桜工房(だったところ)

桜工房(だったところ)

#32



「――全てを吹き飛ばせ…! [暴風]…!」

 ビュォォォ・・・オオォ!!!

 カオスが呪文を唱えると同時に振り下ろした手から、吹き荒れる突風が起こり六人に襲い掛かる!

「ひゃっ!」
「きゃぁ~~~!」
 体の小さいハルカとカナエは、顔を腕でかばいながら飛ばされまいと必死で踏ん張る。
「うわっ…! これはまずい…!」
 正体を隠すために(一応)身に着けているシスターの衣装が風に飛ばされそうになり、衣装に気を取られるマヒロ。その体が、突風に舞い上がる。
「え? いやぁ~~!」
「シスターさん!」ミオが吹き飛ばされかかったマヒロの手を掴んだ。
「あ、ありがとうミオさん!」

「…全てを無にせよ…。[魔力消滅]!」 
 エレンの唱えた呪文が、カオスの突風を打ち消す。

 風が止んだ途端、体が舞い上がっていたマヒロは、べちっと地面とキスをする羽目に・・。
「きゅう~~!」
「あ…。だ、大丈夫ですか!?」
「え、えぇ…」マヒロは鼻押さえながら立ち上がる。

「…ふふ、やるな。だが、次はどうだ!」
 カオスは不敵な笑みを浮かべたまま次の呪文を唱えはじめる。

「エレン、どのくらい時間を稼げば良い?」
 薙刀を構えるシオンが尋ねると、エレンは「三分…」と答える。
「三分――。なかなか厳しいなぁ。シオン、君は大丈夫?」
 シオンの隣に立ってミオが聞くと、シオンは肩をすくめる。
「どうかしら、さっきあなたにやられたところが痛いわ…」
「う、ごめんってば…」ミオは気まずそうな顔をした。

 そうこうしている内に、カオスは次なる魔法を発動させる。
「我が敵を射抜け…! [炎の矢]!」

 バシュバシュバシュゥ・・・・!!

 今度は数本の矢の形をした炎が六人に襲い掛かった。

「みんな噴水の方へ逃げて…!」
 シオンがそう叫ぶと、弾かれたように全員が後ろにある広場の噴水の方へ走り出した。
 その間も炎の矢は追ってくる。

「あぅ…!」
 どて…と、ハルカが転んだ。
「ハルカちゃん!」
 それに気づいたカナエがハルカの手を引いて起き上がらせようとする。 

 先頭を走っていたシオンはチラリと後ろの様子を見る。
(――このままでは、間に合わないわ…。そうだ!)
 シオンは前方の、大量の水を噴き上げる噴水の水の吹き出し口を見て名案を思いついた。
「…はぁっ!」
 噴水の天辺に向かって見事な跳躍を見せるシオン。その上に降り立った彼女は――、
「秘技・破岩の太刀…!」

 ズッ、パァ…ッ!!

 と、シオンは薙刀を使い、一瞬で噴水の「口」を斜めに斬った!

 どっぱぁぁ~~!!

  五人の方向に向かって噴出した大量の水が、炎の矢を次々に消火する。
「た、助かったぁ~!」
「やった…!」
「ナイス! シオンさん!」
 ハルカたちは手を叩いてシオンを褒め称える。
「おーほほ! もっとほめて頂戴!」

 パンパンと、カオスが手を叩きながら言う。
「ふはは…、面白い! 面白いぞ少女たちよ!」
 カオスは高笑いをしながら、次の呪文を唱えはじめる。

「…もう、次の呪文を…!」エレンは焦った声を上げる。
「えー、弱っているはずじゃなかったの?」マヒロは悲鳴に近い声を上げる。
「いずれにしても、呪文を唱えるのを止めさせないと!」
「非戦闘員のあなたたちは、ここで待機してなさい」
「わ、わかりましたぁ…」ハルカはシオンに頷く。
「エレンさんも、ここで魔法陣の準備を。ボクとシオンで時間を稼ぐ!」
「わかったわ、お願いね…」
 ミオとシオンは、挟み込むようにカオスに猛烈な勢いで突進した。

「フッ…」
 カオスは向かってくる二人を冷ややかな笑みを浮かべた目で見る。
「…揺るげよ大地…[地震]!」

 ゴゥッ!  ゴゴゴゴゴ・・・ゥッ!!

