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著者・編者 | アイザック・アシモフ=著 |
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出版情報 | 早川書房 |
出版年月 | 2004年8月発行 |
ロボット工学の三原則
第一条 ロボットは人聞に危害を加えてはならなレ。また、その危険を看過することによって、人聞に危害を及ほしてはならなレ。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
――ロボット工学ハンドブック、第56版、西暦 2058 年
アイザック・アシモフのロボット SF短編を、US ロボット社の主任ロボ心理学者スーザン・キャルヴィンの回顧録という形でまとめている。物語は、1996 年に製作された子守ロボット「ロビイ」から始まる。
欧米のロボット SF にはフランケンシュタイン・コンプレックスが付きまとうが、アシモフは「ロビイ」で早くもその問題を払底する。主人公の母にその役割を負わせたのは、『フランケンシュタイン』の作者である メアリー・シェリー の生い立ちを意識しているのではないか。そう感じさせる名作である。
続いて、グレゴリイ・パウエルとマイケル・ドノバンのコンビが太陽系でロボットを巡る騒動を収める「堂々めぐり」「われ思う、ゆえに‥‥」「野うさぎを追って」が続く。この 3編は、ロボット工学の三原則を巡るミステリー要素が強く、後の長編シリーズにつながる。また、アシモフのキリスト教に対する立ち位置がよく分かる作品となっている。
次に、読心ロボット・ハービイの物語だ。このエピソードは、後の長編『夜明けのロボット』で引用される。本編では、ハービイはロボット工学の三原則のジレンマに陥り、研究所長のラニング博士もそれを見破ることができず、スーザン・キャルヴィンに「うそつき!」と罵られて終わる。
アシモフの SF 世界では、コンピュータの作業もロボット(陽電子頭脳)が担当する。だが、陽電子頭脳では、人間に危害を及ぼす可能性があるハイパージャンプ(ワープ)宇宙船の設計ができない。スーザン・キャルヴィンが、意図せずこのハードルを超えてしまう話――「逃避」。
市長選に立候補した高潔な法律家スティーブン・バイアリイは、果たしてロボットなのか――スーザン・キャルヴィンやラニング博士が、US ロボット社の命運を賭けて、その謎解きに挑む「証拠」。スーザン・キャルビンはバイアリイに向かって、こう言う。「わたしはロボットが好きです。人間よりもずっと好きです。もし行政長官の能力をそなえたロボットが製作されたら、それは行政官として最高のものになるでしょうね。ロボット三原則によれば、彼は、人間に危害を加えることはできないし、圧政をしくことも、汚職を行なうことも、愚行にはしることも、偏見をいだくこともできないのですからね」。
バイアリイは、2044 年、初代の世界統監に就く。そのころ世界を動かしていたのはマシン――今で言うスーパーコンピュータ――だった。そして、マシンは非常に複雑になったロボットの頭脳=陽電子頭脳だった。だが、世界の動向がおかしい。そう感じたバイアリイは、引退したスーザン・キャルビンを呼び出す――「災厄のとき」。
スーザン・キャルビンは言った。「でも、マシンは一個人のためにではなく、人類全体のために働く、そこで第一条はこうなります。〈マシンは人類に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人類に危害を及ぼしてはならない〉」――これこそ、35 年後に刊行される『ロボットと帝国』で、ロボット・ダニール・オリヴォーが再発見した第零法則である。バイアリイのポジションは、10 年後に発表された『二百周年を迎えた男』のロボット・アンドリュウや、ロボット・ダニール・オリヴォーによく似ている。
こうして、ロボットの物語は『鋼鉄都市』へ続いてゆく。
スーザン・キャルヴィンは 1982 年生まれ、2064 年死去という設定だから、今年(2018 年)、36 歳となる。学位をとったのは 2008 年だ。研究者として脂ののった頃だろうか。現実世界は陽電子頭脳ではなく、人工知能がトレンドであるが――本編の最後にスーザン・キャルビンはこう言った。「わたしの人生はもうおわり。このあとを見とどけるのはあなた方ですよ」。
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