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春にほとんどの肩書をはずして張り切って終活に励んでいる身なのだが、たった一つだけ残った公的な仕事で10月31日、12月1日の二日間、山形に出張した。そのときの仕事の一つに、鳥海山麓の牛渡川にある箕輪鮭漁業生産組合の鮭孵化場の視察があった。視察が終わって組合長さんのご親切で施設のすぐ裏手にある丸池神社の「丸池」に案内していただいた。小さいけれどエメラルルドグリーンの美しい池だった。丸池は丸池神社のご神体そのものということだった。
山形出張にでかける前に、楽しかった(おいしかった?)米沢小旅行に気をよくしていた妻と寒くなる前にもう一度どこかへ行こうと相談していて、会津若松が有力候補になっていた。エメラルドグリーンの「丸池」は、裏磐梯の五色沼の一つ、青沼を思い出させたばかりではなく、青沼よりほんの少し先にあった瑠璃沼を見ないで戻ったことをいっそう残念に思わせたのだった。
会津若松から裏磐梯がごく近くなので、瑠璃沼を見に行くことを含めた旅行計画を急いで作った。会津若松での二泊三日の最終日、五色沼経由で帰ってくることにした。
「会津若松に行くんだったら大内宿と塔のへつりは絶対見るべき」と福島生まれの知人に強く勧められたと妻が言うので、今回は時間的にはかなりゆったりしているものの比較的しっかりした旅行計画ができた。
というわけで会津若松小旅行に出かけたのである。米沢小旅行の時、米沢と猪苗代湖の道の駅でたっぷりと地物の野菜類を手に入れたこともあって、今回も三か所の道の駅をコースに入れた。半ば、ショッピングツアーである(買うのは野菜などの食料品ばかりなのだが)。
1日目。山形自動車道で山形市を経由して「道の駅やまがた蔵王」に行く。昨年できたばかりのこの道の駅は、イベント開催のための広いスペースを設けていて、野菜どころか食料品売り場そのものがないのだった。この日はフリーマーケットが開催されていて、若い陶芸家のコーヒーカップを一つ購入した。
東北中央自動車道を南下して赤湯温泉(南陽市)の日帰り温泉に入って、温泉好きの妻に満足してもらい、昼食は温泉のすぐそばの店で妻や私の好きなあっさり味のラーメンを食べた(こってりしたラーメンを出す店が圧倒的に多いので、最近はラーメンを食べるときはネットで調べるようになった)。
赤湯温泉から米沢、喜多方を経て、午後3時前に会津若松市に入り、飯森山の麓にある「会津さざえ堂」を見に行く。さざえの貝殻のような外壁を持つ六角三層のお堂の内部にはらせん状のスロープが二つあって、一方通行で登って降ることができるのだった。こんな奇妙な形式のお堂は唯一無二の建築物らしい。
ホテルに入りだいぶゆっくりしてから、街に出て散歩しながら夕食に向かう。観光ガイドにしたがって七日町(なぬかまち)を歩く、古い蔵造りの建物が次々現れる。もうすっかり暗くなっている時間だが、かえってそれらしい雰囲気があって楽しい。
夕食は会津の郷土料理を頼んだ。メニューには身欠き鰊や棒鱈が入っていて、少しばかり緊張感がある。子供のころ、時節になると毎日鰊(カドと呼んでいた)を食べされられた。脂っこくて小骨が多く食べにくいということもあったが、毎日だったので本当に嫌で嫌でたまらなかった。腹には卵(数の子)が入っていて、数の子も嫌というほど食べた。それ以来、鰊も数の子も私の食事のメニューに入ったことはない。若いころ、麺好きの私は京都で「にしん蕎麦」に挑戦したてみたのだが、全くダメだった。
「最近、何でもおいしく食べられるようになったから、鰊もおいしいかもしれないよ」という妻の言葉を信じることにして、食べてみればすごくおいしいわけではない(ふつうにおいしい)が、食べられるのである。鰊の山椒漬け、鰊の昆布巻、棒鱈煮、どれも完食である。私にはもう食べられないものなんて何一つないような気分になってきた。
二日目。寒くなった日だったが9時ごろホテルを出て大内宿に向かう。大内宿では小雨に白いものが混じっていた。初雪らしい。雪が降る前に行こうという旅行計画だったが、間に合わなかったのだ。大内宿から塔のへつりに向かう。大内宿も塔のへつりもお土産の店が並ぶ「立派な」観光地で、私たちの周りは中国語ばかりだった。
塔のへつりを離れて、昼食に山菜蕎麦を食べたのだが、この蕎麦が抜群においしかった。矛盾しているようだが、腰があるけれどやさしい口当たり、蕎麦の味、香りも申し分ない。「会津蕎麦はおいしい」ということになって、なんとか家で食べられる会津蕎麦を手に入れようということになった。
若松市内に戻り、鶴ヶ城の周りを歩いてもたっぷり時間があるので、今日も日帰り温泉に入ることにした。それでもホテルには午後3時半には着いた。夕食は、やはり郷土料理の輪箱(わっぱ)飯にした。その店にもニシンにの山椒漬と棒鱈煮があって、それを真空パックにして譲ってもらった。まだまだ食べて、不得手を完全に克服するつもりなのである。
わっぱ飯と蕎麦のセットを頼んだら、蕎麦湾に葱1本が添えられて出てきた。ずいぶん前にテレビで見たことがあったのだが、ネギを箸代わりに使いながら葱も齧るという趣向である。それなりに楽しい趣向だが、どんな時に人はこんな食べ方を思いついたのだろうかなどと考えさせられた。
3日目。五色沼に向かう途中で「道の駅ばんだい」によって、イチジクや食用菊などを仕入れた。ここからは昨日の寒さで降った雪を被った磐梯山(表側)がよく見えた。五色沼では妻に頑張って歩いてもらい、磐梯山(裏側)を背景にした瑠璃沼を見ることができた(曇り空でなかなかいい写真にはならなかった)。五色沼の探勝路入り口にある裏磐梯物産館で会津蕎麦の半生と乾麺を手に入れた。
瑠璃沼を見ればもう帰り足である。途中の道の駅猪苗代での買い物に期待したが、今回はあまり欲しい野菜は見つからなかった。私は里芋を少し多く買って、あとは妻のための菓子類をいくつか買っただけだった。ただ、道の駅に併設されている蕎麦屋で食べた蕎麦と天ぷらには満足した。
道の駅猪苗代を出ればひたすら高速を仙台に向かって走るのだけなのだが、食事担当の私としては手に入れた食料品にあまり満足できなくて、村田ICで降りて道の駅村田に行ってみた。かつて溢れるほど農産物が並んでいた場所には何にもなかった。もう店じまいしたらしく、店内だけに野菜類が並んでいた。柿、蒟蒻、蔵王チーズ、春菊などを買った。この道の駅は朝早く出かけるのがいいらしい。
こうして、観光旅行なのか買い出しツアーなのかよくわからない小旅行は終わった。
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