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2008.12.27
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竹岡敬温/川北稔編『社会史への途』


 主に西洋史研究について、社会史の分野に関しての概観が得られる一冊です。フランス、イギリス、ドイツの社会史研究の流れを通史的に整理した第一部と、病気、家族などのテーマについての研究紹介となる第二部の、二部構成になっています。
 本書の構成は以下のとおりです。

ーーー
はしがき

第1部 社会史の形成
 第1章 [フランス] 「アナール」学派と「新しい歴史」(竹岡敬温)
 第2章 [イギリス] 「残余の要因」から「全体史」へ(川北稔)

第2部 社会史の領域
 第4章 [政治文化] イメージと心性の政治文化史(阿河雄二郎)
 第5章 [教育・民衆文化] 学校をみずからのものに(松塚俊三)
 第6章 [犯罪・刑罰] フーコーと下からの社会史(矢野久)
 第7章 [病気] 栄養不良の社会史―脚気とペラグラ(見市雅俊)
 第8章 [日常生活] 方法としての日常生活―日常生活史・ミクロの歴史学・歴史人類学(山本秀之)
 第9章 [家族] 歴史の中に埋もれていた家族(岡田あおい)
 第10章 [女性] 連続か、変化か―女性の社会史(今井けい)
ーーー

 本書の執筆者紹介を見ると、みなさん時代的には近代史を専門とされておられるようです。

 全部の章について紹介するのは大変なので、興味深かったところについてのみ書いておきます。


 ドイツといえば、近代的歴史学の祖とも呼ばれるランケ(1759生)ですが、彼からいわゆる政治史重視(偏重)の実証主義的歴史学が隆盛となります。ところが、ランケ以前には「社会史に開かれた歴史学」がありました。また、政治史偏重の反省として社会史研究が行われるようになりますが、それも初期は国家を念頭においており、さらにより広いテーマでの社会史が主張されるようになる…というのが大きな流れです。とくに、社会史が放棄され、政治史研究に偏り、ドイツではなかなか社会史研究が発展しなかったという流れが、ドイツの国家的・政治的な背景との関連で論じられているのが興味深いです。

 順番は前後しますが、第1章は、竹岡敬温『「アナール」学派と社会史』の要約版といえるでしょう。ただし、その書の以後の流れ(1994年には誌名が『年報―歴史、社会科学』と変わり、政治史の復権も起こってくるなど)も簡単ではありますが補足されています。

 第2章は、あまりきちんと読めませんでした。社会史研究の現状に対する厳しい警鐘(テーマは魅力的でも些末なものも多いし、それに乗っかるだけで新しい視点や方法を打ち出さないと、あるいは社会全体との関連を見いださないとぱっとしないよ)は興味深く読み、また私自身の勉強をかえりみるに若干耳が痛いですが…。

 第2部はどの章も楽しく読みました。

 たとえば、第8章。「社会的実践」にふれられている具体例が特に面白かったです。たとえば、ある村の有力者が、村のナチスによる嫌がらせを受けます。彼の家にユダヤ人が入っているというのですね。ここで面白いのは、村のナチスの嫌がらせの矛先がユダヤ人ではなくドイツ人に向かっていること。村のあるナチ幹部は、「まっとうな人間なら誰でも出入りして良い」といって、ユダヤ人の出入りを正当化するそうです。ただその人物も、自分たちと関わりのないユダヤ人については、ホロコーストは仕方ないと言っているとか。つまり村では、そこでの生活を円滑するために、村の論理も重要な役割を果たしていた、というのですね。このように村の論理でナチスの論理を再構築することが「社会的実践」の一例です。この観点から見ると、ナチスの支配がそのまま上から下へと貫徹していたわけではない、ということが見えてくるのです。



 全体を通して読むのは久々ですが、面白かったです。個人的な関心からいえば、第2部のような各論が、本書では近代史の事例に偏っていますが、中世史についてどうなのか、という点が気になります。いろいろ本を読みながら、自分なりに勉強していきたいです。

(2008/12/22読了)


*訂正とお詫び*
本記事をアップした際、竹岡敬温/川北稔「訳」としておりましたが、竹岡敬温/川北稔「編」の誤りでした。訂正してお詫びいたします。





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Last updated  2008.12.28 08:04:09
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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