供だって、、、そう俺に言ったじゃないか」呆然と呟く。千夜は呆れた目で見返し、「ええ、そうよ」「だから、、、だって、なんで、、じゃあ、、俺。。。俺のこと、、愛して。。。??千夜が、、、まさか。。」「んっとに、鈍感な人」水野はまだ衝撃から立ち直れず、「・・本当に、、俺のこと??」「当たり前でしょ?あなた、鏡見たことないの?愛してでもいないかったら、あなたのそばになんていないわ。仕事でもプライベートでも、ずっとそばになんていさせないわ。あなたもよく知ってるでしょ?私はね、面食いなのよっ。」「・・・だろ?だから、、俺のことなんて、、眼中にないって。。」「だから鈍すぎるっていうのよ、あなたは。。。私だってね、二枚目で、キレルオトコを好きになりたかったわよ。私の好みはそういう男のはずなのよ。ちゃんと、そういうオトコからもいっぱい求愛されて、何度か付き合ってみたりもしたけれど、でも、私はね、あなた以外の人は愛せなかったの。今もずっと愛してるのよっ。仕方ないじゃないっ」千夜の告白というには激しすぎるいい草にまくし立てられ、さらに呆然とする水野。、碓氷は言う。「おぃ、水野、今だろ?早くしろよ」「なに?」「プロポーズ。千夜に渡し損ねてた指輪、い~っつも、持ち歩いてたろ?ほら、出せよ」水野はその言葉に焦って、「おい、なんで、今、、そういうことっ、言うなよ」蒼夜は驚いたように聞く。「・・ずっと、指輪を?」「そういうこと。ずーっとずーっと持ち歩いてきた指輪だよ」「じゃあ、水野くん、やっぱり昔から、お母さんのこと」「そうだよ。ほんと、出会った頃から、な、水野?指輪、渡せって言っても渡さね~し、でも、いつも持ってるし、あきらめてんのか、あきらめられてね~のか、分かんなかった。」テツヤは蒼夜にそう答えると、水野に、「お前、じれって~んだから、今渡さないと、二度と渡す時ないぞ~」千夜は、済まし顔で、水野を見ている。水野は、小さく息を吸ってから、スーツの胸ポケットから、指輪を取り出した。「ほんとに出てきた」蒼夜が言う。水野は千夜に向き直りかけて、思い出したように、テツヤとソヨに言う。「お前ら、、席をはずしてくれ、、る、、わけ、ないか」そんな気などさらさらなく、ニコニコと笑う二人。水野はあきらめ、千夜に向き直り、指輪を差し出して言う。「千夜、俺と、結婚してくれないか?」千夜は、唇を結んだまま、少しすねたような表情を見せる。水野は、焦って、「聞こえた?」などと聞いて、さらに千夜に不愉快な顔を向けられる。あまりの惨状に、ソヨが小声で助け舟を出す。「愛してる、、が、、抜けてるよっ」水野は、あわてて付け加えて言いなおす。「千夜、ずっとずっと愛してきたんだ。俺と、結婚してくれな・・」最後まで聞かずに、千夜は満足そうに、左手を差し出した。水野はあわててその手をとり、薬指に指輪を滑らせる。ぴったりと収まったところで、ようやく、千夜は口を開いた。「返事は、イエスよ」ほっとし、抱き寄せようとする水野に、「でもね」「でも?」「遅すぎっ」千夜の言葉に、吹き出すテツヤとソヨを軽くにらんでから、「だってさ、まさか、、千夜が、、俺のこと。。。なんて、、それに、、ソヨが、、、俺の娘だったなんて」また言い出す水野に、蒼夜は、嬉しそうに言う。「私、ずっとお父さんいないと思ってきたけど、水野くんなら、いつも一緒だったわ。それがとっても嬉しい。だって、全部上書きすればいいでしょ?水野くんとの思い出、じゃなくって、お父さんとの思い出、に」「そういうこと」満足そうにいう千夜。水野は思う。たしかにいつも一緒だった。蒼夜の学校行事だって、千夜がいけない日には、何度も水野が1人で行ったし、もちろん千夜が行ける日にも水野は付き添って。本当に、いつも、一緒だった。水野の心を察したかのように千夜はいう。「大切な娘のプライベートな思い出の肝心な場所には、あなた以外の男は存在しないから、安心してね」碓氷は笑って言う。「まったく千夜らしいな。形式は整ってはいなくても、君たちは、とっくに家族だったってことなんだな」千夜は碓氷の言葉にうなずいて言う。「もちろんよ」「千夜、水野、おめでとう」改まっていう碓氷。蒼夜も続けて、「私からもおめでとう」テツヤは、二人が嬉しそうにうなずくのを見てから、蒼夜の肩を抱きなおしていう。「しかし良かったな、水野のヤツに似なくて」その言葉に噴出す蒼夜に、「でも、あれだな、蒼夜と結婚したら、水野と千夜が義両親になるわけだ」と言うテツヤ。蒼夜は、「・・それってプロポーズ?」「いや、、、でも、そう聞こえた?」「ええ。そうやって、女の子その気にしてきたのね。罪な人。」「その気になった?」「・・まさか」「いや、でも、蒼夜とならいいかもしれないな、結婚っていうのも。本気で考えてみてよ。」「あのねぇ」「嫌?」・・嫌じゃないけど・・・「せめて1年間、浮気しないの見届けてからね。」「浮気なんてしないよ。僕が一途なの分かってるだろ?」「威張って言うこと?一途だったのは、他の女の人に、でしょ?」急に不安になる蒼夜。碓氷は、蒼夜の心を察して言う。「・・・彼女には、もう2度と会うことないよ。安心してていいから」「ほんとに・・?」「ああ」蒼夜は思う。今ほど幸せな気持ちになれたことはない。・・だから、、複雑な思いに、悩むのは、コトが起こってからにしよう、と。「一途、、ねぇ。。確かに、碓氷くんは、そうなのかも、心はね。でも、体は。。ねえ。。」疑うような目で見る蒼夜に、碓氷は肩を抱き寄せて言う。「分かったよ。絶対浮気なんてしないから、納得いくまでしっかり見てたらいいよ。」「おい」とそこに、水野が割り込む。「俺、まだお前らのこと許したわけじゃないんだぞっ。テツヤ、蒼夜から離れろ」「なんだよ、俺じゃ不満かよ」怒って言い返すテツヤ。蒼夜は、唇をとがらせて、「ねぇ、いいでしょ?お父さん」「お、、父さんって、いや、あ、蒼夜、、あの、さあ」ただ、お父さんと呼ばれただけで照れ、デレデレ表情を浮かべる水野。「いいだろ?お父さん」自分までふざけてそう呼ぶテツヤに、水野はまじめな顔に戻って、「泣かせたら、承知しないからな」「大切にするよ。絶対に」力強く答えるテツヤだった。千夜は、嬉しそうに微笑む蒼夜と視線を交わしてから、水野に言う。「さ、行きましょうか?」「行くって。。」水野は、自分たちが置かれている状況を思い出し、「あぁ、、どうやって、蒼夜を守ったらいいかなあ。ったく、テツヤ~、いきなりこんな窮地に追い込んでさ。蒼夜がマスコミの連中にどんな目にあわされるか。。全然大切にしてないじゃないかよっ」「仕方ないだろ。もう一瞬もガマンできなかったんだよ」「だからって、あんなハイエナみたいなやつらの前で・・」泣きそうに言う水野に、千夜はあっさりと、「発表したらいいのよ」「発表?」千夜は左の薬指を示して、「このこと」「そ、、そんなことしたら、大騒ぎに」「そう、その間に、マスコミから逃げるの達人の碓氷くんに蒼夜を連れ出してもらえばいい」テツヤは笑って、言う。「ほめられてるのか、微妙だけど、その話、乗った」水野は天を仰いで言う。「所属役者のトップの2人がそろってコレじゃあ、、事務所は当分、大変だな。。」蒼夜は言う。「お父さん、頑張ってね」水野はその言葉に、嬉しそうに微笑んでうなずいて言う。「こういうことに関しては、テツヤなんかより、俺の方が断然頼りになるんだぞ。お父さんに任せなさい」「水野が頼りになるのは、こういうこと、だけだぞ、蒼夜。後は全部、俺に・・」にらみ合う水野とテツヤに、「くだらない張り合いはいいから、もういくわよ」千夜がピシリと言った。千夜と水野のおかげで、計画通り会場から「脱出」できた。タクシーの中で、蒼夜は、碓氷にしがみつく。その必死さに、テツヤは、「蒼夜?」「・・・ずっとそばにいてね」ただそれだけ、ポツリという蒼夜。碓氷は、答える代わりに、肩を抱く手に力を加える。そして、タクシーが信号待ちで止まる交差点。碓氷は窓の外を見て、、、その偶然に微笑み、言葉にして伝える。「そばにいるよ。約束する。あのポスターに誓って。」「ポスター?」顔を上げ、蒼夜も外を見る。テツヤが指差す先には、あの日二人が出会った場所。その窓に貼られた、カナダ旅行のポスター。日が暮れた、蒼く深い空の色。「いつか、2人で見に行こうな」その言葉に、蒼夜は、碓氷を見つめて微笑みうなずいた。いつか2人で見に行きたい。出会う前から、私たちをつないでくれていたもの。碓氷くんがくれた、私の、名前。BLUE NIGHT。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.24
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照明がいくぶん落とされたのを合図に、会場は静寂に包まれた。真紅の美しいイブニングドレスを纏った千夜が壇上に姿を現した。盛大な拍手が起こり、たくさんのフラッシュが焚かれる。「本日は、私のためにこうしてお集まりくださいまして・・」千夜の凛とした声が響き渡る。そんな母の様子に、周りの人々同様惹きつけられて目が離せなくなる。家のリビングにいるときとは全然違うオーラ。さすが、女優・千夜だわ。最後列の壁際でしばらくそんなことを思っていると、すぐそばに人の気配。さっきまで話していた慶介だと思いこんだまま、蒼夜はそちらに目を向けた。心臓が止まりそうになる。「ウスイ、、くん」「久しぶり」優しく微笑んで言う碓氷に混乱する蒼夜。・・碓氷くんがここにいるなんて。。さっきまで散々探していたけれど、、いなくて、、、もう、、あきらめていたのに。。蒼夜は碓氷の姿を見たことで、躍りだす心と、きっと失望が待っているはずの怯えで、動転してしまう。壇上では千夜のスピーチが続く。蒼夜は小声で問う。「ど・・して?」「なにが?」「だって、、、こういう席には碓氷くんはほとんど来ないって、水野くんがいつも・・」「君の方こそ、同じように聞いてるよ」「私は、、、ちょっと、今日は気が向いて。。。母に強く誘われたのもあって。母のお祝い事だし、たまには顔を出すのもいいかなって」・・・碓氷くんに会えるかも、、なんて思ってたなんてこといえないよ。ね。。「なるほどね」「・・・そっちは?」「同じようなことだよ。気が向いただけ。千夜のお祝い事だし」・・・蒼夜に会えるかも、、なんて思ってたなんてこといえないよ。な。。碓氷はスピーチを続ける千夜に目をやる。「久々にナマ千夜を見たんだけど、相変わらずきれいだね」「ですね。ありがとうございます」碓氷は、視線を蒼夜に移し、「君も、とってもきれいだよ。そのドレスよく似合ってる」・・本当に、キレイだよ。他人もその姿を見てるのが悔しいくらいに。「どうも、ついでにありがとうございます」「そんなひねくれないでくれよ。本心だって」「それは、どーーも。。碓氷くんこそ、ステキですよ。その借り物のスーツとネクタイ」「あれ?借り物ってばれた?」「それ、母が、水野くんの誕生日にプレゼントしたスーツと、私がプレゼントしたネクタイです」・・・でも、ほんとに、素敵だよ。碓氷くん。あなたにもプレゼントできるなら、いっぱいいっぱいするのに。だけど、私の気持ちもしらないで、そんなに素敵に見えるのは、、悔しいな。。「あ、そーなんだ。知らずにゴメン。お借りしてます」・・・僕って、ちょっと、、てか、結構、てか、、相当?、カッコわりい?よな。。「それにしても、よくこんな大勢のところにこれますね」「え?」「だって、あんな騒ぎ起こして。。。」「あぁ、、やっぱり知ってた?」・・知らないはずないけど、知られたくなかったな。「相変わらずお盛んなんですね」「違うって、あれは、本当に、偶然」あわてて否定する碓氷に、蒼夜は、「へ~」とつれない態度で。・・・ちょ、、冷たっ!やっぱり、、僕なんて、、眼中にないのか、、な。。蒼夜相手にあまりに臆病になり、心が立ちすくむ碓氷。・・・てか、言い訳それで終わり?もっとちゃんと説明してよっ。一瞬、そんなこと思ってみても、・・そか、何も、私に言い訳なんてする理由、、ないんだもんね。と、唇を噛んで、哀しく目を伏せる、蒼夜。そして、思う。・・・今日、ここで会えたら、、て思ってた。でも、現実に目の前に碓氷くんが現れても、結局は、こうやって、距離を思い知るだけで。1%の希望なんて、ただ儚く消えていく。碓氷くんは、素敵過ぎるから。会えたら、、それだけで、、なんて思ってた自分が、、、。何度失恋してもいいって、思ってた自分が。。・・・やっぱり、、無理だよ。辛い。辛すぎる。目を閉じてしまった蒼夜の、睫、唇が、、薄闇の中で、かすかに、、ほんのかすかに震えている。碓氷はしばらくその様子を眺めてから、静かな声でたずねる。「・・そっちは?」「私?」ゆっくりと目を開け、ぼんやりと言う蒼夜。「、、見つかった?」「・・・」「愛せる人」「・・ええ」「そうなんだ、よかったな」「・・」屈託ない碓氷の言葉に、、、何も、、、何も答えられない蒼夜。「実は、僕も見つかったんだ。もう誰も愛せないって思ってたのに」「・・・?あの、、写真の人ですか」「まさか」そこで、蒼夜は、そっと碓氷を見上げた。何かを確かめるように、蒼夜の瞳の奥の奥まで覗き込む碓氷。「誰か知りたい?」蒼夜は、碓氷の優しく問う声に、導かれるようにうなずく。「知りたい。。です」魅入られたように、もう、蒼夜は、視線をそらせない。「じゃあ、蒼夜も教えてくれる?その、愛した人のこと」いつのまにか、蒼夜は、碓氷の腕の中にいた。うっとりとした気持ちになる。一体、、これって。。。「いっそ、せーので、言い合う?」碓氷の声が、少しずつ、、耳に寄り添ってくる。「それとも・・」ここが、パーティ会場であることすら、忘れてしまうほどの2人の世界に誘われる。「そんなことすっ飛ばして、、もうキスしてもいいか?」ゆっくりと、、気が遠くなるほどにゆっくりと、碓氷は顔を、、唇を近づける。「・・いいよな?」静かに、重ねられる唇。蒼夜は、、もちろん、抵抗なんてできない。できるはずがない。蒼夜に優しく何度も口付けながら、碓氷は、心の中で蒼夜にわびていた。震える睫、唇、そして、頼りなげに見上げた瞳。そこにある、僕への想い。僕なんかって、、勝手に思い込むことで、この1ヶ月、どれだけ辛い思いをさせてしまったことだろう。僕だって、あんなに辛かったのに。蒼夜は。今日の新聞ネタにだって、どれだけ心を痛めたことだろう。もっと早く気づくべきだった。きっと、蒼夜も、あの夜から。僕と同じように、僕に会ったときから。ゴメンな、蒼夜。だけど、もう、辛い思いはさせないよ。やがて、ゆっくり離される唇。額はくっつけたままで、信じられないほどの、胸の鼓動。燃えそうなくらい、熱い頬。蒼夜は、目を開ける勇気はなく言う。「ねぇ・・」「ん?」碓氷もそれ以上離れること無く、蒼夜の頬にそっと添えた親指だけをゆっくりと動かす。「いいの?」「何が?」「だって、、すごいフラッシュたかれてるよ?」目をつぶっていても、めちゃくちゃ眩しいほどに。きっと、人々の目もこちらに。。碓氷はふっと息を吐いて微笑んで言う。「かまわないさ。今度はガセじゃないからね」そして、もう一度口付ける。「だけど・・・」唇を離された碓氷はすぐにその唇をまた取り戻そうとしながら言う。「なんだよ」何度も唇を重ね、そのたびに焚かれるフラッシュ。蒼夜はなんとか逃れて言葉をつなぐ。「どうやって、、、ここから出るの?た、い、へんなことに、、」「平気だよ」「え?」「きっと、そろそろ、千夜が助けてくれるよ」「お母さんが?」そう言った途端、「あなた方、お仕事熱心なのは分かりますけれど、カメラの向きが違うんじゃないかしら?」千夜のいつもどおりのその凛とした声にひきつけられ、フラッシュが止み、みんなの視線がそちらに戻ったことが分かる。碓氷は、そのタイミングで、蒼夜をドアの外に押し出した。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.23
