全241件 (241件中 201-241件目)
(7月7日(金) 小川みちる)「あれ、3組の井上じゃない?」低い声が耳に滑り込んできて、あたしはびくッとなったが、織姫は気付かずぼーっとしている。「お、織姫、もう行かない?遅くなっちゃうよ」「あ、そうだね、みちるちゃん」あたしが手を引っ張ると、織姫は素直にプラネタリウムの前から歩き出した。七夕の今日、このプラネタリウムは、男女の客は半額というイベントをやっていて、毎年カップルが大勢やってくる。織姫は、お兄さんが生きていた頃は毎年二人できていたらしいと、たつきが言っていた。恋人たちの日は沢山あるけど、織姫にとっては一番思い入れのある日かもしれない。けど、今日は部の買出しだ。石田さんはどうしても今日早く帰りたかったようで、あたしが拝み倒された。織姫は今回の当番だ。織姫は目立つので歩いているだけでナンパされるけど、あたしは目立たないのでおまけ扱いだったりする。それが気にならないわけじゃないけど、目立つのも良し悪しだなと織姫を見ていると思う。
2007年04月14日
コメント(0)
(7月7日(金) 石田雨竜)「お前、高校生にもなって女に夢見てるのかよ」そんなわけないだろう。確かにうちは男系だが。この三ヶ月女子に揉まれてきたんだぞ僕は……。「で、何が問題なんだ?真犯人が捕まったんならもう話は終わりじゃねえか」「いやその」ああくそ。「……逃げられた」「あ?何やってんだお前の親父」全くだよ。「病室に閉じ込めておいたのに、朝になったら消えてたっていうんだよ!事情を知っているくせに!」「いや、無理だろ。アレからどうやって逃げるんだよ」「知るかっ」僕が聞きたい。竜弦がわざと逃がしたわけないし、うっかりもありえない。実際あいつも仰天したらしく、諦めて僕に連絡してきたのは昨日の夕方だった。「……石田。そいつの顔は覚えているか?」「無論だよ茶渡君。僕も有沢さんも覚えている。けど、僕はともかく彼女がお礼参りとか、闇討ちされたら困るだろう?夕べ電話で警告しておいたけど、有沢さんにも防衛策が必要だと思うんだ」「井上に頼めばいいんじゃねえの」うっ。やっぱりそうくるか。「幾らツレだって、オレがたつきに一日張り付いてるわけにはいかねえだろ。たつきと井上が揃ってりゃ、大抵の男は勝てねえよ」「で、でも、有沢さんが井上さんを巻き込みたくないっていうんだ」「困った時には助け合うのがダチだろ?たつきはそういうけどな、もし逆のケースだったら後でぶん殴られてるぞお前。ていうかどうして昨日のうちにオレ達に相談しねえ。迷うとこじゃねえぞ」「ム……それ以前に、犯人を捕まえたときに連絡しなかったのは何故だ?」「……」やっぱり二人とも馬鹿じゃないな。伏せておきたかったのは、そいつの口から井上さんの名前が出たからだ。黒崎たちが彼女を疑うとは思わない。が、とても言えない。「織姫ちゃんに頼まれたんだ」僕の中の手配写真が、笑っていた。
2007年04月13日
コメント(0)
(7月7日(金) 茶渡泰虎)「もったいぶりやがって、お前のいずれは半日か?」「ううう煩い」一護の突っ込みに石田は唸った。今日の集会場はオレの部屋だ。石田はわざわざ男のなりに帽子で顔を隠してきた。(別に、近所にどう思われても構わないのだが)黒崎の部屋は家族の耳があるから駄目。外なんてもってのほか。そこまで言わなくても、「石田が話したくないが話す」という時点で大事だと、オレも一護もわかっている。丁度飯時だというので石田がありあわせの材料でピラフとスープを作った。何時もながら美味い。高校を出たら永久就職して滅却師稼業を続ければいい。口に出したら矢が飛んできそうなので言ったことはない。一護が洗い物をして(させられて)いる間にオレが茶を煎れた。一服。「……で?」「一昨日の帰り、鉄パイプで殴られそうになったんだ」「ちょっと待て!」いきなり物騒な展開で、一護が吠えた。「有沢さんと二人で捕まえて、とりあえず竜弦に預けようと思って腕の腱を切った」「げっ」「主犯だと思ったけど、一応浦原さんに尋問して貰おうと思ってね。大怪我させたら、警察に直行させなくても言い訳がたつ」「……女を拷問かよ……」「いや、男だったけど」「は?」……オレと一護は顔を見合わせた。「女じゃないのか?」「そんなこと言った覚えはないよ」「いや、普通女だろ。なあチャド」「ム……」「何で」「何でってお前、レース切ったり食い物に小細工したり噂ばら撒いたりって、普通女じゃねえか?男はんなことしねー……ていうか思いつかねえだろ」「君それは差別だよ」「いや、男にだって陰険な奴はいるけどな。そういう奴がお前を大嫌いだったとしても、違う手を使うと思うぜ?」オレはそこまで断言できないが、やはり女だと思った。理由は簡単だ。石田を憎んでいるのは男より女だろう。石田はやはり、女の中ではかなり浮いている。女らしく見せたいのか男のように振舞いたいのかよくわからない。大概のことは軽くこなす。男と気安く口を利く。一見自由に見える。成績や人間関係でストレスを抱えている女から見れば、忌々しい限りだろう。目立つ存在である井上のグループに入っているから、陰口を叩かずにすんでいると思う。一方、男から見ると、ぱっと目をひく存在感はない。優等生で、よく見れば中々美人かもしれないが、井上や国枝も同じ条件だ。キャラもかなり独特だ。余程好みか、それなりに付き合ってみて初めて「彼女になって欲しい」と思うタイプだ。何の理由もなくいきなり石田に一目ぼれし、一護あたりを恋人と勘違いして逆恨み、というパターンも絶対ないとは言わないが、石田はむしろ、男全体に警戒感なく接していた。どうも話が上手く進まない。
2007年04月13日
コメント(0)
(7月7日(金) 黒崎一護)今日はわざわざ石田の家によってから学校に行った。「なあ……お前、たつきのことが、その……」思い切って切り出したら、思い切り見下したような顔で見られた。「一昨日は、有沢さんに逆のことを聞かれたよ。もっとも彼女は、二人きりになってから切り出すだけのデリカシーがあったけどね」うわ可愛くねえ!何でだ、たつきと一緒の時は、不覚にもほんのちょっとだけ可愛く見えたというのに!「だってお前、ゆうべたつきに電話かけたろ」「何で知っているんだ」「その後でうちの髭がたつきの親父に電話かけたから。携帯の番号しらねえの?」「……い、色々都合があるんだよ!」「……」親父が聞き出したところによると、こいつはまず泊めて貰った礼をたつきのお袋に言い、それから結構長いこと深刻そうな話をしていたらしい。たつきは面倒見がいい奴だが、「石田雨竜」というクラスメートの登場は何となく唐突、かつ不穏に思えたようで、あいつの親父はぺらぺらと喋った。「……ちょっと話が込み入っていて……いずれ君や茶渡君にも話すけど、それまで待って欲しいんだ」
2007年04月13日
コメント(0)
