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〔前半部分の紹介〕
ウクライナ政府が日本に対して、ゼレンスキー大統領のオンライン国会演説の実施を要請してきた。(・・・)与野党の主要政党には前向きな声が広がっており、実現する可能性が強まっている。〔実現されることになった( 3 月 20 日現在):補〕マスコミも歓迎ムードに覆われている。
でも、ちょっと待ってほしい。
ゼレンスキー大統領が「ウクライナは自国の領土を守るため国民を総動員し、武器を持ってロシア軍と最後まで戦い抜きます」「日本がロシア軍と戦うウクライナ軍とウクライナ国民を全力で支援することを望みます」と演説し(・・・)、国会議員たちは満場一致の拍手で称賛したら、日本はロシアと戦争中のウクライナに加担する姿勢を世界に向かってこれまで以上に鮮明に表明することになる。
これは日本列島の北に広がる核保有国・軍事大国のロシアに対する「宣戦布告」の政治的意味合いを持つ。プーチン大統領はすでに欧米や日本がロシアに対し経済制裁に踏み切ったことを「宣戦布告」とみなし、対抗措置として核兵器使用をほのめかしている。敵国認定された日本が核攻撃の対象になる可能性はゼロではない。
そのとき米国は日米同盟を理由に日本を守るために全面参戦するのか? 第三次世界大戦に発展すると言って武器を送りつけてくるだけということはないのか?
ゼレンスキー大統領の演説に賛意を示す国会議員たちに自力でロシアと戦争する覚悟はあるのか? 安全保障へのリアリティーを持っているのか? 本気で「参戦」するのか?
これは戦争なのだ。
日本はすでにウクライナ政府に対し防弾チョッキやヘルメットなど防衛装備品を支援している。米軍機に載せてウクライナに送るのである。
ロシアは武器を支援するためウクライナ上空に入った欧米の輸送機への攻撃を警告している。防衛装備品の支援といえどもロシア軍との戦闘に使う以上は武器支援だ。当初はヘルメットを支援していたドイツはウクライナ側からの不満を受けてミサイル供与に踏み切った。日本の武器支援もずるずる拡大していく恐れは強い。
米国の軍需産業はウクライナへの武器輸出で潤ってきた。(・・・)欧州は自らの軍隊を派遣せずウクライナを「盾」にしてロシアの西方拡大を食い止める安全保障上の利益がある。 だからウクライナ政府に武器を支援してウクライナの人々を戦わせているのだ。
そこへ「参戦」するメリットが、日本にどのくらいあるのだろう。単に欧米に追従してロシアを敵に回し軍事的脅威を高めるだけではないのか?
日本が武器支援をふくめて一気にウクライナ政府への加担に傾いたきっかけは、ロシア軍のウクライナ侵攻を非難するとともに、 「ウクライナ及びウクライナ国民と共にある」と宣言した国会決議 だった。
ロシア軍のウクライナ侵攻を政治的に非難するのはいい。当然である。 しかし「ウクライナと共にある」というのは戦争当事国の一方のウクライナ政府に全面的に加担するという国際的宣言である。 (・・・)
ロシアとの戦争を遂行するウクライナ政府を支持・支援することと、戦争に巻き込まれて生命の危険にさらされているウクライナの人々に寄り添うことは、まったく別の話だ。 国民総動員令を出して18歳〜60歳の男性の出国を禁止し戦争に駆り出すゼレンスキー大統領への支持・支援と、ウクライナで戦争に巻き込まれる人々(とりわけ武器を持って戦いたくないのに国民総動員令によって国外脱出の自由を奪われている人々)への支持・支援は明確に区別しなければならない。
日本がウクライナ政府に届ける防弾チョッキは、愛国心に燃え武器を手にロシア軍に立ち向かうウクライナ青年だけではなく、武器を持って戦いたくないのにウクライナ政府に命じられ、「お前は戦わないのか」という戦時下の同調圧力に抗えず、泣く泣くロシア軍に向かっていくウクライナ青年にも、機関銃と共に配給される。そこへ思いが至らないのは、戦時社会に対する想像力をあまりに欠いている。(・・・)
そしてこの国会決議に反対したのは、衆院3人・参院2人の新興勢力であるれいわ新選組だけだった。自民党も公明党も日本維新の会も国民民主党も立憲民主党も共産党も戦争当事者の一方に全面的に肩入れする国会決議に賛成したのである。
そしてれいわ新選組は右翼からも左翼からもリベラル勢力からも「ロシアの味方をするのか」と批判が殺到しバッシングされたのだった。「ロシア軍の侵攻は断固非難する」「それでも人道支援に徹し、戦争当事者の一方に与するべきではない」との説明は黙殺され、一方的に「ロシアの味方」のレッテルを貼られ、叩きまくられたのである。
遠く離れたウクライナの地を舞台とした戦争でこれほど全体主義が広がるのだから、日本周辺を主戦場とした戦争が勃発したら、いったいどうなることだろう。想像するだけでおそろしい。
〔前半部分の紹介は以上、後半も含めた全文は こちら
〕
大切な論点が提示されていると思いますが、私が特に気になった部分を赤字にしました。国会決議に対する 「れいわ新撰組の声明」 はまっとうなものと受け止めたのですが、それに対してあらゆる方向から攻撃がかけられるというのは恐ろしいことだ、という鮫島の主張に賛同します。
後半部分で、日本における戦時体制の状況とも比較しながら鮫島は論考を続けます。確かにそこには共通点だけでなく大きな違いもあるでしょう。 戦時中の日本は国境を越えて他国の領土・領域で戦争していたのに対して、現在のウクライナは国内に侵入してきたロシア軍とむきあっており、侵略軍との戦いを支援するのは当然だ、と思われる多くの人がいることも理解できます。
しかし、国際法では戦闘員と民間人を区別し、無差別虐殺を禁止しています。だからこそ、民間人を多数殺害しているロシアは当然強く非難されるべきなのですが、 ゼレンスキー政権は軍事行動開始と同時に「火炎瓶のつくり方を教示する」など一般市民に対してロシア軍に立ち向かうことを推奨 、 それだけでなく国民総動員令によって成年男性の国外脱出を禁止することで、「非戦の権利」を事実上奪っているのです。 伊勢崎賢治もいうとおり、一般市民に対して政府が呼びかけるとすれば「非暴力抵抗」であり、「すべての民間人を戦闘員にすること」ではないはずです。
欧米各国(および日本)もなすべきことは大量の兵器(「防衛装備品」)を送り、民間人の犠牲者を拡大する持久戦を勧めることではなく、この度の侵略の背景・原因に正面から向き合い、一刻でも早く 停戦させるための仲介を行うこと
だと考えます。
3月21日付記:
小西誠(元自衛官)の見解を以下に紹介しておきます。
「憲法第
9
条」を掲げる日本の役割は、「戦争当事者」に国会で演説(アジ演説)させることではなく、政府・国会ともに、ロシアーウクライナに停戦交渉を呼びかけ、徹底的に尽力することです。トルコ、中国、さらにはイスラエル(戦争国家!)などという国が、その停戦交渉(平和交渉)にあたり始めているというのに、情けない事態です。
―その停戦交渉の仲介に名乗り出ている、例えば、トルコ国会で、ゼレンスキーに演説をさせますか?
―平和主義を掲げる、社民党を始めとする国会議員の皆さん、停戦交渉の出番ですよ!(紹介は以上)
なお、ロシアによる武力侵略の背景(原因)に関連する私の考えは こちら です。
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