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著者・編者 | 高水裕一=著 |
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出版情報 | 筑摩書房 |
出版年月 | 2023年2月発行 |
タイトルに惹かれて買った。『 グラップラー刃牙 』『 ドラゴンボ-ル 』『 キングダム 』といった漫画をオマージュしながら宇宙物理学の解説をするのは、 スティーブン・ホーキング博士 に師事した高水裕一さん。専門は宇宙論。2021年に読んだ『 物理学者、SF映画にハマる 』『 宇宙人と出会う前に読む本 』も面白かった。
高水さんは、宇宙最強の基準として、「大きさ」「重さ」「電気」「速さ」を挙げる。太陽の約1700倍の大きさを誇る巨大恒星 たて座UY星 、約1000兆ガウスの磁気を発する マグネター 、約100万兆アンペアの電流が流れる 電波銀河 、太陽の約300~500倍の重さがあると考えられている第一世代の恒星「 POP III 」。速さの第1位は光子だが、僅差でオー・マイ・ゴッド粒子、ニュートリノが続く。
現在この宇宙においては、 ダークエネルギー の占める割合が約69%、次に ダークマター が約25%、3位は バリオン で約4.8%、4位が光で約0.0055%。この割合は宇宙の歴史の中で変化してきた。ビッグバンから約5万年間は光が優位で、それから100億年までの間はダークマターが優位になり、現在はダークエネルギーがトップの座を占めている(132ページ)。
ダークマターは光と相互作用しないという不思議な性質を持っており、望遠鏡で見ることができないが、質量はあるので重力レンズ効果を見ることで間接的に観測ができる。ダークマターがなければ星や銀河は誕生しなかったと考えられており、天の川銀河では、中心に存在する巨大ブラックホールの質量のおよそ20万倍以上のダークマターが直径30万光年の球体「 ダークハロー を形成していると考えられている。
『 なぜ宇宙は存在するのか
』(野村泰紀、2022年)によれば、宇宙の膨張につれてダークマターやバリオンの密度は下がるが、ダークエネルギーだけはエネルギー密度が下がらない。このため、宇宙で時間が経過すればするほど、ダークエネルギーの割合が増えてゆく。アインシュタインが一般相対性理論の方程式に導入した 宇宙定数
の正体がダークエネルギーである。定数なので変化しないのだ。
アインシュタイン方程式を解いて膨張宇宙を予言したフリードマン方程式
によれば、 宇宙においては重力を制するものが覇者
となるという。その右辺に宇宙項を入れるとダークエネルギーを表し、左辺に移項すると、それは時空構造としても解釈できる(156ページ)。
いまから100億年後の宇宙は銀河がまばらになり、10の20乗年後には銀河がバラバラになると予想されている。10の34乗年後には陽子の崩壊が起こり、10の100乗年後には銀河中心の巨大ブラックホールが蒸発するという。ブラックホールが蒸発して消えて無くなると、増大して貯められてきたエントロピーが宇宙空間から消えてなくなり、時間が逆転するかもしれないという。
あっという間に読み終わってしまった。バトル漫画を読んでいるような面白さだけでなく、知識の更新にもなった――。子どもの頃、アンドロメダ銀河は天の川銀河から200万光年彼方にある双子の銀河と教わったが、いまは違う。距離は約260万光年。直径は22万光年で天の川銀河の2倍以上。星の数は約1兆で、天の川銀河の2000億個の5倍。形状も天の川銀河の棒渦巻状に対し、渦巻き状と異なる。しかも、天の川銀河へ向かって接近しており、およそ60億から70億年後には合体して1つの巨大銀河になるという(101ページ)。
バリオン、ダークマター、ダークエネルギーをめぐる最新の知見は、ちょうどNHK『 コズミックフロントω
』でも取り上げられ、ホットな話題だ。
この宇宙が遠い未来に ビッグフリーズ
や ビッグクランチ
に至る話は、古くはH.G.ウェルズのSFを映画化した『 タイム・マシン 80万年後の世界へ
』(1960年)、近いところでは『 機動戦士ガンダムUC
』(2016年)で映像化された。
本書では触れられていないが、そこから マルチバース
が起きるのかどうか――これは『 AKIRA
』(1988年)で映像化された。漫画・アニメと宇宙論は相性がいい。
ちょうど本書を読み終わった日、 松本零士
さんの訃報に接した。私に大宇宙への関心を呼び覚ましてくれた松本零士さんが、宇宙の彼方へ向かう道中のご無事をお祈りしたい。
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