(7月6日(木) 井上織姫)何で何で何で。「何でたつきちゃんだけ名前呼び?あたしは呼ばれたことないのに!」お昼休みの屋上。黒崎くんたちがちらちらとこちらを窺っている。たつきちゃんは困った顔で「……仲直りの印?」「じゃあやっぱり」「違うって言ってるだろーが!」ああまた千鶴ちゃんがぶたれた。「普通女が女を名前で呼んだくらいで騒ぎにはならないけどね」「っていうか、石田が織姫を「織姫ちゃん」って呼べばいいんじゃないの?」「だよね」視線が集中して、石田君は可愛そうなくらいうろたえた。「え……」無理。絶対無理。何があっても無理。あたしがどんなに鈍くても、そう言いたいことくらいはわかる。でも何で。あたしの方が親密度高いよね?一年の頃からの仲だよね?「別に呼び方なんてどうどもいいだろ」「何故あんたがそれを言う」「あたしも、できれば名前呼びの方がいいな……」「絶対ちゃんづけがいい!」「はいはい落ち着いて。特に織姫」一緒にしないでよ。皆、あたしが石田君をグループに入れてって頼んだときはあまりいい顔しなかったじゃない。石田君と最後までうまくいかなかったのはたつきちゃんで、あたし、すっごく心配してたのに。何なのこの展開?滅茶苦茶理不尽に思えて、なんだか涙が出てきた。「ちょ、泣くほど興奮することないじゃない」違うの。むしろテンション下がりっぱなしなの。「何処か痛いの?」違うの。本気で怒ってるの。「だから、べったら漬けと粕漬けと福神漬けを混ぜるのはやめなさいっていったでしょ?」違うの。ここから逃げたいだけなの。「……口内炎噛んじゃった」誰か気がついて。誰か。凄く惨めだった。
2007年04月11日
コメント(0)
(7月6日(木) 黒崎一護)「ああっ、たつき!信じてたのに、やっぱりあんたが犯人だったのね?」「何でそうなるっ!」どげっ。たつきの蹴りが眼鏡女を転がした。「可愛さ余って憎さ百倍、うりを虐めぬいたものの、自分を信じ抜く姿に溜まらず押し倒し」「昼メロかっ?」倒れたまま自説をとうとうと語るダチを、たつきはきっちり踏んづけた。オレだって、そりゃないだろと思う。が、「冗談にしたって酷いよ本庄さん。あ……たつきちゃんがそんなことするわけないじゃないか」などと石田が言っているのを聞くと、なんともいえない気分になる。つーか顔を赤らめるな。「たつきちゃん」と言うたびにぽーっとなってるから邪推(?)されるんだろ。オレだってこの歳になって「たつきちゃん」は照れるが……。いっそ呼び捨てにしろ。「放課後の屋上で他にどうすんのよ!」「話合いに決まってんだろうが!」石田が、ちらりとこっちを見た。……目が怖え。此処で「石田が今朝たつきんちから出てきた」と言ったらさぞ盛り上がるだろうが。絶対無理。
2007年04月10日
コメント(0)
(7月6日(木) 石田雨竜)「う……」目が醒めたら、隣で有沢さんが着替えていたので、慌てて布団を被った。見ていない!見えていないぞ!眼鏡かけてないんだから。「悪い、起こした?」ばっちり起きたよ。「い、いや……僕、戻って生ゴミを捨てないと」「ああ、臭うからね。あたし朝練があるから、一緒にでようか」「うん」「じゃあとっとと着替えて。後、今日からあたしを苗字でなく名前で呼んで」「え……ええー!」「仲の良さアピールの基本だろ?」で、できるかな……などと考えるのはまだ早かった。「あ、一護」あああああああ。まだやっと五時だぞ。何故起きている黒崎!「……はよ」新聞片手の黒崎は、まるでUMAでも見たような顔でこっちを見ていた。……後で聞いた話によると、お父さんに叩き起こされて新聞をわざわざ取りに行かされたらしい。竜弦があれほど黒崎のお父さんをウザがるのがわかったような気がする……。
2007年04月10日
コメント(2)
(7月5日(水) 石田雨竜)「え?」どうして。君は僕を助けてくれたのに。彼女の話を要約すると、僕を送っていくと黒崎に約束したのに、忘れて帰りかけ、慌てて追いついたところ僕が殴られる直前だったらしい。……納得。それで、今日は(僕の護衛役のはずの)死神が出てこなかったんだ。霊感の強い有沢さんにばれないよう、黒崎が断ったんだろう。「いいよ、無事だったんだから。犯人も捕まえたし」「……ああ」困った状態には違いないけれど。今日捕まえたあいつが主犯と考えて、多分間違いはないだろう。竜弦に預けてきたけれど、明日には司法の手に引き渡さなければいけない。……そうしたらどうなるだろう?あいつはきっと井上さんの名前を出すだろうし、少し聞き込めば、僕と彼女が男(黒崎のことだ)を巡って感情的ないざこざがあったこともばれてしまうだろう。……どうなるだろう。「あのさ……示談にしない?」「え」「警察沙汰にしない代わりに、もうあんたにもあたしにも織姫にも関わらない。学校も辞めさせる。親同士を交えて話して、かたをつけることはできないかな」「……」返答に詰まった。そんなのは嫌だ。これだけ悪さをした相手を野放しにはしたくない。大体、有沢さんの汚名を雪ぐことが出来ない。「あたしのことは心配しなくていいよ。あたしたちはこれから上手くやっていける。それを見れば皆わかってくれる」「そうかもしれないけど……」「それで十分!もう寝ようよ。明日も学校だしね」有沢さんはそれだけ言うと、もう話は打ち切りとばかりに、電気を消して布団に篭ってしまった。仕方ないので僕も布団に入る。……本当にそれでいいんだろうか。初めから彼女を疑わない人ならともかく、疑うような人はそれで誤解を解いてくれるだろうか。「あたしは、大丈夫だから……そんなに考えなくていいよ」「……ああ、そうだね」
2007年04月09日
コメント(0)
(7月5日(水) 石田雨竜)竜弦と漸く話がついたのは10時近くで、まだ有沢さんが残っていたことに一瞬ぎょっとした。「先に帰っていいって言ったのに……。おうちの方が心配するじゃないか」「電話したから大丈夫。あたし、あんたに言わなきゃならないことがあって」「え?」まだ何かあるのか。いい加減制服でうろつける時間帯ではないので、迷った挙句彼女の家に招待されることにした。(わざと実家から遠目のアパートを選んだのが仇になった)有沢さんは僕のことをどう説明するのかと思ったら、「水道料金を滞納して、振り込むまでトイレも風呂も使えないんだって」……全くのでっち上げじゃないか。不名誉な嘘に苦情を申し立てたかったが、ぐっと堪えた。「織姫とか、結構泊まりに来てるから、気にしなくていいよ」「あ、うん」遅い夕食を二人で食べて、お風呂を借りて、パジャマも借りて……ど、どうしよう。女の子の部屋に入るだけでも気が引けるのに(、相手が全く気にとめていないから尚更だ)、僕がお風呂に入っている間にわざわざベッドを片付けて、二つ布団が並んでいて、正直かなり動転した。井上さんや朽木さんと雑魚寝や仮眠はあったけれど、あれは非常時だったから言い訳がたつ。……井上さんは後で聞いても別に気にしないだろうし、茶渡君は気にとめないふりをしてくれるだろうけど、黒崎は。黒崎は絶対突っ込む!僕の内心の葛藤など気付かず、有沢さんはパジャマで僕の前に正座した。……どうして今は夏なんだろう。ジャージや半纏だったらきっとこんなに緊張しないのに!いや、Tシャツよりはましか。馬鹿なことを考えている僕に、有沢さんは深々と頭を下げた。「ごめん。今日は本当に悪かった」
2007年04月09日
コメント(0)
(7月5日(水) 石田雨竜)「……」僕は絶句した。有沢さんはそいつの顔を張った。「よりによって織姫に罪を被せる気?」「本当の話だ」本当と言い張る男の口調に狂気を感じるのは、僕の願望だろうか。「憎い、目障りだ、いっそ殺してやりたい。だから……」「煩い!」有沢さんはもう一発引っ叩いた。僕は腕を決めたまま、尻を蹴っ飛ばした。伸びた男を有沢さんに押さえ込んで貰って、竜弦に電話をかける。此処にいるのが有沢さんでなくて黒崎たちなら、浦原商会に連れ込むところだが、そうもいかない。はっきりしているのは、こいつは、何処に出ても今の主張を繰り返すということだ。打算か、本当に頭がどうかしているのかはまだわからないが、今のまま警察に引き渡したら井上さんが困ったことになる。とりあえず、傷害未遂犯を過剰防衛でボコボコにして、病院に搬送したということにしておこう。竜弦に頼るのは嫌だが、仕方がない。
2007年04月09日
コメント(0)
