桜工房(だったところ)

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#13


#13 トレーニング第二日目

 Gクラス特別トレーニングの二日目。

 昨日のマヒロの体操が好評ともあって、参加者の数は少し増えており。
 この日のコーチ役に抜擢されている、ディルスは演台の上に仁王立ちをしてやる気満々の様子を見せていた。
 何が入っているのか、その後ろには小さな彼の体ほどある木箱が用意されていた。

「おーし! みんな今日はよろしくなー!」
 ディルスは、手に持ったハリセンで自分の肩を叩きながら威勢の良い声を張り上げる。

「気合い入ってるな~。ディルスの奴・・・」オペルは頭をかきながら苦笑した。
「しかし、それだけに不安だ・・・」とダイス。
「あぁ・・・」オペルはダイスに頷く。

 一方、その二人から少し離れた場所にいたハルカたち・・・。
「うーん、ディルスの考えた特訓方法かぁ・・・」
 ミオは苦笑いしながら言うと、カナエは首をかしげる。
「うーん、どんなのだろうねぇ?」
「どんな特訓でも、頑張るですぉ~!」とハルカは掲げた腕を振りまわしながら言った。
「ハルカちゃん・・・」
「無知とは時に強力だなぁ・・・」
 ミオとカナエは元気の良いハルカを複雑な目で見た。

「――オレは敏捷性を身に付ける特訓を考えてきたぞ。やっぱりスポーツっていうのは、素早さや反射神経を鍛えることも重要だからな。それじゃあ早速、特訓方法を説明をするぞ」

 パチパチとミキがにこやかな顔をしたまま拍手をする。

「それで何をすれば良いのですか? ディルス?」
 この前のことを根に持っているシオンは、多少苛立った口調でディルスを促した。
「まだ怒ってるのかよリーダー。悪かったって」
「怒っていません!」とシオンは明らかに苛立ちまぎれの声で言う。
「あーと・・・。まぁ、よーするにだ、みんなは逃げ続ければ良し!」
「逃げ? ――なんか物凄く嫌な予感がする・・・」オペルは困惑した顔をする。

 ディルスは後ろに用意していた木箱のふたを開けた。
 ふたを開けた弾みでいくつか外へと中のものが転がりだした――木箱の中から出てきたもの、それはゴムボールだった。
 木箱の中身一杯、全てがゴムボールだったのである。

「・・・ゴムボール?」
 ダイスは足元に転がってきたボールを拾い上げ首をかしげた。

「本当は、ナイフを使いたかったんだが。ナイフだと万が一、ということがあるので柔らかいゴムボールを用意してきたんだ。感謝しろよ!」

「みゅ、ナイフって!」
「ここは感謝するところなのかな・・・?」
 青ざめるミュウと、冷静に呟くカノン。

「だいたい想像はつくと思うけど。今から、オレはみんなにこれを投げつけるから。みんなは、ひたすらかわし続けてくれ。どうだ簡単だろ?」

(嫌な予感的中――!)
 ダイスとオペルを始めとするほとんどの生徒は、青ざめた顔をする。

「みゅ、えぇ~!」ミュウは悲鳴に近い声を上げた。
「そんなの・・・。長持ちしないよ」カノンは難しい顔を作る。

「ふぅん・・・。案外簡単だな」
 そうミオが言うと、シオンは頷き身構えた。
「そうね・・・」

 そんな一部の例外を除いて、ほぼブーイング一色の中、ディルスはまったくお構い無しという様子で訓練開始の合図を告げるた。
「んじゃ、行くぞ~! テキトーに散らばれ~! 固まっていると避けられないぞ~!」
 ディルスはボールを手に握り、構えた――。

 シュ、ヒュゥン!

 と記念すべき第一投目は、よりにもよってミキの方に飛んでいった。

「う?」

 ポコーン!

 と、まったく反応が出来ないミキの額に当たったボールは運動場に良い音を響かせた。

「う~~」
 バタリと倒れるミキ。
「キャ~~! ミキちゃーん!」慌ててミキに駆け寄るミュウ。 

「ちょっと! ディルス君!」マヒロは怒りに燃えた目でディルスを見た。
「ん?」ディルスはマヒロの方を見る。「な、なんだよ・・・」
「私の顔を狙ったら承知しないわよ!!」
(てゆーか、殺す!)マヒロは奥歯でその言葉を噛み締めた。
「なっ・・・! そっちかよ!」
 ディルスはいつものハリセンでツッコむ代わりに、マヒロに向かって第二球を投げた。
「うわっと!」
 と、マヒロはそれをうまくかわした。

 素早い動きと、ナイフ投げなどの投擲(とうてき)が得意なディルスは、次々にボールを投げ続け――箱の中が空になると、今度は素早く地面に転がったボールを拾いそのまま投げた。

