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万雑711_万葉集に載っている柿本人麻呂の歌_15
次も、人麻呂の妻が亡くなった時に人麻呂が泣き悲しんで作った歌の2首目で、
長歌(210)と短歌2首(211、212)です。
210_「うつせみと 思ひし時に 取り持ちて 我が二人見し 走り出の 堤に立てる 槻の木の こちごちの枝の 春の葉の しげきがごとく 思へりし 妹にはあれど 頼めりし 児らにはあれど 世の中を 背きしえねば かぎろひの 燃ゆる荒野に 白たへの 天領巾隠り 鳥じもの 朝立ちいまして 入日なす 隠りにしかば 我妹子が 形見に置ける みどり子の 乞ひ泣くごとに 取り与ふる ものしなければ 男じもの わきばさみ持ち 我妹子と 二人我が寝し 枕づく つま屋のうちに 昼はも うちさび暮らし 夜はも 息づき明かし 嘆けども せむすべ知らに 恋ふれども 逢ふよしをなみ 大鳥の 羽易の山に 我が恋ふる 妹はいますと 人に言へば 岩根さくみて なづみ来し 良けくもそなき うつせみと 思ひし妹が 玉かぎる ほのかにだにも 見えなく思へば
」
※_「この世の人(
うつせみ)と思っていた時に、手を取り持って二人で眺めた、長い堤の上に立っている槻の木のあちらこちらの枝の、春の葉が茂っているように若々しいと思っていた妻なのに、頼りにしていた人なのに、無常の世の定めには背くことができないので、陽炎の燃え立つ荒野に、真っ白な天人の領巾のような雲に隠れ、鳥でもないのに朝立をされて、入日のように隠れてしまったので、妻が形見に残した幼子が物を欲しがって泣くたびに、取り与える物がないので、男なのに脇に抱きかかえ、愛する妻と二人で寝た、(枕づく)寝屋の中で、昼は心さびしく暮らし、夜はため息をついて明かし、嘆くけども今更どうしようもなく、恋い慕っても逢うすべもないので、(大鳥の)羽易の山中に、私が恋い慕う妻が居られると人が言うので、岩を踏み割り苦労してここまで来た、そのかいも全くない、この世の人だと思っていた妻が、(玉かぎる)ほんやりとも見えないことを思うと
」
と歌っています。
211_「去年見てし秋の月夜は照らせども相見し妹はいや年離る」
※_
「
去年見た秋の月は今も照らしているが、共に月を見た妻は、ますます遠い日の人となってゆく
」
と歌っています。
212_「衾道を引手の山に妹を置きて山道を行けば生けるともなし」
※_「(
衾道を)引手の山に、妻を置いて来て山路を帰って行くと、自分は生きている気力もない
」と歌っています。
以上
万雑713_万葉集に載っている柿本人麻呂の… 2024年06月28日
万雑712_万葉集に載っている柿本人麻呂の… 2024年06月23日
万雑710_万葉集に載っている柿本人麻呂の… 2024年06月21日