(7月5日(水) 石田雨竜)「雨竜!」凄い声だった。絶叫といっていい。完全に割れていた。振り返った僕の頭の真横を、何かが落ちていった。僕はそいつに踵を落とすと、獲物を持った右腕を捩じ上げた。「ぎゃあっ!」これも凄い声だった。住宅街のど真ん中で出していい声じゃない。まあ、腱を切る覚悟で押さえているからな。駆けて来た有沢さんは、凄い顔をしていた。……凄い、というのは酷いかな……動揺が安堵に上手く切り替わっていない顔だ、とにかく。「大丈夫?」「お陰さまで」もっとも、彼女が呼びかけてくれなかったら、大怪我をしていただろう。こいつは、なんと鉄パイプ(長さは30CM程度だったが)で僕の頭をぶん殴ろうとしていたのだから。しかも、体勢を崩しかねない勢いでだ。殺すつもりだったのか?「僕の周りで色々やっていたのは、君か?」「……」後から腕を押さえているので、(第一街灯が暗いので)僕には敵の顔がよく見えない。代わりに有沢さんが彼の顎を、ぐいと持ち上げえた。「見覚えあるかい?」「うちの高校の奴だよ。名前は覚えていないけどね。……あんた、雨竜やあたしに何の恨みがあるわけ?」どうしてだろうか。そいつは有沢さんの方を向いていたのに、僕にはわかったんだ。笑っているのが。笑いながらそいつは言った。「織姫ちゃんに頼まれたんだ」
2007年04月08日
コメント(2)
(7月5日(水) 石田雨竜)ああ疲れた。一時間以上かかるとは思わなかった。有沢さんがこう思い込みが激しいとは思わなかったよ。おかげで、井上さんが好きだと告白する羽目になってしまった……。言いふらしたりする人だとは思わないけれど、それにしても、と考え込んでいた僕は、学校からずっとつけている奴がいることに不覚にも気付かなかった。
2007年04月07日
コメント(4)
(7月5日(水) 有沢たつき)「……」ええと、それってようするに。「千鶴と同じ趣味?」「違うっ!」「じゃあ、女の子が好きなんじゃなくて、ただ織姫が好きだとか?」「違う」「どちらかじゃないの?」「……」雨竜は困ったように眼鏡を押し上げた。「ど……どういえばいいのかな……」あたしが聞きたい。「そ、その、僕にとっては井上さんが一番大事な人で、だから彼女が黒崎と付き合いたいというのなら手を貸してあげたいって、そう思うんだよ……!」「だったらあたしと同じか」「……違うと思う……」何でこれも否定するんだ。「僕の場合、井上さんが僕と付き合ってくれたら嬉しいと思うから」「ダチとしてじゃなくて?」「……うん」やっぱりあたしとは違う。あたしは、あたしと織姫の関係、あたしと一護の関係、そして織姫と一護の関係を全く分けて考えている。考えてみれば、雨竜が織姫を好きだと聞いて簡単に納得するのは変かもしれないが、千鶴を見慣れているせいか違和感は感じなかった。だが、もう一つだけ。「でも、何だって一護と付き合っているふりをするわけ?織姫気にしてんだよ?」「芝居なのは彼女も聞いている」「それでも、他の女子が一護と一緒にいるのをみるのは、嫌に決まってるだろ」「うーん……」なんだか要領を得ない顔で、雨竜は首を傾げた。
2007年04月06日
コメント(0)
(7月5日(水) 有沢たつき)一護の好みは全く見当もつかないが、何かの弾みでスイッチがはいったんだろうか。「だから、違うよ有沢さん」雨竜は同じような言葉を繰り返した。「僕はどちらかというと男子といるほうが気楽なんだ。だから黒崎たちと一緒にいたんだよ。今、黒崎と付き合っているのは、トラブルを避けるため。君や井上さんが気にする必要はない」「まあ……あんたはそうかもしれないけど」一護のほうは絶対違うと思うぞ。あんたのこと「だけ」は女扱いしている。「……ああ、もう」あたしが折れないのでいい加減嫌になったんだろう。雨竜の目が据わった。「これ、言わないつもりだったんだけどな」「何」「……僕が好きなのは、井上さんだよ!」殆どやけくそみたいに、雨竜は怒鳴った。
2007年04月05日
コメント(0)
(7月5日(水) 有沢たつき)あたしと一護は長い付き合いだ。一護のことは、多分チャド以上によく知っている。一護は意外と女とも普通に口を利くが、女慣れしているからというより、女を意識していないからだ。そう思っていた。しかし今日の昼休み、雨竜に「……黒崎は、女の子が体を冷やすのは反対のようだよ」と言い出したのはかなり驚いた。皆で夏服の話をしていて、雨竜は千鶴が織姫に提案した過激系ファッションをきっぱり否定したのだ。言われてみれば、あいつは確かにそういうのは嫌がりそうだ。……が、そんなことを口に出すだろうか?妹たちに説教はありかもしれない。しかし女(例えばあたしだ)相手にそんなことを言うか?男同士ではするのか?一護の中で雨竜の立ち位置はどうなっている?考えだすと止まらなくなった。
2007年04月04日
コメント(0)
(7月5日(水) 有沢たつき)「雨竜、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」クラス中の視線がこっちに集中した。あたしが雨竜に苛めた張本人だという話になって大体一週間。あたしが誤解されたくない奴は全員、信じないといってくれたけど、肝心の雨竜の気持ちがわからないと思うあたしは疑り深いんだろうか。「いや、君のことは初めから疑っていない」……あっさりと雨竜は答えた。確かに、欠片でも疑っていたら、放課後の屋上なんかについてこないだろう。鍵をかけても顔色も変えなかった。「黒崎も「たつきは絶対違う」って言っていたから、気にすることはない。話はそれだけかい?」いや、ある。「あー……、あんた、一護のことが好きなわけ?」「は?」何言ってんの?雨竜の顔はマジでそう言っていて、あたしは二人っきりでよかったと心底思った。「今の状況見たら誰だってそう思うだろ?」「……只の男避けのお芝居なんだけど」「一護の方はどうなってんの」「僕は守備範囲外というか想定外というか」なんだそれは。出来ているようにしか見えないあたしの目は節穴か?「あのさ、別に一護と付き合うのが悪いとか言わないよ?一護にだって趣味ってもんがあるってあたしも織姫もわかってる。この際はっきりさせたいだけ」雨竜は困ったように眉を寄せた。「……だから、はっきり違うんだけど……」
2007年04月03日
コメント(4)
(7月4日(火) 黒崎一護)「欲しいものを3つあげたまえ」石田は厳かに言った。「愛」「つまらない冗談だな」「平穏」「僕にいわれても困る」「じゃあお前の作ったものなら何でもいい」「……いいだろう」それを愛って言うんだよ、と笑う水色をにらみ付けた。(7月14日 前日記より)
2006年11月27日
コメント(0)
(6月27日(火) 石田雨竜)「護衛?監視じゃなかったのか?」ああ気持ちが悪い。どうして僕が(見ず知らずの)死神に見守られなくちゃならないんだ。ここ二ヶ月くらい、複数の死神が僕の周りをうろついているのは気づいていたさ。トラブルのも面倒だから放っておいただけだ。(人間の変質者避けの)死神の護衛なんて……恥晒しもいいところだ!「実家に帰るなら解いて貰うけど」それも嫌だ。大体好きでこんな泥沼に嵌りこんだわけじゃないのに……!現在僕と黒崎は付き合ってるってことになったので、屋上にも二人きりでくる。で、後で茶渡君や井上さんにそれぞれ状況を話す。黒崎が僕にべったりなので、流石にあらたに声をかけてくる奴はいない。有沢さんの友達に情報収集は無理なので、学校方面は小島君が頼りだ。で、郊外では。死神とあいつが頼りだと……?師匠、不甲斐無い弟子でごめんなさい!「にしても、例の噂、結構広まってたんだな」「……」女生徒や僕が親しくしている?男子生徒には悪い噂は(考えてみれば当然ながら)流れてこなかったけど、実際にはほぼ全校に知れ渡っていたらしい。黒崎は、小島君のプラン通り僕を襲った連中を端から締め上げたが、結局根に辿り着くことは出来なかった。どんな目に合わされても表ざたに出来ない奴はいいけど、噂を流しただけの奴を本気で叩きのめすと後で面倒だし。無論僕としては、そういう輩も、ぎったんぎったんにしてやりたいけどね!流石に黒崎にそこまでやれとは言えない。「畜生、直接出てこねえかなそいつ……!」「……どうかな」確かに、噂を主戦力とする卑怯者だけど、少なくとも二度、僕や黒崎の荷物に手を突っ込んでる。僕が「有沢さんを疑ったりしません!」という態度を貫けば、もう一度、直接攻撃を仕掛けてくるかもしれない。というか、もう殆ど、それしか目がない。「さもなきゃ、本気で誰か拉致って浦原さんに引き渡すか」「いいけど、終わったときには肉の塊になっていそうだね」「そういうことをさらりと言うなー!」黒崎は本気で総毛だっていた。そして機会は、案外早く巡ってきた。
