2007年04月29日
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カテゴリ: 映画日記

2005年度フランス作品。

監督はジャック・オーディアール。

出演はロマン・デュリス、エマニュエル・ドゥヴォス。

久しぶりのフランス映画で楽しみだった。

監督や主演男優は知らない人だったが、悪辣な不動産ブローカーの若者がクラシックのコンサートピアニストを目指すと言うプロットに惹かれて観る事にした。

主人公28歳のトムは、亡くなったピアニストだった母親と悪徳不動産ブローカーの父親の遺伝子を半々に受け継いでいた。

現在はもっぱら悪徳不動産ブローカーとして生活していた。

手に入れたアパートに居座るホームレスを追い出す為にねずみを放して嫌がらせして追い出したり、老いた父親に強要されて暴力をふるってお金の取りたてたりの日々だった。

上司が奥さんに浮気がばれそうになってて、それのカモフラージュなんかもしていた。

その全てが気の進まぬ事で、心は満たされる事なく、ささくれ立っていて、そんな自分に嫌気も差していた。

そんな時偶然亡き母のマネージャーと偶然出会い、トムにコンサートピアニストのオーディションを受ける事を勧められ、忘れていたピアノニストへの気持ちが蘇って来て、トムの心も生活も変わって行くのである。

最初は弾ける事だけで喜びを感じ、次第に自分の思い通りに弾けなくて癇癪を起こしたり、でも又気を取り直して弾き始めたり、ピアノを習っていた幼少の頃の自分を観ているようだった。

それもトムがチャレンジしていたのがバッハだったから。

ピアノを習っていた時、副教材としてよくバッハを弾かされ、その難解な旋律に私の小さい指と幼い精神年齢が着いて行けず、退屈で嫌で嫌で堪らなかったのを思い出した。

トムは中国人の留学生ミャオリンから指導を受けるが、ミャオリンはフランスへ奨学金留学生として来たばかりでフランス語を全く話せず、おまけに部屋では禁煙と言う事で、トムは最初から癇癪を起こす。

更にミャオリンの指導は厳しかった。

弾けないと同じ箇所を何度も弾かせて先に進ませなかったり、トムが満足の行く出来栄えに満面の笑みでミャオリンを振り返っても、ミャオリンが渋い顔をしていたり、その度にトムは癇癪を起こす。

しかしミャオリンはトムが素晴らしいと認めざるを得ない程のテクニックを持っていて、トムは癇癪を起こしつつも、オーディションに受かる為にはミャオリンに指導してもらわないわけにはいかなかった。

ミャオリンに教えてもらう午後2時と夜中自宅で練習する時間以外は不動産ブローカーの時間と言う2重の生活だったが、いつしかトムの頭の中はピアノで占められて、仕事でミスをした。

いつも弾いてるつもりで指を動かしイメージトレーニングして、ウォークマンでバッハを聴いていた。

不動産ブローカーの時のささくれ立った顔とピアノに向かっている時の顔は全く違う。

でもその両面が母親の遺伝子と父親の遺伝子の存在で、不動産ブローカーの時のささくれ立った顔は、父親と父親の職業への嫌悪感であり、ピアノを弾いている時の陶酔した顔は、亡き母親への思慕とピアニストへの憧れの自分の気持ちが出ているのではないだろうか?

子供は誰しも父親と母親の遺伝子を受け継ぐが、トムのこの両極端の遺伝子!

悪徳不動産ブローカーの父とピアニストの母がどうやって知り合って結婚したのか、作品の中では語られてないが、父親の部屋にはまだ親子3人の写真が飾ってあった所をみると、飲んだくれの救いようのない父親の心に、今でも例えかすかでも、母親への愛情と3人で過ごした日々の思い出が残っているのだろうか?

トムは夜中のピアノの練習の合間に有名なピアニストのビデオを観てイメージトレーニングをする。

そのピアニストがホロビッツ。

あのでかい手ごつい指から奏でられるとは思えない繊細で表現豊かな音色のホロビッツ。

初めてテレビで観た時動きが少ないと言うよりも、ほとんど固定してるんじゃないかと言うくらい腕を動かさないのに比べて、ごつい指は猛烈に動いてて衝撃だったのを覚えている。

CDから来るイメージとはまるで違う、そのギャップ!

トムはホロビッツみたいに弾きたいの?

有り得ない(爆)

ある日父親は殺される・・・作品は、それから2年後に飛ぶ。

トムはプロになったミャオリンのマネージャーになっていた。

ミャオリンをコンサート会場に下ろして、駐車場へと向かう途中偶然父親を殺した犯人を見かける。

2年後のトムは父親の世界から足を洗って、母親の世界で生きているようだったが、やはり父親の遺伝子はトムの中に潜んでいたのね。

犯人の後を付けて行き敵討ち。

ピストルを奪い取って銃口を向けるが、引き金を引けば確実に殺す事はできる。

しかし引き金を引く事ができない。

引き金を引かせなかったのは、母親の遺伝子だろうか?

トムは血だらけになりながら、コンサート会場の客席に戻る。

席に着いてから、血だらけのままミャオリンのピアノを聴いていた。

そのコンサート会場には似つかわしくない血だらけの姿で、ミャオリンの奏でるピアノを聴いて陶酔していた。

このギャップはトムなんだ。

トムはこのギャップにどう折り合いを付けるのだろう?

主人公に扮したロマン・デュリスは、主人公のどちらにも行ききれない混沌とした心の中の苛立ちをよく表現していたと思う。






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最終更新日  2007年04月29日 11時27分00秒 コメント(1) | コメントを書く


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