エタ-ナル・アイズ

エタ-ナル・アイズ

2026.07.03
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 美並は有沢に了承の連絡を入れた。

 準備にかかると言われて、土曜日を約束した。

 土曜日、真崎は11時から『ニット・キャンパス』のホール・イベントのチェックに高崎と出かける。美並の『羽鳥』事件と同じく、そちらも2人の将来のためには押さえて置かなくてはならないイベントだ。

 当日の朝、待ちかねたように真崎からメールが入った。

『伊吹さん、おはよう。今夜来れる?』

 気づいて返信を入れる。

『おはようございます。眠れましたか?』

 すぐに電話が鳴り、優しい真崎の声が響いた。

『おはよう、美並』

 名前呼びに一昨日の夜が蘇る。

「おはようございます、京介」

 同じように名前で返す、その自分の声も柔らかかった。今が朝ご飯と聞いて、首をかしげる。

「眠れなかったの? お仕事?」

『ううん……ひさしぶりに寝過ぎたんだよ。さっき起きた』

 頬を摺り寄せてくる、ビロードのような手触りの気配。

 窓から差し込むきらきらした光に目を細める。

 美しい日だ、明らかで透明で、そんな日に美並は戦いに赴こうとしている。

 机の上のトーストと紅茶を眺めた。さっきまで食べる気がしなかったのに、電話の向こうに真崎が居ると思うと、少しお腹が空いた気がした。読み取ったように真崎がねだる。

『……できるだけ早く…会いたい』

 あなたが側に居なくて寂しいよ、と声がことばになる前に甘えてくる。

 泊まれるよね、と確認されて、7時ぐらいには行けると応じた。材料を買っていくので夕飯を作ると伝えると、デザートはと聞かれたから、

「………京介でいいですよ」

 呟いて、気がついて、言い直す。

「デザートは京介がいいです」

 きっとくたくたに疲れるだろうから、極上のものに包まれたい。

『うん……じゃあ……僕を用意しておくね…』

 切なげな声がもう息を軽く弾ませながら響いた気がして、美並は微笑んだ。

「…とびきりおいしそうにしておいてくださいね」

 甘い同意が返ってきて、急いで通話を切る。

「もう、ほんとに」

 危ない危ない。

 独り言を言いながら、トーストを食べ終えた。

 熱くなった頬に苦笑いする。鏡の中を覗き込むと、きらきらと目を輝かせている自分が居て、我ながら猛々しい。

 一昨日なのに、お風呂にも入ったのに、まだ真崎の香りがしている気がする。

 一瞬だけ目を閉じて、その香りを吸い込んだ。

 左手の薬指には何もない。

 けれど何が何でも戻りたい場所があるなら、ぐずぐずしてはいられない。

 きっちりスーツを着て、向田署に出向く。

 土曜日でも署は妙にざわざわとしていた。

「伊吹さん」

 出迎えた有沢の影は薄かった。背後に檜垣が背中を守るように付き添っている。

「待っていました」

「体調が?」

「…厳しいです」

 苦笑いする顔も青黒い。

「痛み止めが効かなくて」

「ただあんたを待つために」

 ぼそりと檜垣が唸った。

「この人は入院を蹴ってるんだ」

「…入ってしまえば、もう出られない」

 吐き捨てる有沢が光る眼を伊吹に向ける。

「わかっているはずです、あなたには」

「…わかっています」

 伊吹はまっすぐに相手の視線を受け止めた。

「始めましょう」

「…伊吹さん…?」

 あっけにとられた顔の有沢を通り越し、檜垣に頷く。

「少しでも早く」

「行きますよ、有沢さん」

 優しく声をかけた檜垣が支えるように有沢に促す。よろめくように振り返った有沢の体は、一回りも縮んだ気がした。

「奥に部屋を用意している。見てもらう画像は、正直女子どもにきつい絵だ」

 階段を数段上がっただけで息苦しそうな有沢に代わって、檜垣が説明してくれた。

「ならば一層見なくては」

 吐き気がするほど酷い画像だろう、だからこそもう二度と。

「繰り返させないために」

 言い切った美並に檜垣が微かに口笛を吹く。訝しげに振り向く署員が、引きつったように3人を見遣り、それから何事もなかったように眼を背けて行く。

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Last updated  2026.07.03 00:00:07
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