2019.04.23
XML

 かと言って、大きめの子を迎え入れたとして、私が泣くときだけにその子を抱き締めていたら、きっとその子はかなしみしか知らない子になってしまうよなあ。それは、かわいそうだよなあ。愛でられるべく造られたのに、かなしみしか教わらないなんて。それならば、しあわせなときにも抱き締めてあげるべきなのかなあ。けれど、それでは混乱してしまわないかなあ。かなしみとしあわせの両方を教わってしまえば、きっと、どちらの存在もより際立つ。かなしみに怯えさせたくないなあ。しあわせに飢えさせたくないなあ。それならば初めから、かなしみしか知らない子にしようか。くるしい、かなしい、つらい、さびしい。それだけを知っている子にしようか。他に何も知らなければ、くるしいを苦しく思わない、かなしいを悲しまない、つらいもつらくないし、さびしいなんて感じはしない。
 やめよう。そんな、呪いのようなことをしてはいけないね。ひとりぼっちでいたらいい。それが私にとっては何よりの最善策なのだ。今がおかしい。それだけの話。誰かが居てくれている、今がおかしいだけの話。


 先月の記事でも述べたとおり、私は男性が苦手だ。そして、別れる度に慣れはリセットされ、一回目に散々慣れさせても二回目にはまた怯える。筈だった。しかし、兄と合流した瞬間「あ、お兄ちゃんだ」としか思わなかった。ちっともこわくなんかなくて、そのまま家へ行った。私を迎えに来る道中にたこ焼きを買って行こうとしたらしく「希望ある?」と訊かれ、特に食べようとも思わなかったので否定したところ「明太チーズマヨだな」と返って来て、なかなかに下手物を食べるのだなあと思った。帰宅したら兄はまずそれを食べ始めた、が、部屋に入った瞬間「あっ洗濯物畳んでねえや」と言っていたので暇を持て余していた私はその一部を畳んでいたりした。
 漸く食べ終わった兄とする前に、そのとき雑菌に因って膣内が炎症を起こしていること、その原因が洗い過ぎであること、洗い過ぎた理由は前日である土日に他の男とラヴホテルで散々したからだと、正直に白状した。その“他の男”とは現在、再び連絡を取るか迷っているところだ。“女に他の女の話を態とすることで嫉妬させて興奮する”という、何故に事件に巻き込まれないのか不思議な性嗜好を持った男だからだ。そして、セックスが下手で痛かったからでもある。口が上手いだけの男だったからだ。植物にそこそこ明るくて、人間としては素敵なのだが、男としては壊滅的なのである。私が桜と勘違いして送った写真を「桃ですね~」と訂正してくれたので、桃厭《ももあき》さんとでもする。桃厭さんと事に及んだんは、兄に捨てられたと思ったからだった。それを正直に兄に白状したけれど、兄は気にせずにそのまま私を抱いて(やはり避妊せずに)、終わったら眠りに落ちて、お仕事へ行く時間まで眠っていた。眠る前は、「やっぱりにぃにとするほうが気持ち好い」と言ったら「そう?」と少し嬉しそうに返されたり、捨てられたと思いながらも兄に毎日LINEしていたことを「ストーカーだと言われなくて安心した」と話したら「毎日LINEするくらいストーカーなんかにならないって、酷い奴は家とか職場に来る」なんて“ああモテるのだな”と妬いてしまうことを思わされたり、その間に兄はどんどん眠たくなり始めて、「何も趣味が合わない私なんかが懐いてごめんね、私と居ても楽しくないでしょう」と言ったら、口がもう動かなくなりそうになりながら「そんなことない」と兄はもごもごと答えてくれたのを最後に、本格的に眠った。ぎりぎりまで眠ってもらって、私が帰れる最終列車が行ってしまう時間まで寄り添っていた。兄は深夜に働いているが、流石に仕事へ出ている間に他人が自宅に居ることは耐えられないらしく、私はぱらつく雨のなか池袋まで行き、一人でラヴホテルに泊まった。退屈だったから桃厭さんとLINEした後、眠った。貸出サービスをしていた筈の私が使っているシャンプーとコンディショナーは取扱いが終了していて、髪も洗えぬまま翌日に新たな次の為のアフターピルをもらう為に婦人科へ行った。
 その後、六日後の七日。LINEでナヴィゲイションしてもらいながら、また兄の家に御呼ばれされて行った。最後の最後にナヴィゲイションに逆らって夜桜に飛びついたら道を通り過ぎてしまい、さて兄の家への道中に郵便局などあっただろうかと訊いてみたら「それは行き過ぎだぜ」と。顔を合わせた兄は、やはりちっともこわくなかった。
「今日は制服デートね」と言われて、ロリータ・コンプレックス気味の兄に女子高校生の制服を着せられた。おとなしく着る私もどうかと思う。「会いたかった?」と訊かれて肯定したら、「そっか」と優しく笑うなんて、あまりに狡い。その声で指示されたら、私は容易く淫らな姿でもカメラに納めさせてしまう。今年で二十六歳になる身を学生服姿に包んで、脚を開いていたって。兄は釦を一つずつ外しては一枚撮るという、なかなかの拘りを見せていた。行為の前、何故か兄は自分の身体の部位ではどこが好きかと私に訊くので、わけもわからず“足”と答えた。爪先だ。それと、髪か。あの質問は何だったのだろうな。行為中も兄は「疲れない?」、「もしかして俺、横になった方がいい?」と気遣ってくれたけれど、兄の好きなようにしてくれたらいいと思っていた。
 眠って起きた後、ふとした会話の流れで私が毎日相変わらず送っているLINEをきちんと読んでくれていることを知り、嬉しかった。嬉しかったから、下手に落ち込んでもいられないと思い、私は「にぃに。最後にもっと触って」と、あちこち撫で回してもらった。それから抱き合って、口付けをして、撫でてもらった。
 帰り道、途中まで送ってくれる最中。兄はちゃらちゃらとした見た目だが、職業上ピアスが開けられないと言う。それならばアーマーリングをつけてはどうかと提案したが、合わせづらいから駄目とのことだった。私のは可愛いよと、その日につけていたものを見せると「知ってる。前もつけてたでしょ?」と。そうだ、エイプリル・フールにもつけていたさ。どうして、そこまでよく見てくれているの?

