桜工房(だったところ)

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#21



 大図書館へと向かう道のりを急ぐ、ハルカ、シオン、なぞのシスターことマヒロ。

「本当にぃ、こんな作戦でうまくいくのかなぁ~~!」
 シオンに手を引っ張ってもらいながら走るハルカが不安そうに言った。
「そう? 私はこういう作戦は大好きだけど」シオンは心底楽しんでいる風にそういった。
「気に入ってもらえてよかったですわ」二人の後に続くマヒロは言った。

 一方、エレンの家を目指すチームはというと…。

 そちらは体が軽い二人を、両脇に抱えてミオが学園の裏にある林を目指して爆走していた。
 普通であれば無茶といえるが、三人で仲良く走るよりもこの方が早いという理由から、この案が採用されたのである。

「み、み、み…!」
 ミオの名前を呼ぼうとしているのか、カナエは先ほどから「み」と連呼するばかりで言葉の後が続かない。あまりに速度が速いのと、震動のせいでうっかりすると舌を噛みそうになるためだ。
〈ミオさん、次の角を右へ…〉
 人形のように力なく、ミオの腕に引っかかるようにして抱えられながらエレンは道案内をテレパシーを使って行う。
 ミオが急転回すると、カナエは声に鳴らない悲鳴を上げた。
 間もなく、「魔法の門」があるという林の中へ入る――。

〈ここまで来れば目的の場所はもう直ぐよ…!〉
「OK!」
 ミオはさらに加速しようとする――、

 キキィィ~~~~ッ!

 が、何を思ったのか。ミオは地面を勢いでえぐるほど踏ん張ってその場に急停止した。
「きゃああ…!」カナエは悲鳴を上げた。
〈どうして急に…!〉
 文句を言おうして、エレンは押し黙った。

 そこは林が少し開けた場所だった。
 その中央に、地面から生えるようにして存在する石柱で作られた高さ2メートルくらいの「門」があった。
 その「門」の内側は、淡く、青白い光を放つベールのようなもので覆われていた。 
 そして、それがエレンのいっていた「魔法の門」であること物語るように、「門」の上に腰を下ろす者が居た。
 ――堕天使カオス。

「君たちに逃げられた後…、学園内で魔力の強い場所を探知してみるとこの場所を発見してね。待ち伏せをさせてもらったよ…」
 カオスは門の上から三人のことを見下ろすようにして抑揚のない口調で言った。
「う…」相変わらずミオに抱えられたままの格好でカナエは、言葉に詰まった。
〈…まいったわね…。「門」を前にして…〉
 万時休すという顔をするカナエとエレン。
 しかし、ミオは口元に微かな笑みを浮かべていた。
「…エレンさん、あの『門』ってくぐるだけでいいのかな?」
〈え…? えぇ…〉エレンはうなずきながら、ミオの質問の意図が理解できないで居た。
「そか…、それで、あれは壊せるものなのかな…?」
〈えぇ、石柱を倒したりすれば…だけど…〉再びエレンはうなずく。
「OK」ミオは何かを狙い定めるような目で真っ直ぐに「門」を見た。「二人とも、絶対にあいつを、異界に送り返すでも何でもいいから、やっつけてよ…!」
「み、ミオ――!」
 カナエは何かを言おうとしたが、それよりも早くミオは力いっぱいカナエの体を「門」目掛けて放り込んだ。
「な――、なんだと!」
〈まさか――!〉
 さすがに、この予想外のミオの行動には、カオスとエレンは驚いたようだ。
「きゃぁ…」
 悲鳴を上げるカナエだが、その声が途切れる前に、カナエの体は「門」の光に包まれて消失した。
「次、行くよーーっ!」
 ミオは間髪を入れずに、次にエレンの体をぶん投げる――!
〈…バカなこと…!〉
 とミオを非難しようとするエレンだが、カナエのときと同様に「門」の中に吸い込まれるようにして、消えた。
「くっ! させるか…!」
 自分の足元を潜り抜けて二人が「門」の中に消えたのに遅れてカオスは、すぐさま自らも「門」を潜り抜けようとする――、

 だが、そのカオスの行動にミオは「待った」を掛ける。
「させるかぁー!」
 と、一声吠えたミオは「門」をくぐりかけたカオスの漆黒の翼を掴み、力づくで「門」から引きずり出した!
「ぐあぁ…! よくも私の翼を…っ!」怒り狂うカオス。
 しかし、そんなカオスの声を聞く暇もなく、ミオは渾身の力をこめた蹴りを石柱の一本にお見舞いした。
「りゃああああああ…っ!!」

 ゴ! ゴゴ…ッ!!   ゴット~~ンン!!!

 ミオの蹴りを食らった石柱が轟音を立てて倒れ、「門」はその内側に湛えた光を霧散させ、崩壊した…。

「…おぉ」カオスは素直に感嘆の声を上げる。
「くぅ~~~~~~っ!!! いったぁ~~い!!!」
 目じりにうっすらと涙を浮かばせて、ミオは石柱を倒した足を押さえて飛び上がった。 
「ふふふ…、やってくれるな…背の高き少女よ。見事…、見事だ! …だが、君一人残ってしまったぞ…? これからどうする?」
「あはは…」ミオは乾いた笑い声を上げる。「さぁて…、どうしようかなぁ…?」
「ふふふ…。今の蹴りで足を痛めた以上、満足に動くことはできないだろう…」
「そ、そうだね…。いやぁ、困ったなぁ…」
 ミオはじりじりと後退して、カオスから距離をとろうとする。もともと正面からやり合って敵う相手でないことはミオには充分理解できていた。
 まさに万事休す――!

 しかし、ミオは自分の行動に後悔はなかった。
 どこか穏やかな心で思う。

(…大丈夫、希望は残せた。ボクの役目は果たしたよ。みんな…)

 そして、ミオを睨みつけるカオスの目が怪しい輝きを放つ――。


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