2006年09月11日
コメント(0)
(6月26日(月) 茶渡泰虎)「ああ、石田サンには隠密機動を護衛につけてますから。ただの人間に手出しなんかできませんヨ」「てめえの趣味に死神を使うなー!」一護の尤もな突っ込みに、浦原さんは少しも動じなかった。「いやですねえ、せっかくのコネ使わないでどうするんです」「あんたじゃなくて夜一さんのコネだろうが」「二人は一心同体少女隊ですから」「……」敵はかなりフットワークが軽い。こっちの動きにあわせて、有沢を「犠牲の羊」に仕立てたことを考えると、クラスの一員か、少なくともクラスに協力者がいるはずだと水色は言う。ここまで卑劣な手段を使うものを放って置きたくはないが、針の筵に座らされた有沢の身を考えると、記換神機で全て無かったことにするのが一番かもしれない。啓吾にはすまないが……。そう考え一護と放課後浦原商店に来たのだが、浦原さんは「それじゃつまらないデショ」といい、一護に蹴りを食らった。「元々てめえの悪趣味が原因だ!最大限協力するのが筋だろうが!」「あーはいはい」……多分、この人には、一般的な快・不快という感覚がわからないんだろう。「今度、石田サンの周りをうろついている奴を見つけたら、人事不省にして神座中央病院に運び込んでしまいましょう。ゴーモンして情報を搾り取って、あとは院長先生の胸三寸というわけで。うふふふふ」本気で楽しそうだ。「でもちょっと期待はずれでしたネ」「は?」「乙女の危機を救うのはお二人のどちらか、夜一さんと賭けていたのに、所詮甲斐性なし……」「それで傍観してやがったのかー!」……俺も、石田の代理として一発殴っておくべきだろうか。
2006年09月09日
コメント(0)
(6月23日(金) 黒崎一護)「ぼ、僕はそんな風に見えるのか?」「ううん、そうじゃなくて、わざとそういう噂をしてる奴がいるんじゃないかと思うんだ」それこそ最悪だ。俺とチャドは呆然と顔を見合わせた。「悪意ある噂ってのはね、怖いものだよ。石田さん一人暮らししてて、よく平気だったね」「……そういえば、竜弦が家に戻れって煩く言ってたっけ……」「誰、それ」「こいつの父親」「……父親を呼び捨て?」「あんな奴親とは思ってない」「……」水色はうーん、と唸り、「石田さん、この状況でも帰りたくないの?」「当たり前だ!」石田は怒ったように言い返した。どうしてそこまで意地を張るんだ。「帰ったほうがいいだろう」「ああ、偏屈で皮肉屋で拝金主義で束縛きつくて化け物みたいに若くて、悪いとこばかりお前にそっくりな親父でも、こういうときは頼ったほうがいいぜ?」「何故君にそこまで言われなきゃならないんだ!」……話の焦点がずれた。「でもどうせ、うちの親父から連絡が行くぜ?」「俺は、それほど酷い人だとは思えないが……」「何かあってからでは遅いんだよ?」「……」本当は石田も、そのほうがいいとわかっているだろう。しかし、ここで簡単に戻るような奴なら初めから自活などしていない。「まあ、とにかく早いとこ犯人を捕まえることだね」「そりゃそうだが、手がかりが何もねえ」「簡単だよ」水色はにっこりと笑った。「一護が、石田さんを襲った連中を片端から締め上げて、噂の出所を吐かせればいい。「俺の女に手ェだしやがって!」とか言えば、怖がってみんな喋るよ」「「誰が誰の女だ!」」「噂も否定できるし、一石二鳥じゃない」こ、こいつ怒鳴られても全く動じねえ……!「勿論、一護に誤解されたくない女の子がいるなら、無理にとは言わないけどね」「……」視線が俺に集中した。「いや、いねえけどよ……」……俺は結局、石田の「気の荒い彼氏役」を引き受けされられた。しかし俺は、「噂」の怖さをまだ実感してはいなかった。次の月曜には、たつきが、石田に嫌がらせをした張本人だという話が、学校中に広まっていた。
2006年09月08日
コメント(0)
(6月23日(金) 黒崎一護)ブラウニーが喰いたいと言ったのは俺だ。朝に1本、昼に皆で食って、残りは家に持って帰るつもりだった。親父はともかく、妹たちに当たっていたらと思うと、背筋が寒くなる。啓吾が口からだらだら血を流すのを見て、水色が携帯でタクシーを呼び、とりあえずうちの病院に連れていった。「口の中に硝子が刺さっている」と親父に聞かされ、今度は石田が軽い貧血を起こした。無理もねえな。配るほど作ってきたのはこいつなんだから。石田は案外間が抜けているが、菓子に硝子を仕込むほどじゃない。親父に、「警察に届けるかどうか」」と言われた石田は、殆ど迷わず「はい」」と答えた。啓吾は、それほど深い傷じゃなかったらしいが、酷く痛むらしく耐えず泣き喚いていた。警察では、大体全部水色が喋った。「学校でお菓子に硝子が入れられた」と言われても、警官たちはあまり乗り気じゃなかったが、石田の真面目でおとなしそうな外見と、「先日は手編みのレースを切られ、今度は手作りのお菓子をいじられた」という時代考証無視のエピソードが受けたらしく、どうにか調書をとった。「何か心当たりは」と訊かれた石田は、「人に恨みを買うような覚えはありません!」ときっぱり答えたが、お前、本気か?どう考えても、いらんトラブルを招く奴だろうが。もう学校に戻る時間じゃなくて、結局俺の部屋で作戦会議となった。「石田さん、誰かをこっぴどく振らなかった?」水色のストレートな問いに、石田は顔を歪めたが、結局「……あるかもしれない」なんだそりゃ。「いきなり圧し掛かられて、殴って逃げたことがニ回」「何ィ?」聞いてないぞそんなの!「いきなり空き教室に引っ張り込まれたこともあって……三人いるからまずいなと思ったんだけど、有沢さんが気がついて助けてくれたんだ」「うっわー」見ろ水色でさえ驚いてるぞ!「でも正当防衛だし、怨まれる筋合いはないぞ!」「そういう次元の問題じゃねえだろそれは!」普通の女だったら酷い目に遭わされてるところだ。「だから、できるだけ一人にはならないようにしていたし、呼び出しにも一人ではいかなかったんだよ」「どうして俺たちに相談しない」「……」まあ、こいつには無理だろう。無駄にプライドが高いし、なまじ腕に自信があるから、自分でなんとか凌げると考えちまう。「もてる女も大変だね」「もてたって全然嬉しくないよ、小島君。何かもの欲しそうな顔で人をじろじろ見て、「ずっと前から好きでした」とか言うんだけど、こっちは全然記憶に無いんだからね!」「へえ……」どことなく、水色の様子が変わった。何か思いついた顔だ。「石田さん、これは犯人を捕まえるための質問だから、何を言われても怒らないで欲しいんだけど」「……何」「告白されてさ、「この人、自分を好きでもなんでもないな」って感じたこと、ない?」石田の顔色が変わった。「ある……というか、二人に一人は、好意を向けられていると感じない」何だそれは。だがなんとなくわかる気がする。俺は何度か石田が口説かれる現場に同行させられた。当然相手は初めから白けたり逃げ腰になったりしてたんだが、それでも、「なんか状況にあわなくねえか?」という表情や台詞に出くわしたことがある。あれは……なんだったんだ?「女の子相手に言いたくないんだけど」「あ、ああ」「君さ……なんていうか、「誰にでも簡単に許す子」だと思われてるんじゃない?」石田はもう蒼白になっていた。