 カオスがそう叫んで地面に手を突くと、彼を中心に半径10メートル周囲に敷かれた石畳の下を生き物がのように一気にうねりだした。
「な…!?」
「地面が…!」
 足元が不安定になって、走り続けることが出来なくなった二人。
 カオスはその間にさらなる呪文を唱えはじめる。

「わ、まずい…。そうだ。シオーン!」
 ミオは転びそうになりながら、シオンに声をかける。
「ミオー? な、何ー?」やはり転倒しそうになりながらシオンが返事する。
「そこからここまで跳べるー?」
「え、えぇ、できるわ…!」
「んじゃ跳んで!」
 ミオに頷いて、シオンは先ほど噴水に跳び付いた見事な跳躍を再びした。
 自分のところに跳んでくるシオンに合わせて、ミオは体をねじった。
「シオン! 乗って!」
「の、乗る!?」
 シオンは一瞬なんの事か分からなかったが、やがて付き合いの長い強敵(トモ)の考えを理解する。
「あなたって人は…無茶ばかりさせるわねぇ…」跳びながらシオンは呆れた声を出す。
「時間がないから…!」
 ミオはそう言いながら、充分に体をひねった体勢から蹴りの体勢に入る――! 

 シオンが近くまで来た瞬間、ミオは蹴りを放つ!
「ミオ・シュートーッ!」 
 そのミオの足の甲にジャストタイミングで乗ったシオン――ミオの放った蹴りはシオンの体を一直線にカオスの方へ飛ばした。

「む…!」カオスはその予期せぬ二人の行動に驚いた顔をする。「ふ…。面白いな…」
「覚悟!」
 カオスの正面に飛んで来たシオンは、空中で高速旋回しながら薙刀を構える。
「秘技・旋風の太刀!」
「くっ…。もはや、人間業ではないな…」
 かわすことが出来ないと判断したカオスは、左の翼を盾のようにしてシオンの攻撃を防いだ。

 ガガガガガ・・・ッ!!

 辺りに黒い千切れた羽根が、綿ぼこリのように飛び散る。
 シオンの攻撃を防ぎきったカオスの左の翼はボロボロになってしまった…。
「この翼の代償は高いぞ、少女よ!」
 カッと目を見開きカオスは、着地したシオンの腹部に鋭いパンチを打ち込む。
「がぁ…っ!」
 そこは先ほどミオと戦ったときに負傷した場所であり、シオンは痛みのあまりに地面に倒れて動けなくなった。

「シオン!」
 駆けつけたミオが、倒れたシオンを踏みつけようとするカオスから助け出す。
 ガッ! と、カオスの振り下ろした足が石畳を簡単に踏み崩した。
「むぅ…」翼の痛み呻くカオス。
「ふぅ、あなた強いねぇ」ミオは感心したように言った。
「ふふ、力を求め堕ちた私に対して、その言葉は当然の賛辞だよ少女…」
「なんで、それまでの力を求めたの…?」
「…君には関係のないことだ…。時間稼ぎはさせないぞ…!」
 カオスはそう言って、噴水の方にいるエレンに向かって[雷]を放とうとする。
「撃ち抜け…[雷]!」
「あ、ダメ――!」ミオが叫ぶ。

 肝心のエレンはそのことに気づいた様子はない。 

 カオスの手から放たれた雷!
 が、その瞬間にミオが間に入って、その雷を受けた。

 バリバリバリ・・・ッ!

「あぁ! ミオさんが…!」
「お姉ちゃん!」
 噴水のところで一部始終を見ていたカナエとハルカが同時に叫んだ。
「…ミオさん?」
 魔法陣を描くのに集中していたエレンも、驚いた顔をあげる。
「今のは、かなりまずいんじゃ…」
 マヒロは悲鳴も上げずに地面に倒れたミオの姿を呆然と見つめていた…。


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