桜工房(だったところ)

桜工房(だったところ)

#17



「まったく、なんだか雲行きが怪しいから。もしやと思ってきたら…」
 カオスの首筋に薙刀の刃を押し付け、彼から目を逸らさずにシオンは言う。
「本当、間に合ってよかったよ。間一髪だったねぇ」
 ミオはうなずきながら、抱えていたハルカを下ろした。
「あ、ミオお姉ちゃん。ありがとうです」
「いえいえ」
 礼を告げるハルカに、ミオはニコニコと微笑み返した。
「でも、どうしてここだと?」カナエは不思議そうな顔をする。
「前にもあったからよ」
「前にもあったんだ」
 シオンとミオは同時に即答した。
「この前はゴブリン30匹だっけ?」ミオは懐かしい思い出話をするようにいった。
「そうそう、思う存分薙刀が振るえてすっきりしたのよ」とシオンは少し怪しい笑みを浮かべる。
「知らなかった…。エレンさん…?」
 ジトッとカナエはエレンを睨んだ。
〈ごめんなさい。反省します…〉
「そうじゃなくて、何で私に内緒なの?」
〈ゴブリンは低級の妖魔だけど、カナエは二人みたく戦うことが出来ないから…〉
 頬を膨らませるカナエに、エレンは本当にすまなそうな顔をした。
「あら? エレンさんはどうして口で言葉を話さないのかしら? 唇は動いているのに…」
「話さないんじゃなくてぇ、話せないんですよぉ」ハルカが説明する。「その人に口で声が出せないような魔法を掛けられたんです」
「あちゃー」ミオは短い髪をかきながら困った顔をする。「それって何だか、すごーくまずい展開じゃない?」
〈ええ、状況は極めてまずいわ。ゴブリンが可愛く思える状況よ…〉

「ゴブリンなどと一緒にしてもらっては困るな。心外だ…」カオスが言う。「一目で、君たちが使い手であることはわかるが…。しかし、私の敵ではないな…」
 と、カオスはいつの間にかシオンの薙刀の刃を掴むと、片手でシオンの体ごとそれを振り回し始めた!
 ブゥゥン!
「そ、そんな! いや…!」
 シオンは驚いた顔をしながらも必死で薙刀にしがみつく。
「てぇぇい!」
 そこへ走りこんで一気に間をつめたミオが、カオスの頬めがけて渾身のパンチをお見舞いする!
「な…! ウガァ!」
 体が浮きあがるほどの強烈なパンチを食らったカオスは、薙刀の刃を手放して、壁に体を激突させた。
 一方、カオスが薙刀を手放したことで解放されたシオンは床に尻餅をつく。
「いったーい…」うっすら目には涙が浮かんでいる。「ミオ! フォローしなさいよねぇ!」
「ごめんごめん!」ミオは苦笑した。
「もう、私の形の良いお尻にあざが出来たら責任とってもらうわよ!」
「リ、リーダーさん…今はそんなこと言っている場合じゃぁ」
 というハルカをシオンは睨みつけた。
「だまらっしゃい! 今、言わないと後でわすれちゃうじゃないの!」
 この言葉にカナエとエレンも苦笑した。
 ハルカは泣きそうな顔をする。
「で、でも…」

「…なかなかやってくれるな」
 壁に体を叩きつけられたカオスがゆっくりと起き上がった。
「げ…。今ので起きるとは…」ミオは意外そうな顔をする。
「ふふふ、今のパンチは効いたぞ…。背の高き少女。よくも私の美しい顔を…!」
「何言っているのよ! 本当に美しい顔っていうのは、私の顔でしょ!」
 ここぞとばかりにシオンが主張すると、カナエは少しあきれた顔をした。
「シオンさーん、そんなこと後でいくらでも聞くから~!」

〈みんな目を閉じて!〉
 唐突に頭の中にエレンの声が響き、ハルカたち四人は言われるまま目をつぶった。

 そして――
 ガシャーン…!
 何か、ビンのようなものが割れる音がした顔と思うと。部屋中に目を閉じていてもわかるようなまばゆい光が、一瞬にして広がった。

「きゃ!」
「な、なに! まぶしいよぉ!」
「く、目くらましか…! しまった…!」

〈さぁ、みんな一度この場を撤退よ…!〉
「え、えぇ…!」
「ハルカちゃんとカナエちゃんは、ボクが担いでいくよ…!」

 エレンが叩き割ったビンには、空気に触れると一瞬でまばゆい光を放つ魔法薬が入っていたのだった。
 そして、五人は何とか「エレンの館」から脱出した。


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