 四方八方からディルス一人の集中砲火を浴びせされるGクラスの面々。
 相手はたった一人だというのに、中盤になると数発のボールを受けて脱落するものが後を絶たなかった。

 最終局面で残ったのは、ダイスとオペルを初めとする男子の面々で、女子はハルカたちを残し体力のないものから消えていった・・・。

「え! わ? ひゃう!」と自分に向かってくるボールを寸でのところでかわすハルカ。
「なかなかやるな、ハルカ! これならどうだ!」とディルスはハルカに向かって投げた。
「こら! 集中攻撃はなしだよ!」 
 とミオはディルスの投げたボールを掴み取り、思わず力余って握りつぶした。
「あー! 握りつぶすなよ、怪力女!!」ディルスはミオに抗議した。
「誰が怪力女だぁ!」怒鳴るミオ。
 そんなミオの気迫に押されたディルスは、攻撃対象を変更することにした。
「つ、次! リーダー行くよ!」
 と、ディルスは振りかぶった。
「来なさい・・・!」シオンは身構える。
「おりぁああ・・・!」ディルスはシオンに向かって入魂の一球を投げた。

 ブォン! キュイィィーーン!

「秘技・無太刀の一閃!」
 と掛け声一つ、一直線に自分に向かってくるボールをシオンは手刀で打ち払った。

『おぉ!』
 と二人のやり取りを見ていたGクラスの面々から声が起こる。

 一方、シオンに弾かれたボールは、誰しも予想をしなかった方向――マヒロの顔面に――!

 バシィ・・・! キュルキュルキュル・・・ルル・・・!

 ディルスの速球と、それをシオンが打ち返した時に回転力が加わり。
 マヒロの顔面に直撃したボールは、十二分に回転運動をして、地面にポトリ・・・と落ちた。

「あ・・・。やっちゃった・・・」とずいぶん前にリタイヤしていたカノンが呟く。
「うう?」と同じく隣りで休憩していたミキは眉をひそめた。
「みゅ! まずい、まずいですよ~!」ミュウは今直ぐこの場から立ち去りたい気持ちに駆られ、腰を浮かせる・・・。

「ハルカちゃん・・・。今のうちに、逃げようかぁ・・・?」とカナエ。
「あぃ・・・。逃げるですぉ! なんか空気が重いですぉ~!」
 とカナエとハルカは、後ずさりをしてその場から走り出した。

「マ、マヒロ・・・! 大丈夫か・・・?」
「すみませんでしたマヒロさん!」
 慌ててマヒロに駆け寄るディルスとシオン。

 マヒロは肩を震わせて、突如、それはもう表現することが難しい恐ろしい顔をして――。

「わわわ・・・!」
「も、申し訳ありませんでしたぁ!」
 必死な顔をして逃げるディルスとシオン。
 それを無言のまま、怒りの形相で追うマヒロ――。
「だから、あなたに関わるとろくな目に合わないのです!」
「リーダーが打ち返したんだろ~!」
 と、こんな事態でもツッコみを試みようとするディルスだったが、走りながらだったためにハリセンを落としてしまった。
「あ~ハリセンが!」
「こんな事態だというのに、あなたは何をやっているんですか~!」

 結局――この一件は、シオンとディルスの最悪な関係を決定付けるようなものとなってしまった。

「あーあ、結局こうなったか・・・」
 マヒロの大追跡から逃げる二人を見送りながらオペルは頭を掻く。
「・・・ほぼ、想像通りだったところが、なんというか・・・」

   *

「ハッハッハッ! なかなかエキセントリックなトレーニングをしているじゃないか、我がライバル!」 
 脱力気味のダイスの背後に、いつの間に立っていたソージンが言う。
「うわっと! いきなり脅かさないでください、アフロンさん!」  
「オレのことを常に意識し、感じていれば驚くことはないぞ我がライバル!」
「常に感じるって・・・」ダイスは複雑そうな顔をする。

 その時、マヒロが追う二人目掛けて投げたボールが外れてソージンの方へ飛んで来た。

 ヒュルル~~! ズッボッ!

 と飛んで来たボールは、ソージンのアフロヘアに吸い込まれるように中に入った。

「な・・・! 大丈夫、ですか・・・?」
「うむ・・・。案ずることはない。フン!」
 と気合をかけるとアフロから先ほどのボールが、ポーンと飛び出て地面に落ちた。
「では、失礼・・・」と何事もなかったかのようにソージンはその場を立ち去った。

「・・・何者だ? あいつは、人間か?」とオペル。
「そこからして疑問だな・・・」とダイスは困惑したように呟いた。
「・・・で、明日はモエちゃんなんだけど・・・」思い出したようにオペラは言う。
「あぁ・・・。明日も少し不安だな・・・」ダイスはうなずいた。

 二人は、まだ走り回っているディルスたちをよそに、演台の上でのんきに居眠りをしているモエを眺めてため息をついた・・・。



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