 三回目の逢瀬(笑)の前日、不運にも私は同い年の雰囲気が可愛らしい男の子と知り合っしまっていた。シングル・ファザーで、たった一人の我が子を溺愛している。しかし、平気で他人を見下し、人当たりの良さで必ず自分にとって有利か或いは誰よりも優位な立場に必ず立ち、他人を掌の上で踊らせることも利用することも愉しんでしまう。同僚に対しても「使えないし、誰にも話しかけてもらえないし、早く辞めればいいのにね。可哀想」と、その直前まで会話していた声から一変して、まるで冷たくて細かい砂粒みたいにさらさらと胸の奥に詰まって凍てつかされるかと思う様な声で言い放った。そこで、私だって以前のアルバイト先ではちっとも仕事が覚えられなかったし学生時代は孤独で誰にも話しかけてなどもらえなかったから変わらない底辺だ、と返した。すると、「でも刑務所、入ったこと無いでしょ?」と随分と極端なことを言う。意味も解らずに無いに決まっていると答えたら「じゃあ底辺なんかじゃないよ。俺、前に刑務所の看守やってたんだけどさ。あいつら人間じゃないよ」と。背骨が、簡単に砕けるような氷になってしまった気分だった。
 私は平気で直接攻撃してくる人間にしか会ったことが無かった。こんなにも、グロテスクな心を持った人間を知らなかった。吐きそうになりながら、そのグロテスクな姿も愛おしくて、嫌になった。
 けれど、その子は兄の存在が気に入らなかったりと、一時的に私への好意を見せた。私が自分の過去の(碌なもんではない)恋愛に関する話をすると、すぐに嫌がって離れようとした。それで十日の水曜日、「自分は昔のことを全て知りたいが、知ると心が壊れる。(それならばつらいと思うであろうことはぼかすと伝えると)自分はおかしいからぼかされることも嫌だ。人間を独占したい、支配したい、コントロールしたい。自分だけのものにしたい。できないのならば要らない」と言われて連絡を断たれそうになった。それならば、すきにしたらいい。そう答えても「できるわけがない。人間は居なくなる」と答えられたから、そっくりそのまま返してやりたくなった。「上辺だけの付き合いならば居なくなろうと傷付かないと理解していてもそれができないことが解った」と、聞く耳を持たない。君のものにしたらいいと言っても、やはり「会っていないときは自分のものではない、そう考えるだけでおかしくなる」などと狂ったように喚き散らして、LINEが途絶えてしまった。けれど、翌朝には落ち着いて、通話してくれた。それなのに、私はその子が居なくなるだろうと見越して、兄にセックスしたいとLINEしてしまっていた。忘れたくて。それを兄が、通話中に快諾する返信をしてしまったのだった。その子は「行っておいでよ」と言ってくれたから、私はおとなしく行った。

