桜工房(だったところ)

桜工房(だったところ)

#28



 ――ポケットから出した、メガネを掛け。
 カナエはハルカの髪型に似せて下ろしていた髪を、いつものように頭の後ろで束ねて、普段の姿に戻った。 

「なんと…」カオスは静かにうなった。
 カナエは少し緊張した顔をして、カオスと対峙する。 
「見事に引っかかりましたね、カオスさん」
「…これは、少女、君のアイディアか…?」
「いいえ。さっきのシスターさんのアイディアです。あの時…」
 とカナエは教室でのことを思い出し始めた――

 ――「そうだ、みなさん。私、良いことを思いつきましたよ」

 六人が結束を確認しあった教室の中…。
 突然のなぞのシスターの言葉に、五人は彼女の方に注目した。
 みんなに注目されたなぞのシスターは、緊張したのかごくりと喉を一度鳴らしてから、その「良いこと」を説明し始めた。
 その直前、ハルカとカナエが並んでいるところを目にしたなぞのシスターは、二人の背格好。髪の色と質が、とても良く似ていることに気づいたという。
 言われて、五人は納得をする。

「そういえば、似ているですぉ~」ハルカは今更驚いた顔をした。
「本当だぁ~」カナエはその発見に嬉しそうな顔をする。
〈…それで?〉
 エレンは頷いたものの、なぞのシスターの真意が読めずに首をかしげた。
「はい、ハルカさんを守るのが。一つの前提とするなら、ハルカさんの存在を隠してしまうというのはどうでしょうか?」
「隠す? え、それはどうやるんでしょうか?」シオンは困惑した顔をする。
「それはですね。ハルカさんにカナエさんの格好をしてもらうんですよ」
 わずかな沈黙。
「…あぃ?」
「は、はい?」
 ハルカとカナエはお互いの顔を見比べた。
「なるほど…」ミオは両手を合わせて納得した顔をする。「じゃあ、カナエちゃんはハルカちゃんの格好をするの?」
〈それだと、カナエが危険な目にあうんじゃないかしら…〉エレンは少し心配そうな顔をする。
「確かにその危険性はありますね。だから言わなかったんですけど…」なぞのシスターは悩んだ表情を見せた。
「わかった。私やる!」カナエは即答した。
「え? カナエ…?」シオンは意外そうな顔をする。
「やらせていただきます!」カナエは強固な姿勢を崩さずに言う。「…少なくとも、私がハルカちゃんの格好をしている間。私の格好をしているハルカちゃんは安全なはず。それに私がひきつけている間、時間も稼げると思うんだけど…」
「そ、そんなぁ。どうしてカナエちゃんが危険な目にあうことないよぉ~」ハルカは泣きそうな顔をして言う。
「ハルカちゃん、ここは私の言う通りにして…。大丈夫よ。なぜか私、あの堕天使さんに気に入られているようだから。いざとなれば、正体をばらせば何とかなるでしょう」カナエは明るく言う。
「あ、あぅ~~」
「…では、カナエさんハルカさんに、私の最強のメイク技術を駆使した変装を施します!」
 と、なぞのシスターはどこから出したか。化粧道具の入ったポーチを出すと、手早く二人のメイクを開始した。
 所要時間にして5分後――。

 ハルカとカナエの二人は、誰が見ても完全に入れ替わっているように見えた。
「お~。私がいるぅ」
 カナエは自分の顔をしているハルカを見て笑った。
「ほんとうだぉ。まるで鏡を見ているようだぁ~」

「見事な腕前ね」シオンは感心した顔をする。
「本当。でも、シスターさんがなぜ? という気がするなぁ」とミオ。
「う…」なぞのシスターはミオの指摘に言葉を詰まらせながらこういった。「ま、まぁ嫌ですねぇ。お化粧はシスターであっても女性のたしなみですよ、ミオさん」 
「そうそう。逆にあなたは化粧を覚えなさい」
 シオンがからかうと、ミオは彼女に向かってこぶしを振り上げ無言で威嚇した――。

「――というわけです」
 カナエが説明し終えると、カオスは苦々しい顔をする。
「…なかなか、あなどれんな」
「私たちが中等部の女の子たちだからって、あなどってはダメですよ」
「ふふ、では『門』をくぐり抜けた方が本物だったか…」
「そうです。ミオさんはそれを知っていて――」
「――『門』を壊した…。それが最良の策だったというわけか…」
「間もなく、エレンさんが戻ってきます。シスターさんがここで見つけた『異界大全』をエレンさんに渡すことが出来たら、ゲームオーバー。あなたの負けですよ。カオスさん?」

「ふ、ふふ…」カオスは不意に肩を震わせて笑い始めた。「ゲームオーバーだと? 何、まだそんなことはないさ。これほどの結束力のある君たちだ。一人でも人質を取りさえすれば――」
 カオスは突如、手を伸ばしてカナエの首を捕えた。
「くっ…!」苦悶の表情を浮かべるカナエ。
「私が君を気に入っているからといって、まったく危害を加えないと思ったら大間違いだ…!」
 カオスはカナエの首を掴んでいる手を徐々に上げていく。
「うう…。やっぱり…、さっきの『天国』へのお誘いは正式に断らせていただきます…」
「『天上の楽園』だ…。しかし、それは残念だな。君を気に入っていたのだが…」

 息が詰まり、薄れそうな意識の中で、カナエは教室で別れたエレンに渡されていたもののことをぼんやり思い出す――。

 ――〈もう。あなたを止めることは出来そうにうないわね…〉

「うん、もう引き返えせないよぉ」
 あくまで明るく言うカナエに、エレンは一枚の護符を渡した。
〈…いざという時には、これを使いなさい…〉
「ありがとう…。で、これ、どう使うの?」
〈…火を点けて、相手にぶつけるだけで、強力な衝撃波が発生するわ。ただし自分が巻き込まれないように気をつけて…〉
「わかったよ」
 カナエはうなずいて、もらった護符をポケットにしまった――。

(――確か、至近距離なら自分も巻き込まれるんだったよね…。でも、どうせこのままなら死んじゃうわけだし…)
 カナエは力の入らない手で護符をこっそり取り出すと、持っていたランプの火を点けた――!

「ん…! 少女よ、君は一体――!」
 カオスが気づいたときは時既に遅く、カナエは火を点けた護符をカオスの体に叩きつけていた!

 !!!

 護符を中心に、まるで密度の高い空気の球体が一気に膨張する様な――目には見えず、音にも聞こえぬ力が発生した――!

「ぬぅわあああぁ………!!!」
「キャア……ッ!!」
 カナエとカオスの二人は、その力に耐えることが出来ず反対方向へ弾き飛ばされた――!


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