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いきなり腕をとられ、すごい力でドアの外に引きずりだされた慶介。あまりに突然の動きに驚きながらも、心の中では微笑んでいる。・・・少なくとも、やっぱり、、、そうこなくちゃ、ですよ、ね、碓氷さん。ドアの外に出ると、あまりにも乱暴だった引き離し方とは対照的に冷静な声で碓氷は言う。「ケースケ、悪い、やっぱりさっきの話忘れてくれよ」慶介はとぼけて聞く。「なんでですか?いいムードだったのに」「ちょっと、、やっぱり気が変わったんだ。だってさ、お前・・」「なんですか?」「・・お前、だって、、アレだろ?だれかれ構わず女と寝まくってるらしいじゃないか。100人はくだらないって聞いたぞ」ちょうどそこに悠斗が来た。慶介は、お前言いすぎただろ?と目だけで言ってから、碓氷に答える。「いけないですか?まあほめられたことじゃないとしても、だからって、碓氷さんに言われるのはちょっと心外ですけど」不満げな慶介に碓氷は、「いや、その、そのことをとやかく言うつもりはないんだ。ただ、、」「ただ?」「ただ、蒼夜の相手には、もうちょっと、なんていうか、、、ちゃんと恋人として大切にずっと。。誰かに。。」・・・蒼夜を、ずっと、見守ってやれる、誰かに。・・・誰か、、に・・・?・・誰かでいいのか?誰でもいいのか?、、自分じゃなくても。、、?心が迷い、言葉を途切れさせる碓氷に、慶介は静かに言う。「碓氷さん」碓氷は、返事をせずにただ目を慶介に向けた。「なんで自分がいかないんですか?」慶介に問われ、素直に答える碓氷。「・・若すぎるンだよ。」その答えに悠斗がびっくりしたようにたずねる。「は?碓氷さんでも、最低年齢制限あるんですか?」「・・・そうじゃないけど、、だけど、、僕みたいな不真面目に生きてきたおっさんより、、もっといいヤツがいるだろうって思うんだよ」その言葉を受けて、悠斗は言う。「つまり、真剣なんですね。」続けて、慶介も、「じゃあ、なおさら自分でいくべきですよ。碓氷さん」「・・無理だよ」・・2度と誰も愛さないなんていっちゃったんだ。信じてもらえないさ。。「どうしてですか?」悠斗の問いに、碓氷は答えない。慶介はその様子をみて、思い切りよく言う。「わっかりました。じゃあ、俺、もっかい戻りますよ。頼まれなくても蒼夜ちゃんみたいなコだったら、俺、ナンパしてたと思うから。第一さっきも言ったけどいいムードだったんです」そういってまたドアの方に向かう慶介に、碓氷は、「あぁあっ、ちょっと、あ、、いや」気持ちのまとまらないまま引きとめ、また黙り込む。・・・いいムード、、だったんなら、、僕のことはやっぱり眼中にも心中にもなかったってことで。ここでケースケをとめたところで、、僕には。慶介はもう一度尋ねる。「碓氷さん、どーすんですか?」「だってさ~」天を仰ぐ碓氷。「ったく、なんなんですか、一体」年甲斐もなく、悠斗のように頼りないはっきりしない碓氷の態度につい、慶介は遠慮もなく聞き返す。「そりゃあ、大事な蒼夜に、、、お前みたいな女ったらし、引き止めたいさ。だけど、いいムード、、だったんなら、、、やっぱり蒼夜がまったく、僕には、興味がないなら、それも、もう、僕がとやかくいうことじゃ。。」いじいじ言い出す碓氷に、慶介は、ひとつため息をついて、「・・・嘘ですよ」「嘘?」「そうですよ。いいムードになんてなってません。一応、笑顔で話してはもらえましたが、蒼夜ちゃんは、ただの社交辞令ですよ」「本当に?」「はい。気になることも言ってましたよ。聞きたいですか?」「なんて?」「俺はね、こう言ってみたんです。『決まった相手がいないなら、ぜひ、紹介したい人がいるんだけど』」---蒼夜と少し話した後で、慶介は言った。「決まった相手がいないなら、ぜひ、紹介したい人がいるんだけど」それはもちろん碓氷のこと。彼が、蒼夜を愛しているのは、俺にこんなこと頼んだことからしても瞭然だった。片想いを、、それも苦しい片想いをしている男のことは、その目つきは、経験上、すぐに察知できる。慶介の言葉に、蒼夜は困ったように微笑んで言う。「・・決まった相手はいないです。でも、私には好きな人がいるから、申し訳ないんですけど、、」慶介は、微笑んで、「そうなんだ。じゃあ、仕方ないね。でも、、」蒼夜は慶介の顔を見上げる。「あんまり、、、ハッピーそうな顔してないね」「・・片想いですから・・。きっと、ずっと」慶介は、自分が美莉に、「きっと、ずっと」の片想いをしていた頃を思い出す。碓氷の、蒼夜への想い。蒼夜の、片想い、、。これは、、偶然なのか?だからって、「ダレに?」なんて安易には聞けない。だけど、、もしも、偶然じゃ、ないなら、ちゃんとうまくいかなくちゃいけないだろ?と思う。2人とも、あの頃の俺と、同じ目をしている。放っておけないよ。「その相手って、、」そういいかけたときに、部屋の照明が落ち、ステージに光が入ったと感じた瞬間、いきなり腕をとられ、すごい力でドアの外に引きずりだされたのだ。---慶介は蒼夜との会話の話を終えると、静かな声で碓氷に言う。「碓氷さん、俺はね、愛してるって伝えそこなったせいで、美莉と、、今の彼女と、ずっとすれ違ってきました。今は、なんとか、抱きしめることができてますけど」すれ違いの頃の、イタイ想いを思い出し、慶介は軽く唇を噛んでから言う。「だから、やっぱり、そこまでの想いなら、ちゃんと伝えるべきですよ」悠斗も、碓氷の背中を押すようにしっかりとうなずき、言う。「俺だって、馬鹿げた気の回し方をしたせいで、もうちょっとで楓を失うところでした。だから、俺も、素直な気持ちを、、、言わないで後悔するよりも、言って後悔するほうがいいと思います」「ダメだとしても」そう力強く付け加える慶介に、うなずいて、「うん。ま~ったく、ダメなんだとしても」と言う悠斗。「・・・君たちさ、、それって、励ましてるつもりかよ?」力なく笑う碓氷。「碓氷さん、俺はわかりますよ。これまでどんだけ女ったらしだったとしても、1人の人を心底愛することができること。俺も同じだったから。・・そして、自分がしっかり伝えれば、その気持ちがちゃんと相手に伝わることも、俺は身をもって分かっています」そういう慶介。「つまり、そういうことです」うなずき簡略に言う悠斗。・・つまり、そういうこと。。か。「ったく、芝居上手な2人には完璧だまされたよ」そういってから、碓氷は、まじめな顔で2人にうなずき、ドアに手をかけた。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.22
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慶介が人波の中を通り過ぎ、ゆっくりと蒼夜に近づき声をかける様子を、碓氷はずっとみつめていた。声をかけられた一瞬、びっくりしたように慶介を見上げた蒼夜。そして、戸惑った様子ながらも、蒼夜は慶介と会話を始めた。時折、慶介の手が、蒼夜の肩や腕に何気なく触れる。・・・触るなよっ。つい、そんなこと思ってしまう碓氷。・・何考えてんだ、俺。自分で頼んでおきながら。「あ、さっすが慶介、うまくやりそうですね」二人を見るのに夢中で、隣に帰ってきたことに気づかなかったが、悠斗がそう声をかけてきた。碓氷はぼんやり尋ねる。「さすが、、って?」「碓氷さん、知らなかったですか?慶介、ああ見えて、っていうか、見たままっていうか、超女好きで」「え?」「あのルックスですからね、声かけられたら、女の子の方は、すぐその気になるんでしょうね」「その気って」「あの様子なら、簡単に落としちゃいますよ。完全お持ち帰りペースだな」「お持ち帰りって、だって今知り合ったばっかだろ・・・?」「あれ、そんな反応、意外だな。碓氷さんのくせに。第一、自分が頼んだんじゃないですか」「いや、僕がいったのは、そんな意味じゃなくてさ、ちゃんとした恋人になってもらいたいって意味で・・」呆然と言う碓氷に、「あ~、それは、完全に人選ミスですよ。ケースケのヤツ、きっとヤることしか考えてないですよ。あんな感じなのは、モデル時代からで、確かもうとっくに100人は食ってるはずですからね。」「はあ??」言葉を失う碓氷に悠斗はきっぱりと、「事実です。碓氷さんにはかなわないでしょうけど」「・・だって、あいつ、彼女のこと相当大切にしてただろ・・?この前の撮影の時もキスシーンのことでえらく気にして・・」「はは、それは、たまたま付き合いだしてすぐ、とかだったんじゃないですか?」慶介が聞いていないと思って、言いたい放題の悠斗。少し考えるそぶりで続ける。「そうだなあ。。まあ、今の彼女は親も公認ですからねぇ。別れるつもりはないかもしれないですね。だから、まあ、蒼夜ちゃんのことは、2、3回だけ楽しむつもりか、それとも、あいつ、結構ちゃっかりしてるから、どっちかにバレるまで、二股だって、うまくやるんじゃないですか」悠斗の言葉に碓氷は色を失い、「もっと早く教えてくれよっ」・・そんなヤツに、蒼夜を任せられるかよっ。あわてて蒼夜と慶介のいる方に向かう碓氷の後姿を見送りながら、やれやれ、と思う悠斗。碓氷が二人に近づいたとき、会場の照明が落ちた。壇上に光が入り、蒼夜がそちらを向き、慶介から目をそらした。と、その途端、あ~あ~、ケースケのやつ、碓氷さんに、あんなに乱暴にドアの外に引きずり出されちゃって。・・・ちょっと言い過ぎたかな。悠斗は、・・やべ、とにかく、フォローに行かなくちゃな。少し苦笑しながら、自分も、碓氷とケースケが消えたドアの方に急いで向かった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.21
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「へ~、どんな子ですか??気になりますね。ちょうど今、彼女とうまくいってなくって、別れたいと思ってたところなんですよ」そういう慶介の言葉に、悠斗が隣であわてて、「ちょ、おま、なに言ってんだよ。ダメですよ、碓氷さん、こいつ、全然彼女とラブラブですよ。今も散々のろけ聞いてたんですから」慶介は、とぼけた顔で悠斗を見て、「のろけてたのはお前だろ?」「え?いや、ちが、、そりゃ、オレも、、ってオレのことはいいんだよ」慶介は、悠斗を後ろに下がらせて、「悠斗はちょっと黙ってろよ。俺いま、碓氷さんとしゃべってんだから。で、どんなコなんですか?」身を乗り出す。碓氷は、遠くの蒼夜を指差す。そちらを見て、「まさか、蒼夜ちゃんのことですか?」驚いた様子の慶介に、碓氷は、「あ、なんだもう知り合いなんだ?」「いや、さっき、千夜さんに挨拶に言ったときに軽く紹介してもらっただけですけど」「・・そう、蒼夜のこと、どうかな?」縋るような目つきで尋ねる碓氷に、慶介はうなずいて、「いいですよ。断然タイプですね」悠斗は後ろから、「おい、ケースケ、いい加減にしないと、美莉ちゃんに言いつけるぞっ」なんて叫んでいるけど、慶介は意に介さず、碓氷に言う。「彼女、あんなにかわいいのにフリーなんですか?」「ああ、そうなんだ」「で、オレ、が、彼女を、モノにしてもいいんですね?」ゆっくりと切るように尋ねる慶介。碓氷は、少しためらってから答える。「・・ああ、そう。。。ケースケみたいなヤツに大切にしてもらいたいんだ」「本当に、、いいんですか?」碓氷は、もう一度蒼夜に目をやり、目を細め彼女をみつめる。「碓氷さん?」慶介の声に、碓氷は、われに返り、、「あぁ、、、」頼りなく肯定する碓氷に、慶介は、「分かりました。じゃあ、早速、行ってきますよ」といいおいて、ゆったりと、蒼夜のいる方に向かう。完全に怒っている様子の悠斗は、慶介の横についていきながら言う。「おい、ケースケ、お前、一体、、」「なんだよ」「何考えてるんだよ。ほんと、止せって」「じゃあ、悠斗が行くか?」悠斗は憤然として、「ふざけんなよ、俺には楓しかいないよ」慶介は、少し足を止め、悠斗の方をみて、微笑んで言う。「俺にだって美莉しかいないさ」美莉のことを語るいつもの慶介のままの、その柔らかい笑顔に、悠斗は幾分ほっとしながらも、戸惑いは解けないままで、「だから、、だったら、、何でだよ。二股かける気かよ・・?」慶介は心外そうに、「お前さ、ほんとに、俺が美莉以外の女に興味持ったりすると思ってんのか?」「思わね~よ。だから、何でだって」慶介は軽くため息をついて、言う。「んっとに、お前って、ニブイよな、悠斗」そういうとチラリを碓氷をみて、「碓氷さんが、なんで、、俺にあんなこと頼んだと思う?」悠斗も、同じように碓氷をチラリと見て、その表情に戸惑い、そして、その視線の先に蒼夜をみつけ、少し考える。そして、何かを思い当たったように、「・・・あ」「分かった?そういうことだよ。だから俺は蒼夜ちゃんに声をかける。碓氷さんの見てる、今、ここで」「・・・分かったよ。じゃあ、俺は、、」「そういうこと。早く碓氷さんとこに戻ってさ・・」2人はひそひそと相談した後、2手に分かれてまた歩き出した。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.20