 十一日はナヴィゲイション無しで、兄の家へ記憶だけで辿り着くことができた。猫が二匹まったりとしていた。家に上がると、真っ先に「俺、寝起きでさあ。まだシャワー浴びてないんだよね。俺の身体、洗ってくれる?」と言われ、洗った。それから、また制服を着た。兄との行為は私が兄に奉仕することが多い筈が、今日は兄にたくさん触れられた。この時点で、何だかおかしい気がしていた。
 終えた後、やはり兄は眠るべく「ほら、おいで」と私を隣に横たわらせてくれた。眠るまでその子の話を聞いてもらおうとしたら、いつもは軽いノリでどんな話も受け流してくれる兄が「うん、興味無いな」と遮って斬り捨てられてしまった。何が起こったのか解らないでいる内に、兄は「もういいから、俺だけにしとけって。俺以外の男とすんな」と私を叱った。だって、桃厭さんのことは何とも言わなかったのに。けれど、そう、あれは兄が私に勘違いさせて起こったことだったから、許してもらえただけだった。それに、桃厭さんのことがあった後に会った日、私はたしかに「もうお兄ちゃんだけにする」と言っていた。けれど、信じてくれていると思っていなかった。あまりに今更だったから、それならば兄の他の遊び相手達は一途なのかと問えば、「んや。大体一回きり」なんて、何も言えなくなる答え。私をどう思っているのか聞けば「やたら俺に会いたがる変な子」。その子とも、してはならないと言われてしまった。「他の男が触った女を抱きたいとは思わないね」なんて。
 兄が眠った後、スマートフォンを手に取ると、その子から「すてるなら、はやめにして」と酷く弱った内容のLINEが来ていた。そう、この子は、とても脆い。嗚咽を聞いたことは無いが、苦しんでいる。私と出会う前から。
 二十一時を過ぎた頃には着替えて、帰る前にまた兄に撫で回してもらった。抱き合って触れ合っていたら耳を食まれて、そんなことは滅多にしないひとだから驚いてしまった。セックスの間も、内腿に何回もキスをされた。「自分の与える快楽だけを感じていればいい」、「この身体は俺のものだ」と念押しされているかのようで。束縛が気持ち好くて、苦しかった。
 兄には、嘘を吐いた。「じゃあ、お兄ちゃんだけにする。その代わり、もっといっぱい遊んでよね!」と。すると、兄は「うん」とはっきり答えた。兄は「もっとかまって」だとか「次はいつ会える?」だとか、確約のできないこと等ははぐらかしてしまう。けれど、「うん」としっかり答えるときは、本当のことなのだ。嘘ではないのだ。それを、過去三回で学んだ。私より余程に誠実で、私は何と最低なのだろう。
 動けない。

 その子には、プロポーズをされていた。「会ってみて、いいと感じたら、結婚してほしい」と。兄には十一日に「一途でいたらワンチャン付き合えたりするの?」と訊いたら「無いねー」と答えられている。未来は無い。けれど、その子には子供が居る。その大切な子供の母親に、私がなると言うのか。学習障害を持ち、頭が悪い私が。傷だらけの腕をぶら下げ、精神疾患を内包する私が。
 そんな真剣な話をしようとしていた中、何度もやはりその子は嫌になって逃げようとしたりしつつ、落ち着いて来たと思っていた。が、一昨日になって、前妻が忘れられなくてつらいと言って、また私から離れようとして、現在「私は居てはだめ?」との質問への回答待ちなのだ。だから、名前をつけていない。居なくなれば、ただの夢として片付ける。そして、完全に兄のものになる。
 けれど、もしも、あの子が居なくならないで、居てくれたとき。いつか、ぬいぐるみを買ってもらおう。そうしたら、かなしいときもしあわせなときも、抱き締めていよう。あの子とお話をしているときにも抱き締めていよう。かなしみと、しあわせと、ありったけの愛を教えてあげられる。そうやって色んなきもちを教えよう、混乱するかもしれないけれど、きっとかなしいだけやしあわせなだけよりも、楽しい筈だから。
 なあんつって、有り得ないのだけれど。居なくなるのだよね、あの子も、兄も、皆。
 けれど、こうして私がぬいぐるみを欲するように、二十五歳なんて所詮は子供だ。あの子だって、まだこどもなのだ。ひとりになってはいけないし、守られなくてはならない。守る立場にある人間を守ってくれる人間は、そう居ない。何かを守れるのならば守らなくていいと、他人は勿論、自分でもそう思ってしまう。それを知っている筈だ。だから私に、君を守る権利と大きめのぬいぐるみを、くれよ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2019.04.23 23:44:33
コメント(0) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: