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2011.09.06
XML
カテゴリ: 読んだ本
2007年12月 小学館より
2010年11月 文庫化



そのなかに支城、武州・忍城があった。周囲を湖で取り囲まれた「浮城」の異名を持つ
難攻不落の城である。
秀吉方約2万の大軍を指揮した石田三成の軍勢に対して、その数わずか500。
城代・成田長親は、領民達に木偶の坊(でくのぼう)から取った「のぼう様」などと
呼ばれても泰然としている御仁。
武・智・仁で統率する、従来の武将とはおよそ異なるが、なぜか領民の人心を掌握していた。
従来の武将とは異なる新しい英雄象とは異なる新しい英雄象を提示した40万部突破、
本屋大賞2位の戦国エンターテイメント小説!

(裏表紙 紹介文より)


北条氏の支城である忍城を、秀吉の家臣である石田三成が攻略に向かった時の話を
忍城サイドからの視点で描いた話です。

忍城は北条側に味方した城の中で、唯一落ちなかった城だそうです。
忍城を守っていたのは成田家。
登場人物はみんな個性が強く魅力的です。

合戦シーンはスピード感と迫力があるのに、ユーモラスな部分もあり


以下、ネタバレとなりますのでご注意ください。






















『のぼう』というのは、城代・成田長親の愛称です。
『でくのぼう』の『のぼう』。
大男で何をやらせても不器用、百姓仕事が好きで気の良い様子の子供みたいな感じを、
敬ってはいないかもしれないけど、百姓や足軽が親しみを込めて『のぼう様』と呼んでいます。

長親は城主・成田氏長の従兄弟。
長親の父・成田泰季(やすすえ)が氏長の父の弟になります。
本来の城代は泰季ですが、75歳の泰季が高齢で倒れたため戦の際に城代を勤めていました。

タイトルに入る名前だし、重要な人物なので、長親が主人公なのかと思いますが、
主に成田家の一の家老・正木丹波守利英の視点で話が進むことが多いです。

正木丹波守は40過ぎ、槍の名手で『漆黒の魔人』という異名を持つ猛将です。
一の家老だけあって、知略も分別もある常識人。


子供の頃から暴れん坊のガキ大将ですが、子分などの弱い物には優しい親分肌。
年が丹波と同じくらいなせいか、子供の頃から丹波をライバル視している武略派。

一番年若い家老が酒巻靭負(さかまき ゆきえ)の22歳。
家老になってまだ1年足らず。 
何冊もの兵書を読み込んだ知略の持ち主で、自称『毘沙門天の生まれ変わり』。


秀吉の小田原攻めが決まった時、城主・氏長は北条を裏切って豊臣方に内通し、
豊臣軍が来たらすぐに降伏すると決定していました。
氏長は北条からの招集を受け、籠城する小田原城に500の兵を連れて入っていましたが、
小田原城内にいる豊臣の手の者にも話が通っていたのです。

秀吉はその事を知りながら、石田三成に忍城攻めの総大将を命じます。
三成に武勲を立てさせ、他の武将(特に武官。福島正則とか加藤清正とか)達に認めさせ、
それによって武官と文官との溝を埋めたいと思ったのです。
三成のことを可愛がってもいたから、純粋に手柄も立てさせたかったと思うけど。

三成は忍城が降伏することを知りません。
一緒に攻略に向かった長束正家(五奉行の1人。これも文官)も知らず。
ただ秀吉も心配だったので、事情を教えて「よろしく頼む」と大谷吉継も付いて行かせます。

途中の別の城を通過の際、城を取り囲んだ時点で城方が慌てて降伏を申し出たのを見て
正義感の強い三成は、簡単に北条を裏切った正義のなさや、武士としての意気地のなさに
敵ながら落胆。
忍城はそうであって欲しくないと願います。
そこで、忍城を取り囲んだ時に、降伏か抗戦かを確認する使者に長束正家を選びます。
長束正家は秀吉の威を借るだけの弱い者いじめの好きな無礼者。
使者としての礼節をわきまえない無礼の限りのふるまいに、成田家重役一同は
城主から申しつけられた降伏のため、必死で堪え忍ぶ。
戦えば領内の農地はめちゃくちゃになり、農民も家臣達も悲惨な目に遭わせることになる。

しかしここで、「返答はいかに?」と問われた長親は「戦いまする」と答えるのです。
「武ある者が武なき者を足蹴にし、才ある者が才なき者の鼻面をいいように引き回す。
 それが世の習いというなら、わしは許さん」と言って。
家老達は慌てますが、それは全員の本心でもあったために一同は戦いを決意する。

農民達は降伏すると聞いていたのに話が違うと怒りますが、長親が決めたと聞くと笑い出し
「のぼう様が言うなら仕方ない。我らが助けてやらにゃあ」と徴兵に応じて城に入ることに。
すごい人気、長親。
愛されてるなあ。

合戦の最初は、それぞれの城門を守っている武将達の活躍。
丹波の守る城門には長束正家が、和泉のところは大谷吉継が、靭負のところは石田三成が
攻めて来ます。

丹波の戦いは正統派でかっこよかったです。
黒い武具に黒い馬、槍だけが赤。
距離を測りながら馬で出て、敵の銃の射程ぎりぎりで止まります。
長束正家は文官で戦場経験が少ないので、まんまとひっかかって届かないのに撃ってしまう。
その弾込めの間に、成田家の鉄砲部隊が万全の働きをするわけですが、
それを見抜いた敵方の武将の1人が、部下を守るために丹波に一騎打ちを挑む。
部下達に「一瞬で片を付ける。火ぶたを切って待っておれ」と言い残し、
丹波と武将の一騎打ち。
馬ですれ違うその一瞬で、丹波を相手の首をはね飛ばすのです。
『漆黒の魔人』が攻めてくるとパニックになった長束軍、退却したいのに足下は深田で
身動きが取れない。
総崩れで退却となりました。
長束正家の逃げっぷりがみっともなくて、もうスカッと爽快でした。(^^)

和泉は相手が完全な武官、しかも勇猛で知られた大谷吉継だから大変でした。
しかも和泉ってば戦の前にカッコ付けて、丹波に自分の鉄砲部隊貸しちゃったし。
セオリー通り鉄砲でガンガン攻められて門に取りつかれ、門を壊して場内にまで入られました。
でも、そこで和泉が先頭に立って戦い、敵の先鋒を何とか防いで時間稼ぎ。
敵の鉄砲部隊が城門前を流れる川を渡るため、3段全部が川に踏み込むのを待っていたのです。
(3段…鉄砲隊は3列用意して順番に撃ち、弾込めで撃てない時間を作らないようにする)
そして上流に作ってあった堰を壊して一気に水を流し、鉄砲部隊を全滅させるのです。
呼んでいて真田太平記を思い出しましたよ。
小さな城で大軍を迎え撃つ際の定番なのね!
大谷吉継は深入りはムダと、撤退してくれて何とかセーフ。

靭負と三成の戦いが一番おもしろかった。
まともにぶつかったら勝てないと知っている靭負、知恵を絞ります。

まず城壁の内側で旗を持った兵士を規則正しく歩かせます。
三成はこれを、数の少なさを隠すための農民による偽兵と捉えます。

そして靭負が率いて出る部隊は老人ばかり。
その先頭に自分が鎌倉時代のような大げさな大甲冑を着込んで出て行き、
「やあやあ我こそは毘沙門天の化身なり。我と思わん者は・・・」と仰々しい名乗りを
上げるのです。
靭負は顔立ちの可愛い小柄な子で、声も張りのある澄んだ声。
いかにも可愛らしい若武者って風情。
それを見た三成は
「働き盛りの大人はみんな小田原に行ってしまったに違いない。
 普通、名乗りには過去の手柄を折り込むものなのに『毘沙門天の化身』とか
 わけのわからない事を言っている。恐らく初陣で、折り込む手柄もないのだろう」
と可哀想な子供を見る気分になってしまうんですね。(笑)
「不憫であるから名のある武将に討ち取らせて進ぜよう。受けられよ」と強い武将を
一騎打ちに出させる。

