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2011.07.06
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カテゴリ: box
腕の中、眠れなさそうに寝返りを打つ楓に声もかけられないまま、さっきまでのことを思い出していた。



『「『普通の家だよ』って、言ってたじゃない・・・』

帰ってくるなり、ほとんど泣きそうな声で言った楓。必死で抱きしめてから、続いた押し問答。

家柄とか、つりあわないとか、最悪の展開だよ。

俺を思ってくれる楓の気持ちは愛おしいけれど、まさかそんな気持ち受け取るつもりもない。

絶対に話をつけること、楓とは何があっても離れるつもりなんてないこと、

そんな風に説得するうちに、大切な手順を飛ばしてしまうわけにはいかなくなり、大切な言葉が喉まででかかった。

・・・・ところ、で、あの、電話。



「はい」

大切な時をジャマされて、ややぶっきらぼうな俺の声に、

「悠斗?私よ」

いつもどおり、パワーにあふれた声。

「分かってるよ、何?」

「まだ、楓さんと一緒なの?」

「ああ。もちろん」

答えながら、目の前にいる楓に目をやる。少し俯き加減に、ココロをすっかり閉じたような様子の楓。背中にそっと手を添える。

「そう。さっきは、なんだか立ち話であわただしくて申し訳なかったわ。ちゃんとお詫びしておいてね」

「お詫び?」

母さんが、そんな言葉を口にするなんて。意外な気がして思わず問い返した俺に、



って軽くイヤミを添えてくる母さん。

「・・・んだよっ」

小さく文句を言いかけた俺に、母さんは、ふふ、と笑って、

「ねえ、近々、うちにご招待したいわ、楓さんのこと。あなたの大切な人なら」

「・・・・って・・・」



「あなたもオトナなら、きちんと手順を踏んで、まずは、ちゃんと親に紹介なさい。それとも、うちに連れてくることに、何か差し障りでもあるの?」

「・・・いや、まさか。連れてくよ、もちろん」

「そう、よかったわ。もう少し落ち着いてお話してみたいもの」

楽しそうにそう受けて、楓と相談し、都合のいい日を知らせるように、なるべく早くがいいわ、といい置いて母さんが電話を切った後、ケータイをポケットにしまいながら、そっと腕の中の楓に意識を戻す。

と。

「・・・・楓?」

ココロのシャッターを下ろしきって、体温さえ下がったように感じる楓。怯えきって、今にも震えだしそうな楓。

腰をかがめ、そっと顔を覗き込むと、楓は、ふと我に返ったように、俺に意識を向けた。だけど、その瞳は、俺の目を見ようとはしない。

「楓?」

もう一度ただ小さく優しく愛おしく呼びかけた俺に、楓は、唇を噛んで、伏目がちなままで言う。

「・・・・おかあさん、・・・・なんて?」

俺は、怯えきった楓に、あんまり刺激を与えすぎないように、そっとそっと告げる。

「・・・楓が大切ならちゃんと、うちに連れてきて紹介しろってさ」

「・・・・・うちに・・・・?」

ぼんやりと視線をあげる楓。俺は微笑んでしっかりとうなずいた。

「ちゃんと手順踏めって言ってたよ。・・・楓ともっと話してみたいとも言ってた。言ったろ?楓のことすっかり気に入ったみたいだよ」

俺がそういうと少し目を細めた楓。信じがたい台詞に戸惑っているように。

「・・・そんなことって・・・だって・・・」

戸惑いが楓の口から言葉としてあふれ出すのを止めるように、

「一緒に来てくれるよな?」

そうたずねると、

「・・・・・」

ココロのまま揺れた瞳で、俺を見上げ、唇から、何も言葉が出てこない楓。あまりに怯えている楓に、

「大丈夫だよ。何があっても俺がそばにいるから」

そう告げてすぐに、

「いや、ほら、そんな、大丈夫だと思うよ。かあさんの口ぶりだと楓のこと本当に気に入ってるみたいだし。そりゃそうだよな、楓に会って、楓のこと、気に入らないような人間いるはずないよ。だから、・・俺が守るまでもないと思うけど。な?」

そう言い直すと、楓は、やっとゆっくりとうなずいたんだ。そのうなずき方に、少し諦めに近いものを感じ、

「なあ、楓、そんなにイヤか?イヤなら、、」

言いかける俺に、

「ううん。悠斗がそう言うなら・・・」

すばやく否定する楓のその速さに、やっぱり、少し、違和感を覚えて、さらに突っ込もうとしたら、楓は、ココロを切り替えるように小さく息をついてから、言う。微笑んで、俺の瞳を見つめて。

「・・・ていうか、キンチョーしちゃう~っ。・・・お父さんにもお会いすることになるのかしら・・」

・・・・とーさん。・・か。・・・・

楓と父さんが会う。

そのことを思って、ついぼんやりした俺に、

「悠斗?」

楓が柔らかく呼びかける。俺は、我に返って、

「とーさんはどうだろうな。いつもあちこち忙しくて、俺もめったに会わないくらいだから」

「そうなんだ。・・・でも、よく考えたら、悠斗はずるい~」

そんなこと言い出して可愛く口をとがらせる楓。

「え?」

「だって、悠斗は、今の私みたいにこんなにキンチョーすることないじゃない?悠斗の方が、私のお父さんとは先に知り合い?だったんだもん」

楓の言葉を、俺は、全力を込めて否定する。

「って、何言ってんだよ。俺、碓氷さんが楓のお父さんだって分かってから、んっとに、キンチョーしまくりだっての。」

「え~?どうして??」

「そりゃそうだろ?だって、変なトコ見せらんないじゃん。いずれはちゃんと、、認めてもらいたいし。・・・」

そう思うだけでまたキンチョーする俺に、楓はくすっと笑う。

「だけど、・・お父さんは、あんまり気にしてなさそうだけどね。普段の悠斗のコトなんて」

「それはそうかも。ていうか、キンチョーする以前にたっぷりフツーの俺のことなんて見られてるしな」

俺は笑って受け、もう一度、楓をしっかり見つめてから言う。

「楓、楓は普段どおりで、十分、完璧だから。キンチョーなんてしなくていいよ?ほんとに、俺が、・・・そばにいるから」

楓は、俺の言葉に、微笑んでうなずいた。

だけど。

その微笑の温度の、微かな低さは否めない。

・・・だけど、今は、これ以上は突っ込まずにいよう。

母さんがどんな対応をしようと。

俺が本当にちゃんと守ればいーんだから。

・・・ていうか。プロポーズ、結局、しそびれちゃったなぁ。

って考えてから、思い直す。

・・・いや、よかったのか。するなら、やっぱり、ちゃんと考えてしたいから。

慶介が、明日、準備万端でするプロポーズのように。

俺だって。



その後も、一緒にご飯を食べても、ソファに並んで座っても、キンチョーからか不安からか、やっぱりココロが晴れない様子の楓は、結局、

「ね、私、先に休むね。悠斗は、ゆっくりしてて」

なんていい置いて、寝室に向かっちゃったし。

もちろん、すぐに後を追った俺だけど、楓は、曖昧な微笑に紛らせて、ちゃんとしたキスすらさせてくれないまま、腕の中、眠そうに目を閉じてしまった。そして。

・・・ずっと寝たふりしてる楓。

仕方なく、俺も、ずっと寝たふりしていると、そっと寝返った楓。

吐き出される小さなタメイキ。

そして今、また、寝返りを打ち、俺の方を見上げているような視線を、目を閉じたままでも感じる。

・・・もうこれ以上は、放っておいてやらなくていいだろ?・・ていうか、ほっとけねーよ。

俺は、緩めていた楓を抱く腕に、力を込めた。

「・・ゃっ・・・」

驚いたらしい楓の、反射的な抵抗は、一瞬だけ。楓は、そっと俺の胸に頬をつけた。


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最終更新日  2011.07.07 16:57:21
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