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テツヤは、会場に入った。そこにはすでに着飾った多くの客。それでも、見回すまでもなく、スポットライトがあたったように、自然とそこに目がいく。視線の先には、・・・蒼夜。何十人いようと、何百人いようと、彼女がこの間とは全然違う雰囲気をまとっていようと、僕には、彼女がすぐに見つけられる。やっぱり、蒼夜は僕にとって特別な存在らしい。人影にまぎれながら、僕は蒼夜をじっとみつめる。膝丈のフレアの裾からパニエのレースを覗かせた、ブラックのベアトップワンピースを着た蒼夜。こういう場所には慣れないらしく、かすかに居心地悪そうに、それでも、口元にはかすかな微笑を絶やさずに。蒼夜の前に誰かが立って話しかける。隣に立つ男(オトコ?って、一瞬嫉妬したけれど、なんだ、ただの鈴田じゃないか)が蒼夜に耳打ちすると、正面に立つ男に、軽く頭を下げてにっこりと大きな笑みを向け言葉を交わし始める。それはただの社交辞令の笑顔のはずなのに。僕は、その笑顔を盗み見て、こんなに胸がときめいてしまう。まるで何も知らないガキの頃に戻ったみたいに。蒼夜は、若くて綺麗で、魅力的すぎる。。まだまだこれから、たくさんのすばらしいことが待っているはずで。僕みたいな、、おっさんに、、、なんて、考えること、図々しすぎるよな。碓氷は、蒼夜のために考えていた、最後の手段を思い出し、会場を見回す。・・でも、、急にそんな、格好の相手はいない、、か。、、と、隅の方に、広川悠斗と大場慶介がいるのが見えた。彼らは、二人とも、周りの人よりも、頭ひとつ分背が高いからよく目立つ。ああ、ああ、彼らみたいなのが、理想的なんだけどな。ルックスは申し分ない上に、人もいい。何よりそれぞれに彼女もめちゃくちゃ大切にしてるみたいだし。・・・って、、ダメじゃん。恋人いるんだったよな。。でも、ま、一応、だめ元で聞いてみるか。蒼夜が気に入ってたのは、、もしかしたら、ケースケかもしれないんだし。碓氷が近づいていくと、2人ほとんど同時に気づき、軽く頭をさげる。「碓氷さん、珍しいですね。」と慶介。「ほんとですよ。こういう席苦手じゃなかったでしたっけ?しかも、、、」と続けかけてやめる悠斗。はいはい、分かってるよ。しかも、あんな騒ぎの最中に。「あれは、ガセだからね。」と僕。いったいダレに言い訳してんだか。「ていうか、それも珍しくないすか?いつも、クールにノーコメントだったのに。あれ、てか、ということは、これまでのは全部、、?まじっすか?」1人盛り上がる悠斗をほうっておいて、慶介に聞く。「ケースケさ~、前に言ってた彼女とうまくいっちゃってるんだっけ?」「なんですか?」なんでそんなこと聞くのかといぶかる慶介。まあ、当たり前だよな。でも、彼が今フリーなら。。「いや、もしもケースケがフリーなら、ちょっと紹介したい子がいたんだ。」・・最後の手段。蒼夜に、アブナイ恋人探しやめさせるには、信頼できる人間に蒼夜を任せようと思ったんだ。慶介は、黙って碓氷の顔をじっとみつめた。そして言う。「へ~、どんな子ですか??気になりますね。ちょうど今、彼女とうまくいってなくって、別れたいと思ってたところなんですよ」←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.19
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会場につくとまず、碓氷は水野とともに千夜の楽屋にご機嫌伺いに向かう。・・もしかして蒼夜がいたら、、。碓氷は廊下のいたるところにおかれた姿見で自分を何度も確かめる。中学生みたいだな、、と苦笑する碓氷。「おい、何やってんだよ。いくぞ?」水野にせかされて、あわててついていく。軽く2度ノックすると、「はい」千夜の声が聞こえた。水野は、「俺」とだけ簡潔に言う。中から、「どうぞ。あいてるわ」その声に、水野は、ドアを開け、カーテンの向こうに入った。碓氷は、カーテンの手前で立ち止まる。「遅くなってごめんな。準備、、は大丈夫そうだな」「ええ。予定通りよ。それにしても、碓氷くんなんで、あんなに必死で」「それは本人に聞けよ、おい、テツヤ」水野が中からカーテンをあけて、促す。「おはよ~っす」軽く言って入ると、千夜は驚いた様子で、「どうして?」碓氷はさっと見回すが、千夜以外、誰もいない。・・・なんだ、、、いないのか。がっかりした様子を隠しながら、答える。「いや、たまには、、さ」あいまいに答えると、水野に小突かれる。「おい、ちゃんと謝るんだろ?」「あ、そうだ。今日は、なんか俺のせいでばたばた悪かった」ぼんやりと告げるテツヤはまた、水野に小突かれる。「あと?」「え~っと、今日はおめでとう・・」もう一度、小突かれそうになって、テツヤはやっと気を入れて、千夜の方を向いた。千夜は、きょとんとした顔で自分を見ていた。その目、顔、、やっぱり蒼夜によく似ている。千夜に恋しているわけではないのに、とたんに落ち着かなくなってしまう。「え~っと、その、、あの、久しぶり。今日はまた一段とお美しい」呆れ顔の水野と千夜。千夜は少し唇をまげて、微笑ともいえないものを浮かべてから言う。「それはどうも。ありがとう」「テツヤ、様子、おかしいぞ?」水野もいぶかしげにいう。テツヤは、何を言ってもしどろもどろになりそうで、目に付いたイスに腰掛ける。・・あぁあ、蒼夜、来てなかったんだ。ほんの少しでも期待した分、落ち込んだ。しかし、がっかり思うのもつかの間、千夜が、水野に小声で言うのが耳に入る。「・・今日は蒼夜が来てるのよ」「ええ?まぢで?なんでだよ。元気ないから来ないと思ってた」「元気ないからつれてきたのよ。少しは明るい気持ちになるかと思って」「そうか。。参ったな。今どこにいるんだ?」「会場の方に先に行かせたわ」こそこそ話す2人の言葉、聞き耳を立てていたけれど、テツヤは、あわてて立ち上がる。・・・蒼夜が来てるんだ。心が躍り上がる。・・・ここは、まずは追い返される前に帰るフリをしよう。「じゃあ、僕そろそろ失礼するよ」テツヤの言葉に、あからさまにほっとしたように、水野は、「ああ、そうか。そうか。そうしろそうしろ。誰かに送らせるよ」「いいよ。裏からタクシー呼んでもらうから」「そうか。じゃあ、気をつけて」「ああ、千夜、またな」「わざわざありがと。またね」テツヤがカーテンの外に出ると、また、2人は話し始めた。「・・蒼夜と話したのか?」「ええ。どうも、好きな人ができたみたいなの」「ほんとに?初恋?」「らしいけど、、うまくいきそうにないんだって」「あぁ、やっぱ、失恋なのか~」テツヤは後ろ手にそっとドアを閉める。蒼夜の、、初恋、、の、、失恋の、相手。。。あぁ、それが、、、、僕だったら。。って思うのは、甘すぎる幻想かな。もしもそうなら、蒼夜を元気にできるのは僕しかいないってことに。。それとも、、あれから、誰かに出会ったのかも。たまたま似た時期に。。蒼夜に対してはまったく自信が持てない僕には、そう考えるのが、まともに思える。でも、もちろん、このまま素直に帰るつもりなんて、なかった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.18
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「ん~、、」水野は何かを考えながら、着替え続ける。「いいだろ?すぐに帰るからさ」「・・・マスコミが騒ぐからなぁ」「入るときだけだろ?千夜姫の前ではあいつらも行儀よくしてるさ」千夜はマスコミに厳しい。行儀の悪いマスコミはどんどん締め出される。だから、外では騒いでも、千夜の目に付くところでは、僕にカメラを向けることもマイクを向けることもないだろう。なんといっても今日の主役は千夜なのだ。「そうだなぁ。。確かに、蒼夜も、、今日は、、、いつもより来ない確率が高いだろうなぁ」碓氷は水野のその声の響きに疑問を感じて、聞いてみる。「なんで?体調でも悪いのか?」水野はそんなことを聞くテツヤをおかしいとも感じないようで、少し考えながら答える。「いや~、ここ1ヶ月くらいかなあ、元気ないんだよ、蒼夜のやつ」「どうして?」「さあ、理由が分かれば励ましようもあるんだけどな」「ふ~ん・・」1ヶ月?僕とのことがあったから、、なのかな。・・内心めちゃ気になるけれど、あんまり突っ込んで聞くわけにも行かない。でも、本当に心配しているのか、水野は勝手に話を続ける。「それまではさあ、なんだかんだいっても、ハタチの女の子だからさ、それなりに、夜遊びとかもしててさ、夜中に千夜を送ってくと、その後に帰ってきたりしたもんだから、よく怒ってたんだよ、俺もさ、一応、そばにいる大人の1人として。ほら、父親もいないことだし」ふと思いついて、尋ねる。「水野も、知らないんだよな、蒼夜の父親」「知らないよ。千夜はぜったい言わないし。俺が・・・一番疑ったのはお前だけど」「僕は違うよ」「だろうな。そう言うと、千夜は鼻で笑うし、お前だって、そう言うし。お前がオレにこんな長くうそをつき続けられるとも思わない」「へ~、ふんふん、そうだろ?・・そうだよ。てか、で、蒼夜のことは?」何気なさを装いすぎて、何気に怪しい相槌をうち、話を促すテツヤ。水野は蒼夜の話に戻って、「1ヶ月くらい前かなあ。。それこそ、こっちが4時ごろかなあ、早朝ロケに出る頃になって帰ってきたことがあって、もちろん、そんときもオレは怒ろうと思ったんだけどさ、、なんていうか。、」「ん?」「怒れなかったんだよなあ」「なんで?」「なんか、様子が、、落ち込んだみたいな顔をしててさ。。今から思えば、あれは、、失恋でもした夜だったのかもしれないなあ」失恋・・?碓氷の心臓はドキドキとその鼓動を早め始める。1ヶ月前。。明け方って、、。失恋って、、、。まさか、、僕に?。。。まさか、、だろ?テツヤはあの夜の記憶の断片をかき集めてみるけれど、どうにも思い当たらない。あまりにも、あの日の記憶を再生しすぎたせいで、現実に起こったことなのか、募り続ける蒼夜への想いから、都合よく書き換えてしまったことなのか、区別がつかなくなっていた。「なんせ、その日から、あんまり夜遊びに行かなくなっちゃってさ」「いいことじゃないか」ほんと~に、いいことだよ。蒼夜。じゃあ、ダレとも寝てないのかな。僕の忠告を聞いて、、??「そのことはな」軽くいう水野に、、、ていうかさ~、と思い、碓氷は口をとがらせて言う。「ていうか、お前らさ、、お前と千夜」「なんだよ」「僕に散々、蒼夜には近づくなって言ってさ、なのに、なんでそんな夜遊び許すんだよ。ハタチだろ?ちゃんと見張ってろよ。僕に近づけない意味がないじゃないかっ」・・完全タッグで僕と蒼夜を引き離してきたんだから、だったら、ちゃんとずっと目を光らせててくれればよかったんだ。そうしたら、ろくでもないオトコどもが蒼夜に指一本触れることもなかったのに。つい熱くなってしまったテツヤに、水野はあっさりと、「何言ってんだ。お前はダメだよ」「なんで?」「お前だからだよ」「わかんね~」「お前ね、これまで散々女遊びしてきて、、わっかんないかなあ?」「何を?」「お前はね、魅力的なの。・・・もしも、、蒼夜が、、本気になったらかわいそうじゃないか」心に柚子が住み続けて来たのを水野は知っているから。千夜だって、僕が誰かを思い続けていることを見抜いていた。その上僕が続けてきた、女遊び。だから。か。だけど、、実際は、僕に会っても、蒼夜は、あっさりしたもんだった。僕に、、惹かれている様子なんて。。。水野は、テツヤが言い返さないのをみて、話を戻す。「だけど、夜遊びやめただけじゃないんだよな、とにかく元気ないっていうか。。いつ行っても、ぼーっとしてるし」「ぼーっと・・・」「ああ、ため息ばっかりで。そうだ。ほら、お前も出てたこの間の連ドラ、アレが見たいっていうから持ってったら、それば~っか見てんだよ。誰かのファンなのかね?」「誰かって」もしかして、、僕を見たくて?って甘い想像に浸りかけるのを水野がばっさりと切ってくれる。「あれに出てたっていったら、あれかなあ、大場くんくらいかなあ。蒼夜が興味持つとしたら年齢からいっても」大場。。。「ケースケか・・。たしかに、彼はいいけどね」やっぱり普通はそう考えるよな。まさか、僕、、なんてな。。だけど。。だけど、1ヶ月。。か。。もしか、、したら、、、、、、。1%くらいは期待してもいいのかな。。水野は、ネクタイを締めながらいう。「そんなわけだから、まあ、蒼夜は来てないだろ。元々ああいう場、好きなコじゃないんだからな。・・いいよ、お前も一緒に行くか?」「ああ」「服は?」あまりにも普段着のテツヤに言う。テツヤも自分で見下ろしてから、水野を見上げる。「もう一着ないのか?」水野はため息をついて、クローゼットを開けた。「好きなの選べよ」「サンキュ。お前がいいもん食べてる割にはサイズが変わんないおかげでこういうとき助かる」「微妙なほめ方すんなよ。なあ、」「何?」着替え始めながら、たずねるテツヤに、「分かってると思うけど、おとなしくしてるんだぞ」「分かってるよ。ったく人をガキみたいに」水野の言うように、蒼夜は、いつもどおり、いや、いつも以上に、来ないかもしれない。・・・だけど、、もしも来ていたら。そして、それが、もしも、もしも、僕に会うためなら、僕は、その機会を逃すわけには行かない。万に一つ、、以下の可能性だとしても。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.17