出てきた武将も、あまりに靭負が弱いので哀れになってしまいます。
と言っても、弱い相手にも全力で当たるのが武士の流儀。
あっという間に剣を飛ばされてしまいます。
見ていた老人達は心配になって「靭負殿~、勝てそうか~」と声をかける。
上の人には生意気な靭負ですが、老人には親切なので可愛がられているのです。
「見てわかるでしょう。勝てるわけないじゃないですか」
「逃げた方がいいんじゃないのか~」
と、「その言葉を待っていた!」と言って、一気に走って逃げてしまうのです。
慌てて後に続く老人達。

その様子を見た三成軍の先鋒300人は、弱くて簡単に手柄を立てられそうな大将首を狙い
勢いづいて城内にまで攻め寄せる。
しかしそれは靭負の罠で、城内の森の中に600人の兵を伏せてあり、
取り囲んで半数を討たせる。
残り半数が統制を失って逃げ帰るのを騎馬で追い立て、三成軍の本隊とぶつからせ
混乱したところを、偽兵に見せかけていた鉄砲隊で追い打ちをかけるのです。
こうして三成軍も撤退。

全軍が攻城に失敗した三成は、水攻めを宣言します。
秀吉の高松城の水攻めを見て以来、この華々しい作戦に憧れていたみたい。
長大な掘を作り、水を流し込む。

田も家も濁流に押し流され、忍城は二の丸まで水に沈み、特に農民を中心に
士気が下がる忍城の人々。
どうして戦なんか始めたのかという恨みの声を受けて、長親は決意します。

「俺は悪人になる」と丹波に言い残し、長親は掘に船を浮かべ、
そこで田植田楽を踊るのです。
敵も味方も「あっぱれな武者」だと感心し、喜んで見物。
そこへ秀吉から「水攻めを見物に行く」という三成への使者が来ます。
もたろん激励のつもり。

しかし、ここで三成は、その前から実は名将なのではないのかと疑っていた長親への恐れと、
秀吉が来る前に決着させたいという焦りから、長親を撃つよう命じてしまいます。
「そんなことをしたら、城主を撃たれた城兵すべてが死兵となって最後の1人までが
戦うことを決意する」と大谷吉継は止めますが、三成は聞かない。
三成って秀吉をすごく尊敬していて大好きで憧れているけど、その憧れのぶん強く
知略においては対等でありたいという気持ちが強く、秀吉が来る前に完璧に勝ちたいと
思ってしまったみたい。

長親は肩を撃たれ、致命傷ではなかったけれど水に落ちる。
城の農民・兵士すべてが怒り狂い、攻め込もうと主張するのを家老達が必死で止める。
しかし、応えたのは城内にいなかった農民でした。
降伏しないで戦をすることと決めた長親に反発して、城を出た農民達がいたわけです。
彼等が「のぼうを撃たれ、田を流された百姓が黙っていられるか」と堤防に穴をあけ
掘を決壊させるのです。
水は石田軍の多くを押し流し、水攻めは失敗。

最後は小細工なしの決戦と決まる。
でも兵力差は相変わらず大きいわけです。
百姓達は戦おうとしますが、丹波は「こんな戦に加わって死ぬのは愚か者じゃ!」と叱りつけ
単騎で敵陣に突っ込む。
丹波の命運もこれまで!?というドキドキの展開の中、秀吉が発した使者が
「小田原城落城。これ以上の戦は無用」と告げて、戦いは終結するのです。

よかった、本当に。
みんな好きになっていたから、決戦となればきっと犠牲者が出ると思っていました。
誰も死なずに終わることができて本当によかった。

落城の取り決めのために、三成が大谷吉継と長束正家を連れて忍城に行き、話し合いをします。
開城の条件などを取り決めた後に、三成が
「北条方で落ちなかったのはこの城だけ。当方には甚だ不本意ながら坂東武者の武辺を
 物語るものとして100年後も語り継がれるであろう。よい戦でござった」
と言うのに、成田家一同が「おう!」と応えるのが清々しい。

三成は頑固で人の助言を聞かず、そのせいで関ヶ原でも負けちゃったような人だし、
今回は成田家からすると敵方なのに、嫌な武将として書かれていなくて、
それも好感度高かったです。

読後感すっきりのおもしろい小説でした。





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Last updated  2011.09.06 12:42:16
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