桜工房(だったところ)

桜工房(だったところ)

#3



 かつての王城を改築し建てられた聖エルダー学園の中には、小、中、高等部、そして大学施設のすべてが入っている。
 そして、その中の中等部の2-Gの教室では、朝のミーティングの前から生徒が騒がしくしていた。
 40人はいる生徒が、黒板の前に群がってなにやら書き込みをしていた。黒板の中央に横書きで、一際大きく書かれた文字にはこうあった。

 ようこそ、転入生さん!!

 この日、2-Gにはその時期としては珍しい転入生が来ることになっており。Gクラスの生徒たちは、クラスリーダーのシオンという名の少女の指示で、転入生を歓迎するための言葉やイラストといった思い思いのものを書いているところだった。
 中にはそれに参加せず本を読んだり、窓からの景色をぼんやり眺めているもの、居眠りしているものなどいたが、ほとんどの生徒は参加していた。まずまずの団結力のある学級といえそうだ。
 もっとも、肝心の指示を出した本人は、一言二言のコメントを書くとそれで飽きてしまったらしく。教室前列の机に腰を下ろしては、文句ばかり言っていた。
「だめだめ、そんなことでは私は満足できないわよ」
 シオンは黒く長い髪を手で払った。
 その言葉に、背の高い男子に混じって黒板の一番高い部分にイラストを描いていた。青い短い髪に小麦色の肌をした少女、ミオが振り返る。
「シーオーンー!」ミオは眉間にしわを寄せる。
 シオンとミオ――この二人は互いに強敵(とも)だちと認め合う仲で、何かと衝突するが多い。
 一触即発な、二人の様子にいち早く気づいたのは、プラチナブロンドのふわふわの髪をポニーテイルに結び、縁の丸いめがねを掛けた小さな少女、カナエだった。
「だ、だめだよ~。ミオ~さん! こんなところで二人が暴れちゃ、台無しになっちゃう!」
 二人と中等部一年生のころからの付き合いであるカナエは、二人が揉めそうになった時の対処のコツを心得ていた。シオンに比べてミオの方が、いくらか自制心があるので説得するならミオの方に限るのだ。
 カナエに引き止められたミオは、しばらくシオンと睨み合った後で気を取り直し、再び作業に戻った。一方、シオンは、カナエにも睨まれて軽く肩をすくめるのだった。

 教室の後ろの席、黒板のところから廊下側の自分の席に戻ってきた、長い茶色い髪にめがねの奥の赤い目が印象的なマヒロは、自分の後ろの席に座って分厚い本に目を通している、長い銀髪の少女、エレンに声を掛けた。
「エレンさん、何か書かないのぉ?」
 二人は、特に親しい仲ではなかったが。席が前後に並んでいるので、マヒロの方からたびたび声を掛けることがあった。
「…」本から感情の薄い顔を上げたエレンは、マヒロを見て呟くようにいった。「…もう、書いたわよ」
 そうして、片手を挙げて黒板の方を指差した。 
「え…?」マヒロは少し慌てて黒板を振り返り、エレンが指差す方を見た。
 そこには確かに何かが書いてあった。文字とも記号とも取れる不可思議な模様が。エレンが読んでいる本にも同じようなものが書かれている。
「いつの間に…。あれを書いたの?」とマヒロ。
 エレンは無言でうなずく。
「ふ、ふーん…。そっか、なら良かったわ…。あは、はは…」
 乾いた笑いをしながらマヒロは自分の席に着く。
(やっぱ、魔女ね…、魔女なんだわ…)
 心の中でマヒロは身震いをした。
「ふふふ…」
 自ら魔法使いと言ってはばからないエレンは、怪しい笑みを浮かべていた。


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