2011.12.29
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カテゴリ: 家族
昨日、施設に入っている義父に初めて面会に行った。
義父の入所している施設は短期入所が原則で、更新しながら1年以上いることも可能らしいが、仮住まいということもあってか個室ではあっても部屋にはベッドがぽつんとあるだけの恐ろしく殺風景な風景で、とても部屋でゆっくりできる雰囲気ではない。
来年になったら別の長期入所できる場所に移る予定で義姉や夫が動いている。

義父は認知症の人たちだけが集められたフロアの大広間で椅子に1人ぽつんと座り、時代劇のテレビ画面をぼんやりとした目で眺めていた。
1人暮らしをしていた入所前と比べてもどんよりとした表情で、心が痛む。施設に20年近く入所していた亡くなった祖母を思い出す。
夫が義父に声をかけるとのろのろと視線が動き、我々を認めると急に目が人間らしくなって表情が表れた。彼の記憶から、私はともかく息子である夫がまだ消えていなかったことに安堵する。

ちょうど義父のリハビリということで一緒にリハビリ室に行って見学させてもらう。
作業療法士の女性が義父の筋力維持のための体操や歩行訓練をしてくれたのだが、認知症の老人相手だといろいろ大変なこともあるだろう。この種の仕事に携わる人たちの心意気にはいつも頭の下がる思いがする。

義父のいた大広間に戻ると、エレベーターホールから入るドアを開けたとたん中から60代後半か70代前半ぐらいの女性がすばやく駆け寄ってきてドアから出ようとした。中の職員があわてて彼女を止めようとする。

義父ほど認知症が進んでいないからこそ思考力が保たれていながら一方で状況が正確に把握できない彼女にとって「閉じ込められている」ことは不条理この上ない仕打ちなのだろうが、かといってここから出てもおそらく彼女は家に帰る方法が分からない。

義父はさっき座っていた椅子に再び腰掛け、どんよりとした目つきで、そうだ、連想したのは子供の頃飼っていた文鳥が病気になった時の目だ、再び時代劇の画面を眺め始めた。
帰るよ、と夫が声をかけるが、反応は来た時よりも鈍い。帰るという言葉の意味をどう考えているのか、義父の表情からは何も窺うことができなかった。

以前これが認知症の人の意識かもしれない、と何となく想像したのは、すごく眠くて仕方のない時だった。何か考えたりやったりしなくてはならないことがあるのにどうしても思考力が働かず、ややこしいことを考えるどころか目の前のこともちゃんと認識できない。意識が時々遠のき、時間の感覚が無くなって夢の断片が意識に混ざりこんで見聞きしているものが半ば非実体化する。そんな夢と現実の狭間のぼんやりとした意識ってもしかすると認知症の精神状態に似ているのではないか、と目がはっきり覚めてから思ったのだった。

我々がナンバーキーを解除して出る時にもさっきの脱走を目論む彼女が一瞬で駆け寄りドアから出ようとしたが、健常者であればキーの横に書いてある解除方法を読んであっさりドアを開けられるのに、彼女はそれができない。

出られない、とまたしても職員に訴え掴みかかる彼女を見ながら、こういう老人を身内として家庭でお世話をするのはやっぱり大変だよな、と思う。これが毎日だと介護する側は慣れるとはいえ1対1ゆえに否応無しに消耗するのは避けられない。
施設の中でこういう人ばかりを集めてまとめてチームでお世話する方がまだしも介護する側としては手を借りられるし分担できるし、そして何よりも仕事と割り切れる分多少なりとも負担は小さいだろう。

しかし一方で、帰りたいのに帰れない彼女の苛立ちと怒りと悲しみは、あの必死さを見ると痛いほど伝わってくる。
一方で義父は既にそういうもどかしさや苛立ちを表現する気力も体力もほとんど残っていないが、それもまた言うに言われぬ寂しさがある。

年老いた人と世話をする人。
どちらもあまり辛いことなく上手くいく方法って無いのかな、と子供の頃からこういう場所に来るたび切ない気持ちになる。





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最終更新日  2011.12.29 22:26:04
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