2006年09月07日
コメント(0)
(6月23日(金) 井上織姫)浅野君が口の中を怪我した。石田君が作ってきたブラウニーにガラス片が入っていたと聞いて、あたしは絶句した。「だっ大丈夫なの?」「うん、飲み込まなかったし、すぐに病院につれていったから。大事をとって、今日は休むそうだけどね」「……」「悪いけど、黒崎たちに昨日のノート見せてあげてくれるかな」「うん」あたしに出来るのはそれくらいだろう。静かに電話が切れた。どうしようどうすればいいんだろうどうなるんだろう。あたしはただ考えている。石田君は、黒崎君にお詫び料として沢山ブラウニーを作ってきた。それを一本貰った浅野君が口を切り、みんなで病院に連れて行った。なのにあたしは、仲間はずれにされて悔しいとただ怒ってた!……石田君がわざとガラスを入れたわけないし、事故で入ったとも思えない。まさか……誰かが入れたの?昨日は、一時間目が音楽、三時間目が体育でみんな教室から出た。ブラウニーは柔らかいし、ラッピングは銀ホイルと紙袋だけ。やろうと思えばやれる。綺麗なレースが滅茶苦茶にされていたことを思い出してぞっとする。あたしは強引に黒崎君たちのお昼に混ぜて貰った。後でたつきちゃんたちに謝らなくちゃいけない。「……無差別な傷害事件」石田君がぼそりといった。「念のため、警察に残りを持っていったんだけど、他はなんともないし僕たち以外の指紋もついていないって」「指紋……」「計画的犯行、でなければ僕の行動パターンを知っていて、予め準備していたってことだよ」「……」それを食べるはずだった黒崎君は、ただ黙々とお弁当を食べている。「可哀相な啓吾」小島君が、らしくなく暗い声で呟いた。誰がそんなことするっていうの。もし動機があるとすればあたしだけど、あたしはそんなことしてないと、聞かれもしないのに叫びそうになった。
2006年09月07日
コメント(0)
(6月23日(金) 有沢たつき)「ねえ、お誕生日なにが欲しい?」織姫は手先が器用だ。……器用だけど、かなりセンスは独特だ。この子のセンスについていけるのは、身近では雨竜しかしらない。その雨竜は、一護たちと屋上にいってしまって此処にはいない。雨竜に聞かれたら、迷わず「お弁当一週間」って答えるんだけど、あいつはくれる気あるのかな。「クッションか座布団」「え、たつきちゃん腰が痛いの?」いやそうじゃなくて。……食べ物も服も遠慮したいかなあ、と……。「一護にも何か作ってやるの?」「ううん、今年は大丈夫!コスプレ三人娘お宝写真、あーんど現場盗聴テープで決まりっ!」「……お願いだからそれだけは勘弁して……」あたしは思わず両手をついた。盗聴云々は聞かなかったことにしよう……。先月雨竜のお父さんにばったり会ったあたしと織姫は、なりゆき(というか織姫の暴走)で雨竜にチャイナだのアオザイだの着させる約束をし、前金?として同じ物を買ってもらってしまった。いや、あたしは別に欲しくないし着たくもなかったんだけどね。織姫がどうやって約束を果たしたかもあまり気にしたくないし。三人ではっちゃけた写真とビデオが石田父の手元にあるのも、実害はないから放っておきたい。でも、織姫の部屋にパネル写真が所狭しと飾ってあるのだけは耐えがたい!おまけに一護にくれてやるなんて……実況中継まで聞かせるなんて……。何で、自分の写真「だけ」送ろうと考えないわけ?「だってレアじゃない?」織姫はけろりとして言った。「この中じゃ、あたしが一番こういうカッコしそうだもん」「いや、そうじゃなくてさ……」よく言えば、相手のことを考えてるんだけどさ。無理やり着せられたあたしと雨竜の気持ちはどうなるわけ?「そういえば、写真、売ってくれって頼まれたの」「ああ?千鶴?」「うん、後は写真部に。マージン5%くれるって言われたけど、肖像権があるから断ったの」「……」うちのクラスで写真部っていうと……あいつとあいつか。畜生、後でシメる!「千鶴ちゃんは友達だから一枚あげたけど」「あげるなー!」雨竜といいあんたといい、どうしてそうガードが甘いのよ!「黒崎君たち遅いね」「……うん」もうお昼休みが終わってしまう。几帳面な雨竜が一緒なのに、まだ戻ってこないのは変だ。「……やっぱり女の子は女の子同士だよね?」珍しく、織姫の声が怒りを含んでいる。「あたしと一緒でいいじゃないの」結局一護たちは、午後の授業に出てこなかった。
2006年09月06日
コメント(0)
(6月22日(木) 小島水色)「茶渡君、今日の放課後空いてる?」「……バンドの練習がある」「じゃあ黒崎でいいか。ちょっと付き合ってくれ」「それが人に物を頼む態度か?」石田さんはけろりとしてお茶を飲んでいる。一護が断るとは思っていないらしい。「俺が付き合おうか?」「「「啓吾じゃ護衛にならない」」」啓吾は穴のあいた風船みたいになった。石田さんは今月だけで5回、呼び出しを受けている。本当なら一人で出向くべきところだけど、顔と名前が一致しない相手と二人きりはさすがに嫌らしい。「だって6時に校庭裏に来いっていうんだよ?嫌だよ幾ら日が高いからって」「じゃあ断りゃいいだろ!」「名前が書いてなかったんだよ!」「余計やべえだろうが!」「だから付き合って欲しいんだよ。君が一緒ならおとなしく引き下がるだろう」「……ブラウニーな」商談成立。一護やチャド君が怖いなら最初から諦めるべきだと僕は思う。次の朝、一護は不機嫌絶好調の顔でブラウニーを齧っていた。結局昨日は誰もこず、それどころか鍵根先生に捕まって、お前ら何やってるんだといきなり怒鳴りつけられたらしい。「デートだと思われたんだ」「いや、つきまといだと決め付けられた」「ちゃんと庇ってやっただろう黒崎。僕が誘ったんだって」「……余計ややこしくなった気がすんだよ……」一護が頭を抱えるのも無理はない。あの先生は、頭っから一護を悪者だと決め付けている。ああいう人は、何だって悪くとるものなんだ。多分、学年主席でおとなしい優等生の石田さんは、不良の黒崎に誑かされたってことになっているに違いない。傍から見ていると、結構お似合いというか似たもの同士の二人なんだけどなあ。「……面倒なことが続くな」チャドの言葉につい頷いたけど、僕たちはまだ、これからもこんなことが続くとはまだ思っていなかった。
2006年09月05日
コメント(0)
(6月21日(水) 小川みちる)「……何だこれ」石田さんが呆然と呟き、ひょいと覗き込んだ千鶴が叫んだ。「ちょっと、ぼろぼろじゃないの!どういうこと?」あの能天気な織姫が、引きつったような声をあげた。「あの」石田さんが、一週間以上かけて編んでいたレースは、殆ど紐みたいに切り刻まれていた。「ま、石田は目立つから」その日の帰り道。鈴はまるでどうってことないって顔で言ったが、さすがに眉の辺りが引きつっていた。「成績がよくてスポーツも出来て、家庭的で、トドメ男に人気がある。やっかまれても不思議はないわ」「うーん……」そうかもしれない。グループで一番最初にナンパされるのは大体織姫なんだけど、クラスや手芸部でちやほやされてるのは何故か石田さんのほうなんだよね。先輩をあごで使うし、先生たちに一目置かれてるし、黒崎君と仲がいいし。「おまけに今度は生徒会狙い。あんなおとなしそうな顔をしてるくせにね」「でもあんなの酷い……」「そうね」鈴は厳しく言い放った。「すぐに捕まるわよ。石田は泣き寝入りするようなタマじゃないから」「そ、そうだよね」……でも結局、犯人は最後まで捕まらなかったのだ。