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入ってきた水野は、自分のイスに座る碓氷を形ばかりにらんでから、「あ~あ~、テツヤ~、ナ~ニしてんだよ、こんなとこでぼ~っと自分だけ、ったくさ~」とぼやきながら、来客用のソファセットに腰を下ろした。「ご苦労さん。悪いな、手間かけちゃってさ」碓氷が気楽な口調でねぎらう。水野はソファに座ったまま、両手を挙げて伸びをし、碓氷に目だけを向ける。「ほんとに、思ってんのかよ」「思ってるよ~。あれ?怒ってんの?」「いや、別に~」軽く否定する水野に、「だよな、このくらいのことじゃ、怒んないだろ?」「まあ、ガセならお前は別に悪くないんだし。たださぁ、お前がノーコメントで聞いてくれないから、バタバタさせられて、困ってるだけだよ。怒っちゃいない。千夜は怒ってるかもしれないけどな」碓氷は少し考えて、「いや~。千夜だって怒ってないだろ。きっと」水野は後を引き取り、「あきれてる、か?」碓氷はうなずいて、「きっとな」千夜の呆れ顔が目に浮かぶようで、二人は視線を交わし微笑む。水野は、冷蔵庫から水を出して飲みながら、「で、一体ダレなんだよ?」「何が?」「お前が、久々に、本気で、好きになった相手だよ」「なんだよそれ」水野のあまりに突然の問いに、テツヤはあわててとぼけようとするが、うまくいかない。「なんだよってことないだろ?そんな相手でもいなきゃ、こんなに躍起になって否定なんてしないだろ?」「・・さすが、親友。隠し事できね~な~。。」「感心してないで、言えよ。まさかと思うけど、ユウコちゃんに、再会したとか?」確かに水野はあの当時柚子に何度か会っている。だからって20年以上も前のことを、名前まで。物覚えのいい水野に内心驚きながらも、「まさか」「へ~、じゃあ、本当に新しい誰か、なのか。一体なんでまた?あれから誰にも本気になってなかったのに」「僕にだってわかんないさ。でも、もう、会ってすぐに、、好きになってたんだ」・・蒼夜。、、とそっと碓氷は思う。水野は少し考えて、「そうか、、で、相手は?」と尋ねた。「なんで聞くんだよ」心の中を見られたみたいで、ドキドキしながら聞き返す碓氷。水野は落ち着いて当たり前のように、「めったな相手じゃ困るからだよ。ばれたときに騒ぎになるなら、先に知っておきたい」・・・確かに、ばれたら大騒ぎになる相手だよ。でも。「大丈夫だよ、その心配はないさ」「どうして?」「見込みないんだ」「・・・片思いなのか?」「そういうこと」水野は、眉をしかめ、鼻でふっとだけ笑っていう。「お前らしくもない。・・・いや、らしすぎるか」女ったらしのパブリックイメージだけじゃなく(それはある意味事実だが)、1人の人を思い続けてきたテツヤを知っているから、水野にはそう思えた。だから、言う。「相当本気なんだな」「情けないくらいにね」「見込みもないのに、誤解されたく、ないわけだ」「ああ、相手は全然気にしていないとしても」そこで視線を絡めあう。しばらくお互いの目を眺めあった後で、水野は、軽く息を吐き出して言う。「分かったよ。もう聞かない」水野は、立ち上がり、コートラックに掛けてあったスーツのケースをあけ、きちんとプレスされたスーツを取り出し、自分の着けているネクタイを緩め、着替え始める。「あ、もう、行く時間か?」たずねる碓氷に、「まだちょっと早いけどな。いつまでも、お前の件の対応ばっかしてもキリがないから、早めに全員で逃げ出すわ。」「賢明なご決断で」茶化すテツヤに、「ああ、テツヤ、今日は1人で帰すわけにいかないから、送らせるわ。今夜くらいは家でおとなしくしててくれよ」言い渡す水野。碓氷は、「僕も行くよ」「はあ?」驚いて聞き返す水野に、「いいだろ?お詫びとお祝い、一言でいいから千夜に言わせてくれよ」水野はシャツを着替え、ボタンを留めながらいう。「ダメだよ。蒼夜がくるかもしれないって言ったろ?」「そんなこと言ってさ。きたタメシないんだろ?」千夜と水野はいつだって、くるかも、なんていってるけれど、事務所の人間の話だと、蒼夜は、そういう席にめったに顔をみせることはないとのことだった。・・・だけど、、もしも来ていたら。一目でも、いいから蒼夜の姿を見たい。・・未練がましい僕。碓氷は、水野に気づかれないようにそっとため息をついた。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.16
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・・・蒼夜。居場所がないので、1人、社長室に入り、革張りの大ぶりなチェアに座ったところで、碓氷はまた彼女を思ってしまっていた。あ~あ、1ヶ月なんてあっという間にたっちゃったよ。どうしてるかな、、蒼夜。僕のこと、少しでも思い出してくれてたりするかなあ。。。・・・望み薄、、だよな。ため息をつきながら思うのは、とにかく何よりも気になっていること。僕の忠告は聞いてくれそうになかったアノコト。まさか、本当に、また、ろくでもないオトコ(たち)に、体を。。。あの夜、自分を夢中にさせた蒼夜。そのカラダ、なめらかなハダ、そして、あのコエ。すべてを一瞬に思い出し、それが今、誰かの腕の中にあるかもしれないと考えるだけで。。。くそっ。いてもたってもいられなくなる。思わず意味もなく立ち上がってしまう。部屋の中をうろうろと歩き回ってしまう。・・・蒼夜のアブナイ恋人探し、なんとか、やめさせる方法。僕なりに、考えてはみたんだけれど。最初に思いついたのは、千夜にチクること。で、やめるように言わせる。・・・ボクは小学生かよっ。大体、千夜になんで蒼夜がそんなことしてるの知ってるか聞かれたらなんて答えるんだよ。で、却下。何度も心に浮かぶのは、やっぱり、、僕が。。あぁ、僕のものにできたら。僕の方を向いてくれたら。もう一度、彼女を抱くことができたら。・・・絶対に、離さないのにな。だけど、きっと、、蒼夜は僕のことなんて、眼中にないだろう。だから、、つまり、、これは、、却下というよりは、、、不可能、、なん、、だよな。碓氷は、もう一度、力なく、チェアに腰をおろして、背もたれにもたれ、天井を仰ぐ。ということは、、やっぱり、最後の手段は、、、そう思ったところで、ドアが開いた。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.15
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「もちろんよ。気持ちよかったってことにおいても、あなたを授かったってことにおいても、ね」そういって、何かを思い出すような表情になった千夜は、そこで、初めて気がついたようにたずねる。「・・・そうか」「なあに?」「蒼夜、あなた、好きな人ができたのね?」蒼夜は驚いたように、「どうして?」千夜はそれには答えず、「好きな人できたんでしょ?・・しかも、、もう寝た?」なんと言っても恋多き母だ。そんなことも、オープンに受け入れてくれるはずだから、蒼夜は、否定はしない。「うん、まあ。。」「どう?最高だった?」だからって、ここまで、聞かれるのは、、、だけど、まあ、今度も、蒼夜は、否定はしない。「・・多分」「すごいじゃない。あ~、蒼夜、念願の初恋でしょ?相手はダレ?どんな人なの?私も知ってる人?」興奮してまくしたてる母に圧倒されながら、蒼夜は淡々と答える。「お母さんも知ってる人、だけど、教えないよ」「どうして~?」「相手にだって伝えてないんだもの。先に他の人間になんて、、いくら母親でも、言えないわ」同じ言い方で切り返され、千夜は、にっこり笑ってから、「本気なんだ」「・・・うん」・・大声で言いたいくらい、本気だよ。でも。。表情を曇らせた蒼夜に、千夜は、「脈なしなの?」蒼夜は、小さくうなずいて、「たぶん、、、ダメ」「え~、、ヤリ逃げ?」・・お母さん、その言い方。。突っ込みすら入れられない蒼夜。「一体ダレなの?そいつ、こーんなかわいい蒼夜抱いといて、よく手放せるわね」千夜は、蒼夜の頭を抱き寄せて言う。「・・・私になんて本気になってくれるわけないって分かってて抱かれたんだもん」ポツリという蒼夜。千夜は蒼夜の頭を抱きかかえたまま、顔を覗き込み、「そんな、、それで、あなたは、忘れられるの?」「・・無理かも」「だったら、ちゃんと伝えてみなさいよ。本当の気持ち」蒼夜はあきれて、「よく言うわね、お母さんが」「だって伝えてみなくちゃわかんないじゃない」「分かるの」言い切る蒼夜に、「どうして?」「好きな人がいるんだって。もうその人には会えないらしいけど、もう誰も愛することはないだろうって」千夜は少し黙って、その言葉の意味をはかってから、「何よ、それ。昔の失恋を引きずってるってコト?」「引きずって、、って、もう少しキレイな言い方ないの?」「キレイもキタナイも、、、ともかく、未練たらたらってことでしょ?」「未練、、、。あのね、とにかくね、忘れられないんだって」千夜は、蒼夜の頭をポンポンとたたいて、「そよ~、あなたねぇ」「なあに?」「そーんな、昔の女の影におびえててどうすんのよ」「そういうわけじゃ、、」「いーや、おびえてるわよ。情けない。あなたそれでも私の娘?」「あのねぇ、いくら娘でもお母さんとは違うもの。お母さんみたいに自信満々には生きられないわよ」千夜はとりあわず、「昔の思い出だけ抱えて生きるなんて、その彼にとっても幸せだとはいえないわ。だから、、」千夜は、そこでいったん言葉を切り、またにっこりと笑ってから、「いいこと?絶対に、モノにしなさい。とにかくちゃんと気持ちを伝えないと始まらないわ。ね?お母さんも断然応援しちゃうから」・・・相手が誰かを知っても、、そんなこと言ってくれるのかなあ・・?ぼんやりそんなこと思う蒼夜に千夜は、「返事は?」追い討ちを掛ける。蒼夜はあわてて、「今日、、きてたらね」と答えてしまった。いけない、、と思ったけれど、千夜はしっかりと耳にしていて、「なんなの?今日のパーティに顔を出しそうな人なわけ?え~~~っ?」「あ、っと、、来るかどうかは・・・」ぼそぼそといいかける蒼夜のこと、千夜はもう、聞いていない。「ダレだろ~~??う~ん、とにかく、分かった、今日はとびきり綺麗に仕上げさせるわ、蒼夜のこと。大切な蒼夜の初恋、片思いなんかで終わらせてたまるもんですか。あ~、どのドレスがいいかしら」張り切る千夜をみながら、蒼夜はくすっと笑う。「なあに?」「だって、お母さん」おかしそうに言う蒼夜に、「なによ」「今日はお母さんが主役でしょ~?」「そんなことよりも大切なことよ、これは」真顔で言う母に。「もう、勝手に盛り上がらないでよ。ほんとに、その人が来る可能性も、ほとんどないし、私を選んでくれる可能性も、もっとないんだから」「またそんなこといってる。この子は。どんな相手なのかしら、蒼夜がそんなにも自信持てない相手、なんて」蒼夜は、小さく笑って、「多分、分からないと思うよ。私がお父さんを分からないのと一緒で」千夜もふふ、と受けて、「今日はお互いに、お互いの相手ずっと探しちゃいそうよね」楽しそうに話す母に気づかれないように、蒼夜は心の中で小さくため息をついた。・・・碓氷くん、、来るかなぁ。。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.14
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・・・碓氷くんに、、会えるかも知れない。なぜか、蒼夜はそう思ってしまっていた。碓氷くんの中では、私のことは完全に終わった話だとしても、パーティにはめったに顔を出さない人だとしても、まして、あんな騒ぎの真っ只中だとしても、それでも。そんな1%未満の可能性にもかけてしまう、未練がましい私。だけど、もしも、、来てくれていたら。。あの夜以来、初めての碓氷のゴシップだった。記事を見た瞬間は、目の前が真っ暗になったけど。だけど、否定しているなら。私がくるかも、と知ってても、パーティに来てくれるなら。1%は、希望に変わるかもしれない。そんなこと考える自分に、あきれながらも、消しきれずにいた碓氷への想いがどんどん膨らんでいく。勝手な妄想でもかまわない。ただ失望するだけでもかまわない。彼にだったら、何度失恋してもいい、、、「・・・蒼夜?」車の後部座席で隣に座った母に声をかけられ、我に返る。「え?」「何、考えてるの?」「ううん。別に。。」心配そうにたずねる千夜に、ふと思い出して尋ねる。「ねえ、お母さん」「ん?」「お父さんのことなんだけど」「ま~たその話?」「その人って、私のことは・・」千夜は後を引き取って言う。「あなたのことはもちろんよく知ってるわ。でも、自分の子供だってことは知らない」あっさりと言われてしまっては、「ふ~ん」というしかない。「あと、もうひとつだけ。」「なあに?」「その人とのHが最高のHだったの?」千夜は、ふふ、と笑ってから答える。「もちろんよ。気持ちよかったってことにおいても、あなたを授かったってことにおいても、ね」←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.13
