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【ジャカルタ=杉本康士】安倍晋三首相は20日、ジャカルタ市内のホテルで、東南アジア外交に関する政策演説を行い、「ASEAN(東南アジア諸国連合)共同体」の基本原則などを定める「ASEAN憲章」の起草に向け、地域統合に全面的に協力していく方針を表明。
「法の支配」「人権」など 基本的価値観を共有するパートナーとして、ASEANと互恵関係の進展を目指す考えを強調 した。これに先立つインドネシアのユドヨノ大統領との会談では、経済連携協定(EPA)に署名した。
政策演説で首相は、日本側の具体的取り組みとして(1)EPAネットワークを活用した経済関係の緊密化(2)地域統合の条件となる域内の格差是正策として、メコン川流域各国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)に対する経済協力(3)経済発展や民主化の土台づくりとなる平和構築に向けた支援-を掲げた。
地球温暖化問題では、2050年までに温室効果ガスの排出量を半減させる構想について「ASEANにも地球温暖化を止める計画の力強い一翼を担っていただきたい」と要請した。
日本がEPAを締結するのは8カ国目。日本が輸入する天然ガスや原油の安定確保のための枠組みとして(1)インドネシアが輸出規制する際の早期通報と既存の輸入契約の保護努力(2)投資環境の整備(3)政府間協議の新設(4)輸出手続きの透明性確保-などを明記。
貿易自由化の関連では、即時または段階的に関税を撤廃。自動車や電子機器など日本からの輸出総額の90%、 鉱工業品やバナナ、エビなど インドネシアからの輸入総額の93%が無税となる 。
安倍晋三首相の政策演説「思いやり、分かち合う未来を共に」の要旨は次の通り。
日本はASEAN諸国、諸国民と「ケア・アンド・シェア」(思いやりと分かち合い)の精神で共に歩む 。アジアと世界が直面する挑戦に対し、インドネシア、ASEANの皆様には、ぜひわれわれ日本人と一緒に立ち向かっていただきたい。
ASEANの各国指導者は、「民主的諸価値の強化」「法の支配の維持」「人権の尊重」といった基本的価値に対する真摯(しんし)な取り組みを語る。日本国民が大切に思う基本的価値を旗印に掲げ、「One ASEAN」として新しい門出を遂げようとしていることに、静かな興奮を覚える。
ASEANには、東アジアサミットなど地域協力枠組みの「運転席」に座り続け、東アジア協力の推進力になってもらわなくてはならない。ASEANの発展はアジア、日本の利益だ。
経済連携協定(EPA)のネットワークを活用し、ASEAN諸国と深く幅広い経済関係をつくりたい。日本政府はメコン流域諸国の安定的成長のため助力を惜しまない。平和がなければ経済の発展はない。
私は「クールアース50」(美しい星50)という新しい地球環境防衛策を世界に提案した。ASEANの皆様も、2050年までに地球温暖化を止める計画の力強い一翼を担っていただきたい。
日本とASEANには、名実ともに相互補完的な関係が成立している。私たちを見舞う問題を一緒に解くために互いを必要とする「問題を共有し、解決を共に模索する」関係を結ぶ段階にすでに突入した。
【ジャカルタ=杉本康士】安倍晋三首相が20日に行った政策演説は、民主主義や人権の尊重など基本的価値観を共有する国との関係強化を図る「価値観外交」を、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国にも展開する姿勢を強く打ち出したものだ。 ASEANへの影響力を増大させる 中国を強く牽制 し、日本の存在感をアピールする狙いもある。
ASEANに関する政策演説としては、福田赳夫元首相が1977年にフィリピンで「福田ドクトリン」を発表。2002年には小泉純一郎前首相がシンガポールで、インドやオーストラリアなども巻き込んだ東アジア地域の「コミュニティー(共同体)」構想を打ち出している。今回の安倍首相の演説は「福田演説、小泉演説に続く3つめの本格的な政策演説」(外務省筋)という位置づけだ。
「ASEAN共同体」の目標や基本原則などを規定する「ASEAN憲章」の起草をめぐっては、人権問題を抱えるミャンマーなど一部加盟国から異論が出ている。こうした中で日本の首相が民主化や人権尊重を求めれば「 ミャンマー ベトナム などから反発が起きかねない」(同行筋)ともみていた。
しかし、安倍首相は演説で、ASEAN憲章の起草に向けたこれまでの議論や各国首脳の発言で、「民主的諸価値の強化」「 グッド・ガバナンス(良き統治)の保証 」「 法の支配の維持 」「人権の尊重」といった価値観が取り上げられたことを指摘。「このようなASEANの動きにどれほど深く喜び、かつ励まされているか、言葉ではなかなか伝えきれない」と称賛してみせた。
また、安倍首相が掲げた3つの具体的な取り組みのうち、メコン川流域各国への支援は「法の支配を促していくため」、また平和構築支援は「選挙を実施し、政治が民意を反映する仕組み」をつくるためのものと位置づけ、価値観外交の象徴だといっていい。当然ながら「こうした提案は国内に人権問題を抱える中国にはできない」(同行筋)。
ASEANが中国や韓国との自由貿易協定(FTA)を順次発効させる一方、日本は出遅れている。
安倍首相は「ケア・アンド・シェア」(思いやりと分かち合い)をキーワードに地域統合を促しつつ、価値観外交を前面に押し出すことで、踏み込んだ内容のASEAN憲章を目指すインドネシアやフィリピンなどを後押しする思惑がある。