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著者・編者 | 京井良彦=著 |
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出版情報 | アスキー・メディアワークス |
出版年月 | 2012年06月発行 |
著者の京井良彦さんは電通に勤務し、民間、官公庁、グローバルと多岐にわたるクライアントを担当する一方で、来るべきソーシャルメディア時代の新・生活者消費行動モデル概念 『SIPS』 開発メンバーのメンバーでもある。
冒頭で京井さんは、行動履歴分析に基づくレコメンド広告が気味悪がられる点を挙げ、「それが伝わらないのであれば、広告として追求する意味があまりなくなってしまいます」(30 ページ)と指摘する。そこで、つながりを重視するソーシャルメディアに視点を移す。たしかに、Google で検索をしているとき、自分が住んでいる近くの不動産物件の広告が出るのは余計なお世話である。そんなことをやるリソースがあるのなら、もっと検索精度を上げていただきたい。
京井さんは、現代社会が「人間関係が自由になっている」とした上で、それは「裏を返せば、『自分は何者なのか』ということをコミュニティの中で規定していかなければならない」(77 ページ)と指摘する。そのためにソーシャルメディアが大きな役割を果たしているという。
実際、私が Twitter でフォローしている多くの若者は独身で、その場でリアルに繋がっている他人がいないようです。そういう人は呟く回数がとても多い。さらに京井さんは、「ソーシャルメディア時代の人々のマインドを読み解く際に、ローカルの尊重ということも重要になっていくでしょう」(94 ページ)と指摘する。
これは、超大国による冷戦終結から民族主義へ移行しつつある現代社会を映しているかのようだ。
ソーシャルメディアはファンを集める。そして「ファンは共感することによって、自らの推薦をつけてブランドを広げてくれたり、自覚せずともその拡散に貢献してくれたりします」(116 ページ)という。その結果、広告という「コンテンツは自走する」ことになる。京井さんは「お客様は神様です」は古い考え方であり、ソーシャルメディア時代は禅で用いられる「主客一体」(135 ページ)であるという。
京井さんは「ソーシャルメディアの浸透による情報の透明化が進み、企業活動とブランドは 360 度生活者の視点にさらされるようになりました」(153 ページ)と書いている。
これは事実だろうが、等身大の姿をさらすということは、良いことばかりではない。光があれば必ず影がある。影が炎上をもたらすこともあるのだ。
ただ、人が影のある人間に魅力を感じるように、影のあるブランドが嫌われるとは限らない。残念ながら、本書はブランドの「影」の部分については触れていない。
京井さんは最後に、企業とファンの関係を維持継続する方法としてゲーミフィケーションを挙げている。「ゲーミフィケーションの真髄は、報酬などの外発的な動機によって行動を始めたらいつの間にか課題が自分の目標に転換され、それをクリアし続けたいという内発的な動機が働き始める」(201 ページ)というものだ。
「つながる広告」の反例を見聞することは多い。
たとえば最近、Panasonic が、旧三洋電機の充電池「eneloop」のブランドロゴを小さくするという出来事があった。私を含め、eneloop には多くのファンがいた。こうしたファンの気持ちを踏みにじる企業のエゴとして、ソーシャルメディアで話題になった。
「つながる広告」の時代、ブランドは企業だけの独占物ではなくなった。社会貢献をうたうなら、企業法人は一人の社会人として社会生活を営むという意識を持つべきだと感じた。
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