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「気のない返事ねぇ」と千夜は蒼夜に一応つっこみをいれてから、鈴田にたずねる。「どう?少しは落ち着いたのかしら、例の件」「そうですね。今回は、碓氷さんがとにかく必死になって否定してるんで、対応が混乱してしまって」「らしいわね。ほんと珍しいわ」「そうなんですよ。いつものように、事務所としてはノーコメントで通したいんですが、碓氷さんがそれじゃ納得できないっていって」「いつも通りほうっておけばいいのに。これまでだって、ホントでもガセでもノーコメントでとうして来たじゃない。どうしてわざわざ今回に限って」「そこがわかんないんですよね」「変ねぇ。まったく碓氷くんらしくない」千夜は首をかしげながらいう。「でも、まあ、あそこまで言うんだから、今回はとにかくガセなんでしょう。相手の売名ですよ」「たしかに、まあ、手っ取り早いもんね。才能だけで勝負できない程度のコなんでしょ」千夜はばっさり言い放つが、そこで、「ガセ・・・?本当に?」突然、口を挟んできた蒼夜に鈴田は戸惑う。「・・ええ、と思いますが。事実なら、碓氷さんは否定したりしませんよ」そう答えた後も、蒼夜の視線が逸れないことに、少し居心地の悪さを感じて、鈴田は千夜にたずねる。「え~っと、千夜さん、それでご準備の方は?」「とっくに完了よ。ねえ、事務所のみんなはパーティには間に合うかしら?」「それはもちろんそれまでには切り上げるつもりだって、社長はおっしゃっていました」「碓氷くんは、、来ないわよね?」「ああ、この騒ぎですからねぇ、さすがに、、もともとパーティにはめったに顔出されませんし。あぁ、それに、蒼夜さんがくるかも知れないから、来ないようにな、なんて、社長がおっしゃっていたような」千夜は、鈴田にうなずくと、またぼんやりしている蒼夜に、「ねえ、蒼夜、ああいう場所が好きじゃないの分かってるけれど、あなたも来ない?そんな気の抜けた顔してないで、たまには付き合ってよ。今日はお祝いなんだから。ちょっとは華やいだ気分になれると思うわ。のんびりなんてねぇ、あなた、おばあさんになってからにしなさい」いつもなら、断る誘いだった。でも、蒼夜は、うなずいた。「いいよ」「ほんとに?」思いがけない蒼夜の返事に、千夜は嬉しそうに、立ち上がる。蒼夜は、母のそんな無邪気な一面に、小さく微笑んで、「お母さんのお祝いだもんね。それでお母さんが嬉しいなら。」千夜はにっこり笑って、「嬉しいわよ。紹介したい人もたくさんいるし。じゃあ、気が変わらないうちに、すぐ行きましょ。鈴田君行くわよ」と鈴田に声をかける。「分かりました。では車でお待ちしてます。」「待ってよ、こんな格好でいけないよ」キャミとジーンズ姿の自分を見下ろすして言う。千夜は、笑って、「いいのよ、それで。私も向こうに着いてから着替えるんだから。サイズ一緒だから、私のを着ればいいのよ。あなたに似合うのもあると思うわ」「ん~。。。派手じゃない?」「パーティなのよ。派手じゃないほうが浮くわ。ね?さ、行きましょ」押し問答も面倒で、蒼夜は言われるがままに立ち上がった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.12
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「水野くんも、なんとか始まるまでには駆けつけるって言ってたけど。ほんっとに、お盛んよね、碓氷くんってば。・・・蒼夜?」「え?」表情をなくしている蒼夜に気づき訝しげに、千夜は、「どうしたの?そんなに驚くこと?毎度のことじゃない」「・・・ううん。ただ、今度はまた随分若い人だなって思って。」蒼夜は、首を振り、そっと新聞を母に返す。詳しく目を通す気にもなれない。「そうよねぇ。もう彼のスキャンダルなんて、当たり前すぎて。ただ、今回はちょ~っと相手が若すぎるってことだから、この騒ぎよ。碓氷くんは珍しく否定してるらしいけど、ダレもそんなこと聞きゃしないわよねぇ。それにしてもハタチって言ったら蒼夜と同じじゃない。こわいこわい。ほんっと蒼夜に近づけなくてよかった。」という千夜に、蒼夜は何とか微笑んで力なく相槌を打つ。と、そこに、「おはようございます。」きちんとスーツを着た鈴田が入ってきた。「おはよう。」涼しげに答える千夜。こちらを向き目礼をする鈴田に、蒼夜も目礼を返す。「今日はよろしくお願いします。」「よろしく。ごめんね、急に」「とんでもない。僕みたいな新米をご指名いただいたそうで光栄です。」「ふふ。だって、あなた以外ろくな人いないんだもん。うちの事務所」ひどいことを平気で言う千夜に、鈴田はあわてて、「そんなことないですよ。皆さんとても有能な方です」千夜は笑って、「それは仕事のことでしょ?私が今言ってるのは見た目の話」「見た目?」「そうよ。あなた、仕事もできるけど、顔もいいからね~。ね、蒼夜もそう思うでしょ?」蒼夜は、ソファにもたれて全然聞いていない様子。「そ~よ?」千夜はもう一度名前を呼ぶ。蒼夜は千夜のほうを向いて、「え?なにか言った?」「鈴田君、男前でしょ?って言ったの」蒼夜は問われるがままに視線を鈴田に移し、うなずく。「ええ、そうね」・・そんなことどうだっていいよ。。蒼夜は、鈴田の顔をぼんやりみつめて思う。鈴田君はまだ、25歳くらい、かな?少なくとも私のお父さんでは、ないわね。そんなことより、碓氷くん。。あぁ、もう次の人なんて。。ほんとに、私のことなんて、ただの一夜のことだったんだな。。・・哀しい。ほんというと、私のこと、本気で心配してくれた様子、何度も思い出してた。真剣に、呼び止めようとしてくれた呼び声。「蒼夜!」って。もしかしたら、、ちょっとは私のこと、、なんて、思ったりして、往生際悪く、あきらめ切れなかった私。やっぱり、ただの妄想だったんだ。彼の大切な人は、やっぱり、もう決まってて。でもさ、私のすぐ後がさ、また、20歳てさ。。妬けるとかいう以前に、もう、呆然としてる。でも、救いは、、、ある。それは、きっと、彼女のことだって、遊びなこと。・・・こんなこと、救いに感じるなんて、私、相当参ってるよね。。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.11
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蒼夜は、開いていた口をひとまず閉じてから、母をみつめ、もう一度口を開く。「・・ゴメンなさい。でも、、ええええ~~~っ!今も??ほんとに??」「ええ。私が愛してるのは、後にも先にも、その人だけなの」悠然と言う母に、「お母さんが。。。?」「何よ、私が一途だったらいけない?」「そんなこと、言ってないでしょ。ねえ、ダレなの??教えてよ」「ノーコメント」蒼夜はため息をつき、「もう。なんで隠すのよ」「相手にだって伝えてないんだもの。先に他の人間になんて、、いくら娘でも、言えないわ」「伝えてない、、て、、、でも、、寝たんでしょう?」でなければ、私は存在しない。「そうよ。昔の話だけど。」昔って、そりゃそうよ。私がハタチなんだから。と、蒼夜は思う。「でも、、相手は全然お母さんの気持ち知らないの?」「知らないでしょうね」「どうして、、どうして言わないの・・?不倫とか、、そういうこと?」「相手だって独身よ」「じゃあ、なんで??全然脈なしなの?お母さんなのに?」「まさかでしょ。相手の方が、私に夢中なはずよ」「じゃあなんで??」「だって、向こうから言わないんだもの」「って。。」そうだった。。母のこの性格。ため息をつき、蒼夜は言う。「そんなこと。好きなら好きっていえばいいでしょ?」「私から告白しろっていうの?冗談じゃないわよ。」千夜は続けて、「これまで何度もチャンスをあげたのに、もちろん、蒼夜を身ごもったときが最大のチャンスだったけれど、ぜんっぜん愛してるっていわないのよ、アイツ」「アイツ。。って・・・今その人は、、?」「今は、寝てないわよ。そういう関係じゃないの」「ちょっと待って、でも、今も、お母さんの周りにいる人なの?」「そうよ。結構限定されてきた?」まるでクイズを楽しむようにいう千夜。蒼夜は少し考えてみて首を振る。年は、40歳以上で限定されるだろうけど。。お母さんの周りにいて、、40歳以上の男の人、てか、オジサンたち、一瞬で山ほど思いつく。「・・全然。いっぱいいるじゃない、男の人」「まあね」「・・・どの人かは、、教えてくれないんだ。」「まだ、ね。」「いつかは教えてくれるの?」「いつか、ね。」このことに関しては経験上、食い下がっても同じこと、よく分かっているからもうそれ以上蒼夜は聞かない。「ねえ、、もうひとつ聞いてい?」「なあに?」「そんなに愛してる人がいるのに、、、どうして、他の人と・・」母だって碓氷ほどではないが、数々の恋愛話で、十分、ワイドショーに話題を振りまいてきた人だ。「愛じゃなくても、恋はできるわよ」「・・・」・・フカイのか、カルイのか。。母の言葉に考え込んで、黙る蒼夜に、「ねえ、蒼夜、あなた、私の最初の質問にまだ答えていないわよ」千夜はたずねる。その言葉にまた、自分が失恋したばかりなことを思い出す。「どうもしないわよ。ちょっとのんびりしたいだけ。いけない?」「のんびり、、ねぇ。。」そのときインターホンがなった。「あ、きっと鈴田君だわ、蒼夜、入ってもらって。」蒼夜は立っていきインターホンに答え、ボタンを押して解錠してから、ソファに戻る。「・・なんで?水野君じゃないの?こんな大切な日に。」今日は、千夜が某映画賞を受賞したことを祝うパーティが予定されていた。報道陣もたくさん来る。いつも通り、社長(とは名ばかりだが)の水野が付き添わないなんて考えられない。「そうなのよ、こんな大切な日に、こんなくだらない用事で、大わらわなの、水野くんは。」千夜は少し眉をよせて、サイドテーブルに載っていたスポーツ新聞を蒼夜に手渡す。見出しには碓氷の大きな名前。20歳の新人女優とのスキャンダルだった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.10
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あれから1ヶ月。自分の部屋のベッドの上で、何千回目かのため息をつく蒼夜。・・・はぁ。。何してもつまんないな。碓氷との一夜の後、心にぽっかり開いた穴を覗き込んでは、失恋しちゃったんだな。。私。と繰り返し思う。失恋を紛らす方法として雑誌で紹介されていたこと、全部やってみた。思いっきり泣く。旅行に出る。いっぱいショッピングする。好きなものを食べまくる。カラオケで失恋ソングをいっぱい歌う。・・全然効果ないじゃん。あ、全部じゃないや。ひとつはできてない。「新しい恋をする」。って、できないよっ。そんなこと簡単に言わないでよね、と雑誌相手に毒づく。あああ、全然忘れられない。やっぱり、、だめ元でも、、ちゃんと気持ち伝えればよかった。なんとか、もう一度会って、気持ち伝えたいな。でも、きっと断られるから同じか。。うぅ。なんて考えてると、暗い。もやもやとベッドでゴロゴロしていると、時折、呟いてしまう。「碓氷くぅん・・」なんでなんでもう彼には愛してる人がいるんだろ。哀しい。その人と出会う前に私に会ってたら、違ったかなあ、なんて思っても、自分が生まれる前の話じゃ、どうしようもない以上にどうしようもない。「碓氷くん・・・」あきらめと、それ以上にあきらめきれない気持ちを込めてポツリと声に出す蒼夜。そのとき、返事をするように鳴る、ケータイのメール着信音。一瞬ドキッとしたけれど、母からだ。千夜→蒼夜:起きてるの~?起きてたら降りてきて。はいはい。は~ぁ。。蒼夜は何千1回目かのため息をついて、起き上がる。階下に下り、リビングに入ると、もう出かける用意をすませたらしい母がソファにいた。「蒼夜。どうかしたの?」「なあにそれ。自分で呼んでおいて」ソファの向かいに座り、あきれたように言う蒼夜に、千夜は、「違うわよ。最近、どうしたの?ってこと。」「・・・」「ここのとこ元気ないみたいね。水野君も、様子がおかしいって心配してたわよ。何かあった?」「へ~。お母さんでもそういうの気にしてくれるんだ。」「当たり前でしょ。母親なのよ。」「・・母親ねえ。。」いつも生き生きと、いつまでも若々しい女優、千夜。生活臭はまったく感じられない人。蒼夜の納得していないような言い方に、千夜は言う。「そりゃ、母親らしいことは何一つできなかったかもしれないけど、あなたのこと愛してるわよ。だから、心配くらいするわ。」「・・愛してる?」そのフレーズに反応する蒼夜に、「分かってるでしょ?」しっかりと見つめ、諭すように言う千夜。蒼夜は少し考え、「・・そうね。確かに。ちゃんと愛されてきたと思うわ。」満足そうにうなずく千夜。蒼夜はふと思いついて尋ねる。「てことは、やっぱり私はお母さんが愛してた人との子供ってこと?」「う~ん。。愛してたっていうのは・・」即肯定しない母に、蒼夜は、「え~??愛してもなかった人との子供なの??ショック~~」大げさに反応する。だから、、私も人、愛せなかったの?なんて、思ってしまう蒼夜。千夜は笑って、「違うわよ。最後までちゃんと聞きなさい」「?」「愛してた、、っていうのは違うわ。だって過去形だもの」「・・?過去形だから違うって、どういう意味?」「今も現在進行形よ。私の中では。愛してる人だもの」「へ?」口がぽかんとする。千夜は眉を寄せ言う。「そういう間抜けなリアクションするのよしなさい」←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.09
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「サヨナラ」小さな声で囁いた後、蒼夜は出て行った。テツヤは空白の部屋にひとり残され思う。・・・蒼夜。名前を胸に思うだけで、心が震える。『忘れられないたった一人の人』、が、自分の元を去った後、こんな気持ちになれたことはなかった。ただ、その彼女と出会う前の自分に、いやそれ以上、女にだらしのない自分になって、何人もの女と愛のない交わりをつづけてきただけだった。もう、誰も愛せないと、愛せるはずがないと思っていたから。・・・でも。今、ここにこうして感じている、蒼夜への思いは、間違いなく『愛』だ。・・・不思議なものだな。もう愛なんて探そうとはしなかった僕の中の何かを、愛を探すために必死だった蒼夜が震わせたんだ。僕の、普段は固く閉じられている心が、少しだけ隙間を空ける、あの場所で出会ったから。そう、22年前、柚子と出会った、あの場所、だったから。・・・ユウコ。その名前を強く思う。去った理由も、その後どうしているのかも分からない、きっと、、2度と会えないはずの彼女。なあ、ユウコ。どんなにスれきった僕でも、、君への思いを忘れることはできなかった。ただ1度、心底真剣に愛した思い。君への思いを心の特等席にずっと置いてきたんだ。この22年間。こんな風に2度と会えないことをちゃんと分かっていても。でも。いや、だからこそ、僕はまた人を愛してしまったみたいだよ。君への思いと同じくらい熱く、、きっと深く。ただ、また、僕はつかみ損ねてしまったようだ。君と同じように。そんなことまで同じでなくてもいいのにな。これまでの僕、千夜、マスコミ、、、そして何より年齢差。碓氷はやるせなく、一人、首を振る。・・・どう考えても、無理だ、、よ、な。だけど、絶対に、あの危ない『恋人探し』だけはやめさせないと。そのためには、、、。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.08
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タクシーに乗り、行き先を告げ、シートに力なくもたれて、蒼夜は、深く息をついた。・・・もう、これで、きっと、、、会うこともないんだ。目を閉じ、そのことを思い知る。胸の中が空っぽになってしまったような気がする。これまで、適当に寝てきた相手とは、、終わった後の気持ちも、やっぱり全然違うのね。・・・当たり前か。そう思って自嘲気味に微笑む。・・・碓氷くん。まだ、自分の髪に、体に、残る感触。だけど、その感触は、もう2度と現実化することはないんだ。こんなに濃厚な記憶も感触も、もう消えていくだけ。『碓氷哲哉には近づくな』蒼夜は、もう一度母の言葉を思う。母が私にずっと言ってきた言葉。こんな風に破ってしまったけれど。。ある意味では、母は正しかった。近づくべきではなかったんだ。小学校の頃から、トモダチはみんな好きな人のことで騒いでいた。中学になると、カップルになってデートを楽しんでいた。高校になれば、旅行にまで行くようになった。誰も好きになることなく生きてきた自分がとても孤独に思えた。だから、ずっとずっと愛せる人を探してきた。無謀なやり方まで使って。必死で。ずっとずっと焦がれていた人を愛するという感情。そして、たった一人の人。ちゃんと分かったのに、気づいたのに、この気持ちはどこにもいけなくて。すべてはあっという間にたった数時間で過ぎ去ってしまった。・・・あっけないものだな。起こってしまえば、こんなにあっけなく過ぎてしまうんだ。車窓から月を見上げながらぽつりと思う。初恋と生涯の恋と失恋を、一晩で体験してしまった私。・・・これから、、どうしたらいいんだろう。『碓氷哲哉には近づくな』自由に生きてきた自分を縛るものはこの言葉だけだった。その言葉から、自分を解放してしまった今。蒼夜は、ますます孤独だった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.07
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碓氷はため息をついて言う。「・・何度も言うけど、危険すぎる」蒼夜は服を着終え、もう一度、髪を整えながら言う。「気をつけるわ」「思いがけない落とし穴がたくさんあるんだ」「分かってるって」「もっと自分を大切にしなさい」・・・大切にするべきだよ、蒼夜。君みたいな子が、、そんな生き方もったいなすぎる。・・・もう、どうでも、、いいわ。碓氷くんといられないなら。これまでも、そして、これからも。蒼夜は、碓氷の自分を心配する優しい言葉に、心を満たされながらも強がるしかない。「ありがと。でも、できれば・・・寝る前に聞きたかったわ」ニッコリ微笑んで告げる蒼夜に、「・・・キツイな」「あ、一応凹んだりするのね?ナイーブ~」茶化す蒼夜に、「・・なあ、僕でよかったら、いつでも抱いてあげるよ?」・・・こんな言い方でしか君への愛情を伝えられないなんて。蒼夜はあきれた様子で、「あのね~。私は別にただ快感を求めてるわけじゃないのよ?愛せる人を探してるの。碓氷くんとは目的が全然違うの~」・・・とても魅力的な誘いだけど、乗るわけにはいかない。私、、、ボロボロになっちゃうよ。あなたを愛してしまってるのに。「傷つくなぁ」と、凹む碓氷を励ますように、「でも、本当に気持ちよかったわ。さすが上手よね」「それなりに経験つんでますから」蒼夜はただポツリと繰り返す。「それなりに」碓氷もうなずく。「それなりに」蒼夜は、吹っ切ったように言う。「・・・私も、追いつこっと」バッグを持ちドアに向かう蒼夜。「蒼夜!」碓氷の切迫した声が、背を向けた蒼夜を追いかける。足を止め、目を閉じる蒼夜。あぁ、そこに愛がこもっているなら、と思う。でも、、ただの、心配、なんだよね。優しい人。だけど、あなたへの気持ち、隠すためには、もう、強がってみるしかない。背中のまま、囁くように告げる。「さよなら」蒼夜は静かにドアを出た。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.06
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「・・羨ましいわ」そう呟いたきり黙ってしまった蒼夜に碓氷は言う。「でも、気持ちよかったろ?好きな人、じゃなくても」(・・・僕は君の事好き、、みたいなんだけどね。)「すっごく、、よかった」(・・・だって、、あなたは私の好きな人、なんだもん。)顔をあげ、にっこりと満足そうに言う蒼夜に、碓氷はほっとし、「だろ?、、じゃあ、約束どおり・・」しかし、蒼夜は、念を押しかける碓氷からさっと離れ、ベッドから抜け出し、「約束?って。。なんのことだっけ??」ととぼける。碓氷も起き上がり、「おい、最高だったら、もう誰彼かまわず寝るのはやめるっていったじゃないか」「・・・」一つ一つ衣類を身につけながら、答えようとしない蒼夜に、焦れ、碓氷は言う。「なあ、約束したろ?」「ん~。。でも、、、最高かどうかはわかんないじゃない?とってもよかったけど」(・・・最高なこと分かってる。碓氷くんじゃなきゃって分かってる。でも、碓氷くんは私のものにはならないんだもん。)「おい。そりゃないよ。それじゃあ一体、なんのために君を抱いたんだか。。」蒼夜は、髪に手櫛を通し簡単にまとめ、少し考えるフリをしてから、「Hが気持ちいいもんだって教えてくれるため、、かな?」「勘弁してくれよ。」苦る碓氷に、微笑む蒼夜。碓氷は力なくたずねる。「じゃあ、まだまだ誰かと寝るつもりなの?」「もちろん。愛せる人を、、探さなきゃ」(・・・きっと、あなたなんだけど。もう、他に、見つかるはずないんだけど。)←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.04
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いつまでもこうしていたい。ずっとずっとこうして肌を重ねあっていたい。大好きだって言えたら。自分のものにできたら。息を切らせながら思っている2人。しかし、深く息をつき、少しずつ呼吸が整うにつれ、横におしやっていたモノが見えてくる。(碓氷くんには、忘れられない人がいる。私を見てはくれないんだ。彼を惹きつけられるモノも何も持ってはいない)(蒼夜はまだハタチ。僕になんて興味はもたないだろう。まして千夜の子なんだぞ。強引に迫るわけにもいかない)お互いに、お互いにとって必要なのは自分ではないのだと、思い込んでいく2人。同じように深呼吸をしながら、同じようにふっと、ため息を紛れ込ませる。(忘れられない一夜を十分楽しんだんだ。そろそろ別れの準備をしなくては)最初に口を開いたのは、蒼夜だった。「お母さんが・・」母の話をすれば、冷静になれる、と蒼夜は思った。放任というよりは、ほったらかし主義で育てられた私に、ただひとつ母親として忠告をしてくれたのが、『碓氷哲哉には近づくな』ってことだけだったんだ。「ん?・・・千夜が・・?」自分の裸の胸の上に頭を載せ、眠っていると思っていた蒼夜がポツリとつぶやいた言葉に反応する碓氷。「うん。・・絶対に、碓氷くんには近づいちゃダメって言ってたの」「そういってたね」碓氷は蒼夜の長い髪を指に絡めながら話の先を待つ。髪に触れる優しい指にまたうっとりしてしまい、冷静でなどいられなくなる蒼夜は、つい、「でも、結局こうなっちゃった。・・・何か運命みたいなものあるのかしら?」口にしてしまう。冗談のようにたずねたが、心の底には切なる願いが。(『ある』って言ってくれたら・・・、大好きって言ってしまいたい。)(『ある』って言ったら・・・、僕のものになってくれる?)なんて続けてしまいそうで、「さあ、どうだろ?」碓氷も軽く受け流すしかなかった。(どうだろ?。。か。。やっぱり、、見込みなし)がっかりする気持ちを抑え付けて、「なにそれ~??嘘でもいいから(ほんとに嘘でもいいから)、あるかも、くらい言えないの??冷たいのね~?」軽く受ける蒼夜。「そうかな」「そうよ。・・でも、仕方ないね。碓氷くんには、とっくにいるんだもんね。忘れられない、たった一人の人が」「・・・」「否定しないのね」碓氷は最初の目的を思い出す。愛してない相手でも気持ちいいHはあるってこと。それを理解させることで、蒼夜の体から入ろうとする無謀な恋人探しをやめさせること。そのためには、自分には他に思っている人がいることを、自分は蒼夜を好きでも何でもないことを強調しなくては。「・・できないな。忘れられない、たった一人の人がいるよ。大切な。」蒼夜は、絶望的な気持ちで目を閉じる。そして、小さくつぶやく。「・・羨ましいわ」碓氷には、「愛する人がいることが」、と聞こえるだろう。蒼夜がうらやんでいるのは、「その人が」、なのだけれど。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.07.02
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カンジる場所をひとつひとつ丁寧になぞられ、蒼夜は快感の波に飲み込まれていた。・・・心を惹かれている人に抱かれるのって、こんなに気持ちいいんだ。今まで同じようなことされてきたのに、全然気持ちよくなかったのに。『好きな人とのHって最高なのよ』母の言ってたことは間違いではなかったと知る蒼夜。少しずつ激しさを増す碓氷の動きにただ体をゆだねる。何度も何度も絶頂感を味わわされ、・・・もう、何も考えられない。「碓氷く、、ぅん・・」(大好き。)つい言ってしまいそうになる言葉を必死で飲み込む代わりに、名前だけをそっと声に出し、蒼夜は、細い腕を碓氷の体に巻きつけ、しがみつく。・・・もっともっと、シテホシイ。耳元で優しく何度も名前を囁きながら、碓氷は可愛い声をあげる蒼夜の素直な反応に戸惑っていた。・・・全然気持ちよかったことないって言ってなかったけ?まだ特別なことしてるわけじゃないのに、こんなにも感じられる子が。。?いったいこれまでのやつらはどんなHしてきたわけ?そう思った瞬間、激しい嫉妬が心を支配する。・・・ろくでもない男たちがこの体を抱いてきたんだ。その嫉妬の激しさに、碓氷は自分が確実に蒼夜に惹かれていることを思い知る。千夜の手前、ただ、蒼夜だけをイかせるつもりだったけど。「碓氷く、、ぅん・・」名前を呼ばれることで、どこかいけないスイッチが入ってしまう。「蒼夜」(大好きだよ。)つい囁いてしまいそうになる言葉を必死で押さえ込む代わりに、また名前を呼び、碓氷は、すでに何度もイって十分準備の整っている蒼夜の中に入っていく。・・・もっともっと、イかせてあげるよ。相手に確実に引かれていることを理解しながら、それでも、決してそれを相手に気取られないように隠しながら、体は確実につながり、反応していく。今こうして抱かれている間だけは・・、今こうして抱いている間だけは・・、碓氷くんは・・、蒼夜は・・、私だけの・・、俺だけの・・、モノなんだ。そう、その後のことは終わった後で考えればいい。「碓氷くん」「蒼夜」何度も名前を呼び合いながら、何度も求め合う二人をとどめるものは今は何もない。今は。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.06.30
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「お待たせ」シャワーから出てきた碓氷は、ソファに座った蒼夜に声をかけた。「全然」あっけらかんとした口調で答える蒼夜。・・・うまく、いくよね?心の中では自分に問いかけながら。「なんか飲む?」冷蔵庫を開けながら言う碓氷に、「私はいいわ」ただ、そっけなく返す。期待と不安に壊れそうな胸を抱えながら。「そ?」ビールを取り出した碓氷は、蒼夜の向かいに座り、グラスに注いで一口飲んでから、「これ少し飲んだら」グラスを差し出しいう碓氷に、蒼夜は横顔を見せたまま首を振る。「・・・蒼夜ちゃん」改まった声で名を呼ばれ向き直った蒼夜を見つめ、碓氷は言う。「嫌なら、やめてもいいよ?」そんなことを言う碓氷に驚く蒼夜。「嫌じゃなんか」そう、嫌じゃなんか、、あるはずがない。目の前にいる、風呂上りにローブだけをまとった碓氷はとても男っぽくて、乾ききらない髪も、ソファに座るまでの身のこなしも、、、全部、もう蒼夜には直視できないくらい、ドキドキするものだった。「本当に?」「ええ。」蒼夜は答えてから、悪戯っぽく笑い、「もしかして、怖気づいたんですか?母のこと思い出して??」碓氷は心外そうに、「まさか。君が少し、ナイーブになってるように見えたから」鋭いっ。蒼夜は一瞬目を閉じ、すぐに碓氷を睨んで言う。「そりゃ、少しくらいは。私のH歴は碓氷くんとは、年季が全然違います。それに女の子だもん。少しくらいは、、緊張しますよ」碓氷は優しい微笑を浮かべて、「はいはい。それは大変失礼しました」蒼夜はにっこり笑い返す。でも、それが限界だった。席をたち、先にベッドにもぐりこんだ。彼に惹かれる、顔を、目を見られたく、、ない。ばれちゃうよ。心もち布団に深く潜り、小さく深呼吸を繰り返す。蒼夜の動きをじっと見守っていた碓氷は、グラスに残ったビールを飲み干すと、ルームライトを消して、ベッドサイドの明かりだけの薄暗い部屋を進み、自分もベッドに入った。碓氷はベッドの中、そっと蒼夜に手を伸ばす。そして、そのあまりの硬さに、尋ねる。「初めて、、なの?」「まさか、どうして?」「なんか緊張してない?」蒼夜は口を尖らせて、「だから、緊張くらいしますってば。初めてじゃないことは、したら、分かります。」ったく、人の気も知らないで。。さっさとはじめてくれればいいのに。。蒼夜はそっと目を閉じる。大好きな人に抱かれるんだ。大好きじゃないフリをして。変な気持ち。どう、、感じればいいの?そっと自分の腰に添えられた碓氷の温かい手。もう、それだけで、ドキドキが最高潮になっているのに。「そうでした。失礼失礼。」碓氷は軽く受けながら、目を閉じてしまった蒼夜を見つめる。軽く震えるまつげ。唇。本当に緊張しているらしい蒼夜に覆いかぶさり、そっと前髪をかきあげてやる。緊張を解くように、そっとまぶたに、頬に、耳に、そして、唇にやわらかく口付ける。首筋に唇を移す前に、耳元に静かに問いかける。「何かリクエストはある?」蒼夜はささやくように答える。「名前・・」「名前?」「そう、名前、たくさん呼んで」碓氷は、すぐに意図を解し、「了解。・・蒼夜」と囁いて始める。・・本当の名前を名乗った私で抱かれるのは初めてだから。ねえ、碓氷君、あなたがくれた大切な名前。最初で最後だけど。。。だから、今夜だけは、その声で、いっぱい聞かせて。やさしく囁かれる、自分の名前の響きに、碓氷の声に、そして、もちろん、碓氷の動きに抗うすべもなく溺れていく蒼夜だった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.06.22
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出てきた自分と入れ違いにシャワーを浴びに行った碓氷を見送り、蒼夜はふっと息をついた。蒼夜にだって迷いがあった。いいのかな、こんな風に、碓氷くんに抱かれても。それはもちろん母のことを気にしてではなく、自分の中の「心」に対して後ろめたかったのだ。碓氷に惹かれているのかも?そう感じた想いがどんどん大きくなってきていた。だけど。。。『僕はキミを愛してもいないし、二度と誰も愛することもない。』碓氷がさっき断言した言葉がまた思い出される。・・・絶対好きになっちゃいけないんだ。私にとって彼が、ずっと探していた「その人」、だったとしても、彼にとっての「その人」は、もう、既に存在しているのだから。2度と会えない人だとしても。碓氷くんは、あんなにその人を愛して。。。心ごと持っていかれたって言ってたっけ。。・・辛い思いをするだけだ。大体、碓氷ほどの男が、こんな、小娘に真剣になってくれるはずあるだろうか?ましてや、知らない男たちと寝まくっていた馬鹿な私に?・・・ありえない。ソファにもたれて目を閉じる。あ~あ~あ~、なんで、よりによって碓氷くんなの?お母さんや水野くんの反対になんて立ち向かう気はある。だけど、碓氷くんが私を好きになってくれる可能性はないんだ。そう考えて、蒼夜は半ば泣き出しそうになる。これ以上、好きになっちゃだめ。惹かれちゃだめ。心にしっかり言い聞かせる。シャワールームから碓氷が出てくる気配。でも、蒼夜は両手で顔を覆って逆のことを想ってしまう。所詮、まだ、ハタチ。恋も知らなかった小娘が、初めて知った胸の痛みから逃れられるはずもなかった。・・・今夜だけ、、いいよね?きっと、碓氷くんとの、最初で最後の夜。愛してる人に抱かれるんだ、そう想うことは、とても危険だけれど。圧倒的に心を襲う強い想いには勝てなかった。なんといっても初恋なんだ。。。だけど・・・碓氷くんには気づかれないようにしなくちゃ。彼は、私のために、私のことを思って、抱いてくれるんだから。そう、愛とは違っても。だからこそ、そのことが、彼の負担になったら、、申し訳ないもの。自分は後でどれだけ、、傷つくことになるとしても。どれだけ辛い思いをすることになるとしても構わない。やっと出会えた初恋を、、、押さえ込むなんて、無理。ドライヤーの音が止み、蒼夜は心を落ち着かせる。心の中では正直にいよう。だけど、彼には、、、絶対にそれは見せない。・・・できるかな?できるよね、私。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2009.06.15
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ホテルの部屋に入り、蒼夜がシャワールームに消え、碓氷は大きなため息をついた。彼の中には迷いがあった。蒼夜を、危険な逢瀬から足を洗わせるために、抱くことに迷いはない。ただ。。そう、ただ、自分に自信がないのだ。『僕はキミを愛してもいないし、二度と誰も愛することもない。』さっき口にしたセリフを反芻して、思う。あんなこと言い切ったけど、、、ほんとかよ?出会った瞬間から、蒼夜にひかれている。20年以上ぶりの感覚。最初はただの錯覚だと想った。だけど、、、。すぐに淡く消え去るはずだったその想いは言葉を交わすごとに、心に深く根を下ろしていったんだ。こんな状態で蒼夜を抱いたりしたら、、のめりこんじゃいそうだよな。引き返せなくなりそうだよな。。きっと、、あの場所で、、昔の自分に会える場所で出会ったからかな?蒼夜に声をかけられた時、僕は、もう会えない『彼女』を愛していた頃の僕に限りなく近づいていた。突然声をかけられて、心に飛び込んできた蒼夜の声に、表情になんの防御もできなかった。誰も愛せない、なんて、勝手に自分で決め付けて、、いただけだったのかな。たった数時間一緒に過ごしただけの蒼夜。あの時と同じ。『彼女』の時だって、もう、出会った瞬間に愛していた。今度は、、、失いたくない。。だけど、、まっずいよな~、、さすがに。。。ソファの背もたれに頭を乗せ、天井を見上げて思う。ハタチの女の子に、しかも、よりにもよって、千夜の娘に、本気になったりしたら。。しかも、名付け親だぜ?年の差だって、、。どんだけマスコミに叩かれるか。自分自身は慣れてるから構わない。でも、蒼夜は?そんな好奇の目にさらさせるなんてこと。。それに千夜にだって相当どやされるだろうな。。そう考えて、碓氷は自分の図々しさに自嘲気味に笑う。何考えてんだ、僕は。蒼夜みたいな若くて可愛い娘が、僕に惚れるなんてありえないか。・・・だったら、この歳で片思いかよ?しかもあんな若い子に?それもぞっとしないな。蒼夜がシャワーから出てきた気配を感じ、碓氷は軽く頭を振って、とっちらかった頭の中を空っぽにする。とにかく、今夜は、蒼夜に惹かれるからではなく、蒼夜を諭すために抱くんだ。そう、100%そんな自分を演じるとするか。・・・どっちにしたって、大して褒められたことじゃないけれど。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.09.17
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「だって、お母さんも言ってました。好きな人とのHって最高なんでしょ?」ったくチヤのヤツ、娘になんてこと言ってんだ。碓氷は心の中で毒づく。「。。。いや、ま、、そりゃそうだろうけど。だったらなおさらちゃんと好きになった相手に」唖然とする碓氷に、蒼夜は首をふり、「ううん、だって20年も好きになれる人がいなかったんですよ。だから、逆の発想で、Hして最高な人がいたらその人を好きになれば間違いないって。手っ取り早いかなって。でも、なかなかいないわ。・・・そんな相手って、私にも本当にいるのかしら」碓氷はあきれて言う。「あのなあ、、Hなんて、そりゃ好きな相手とするのが最高だろうけど・・」「けど?」「Hだけうまいヤツだっているぞ?Hの相性ってのもあるし」「え~?最高のHって、人生でたった1人の相手とだけじゃないんですか?」「ああ。体だけで、、愛情に繋がらない相手でも、体の相性がよければ、気持ちよくて最高なHができることはあるよ」「・・そんなの信じられない。・・・少なくとも、今までにはいなかったわ」「全然。。。その、、よくなかったの?」「はい。全く。つまんなくて」「じゃあ、なおさら、やめろよ」「やめませんよ。やめたら出会えないじゃないですか。」碓氷はため息をついて、「あのさ~。。蒼夜ちゃんはそのつもりでも、、相手は。。そんな、出会い系で出会って、体から始まる関係で、、、その先に愛を求める男なんているとは思えないな。」そういってやると、黙って口を尖らせる蒼夜に、碓氷は言う。「じゃあ、僕とも寝てみる?最高のHしてあげるよ。だてに浮名を流してきたわけじゃない」蒼夜は、にっこり微笑んで、「もちろん、今夜はもうそのつもりよ」父親じゃないことわかったら何も障害はない、蒼夜は思う。蒼夜のあまりに落ち着いた反応に、「全くとんだお嬢さんだな、キミは」あきれたようにつぶやく碓氷に、蒼夜は、ふっと笑う。碓氷が、「何?」と尋ねると、蒼夜はにっこり笑って、「碓氷くんこそ。全くお母さんの言うとおりね。ほんとに、ひどい男っ」碓氷は、蒼夜を真剣な目で見つめて言う。「ひどい男って言われてもいいよ。千夜にぶっ飛ばされてもいい。でも、そのかわり・・」「?」「そのかわり、僕とのHで最高に感じたら、僕の言うことを納得するんだよ?」「・・Hだけ気持ちいいってことがあるってこと?」「そういうこと。僕はキミを愛してもいないし、二度と誰も愛することもない。でも、キミを気持ちよくはさせてあげられる。それが分かったら、もうこんな真似はよして、真面目に心から始める恋愛を探すんだ。だれかれかまわず寝るのはやめること。いいね?」「は~い。だけど・・」「ん?」「いえ、、、行きましょ。」立ち上がりながら蒼夜は想う。碓氷の忘れられない恋を思えば、そして、2度とダレも愛せないと言い切っている碓氷の心を思えば、、もしかして、あなたが私のたった一人の相手だったら?なんて聞けないよね。。そう、今夜は。。この人かも知れない、、なんて思わないようにしなくちゃいけないんだ。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.09.16
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今度は碓氷がやや心配げな顔になって、尋ねる。「あのさ、僕、名付け親だからって父親面するつもりはないけど、蒼夜ちゃん、君は、あそこで知らない男と、、その・・」蒼夜は碓氷のいいあぐねる言葉の先を読んでうなずく。「うん。待ち合わせでした」碓氷はため息をつき、「・・・あんな時間に待ち合わせて、一体何する気だったんだ?」ストレートな質問に、蒼夜は少し自分を恥ずかしく思ったけれど正直にいう。嘘をついたって仕方ないよね。「何って、、当然、寝るつもりだったんです」「。。そんな簡単に言うことか?」呆れたようにいう碓氷に、蒼夜は肩をすくめて、「別にダレでもしてることじゃないですか?」碓氷はそれには答えず、「その口ぶりだと・・これまでにも何度も?」「ええ。もう、多分15人くらい、、と寝ました」「15人?全部知らない男と?」「はい。出会い系で知り合った人が多いかな。あとはナンパとかね」碓氷は度を失って、つい荒い口調で言う。「危険すぎるっ」「そんなことないですよ。待ち合わせはいつも人が多いところを選んでるし、やばそうな人ならパスしてますから」「やばいかどうかなんて、見た目だけじゃ分かんないだろ?」「大体分かりますよ。勘いいんです」「危ないヤツいっぱいいるんだぞ?」「でも、今のとこなんとか生きてます」碓氷はため息をついて、「一体何のために?キミみたいに可愛い子なら、そんなことしなくてもちゃんと恋人を探して・・」「私、人を好きになれないんです」「え?」「人を好きになったことないんです。もう20歳なのに。」「だから・・?」「友達はみんな恋してるのに、私にはそんな夢中になれる人いないから、なんだか焦っちゃって。体の関係から入るのもありかなって」「おいおい。そんなの間違ってるよ。無謀すぎる」蒼夜はとりあわず、「だって、お母さんも言ってました。好きな人とのHって最高なんでしょ?」屈託なくそういう蒼夜に、碓氷はため息をついた。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.09.14
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蒼夜は話題を変えるように尋ねる。「ところで、碓氷くんは、さっきどうしてあんなとこにいたんですか?待ち合わせじゃなかったの?私と飲みに来たりしてよかったのかしら?」碓氷はグラスに少し口をつけてから、薄い微笑を浮かべ、「いや、待ち合わせじゃないよ。あそこは大切な人との思い出の場所でね。時々感傷にひたりたくなったらいくんだ」そよは驚いたように、「それって、さっき言ってた、、?」「そう、キミの名前の元になった、恋」「じゃあ、、だって、もう20年以上も前の話なんでしょう?そんなに、大切に想ってる人が、、いるの?随分パブリックイメージとは違うんだ。」蒼夜の知っている碓氷のイメージでは、次から次へととっかえひっかえ女を変え、もう週刊誌も匙を投げるほどのプレイボーイ。誰かを愛する姿なんて想像すらできなかった、けど。碓氷は少年のような表情になり、照れもなく正直に言う。「ああ、彼女のことは、忘れられないんだ。どうしても」「その人とはもう会えないの?」碓氷は痛いような顔をして、「会えないね、一方的に別れを告げられて会うすべもないんだ」「会いたい?」碓氷は素直に答える。「もちろん」「まだ愛してるの?」「多分ね。・・いや、どうだろう。・・・分からないな。だけど、突然別れを切り出されて、まだ心が納得してないっていうか。。心ごと持っていかれてしまったっていうか」つい、そうつぶやいてから、碓氷は苦笑する。初対面の女の子相手に、僕は一体何を言ってるんだ。「それが一生に一度の恋だったのね」ポツリと囁くように言う蒼夜。「そういうこと、だね」碓氷は気を取り直すように、グラスの中身を飲み干し、おかわりを頼む。「すごいのね、私もそういう愛に出会いたいわ。」「出会えるよきっと。」「そうかしら。」「ああ。僕はもう、誰も愛せないだろうけど、蒼夜ちゃんはまだこれからだからさ」「もうダレも・・?」「多分ね」「だから、、だから、ずっとただ寝るだけの相手を取り替え続けてるんですか?」蒼夜の言葉に非難の色はないけれど、つい言い訳がましくなる碓氷。「ずっと1人でしているわけにもいかないしね。相手も承知の上だよ?ただのゲームさ」「ふ~ん。。」少し考え込む蒼夜に、碓氷は、「何?」「そこまで割り切れてるなら、どうして、あの場所にまだ行くんですか?」碓氷はそよの瞳を真剣に見つめ言う。「気ままに生きているように見えるかもしれないけれど、僕も時には嫌なことがある。時には落ち込むこともある。そういう時はあの場所に足が自然に向かう。一歩近づく毎に不思議とあの頃の自分に近づける気がする。1人の人を純粋に愛していた頃の自分に。彼女と待ち合わせして一心に彼女のことだけを待ち、想っていた頃の自分に。あの場所に行くと、ちょっとだけ、まだ希望で一杯だった頃の自分に会えるんだ。それが僕を癒し活力をくれる」「彼女を愛していた頃の自分に。。」碓氷はにっこりと笑って、「そう。ただ好きでもない女と遊びまわるだけじゃ、いい演技はできないさ。やっぱり心の底には、そういう危うい自分みたいなものがないとね。どんなに遊んでる僕にだってそういうナイーブな部分が確実に残っている。でも、人には見せない。ただ、時々、確かめなくちゃいられないんだ」「・・なるほど・・」碓氷の言葉を深く咀嚼してから蒼夜は受け入れる。そして、ふと想う。「お母さんにもあるのかしら、、そういう大切な恋の記憶」母だって、相当の遊び人だから。碓氷は言下に言う。「あると思うね。」「その相手が私のお父さん?」「恐らくは。千夜が愛してもいない相手の子供を身ごもるなんてとても考えられない。」「誰か思い当たりますか?」「ん~、、僕もあの当時随分考えてみたんだけど、、思い当たらないな~。まだ劇団の頃だから、絶対、僕だって相手を知ってるはずなのに。」「ん~、、ミステリアスな人、お母さんて」「キミにも十分受け継がれてる」碓氷の言葉は嫌味ではなく、褒め言葉として、すっと蒼夜の心に染み込んだ。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.09.11
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「あなた、私のお父さんなんですか?」そう尋ねられた碓氷は、驚いたように蒼夜を見て、「まさか。チヤがそういったの?」蒼夜は首を振って、「いいえ」碓氷はほっとしたように、「だろ?チヤとは寝たことないよ。劇団の中では、容姿も演技もピカ1だったから、俺も、かなりアタックしたんだけど、結局1度も寝てくんなかったんだ。だからキミの父親ではありえない」碓氷は当時の千夜の言葉を思い出す。『私だけに夢中な人でないと、寝る気になれないの』。千夜は俺の中にある忘れられない存在にはっきりと気がついていた。蒼夜は、碓氷の瞳を覗きこんでそこに嘘の色がないことを見て取り、なぜかほっとした自分に驚いていた。ほっとしたのは、ちょっと碓氷に引かれているから・・・?初めての感覚。これって、本物、、かしら?これまで、待ち合わせてきた男たちとは、こんな風に話す時間をもつこともなかったから、これが特別なものなのか、判断がつかない。そんな気持ちを隠しながら、蒼夜は何気ないように続ける。「そうですか。母は父のことは何も教えてくれないんです」「何も?」「ええ、誰かも、、分からないのかしら?」「そんなはずないよ」「・・ですよね。言えないような相手なのかな。母は言わないって言ったら絶対言わない人だから」「確かに」蒼夜は碓氷に聞いても何も分からないとあきらめたように、微笑み、気を取り直して言う。「でも、私の名前は碓氷くんに付けてもらったんだって聞きました」碓氷はうなずく。チヤは不思議な女だ。自分が寝たくもない、そして、さっき蒼夜が言っていたように、娘に会わせたくもないような俺に、名前をつけてくれ、と頼んだのだ。不思議な感性だが、碓氷は受け入れた。この上なく名誉なことに思えた。そして、つけた名前。蒼い夜。その頃、感傷から訪れた国で見た夜空の色を思い浮かべて。ついそのときの感傷まで思い出しそうになり、慌てて我に返る碓氷。「気に入ってくれてる?」蒼夜は微笑んで、聞きたかったことの2つ目を口にする。「ええ、とっても。ロマンチックな名前ですよね?何か由来があるんですか?」「由来か。。その頃僕は失恋してね。旅に出たんだ。感傷旅行さ。そこで出会った夜空がとても綺麗なブルーだった。なんていうか、圧倒的な美しい青だったんだ」「失恋の想い出の名前か~。。」「聞かないほうが良かった?」碓氷は笑って尋ねてから、「でも、失恋は失恋だけど、この僕が純粋に女の人を愛したとても大切な思い出だから、悪い名前じゃないはずだよ。なんと言っても、キミに良く似合ってる。それにしても蒼夜ちゃんがこんなに綺麗なお嬢さんになってたなんてな~。。」蒼夜はあきれたように、「口がうまいですね。さすがです」「いや、本音だよ。水野のやつも全然いわね~んだから」「水野くんとも知り合いなんですか?」「そうだよ。アイツも劇団の頃からの仲間だから」水野は、劇団時代の仲間、自身の演技には早々に見切りをつけ、今は俺も千夜も所属する事務所の社長になっている。といっても、社長とは、名ばかり。クセのある俳優を抱えている分、マネージャーのような用事もこなしている。千夜とは互いに忙しく会うことは少なくても、水野が両方の間を行ったり来たりするから今でも千夜のことを近く感じられていた。「あ、そうですよね」「ったく、なんで教えてくれないんだろ~な~。こんな綺麗だって知ってたら、絶対ほっとかなかったのに」「・・・」「・・・」蒼夜は小さくため息をつき、遠慮がちに、「・・・だから、ですよ。きっと。」碓氷も、「だな」といって2人で顔を見合わせて笑った。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.09.10
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歩いたのはほんの短い時間。通りを入ってすぐのところにある、碓氷の行きつけらしいバーに入り、カウンターで並んで飲む。蒼夜は切り出す。「碓氷さん」「はい?」「あなたって、もうとにかくず~っと次から次へと浮名が耐えないプレイボーイじゃないですか。よくも安全だなんて図々しいこと」「あはは、キミ、初対面なのに、きついね」「普通です」碓氷は苦笑しながら、静かに、出会ったばかりの彼女に心を引かれていることに気づき驚く。素人だということ、そしてもちろん明らかな年の差に、理性がずっと警笛をならしているけれど。出会ってすぐにこんな気持ちになるなんて。、、あの時以来、、一体何年ぶりの感覚だろう。もちろん、自分はあの時ほど若くはない。だから、ちゃんとセーブするつもりではいた。それにいくらなんでも、、、きっと、微熱以上にならないこと、自分でもよく分かっている。だけど、束の間の気持ちだとしても、心地いい感触だ。少しその感覚に漂ってみるのも悪くない。碓氷は琥珀色の飲み物の入ったグラスの氷を回してから、思いついて、ふと、尋ねる。「キミ、、名前は?」蒼夜は、少しためらってから、答える。本名、言ってみようかな。。そうしなきゃ始まらない。「そよ、、です」「そよ、、ちゃん・・・?」カウンターの中に並んだボトルに目をやり、眉をしかめ、少し遠い目になる碓氷。気づかれる、、いや、気づいてくれるだろうか。蒼夜は慎重にうなずく。「はい」碓氷は蒼夜の瞳の奥を覗き込みながら、記憶をまとめるようにつぶやく。「蒼い、、夜?」蒼夜はやっぱり気づいてくれたのかと、安堵する。にっこり笑って、今度はしっかりと、「そうです、初めまして、碓氷くん」ふうっと息を吐いた碓氷は、「そうだったのか。。素晴らしい偶然だな、しかし。、、こんな出会い方をするなんて。。。キミは、、僕のこと?」「はい、母から聞いています。素晴らしい役者だけど、手のつけられない女ったらしだから、絶対に会わせないって言われてきました」「ったく、きついな、千夜は。俺も会うたびに言われてきたよ。娘には絶対に近づくなってね」碓氷は笑う。蒼夜の瞳を、声をもう一度しっかりと確認する。そして言う。「なるほどね~。道理で、最初に見た瞬間にどこかで会ったことがあるような気がしたわけだ。千夜のお嬢さんなら、君が、キツいのも納得だ」「ひどいな~。母に言いますよ?」「それは勘弁して」笑って、グラスに口をつけた碓氷に蒼夜は思い切って尋ねる。ずっと聞きたかったことの1つ目を。「あなた、私のお父さんなんですか?」←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.09.08
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「相手が誰でもいいなら、今夜は僕と付き合わないか?」あまりにも唐突で不躾な男の誘いに、蒼夜は、遠慮なく胡散臭いものを見る目で、「は?」と言ってやる。男は気にした様子もなく、ソヨの方に一歩踏み出し、「どっちみち、顔も知らないような相手と待ち合わせなんだろ?」図星だけどむっとする蒼夜。「どうしてそんなこと・・」「人違いで声をかけてるのが何よりの証拠じゃないか」「・・・」何も言い返せない蒼夜に、男は軽く笑って、「別に責めてるわけじゃないけど、こんな時間に知らない男と待ち合わせなんて、ろくなことにならない。暇なら、僕とつきあえよ」「ほっといてください」「いや、間違えられたのも何かの縁だ。さ、その相手が来る前に行こう」強引に腕をとる男に、「ちょっとっ。あなたこそどんな人かわからないじゃないですか」男は口元をひねって笑って、「少なくとも、こんな時間にそんな風に待ち合わせする、シンゴ?ってヤツよりは安全だよ」といってサングラスを完全に外した。「あ」「見覚えある?」テレビや映画で見る顔だ。蒼夜はすぐにそれが俳優の碓氷だと認識する。個人的な事情からも、蒼夜は、ウスイのことをよく知っていた。その偶然に驚きながら、つい、「碓氷くん・・」なんて呼んでしまう。「そう、、、って、あれ、くんづけ、、て感じ?」碓氷の反応に、蒼夜は、彼のほうは私のことなんて、分かるはずないんだっけ、こんな小娘に初対面でくんづけされたら、いい気はしないよね、、と、言い直す。「いえ、、碓氷さん、ですね」「そういうこと。僕にはそれなりの知名度と地位がある。素人のましてや君のような幼い子を相手にめったなことはしないよ」「幼い・・?」ムッとする蒼夜に気づかず、碓氷は、「今日は少し、落ち込んでるんだ。ちょっとだけお茶に付き合ってくれよ」「お茶、、ですか?」「何?気に入らない?まったく感心しないな。キミ、未成年だろ?」「失礼なっ、ちゃんと成人です」「いくつ?」「20、、、ですけど」碓氷は面白いものを見つけたような顔をして笑う。「未成年みたいなもんじゃないか」「でも、お酒くらい飲めます~。こんな時間からお茶なんて、サマにならないわ。ちゃんと大人扱いしてください」「はいはい。それにしても無鉄砲なお嬢さんだな。じゃあ、バーにでも行きますか」2人は並んで歩き出した。予定は違っちゃったけど、いいや、、歩きながら、蒼夜は思う。こんな偶然利用しない手はない。蒼夜には、ずっと長い間、是非、碓氷に会って聞いてみたいことがあった。もちろん、私が誰だか気づいてくれれば、の話だけれど。。。蒼夜にメールでシンゴ、と名乗っていたもちろん偽名の男は5分後にその場所に到着するが、蒼夜を見つけることはなかった。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.09.05
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蒼夜は約束の場所が見える場所に着き、ショップのウインドウにもたれたサングラスの男を見つけた。・・・なんだ早いのね、まだ約束の時間まで随分あるのに。いつも待ち合わせ場所には先に着くのが蒼夜のやり方だった。約束の時間まで、冷静にその男を観察するのだ。・・・こんなに早く来るなんて・・・よっぽど飢えてるのかしら?通り過ぎる人波に隠れるようにして、いつもより慎重に男を観察する。なんだか言ってたよりも少し年が上みたいだけど。おどおどした様子はなく、ただ、時折ウインドウの中のポスターを眺めたりしている。身のこなしはスマートで、身だしなみもおしゃれで清潔、サングラスをかけているからしっかりと判断はできないけれど、キライな顔じゃなさそうだ。5分ほどじっくりと観察し、よし、合格、きっと大丈夫だろう、と思った蒼夜は迷いない足取りで、足早に近づき声をかけた。「あの、、シンゴさん、ですか?」その男が、一瞬自分のことだとは気づかず、1拍置いてから、驚いたように自分を見下ろした仕種に、ソヨは人違いをしたことに気づいた。「は?違いますけど・・」蒼夜の顔を確かめるためか、男が少しずらしたサングラスからのぞく大きな目はどこかで見覚えのある・・。ダレだっけ?と思いかけて、はっとする。ともかく人違いなのだ。謝るしかない。「あ、そ、、ですか。、、、すいませんでした」蒼夜は頭を下げて踵を反した。「ちょっとキミ」立ち去ろうとする蒼夜に男は声をかける。彼はなぜかそのままやり過ごせなかった。彼女の瞳、そして声。いつか、どこかで確かにあったことがあるような。。。反応し、訝しげに振り返る蒼夜。「なんですか?」男は大きな口で人懐っこそうに微笑んで、「相手が誰でもいいなら、今夜は僕と付き合わないか?」と言った。←1日1クリックいただけると嬉しいです。
2008.09.04
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