2006年09月04日
コメント(0)
(6月20日(火) 石田雨竜)「石田、ちょっと付き合ってくれ」おかしな噂を立てられて、僕を避けがちだった黒崎が、いきなりそんなことを言って腕を掴むものだから、僕もかなり驚いた。「く、黒崎?」「いや、わりい……」クラスの面々の視線を気にしないようにして、屋上まで僕を引っ張っていって、鍵をかける。一体何事だ。茶渡君や井上さんはいいのか?「あのさ……」ばつの悪そうな顔。「あ、ああ」「お前……スカートの下に何はいてる?」僕は思いっきりその股間を蹴り上げたが、変な声をあげて倒れ伏した黒崎には、多分中は確認できなかっただろう。「同性でもセクハラは成立するって知っているか、黒崎?」我ながら上手く入ったようで、なかなか立ち上がれない黒崎を軽く蹴っ飛ばす。「……か、夏梨がさ、制服がない中学に行きたいってごねてて……」「へえ」「スカートじゃ動きにくいって……たつきに、下着の上に何はいてるか聞いて欲しいって言われたけど、さすがに聞けな」「だからって僕に聞くなあっ!」僕だって制服が無い学校だったらスカートなんかはかないぞ絶対!ていうか夏梨ちゃんが自分で有沢さんに聞けばいいじゃないか。いくら気の置けない中だからって、それはちょっと聞けない……よな。腹にもう一発食らって、げほごほやってる黒崎に、さすがの僕も哀れを感じた。「テニスなんかではくアンダースパッツだよ。下着売り場で普通に売ってる。この長さじゃ少し動くと見えそうだし、階段なんかで後ろを押さえるのはみっともないからね」「何だよ、普通に売ってるのかよ」「幾ら僕だって下着まで手作りはしない……っていうか、見た目だけでも女子の僕によくそんなこと聞けるよね、君……」しかも、優等生系で清楚系のこの僕に!……って、我ながらイタイ突込みだなあ……。「言いたかねえけど、男扱いしないと元を忘れそうなんだよ。お前たつきたちより仕草が女っぽいし」「は?」「座り方とか、立ち上がり方とか、歩き方とか」「……スカートに慣れないせいだよ、それ……」スパッツをはくのは、何時立ち回ってもいいようにだけど、そうでなくても見えそうで怖いんだスカートって。スパッツだって出来れば見られたくない。始終裾を気にしているから、自然に振舞う本物の女の子よりしおらしくみえてしまうんだろう、多分。「じゃあ、スカートをはいた夏梨も女の子らしく見える?」「多分ね」「夏梨のやつ、女の子扱いをされたらきれるかもな」ようやく起き上がった黒崎と笑いあう。うん、基本的に馬鹿なんだよ男って。性格は遊子ちゃんの方がずっと女の子らしいんだけど、夏梨ちゃんのギャップにころりといく男の子は多いかもしれない。でもって「女の子らしい女の子」が喜ぶような態度をとって、かえって嫌がられるんだ、きっと。内容は少しアレだけど、久しぶりに黒崎と二人きりで会話をして、なんだかすっきりした。やっぱり女の子に混じっているより、浅野君や小島君に女の子扱いされるよりずっと気持ちがいい。「悪かったな、いきなり連れてきて。帰ろうぜ」苦笑しながら鍵を開けた黒崎の顔がいきなり強張った。「……何?」「いや、何でもねえ……」って君、人でも殺しそうな顔になってるけど。「俺、先に帰るから、お前五分くらいたってから来い」あんなに派手に連れ出しておいて、今更何を気にしてるんだ?あとで国枝さんから聞いた話。黒崎が僕を屋上に引っ張り込んで鍵までかけたというので教室がパニックになり、浅野君が見張っていて逃げ遅れ、黒崎にぼこぼこに殴られたらしい。黒崎は教室で「妹のことで相談しただけだ!」と怒鳴って、僕が戻る前に騒ぎを鎮めたそうだが、無論一時的な効果に過ぎない。い……いっそ生徒全員洗脳したい……!
2006年08月29日
コメント(0)
(6月19日(月) 本庄千鶴)生徒会長、国枝鈴、副会長、石田雨竜、そして書記、井上織姫!ああなんて素晴らしい未来予想図かしら!「あたし会計で出ようかしら、それとも応援に専念しようかしら?」「破廉恥うさぎが表に出たら、勝てるもんも勝てんわっ!」どうして突っ込みに暴力が伴うのかしらねたつきってば。それに比べヒメのなんて愛らしい。「今日は猫じゃなくてうさぎなんだね」だって!「いや、一護に借りた本にこんなのがあったのよ。うさぎの顔は可憐だが その私生活は破廉恥だ人にはとても見せられぬ うさぎの働くあの悪事(出展・名探偵ポアロシリーズ)あたしの中で、破廉恥=こいつよ」「あら可憐な顔なんて照れるわね」「……わざと言ってるとわかっててもムカつく……」「千鶴は可憐系というより色物系よね」鈴がさらりと言った。「織姫はフェロモン系、あたしと石田は優等生系でキャラクターが被ってるわ。織姫はユニット形式で売り込みたいみたいだけど、甘いわよ」「いや、石田は清楚系で通ってる気がするな」「あ、あたしもそう思う……」「え、えええ?」うりは真っ赤になった。そうか清楚系ってこういう反応を示すのか。「でも雨竜、あんた少し生活態度改善しなよ」たつきが相手の顔を見ないまま指摘し、うりは顔を引きつらせた。「……どういう意味かな有沢さん」「誘われたら結構誰にでもついてくだろ。女より男とつるむほうが楽って感じだけどさ、あんたおとなしそうな顔してるから余計目立つんだよ」「別に誰でもいいってわけじゃ……」ばつが悪そうに黙り込む。まあ、小島、浅野、茶渡そして黒崎ときちゃあねえ。良くも悪くも目立つ奴ばっかりだ。他にもいろんな奴にちょっかいかけられているらしいし。付き合ってやってるのかは知らないけど。意外とガードが甘いというか、男に対する警戒心が緩いとは、あたしも思っている。「あたしも男の子だったら声かけるな、可愛いもん」「え……」「そんなこと言わないで、ヒメが男なんて勿体なさすぎ!」「仮定の話で一々騒ぐなあっ!」たつきがあたしの頭をどつき、うりは何故か机の上に突っ伏した。
2006年08月24日
コメント(0)
(6月19日(月) 国枝鈴)「石田、井上、国枝の三人、進路指導室まで来てくれ」担任の越智先生がこういったとき、ぴんと来たのはあたしだけのようだった。まあ織姫も石田も私生活が色々差し迫っているから、それどころじゃなかったんだろうけど。「生徒会選挙?」「ああ、お前ら学年主席を争っているだろう?誰か一人立候補させろって言われてな」どういうわけか、生徒会役員は成績がいいものがなるものという世間で決まっているらしい。どちらかというと、人望第一だとあたしは思うが。石田はその気になれないらしく、困ったような顔をしたが、織姫はぱっと眼を輝かせた。「一人と言わず、三人出るというのはどうでしょう!」「は?」越智先生は呆れ顔、石田は露骨に青い顔。あたしも多分、どっちかに似た表情だったろう。「生徒会長・国枝鈴、副会長・石田雨竜、書記・井上織姫!絶対ウケますよ浅野政権を上回る支持率が期待されます!」……おいおい。ウケてどうする。確かに華やかさでは歴代最高だろうけど、生徒会に求められるのはもっと別のものでは?「井上さ……」おずおずと何か言いかけた石田の両手を、織姫はしっかと握り締めた。笑顔で。「一緒に頑張ろうね?」「………………うん」……何時も思うんだけど、この二人の力関係って一体……。「国枝は?」織姫たちの様子を見ないようにしながら先生が聞く。いやお気持ちはよくわかります。「出ます。でも、選挙ポスターは各自ごとにしてください」「ええっ三人ユニット形式にしようと思ってたのに!」わかるわよあんたの考えそうなことくらい!あたしはこの二人が落選することを切に願った。
2006年08月20日
コメント(0)
(6月16日(金) 黒崎一護)「啓吾って、年中彼女が欲しいって言ってるけど、どんな恋愛がしたいわけ?」お待ちかねの昼食タイム。石田にいそいそと座布団を差し出す啓吾を見て、水色が何気なく突っ込んだ。「うーん、ジェットコースターロマンスもいいけどさ、一緒にただ観覧車に乗っているような、そういう落ち着いた関係もいいよね」うっとりと理想を語るな。「いやこいつ相手なら寧ろフリーフォール」がすっ。石田の正拳が俺の顔面にめり込んだ。「……朽木よりはあると思う……」いらんフォローをしたチャドは後頭部に蹴りを食らった。
2006年08月19日
コメント(0)
(6月12日(月) 有沢たつき)朝の教室には、甘い匂いが漂っていた。「昨日はごめん。これ、少しだけど……」「あはは、気にしないでよ。どうせ汚れたのは啓吾の服だし」「だったらそれも俺に寄越せよおお!」小島と浅野は綺麗にラッピングされた袋を貰って、むかつくほど幸せそうだ。昨日何があったのかは知らないけど。「たつきちゃーん、おはよう!」あたしの親友の織姫も同じ袋(リボンだけ違う)を抱え込んで、頬袋を膨らませている。「おはよ。あんたそれ雨竜に貰ったの?」「うん。あ、ちゃんとたつきちゃんの分も残してあるよ?」「……いや、いい。あんたが貰ったんだからあんたが食べなさい」おいしいのにーとか言いながら残りを口に詰め込む。何だかあっちのでかぶつの方がちまちま喰ってる感じだなあ。しかし織姫があたしにくれようとするってことは、あたし自身の分は無いんだ。少し残念。あたしは諦めたが、そうできない奴もいる。オレンジ頭の迷惑な奴だ。「おい、石田、俺の分は?」「君に迷惑かけた覚えは無い」「かけただろうが丁度去年の今ごろ!」「時効だ」……嫌になるな全く。一見強面の一護と、案外気が強いが優等生の雨竜がどうして親しくなったのかあたしは知らない。とりあえず、「他校の不良に絡まれたところを助けられた」とか「雨の中捨て猫にミルクを」とかではなさそうだけど。「嘘だよ。ほら、君の分」「……」他とは違ったリボンのその包みを、一護は何故か不機嫌そうに睨みつけていたが、「おい啓吾、お前のと取り替えろ」「え、何で」「こいつが俺に素直に渡すとは思えねえ。タバスコかハバネロ入りだ」「……お前石田さんをどんな目で見てるんだよ……」あたしも同感だ。そんな印象の女に付きまとってんのかあんた。「思い上がりも甚だしいな。君一人に違う生地を用意すると思うのか」雨竜は涼しい顔で、「井上さん用の残りだよ」「喰えるかああっ!」一護が吼えるのも無理は無い。雨竜は織姫に甘くて、お菓子を作るときは大体「織姫専用」を別に用意しているんだけど、あたしも一護も一度ならずご相伴でのた打ち回ったからな。この一護パックも結局織姫の腹に納まるんだろうと思ったら、思わぬ伏兵が潜んでいた。「一護がいらないんだったら、僕が貰うよ」「み、水色?」「お、俺も欲しい!」たとえ直接口にしたことがなくても、織姫用と聞いただけで危険物とわかりそうなものだけど、小島は笑顔で、浅野は決死の表情で手を伸ばし、そうなると惜しくなるのか、一護は袋をしっかと抱きしめた。「別にいいよ。井上さんにあげるから」一般受けしないことを一番良く知っている雨竜は顔を顰めたが、「イイエ欲しいです石田さんのクッキー!」「そうだよ、お料理上手だって知ってるもの。石田さんみたいな人が彼女だったら幸せだよね」「そうそ」「「「錯覚だ」」」突っ込みが見事にはもり、何故かあたしに視線が集中した。……しまった声に出してしまった。「……」たつきちゃん、と織姫が声に出さずに呟くのがわかった。違うのよ、あたしはただ、二人ともそういうだろうと思っただけなのよ。弁解しようにも声が出ない。一護はあたしを睨んでいる。誰もフォローできない。教室中が静まり返る。「……正解だよ、有沢さん」雨竜が小さく笑った。「そういうと思ったんだろう?君は本当に、僕と黒崎のことをよく見ている」あんたこそあたしをよく見ている。どうにか平穏を取り戻した教室の中で、あたしはまだ凍り付いている。(7月12日 前日記より)
2006年08月18日
コメント(0)
(6月11日(日))天気はいいけど暇なので、駅前をふらふらしていたら、クラスの女子二人が駅から出てくるのにぶつかった。「やっほー佐藤君」「ああ、こんにちは」「おう。二人でどっか行ってたのか?」「うん、夏服を買いにね」何時も賑やかな井上は、殆ど喋ったことのない俺にも気安い態度だ。嬉しそうにデパートの袋を指差す。おとなしい感じの石田は、その一歩後ろで控えている。あれ、この二人、黒崎を巡って揉めてるって話だったよな。一緒に出かけるってことは仲がいいのか?まあ、どっちも少し変わっているというか、凡人には計り知れないところがあるけど。「佐藤君は?」「別に、暇なだけ……」あ、いいこと思いついた。「そうだ、三人でお茶いかね?暑いしさ」「えっと……」「僕はパス」「じゃああたしもパス」あああちょっと待って!こんな機会は滅多にないぞ俺!「奢るから!」「ご一緒しよう」おいおい。噂には聞いてたけど、本当に「タダ」に弱いんだな石田って!俺は思わずずっこけたが、井上が「だったらあたしも行く」と言うので、結局三人でマックに入ることになった。おおお気持ちいい!店中こっち見てる!当然だよな、両手に花、しかもどっちも(性格は置いといて)かなり可愛いもの!しかし俺の有頂天は5分も続かなかった。「え、井上?石田?」何でやってくるんだ黒崎!それに茶渡に浅野に小島!「わーい皆来たんだ」「……僕としたことが、ぬかったよ……」井上が手をぶんぶん振り、石田は深く溜息をついた。黒崎は凄い目で俺を睨んで、「誰だてめえ」「「「「「「同じクラスの佐藤(君)!」」」」」」」俺の名前が店中に響き渡った後、結局俺たちは二つのテーブルをくっつけて座った。井上と石田が俺と同じテーブルなのは小島の口利きだ。厄介な奴に借りを作った気がするが、まずはめでたい。「で、お前ら何してたんだよ」「お買い物!」「へえ、何買ったの?」「あたしはキャミ」「夏らしくていいデスネ!石田さんは?」「…………スカート」なんだ今の間は。ほんとこの二人ノリが違う。とか考えていたら、黒崎が石田の袋をひったくった。ちょっと待てどんだけ気安いんだお前ら!「うわミニじゃねえか。本気でこれはく気かお前」「井上さんの見立てだぞ!文句があるのか!」信じられねえこいつ、人の買い物勝手に開けやがった!「信じられない奴だな君は!」石田は凄い勢いでスカートを取り返すと、黒崎(と隣の浅野)にアイスティーをぶっかけた。「ぎゃあああああっ!」「何すんだてめえ染みになるだろうが!せめて水にしとけ!」「何で僕がそんなこと気にしなきゃならないんだ!」「ていうかそれ僕のだったんだけど」「お、俺何もしてないのにィィィ!」「……ム」ああもう大騒ぎだ。すっかり逆上した石田はシェイクやらコーラを黒崎に向け、黒崎がそれを避けようとするもんだから狭いテーブルはえらい状態になっている。「別にここで着替えろって言ったわけじゃねえだろ!」「へえ僕がはいてるところを見たいのか?それより君にはかせてやろうか!」「お前と違ってそういう趣味は無え!」「……表に出ろ黒崎!絶対はかせてやる」「おお上等じゃねえか!」元凶二人は頭に血が上ったまま店を出て行き、後には騒動に全くついていけなかった俺と、巻き込まれて酷い有様の浅野たちと、ちゃっかりシェイクとアップルパイをキープしていた井上が残された。「本当に仲がいいよね、あの二人」井上はのほほんとコメントすると、アップルパイをぺろりと飲み込んだ。(7月11日 前日記より)
2006年08月18日
コメント(0)
(6月11日(日) 井上織姫)「あっこれがいい!絶対可愛い!」石田君は困ったようにメガネを押さえた。「井上さんには似合うかもしれないけど、僕にはちょっと……」「そんなことない似合うよ!いいから着てみて!」三枚選んで試着室に放り込む。あたしと石田君は髪の色も体型も違うので、お下がりはイマイチ似合わなかった。石田君の元々の服もなんとなく似合わない。黒崎君たちに女の子の私服を選ぶのは無理なので、あたしが下着から小物まで面倒を見ている。着せ替え人形のようでちょっと楽しい。夏服を買いに行こう、と言ったら随分渋っていたけど、何とか連れ出した。あたしはあまりスカートははかない。黒崎君たちの手伝いをするようになってはかなくなった。でも石田君にはスカートを薦めた。来年はもうはけないんだから、って。あたし意地悪だなあ。黒崎君はあたしがどんな格好をしても気にしないけど、石田君の服はよくチェックしている。大抵駄目だしなんだけど。あたしはコメント自体貰ったことがない。……あたしは黒崎君のタイプじゃない。そんなことはわかっている。あたしは胸が大きいから、それだけで好きになってくれる人もいたけど、彼はそんなとこ見もしなかった。友達から彼女になれるかもしれないと思った。友達にはなれたけど、そこから一歩も動けなかった。はっきり告白したわけじゃないけど、あたしはとっくに諦めている。朽木さんは素敵な人だった。黒崎君が彼女を助けに行くと言ったとき、あたしはもう駄目だと思った。黒崎君と、朽木さんのような関係を気づくことはできないと。朽木さんが向こうに残ると言ったとき、いけないと思いつつ嬉しかった。二人の側に立つことが辛いと思わずにすんだことにほっとした。……でもあたしは今不安でしようがない。最近、黒崎君は石田君に対する態度が変わった。ううん、感情が変わった。まだ揺れているけど、その感情が定まることがあたしは怖い。ずっと望んでいたあたしじゃなくて、運命共同体の朽木さんでもなくて、ほんの少しのズレが切っ掛けで石田君が選ばれたらどうしたらいいの。あたしは黒崎君の決定に従えるの。黒崎君が幸せならそれでいいとあたしは思えるの?「井上さん、これにしようかと思うんだけど……」「あ、いいと思うよ」青いミニスカート。弓を引くには不都合だけど、似合ってるから問題なし。あたしが死んだら、きっと虚になってしまう。そうしたら、貴方を食べる前に貴方の弓で滅却して。魂葬なんかしないで、正気に戻さないで。……お願いだから。(7月10日 前日記より)
2006年08月17日
コメント(1)
(6月9日(金) 茶渡泰虎)石田は最近一人でいることが多い。女子に弾かれているというより、石田のほうが居辛くなっているようだ。井上は責任を感じておろおろしているし、一護は避けられてぴりぴりしているし、俺は誰も庇えずじっとしているだけだ。切っ掛けは先日のパーティーだ。一護のパートナーは井上だった。黄色いふわふわしたドレスを着て何時も以上に可愛らしく、取りまきを大勢引き連れてまるでアイドルのようだった。学園中の男が彼女に注目しているのに、肝心の一護の視線は、白いシンプルなドレスを着て、つんとすましている石田から片時も離れなかった。いや、正直な話、俺も石田の方ばかり見ていたんだ。石田のパートナーの啓吾はどんなにつれなくされても健気に一歩後ろを歩いていたし、石田はやけになったのか声をかけてきた男全てと踊っていた。ただ、井上の目的はただひたすら一護だった。ドレスが着たい、見栄を張りたいなどの理由で連れ出された俺たちと一護は立場が違った。井上は、一護が石田ばかり見ている理由がわかっているから我慢していたが、彼女の友達は皆怒っていたし、俺や水色も何度も注意した。しかし一護は不機嫌そうに何か言い返すだけで、また石田の姿を捜している。女子の制服さえ嫌がっている石田だが、今日は深くスリットの入ったドレスを着て、綺麗にお化粧して、髪をセットして、啓吾がちょんちょん跳ねして喜ぶほどの出来だった。それを食い入るように見ていたのだから、誰だって石田に気があると思うだろう。井上のグループは石田を扱いかねるようになった。井上は必死になって石田を誘うが、石田は既に逃げ腰になっていて、昼休みなどは結局屋上に逃げてくる。一番いいのは一護と井上が付き合うことだが、どうも最近、進展どころか後退気味だ。「僕が浅野君と付き合えばいいのかな」石田の考えは最近どうも退廃的だ。「啓吾にすまない」「……小島君なら、事情を話せば協力してくれるんじゃないか」「……」そんな真面目な顔で酷いことを言わないでくれ。この期間限定の嘘の世界の中で、何か取り返しのつかない事態が進行しているんじゃないかと、俺はぞっとした。(7月8日 前日記より)
2006年08月16日
コメント(0)
(5月24日(水) 小島水色)「一護はさ、君を誘いたかったんじゃないかな」主語は抜いてもわかるはずなのに、石田さんはそっけなく答えた。「何の話だい」「プロムだよ。井上さんを一度断ったのは、君のためだと僕はみている」石田さんは漸く針を持つ手を止め、僕を冷ややかに見上げた。「くだらない宛て推量はやめたまえ」優等生の彼女は、何故か芝居がかった男言葉を好んで使っている。近寄りがたいという意見もあるけど、僕はそんな彼女の硬質な異質さが気に入っている。プロム(要するにダンスパーティーだ)の話を聞いたとき、誘ってみようかな、と思った程度には。うちのクラスには結構可愛い子が多いけど、彼氏のいる割合が何故か低いので、プロムの話が出たときには軽くパニック状態になった。だってあれ、カップルでなきゃ参加できないから。バレンタインよりずっといいチャンスだと思うのに、うちのかいしょーなしどもは中々動こうとしない。(あの啓吾も、何だかもじもじしているのには驚いた)やっぱりここは僕が率先して動くべきかなと思ったとき、クラスで一番可愛い井上さんが目を輝かせて一護に襲い掛かった。「ねえ黒崎君、パーティーだって!あたしドレスが着たいんだけど……」「わりいパス。お……」間髪いれず有沢さんが肘を落とし、本庄さんが平手をいれ、石田の細腕が黒崎を吊り上げた。流石もてるなあ井上さん。「ちょっとあんたどういうつもり?」「そうよ本当ならあたしがエスコートしたいってのに!」「女性に恥をかかせるとは感心しないな黒崎一護!」電光石火の連結技に、喧嘩慣れした一護が呆然としているくらいだから、周りは皆「達磨さんが転んだ」状態だ。チャド君もとても近づけない。「ご、ごめん、黒崎君が出たくないなら構わないから!」何時もぽややんの井上さんが焦って止めるんだけど、石田さんは一護を離さない。針より重いものは持ったことないってイメージだけど、結構力があるんだなあ。「俺はタキシード着てダンスなんかしたくねえよ。チャドか啓吾に頼めばいいだろ」うわ僕スルーされた。「彼女は君に頼んだんだ」石田さん目が怖いよ。有沢さんたちは井上さんに構っていて、何だか一護と石田さんの一騎打ちになっている。「じゃあ俺と井上の問題じゃないかよ」「君と彼女が気まずくなるのは避けたい」「お前らが話を大きくしたんだろ」「君には思いやりが足りないよ」「じゃあお前は俺かチャドが誘えば付き合うのかよ。ドレス着て踊るのか?」「……ああ踊るさ!」どうみてもやけっぱちで石田さんが叫び、どよめきが走った。プロム出たがるようなキャラじゃないから、皆候補から外していたんだろう。ここで僕が名乗りをあげたらさぞ怨まれるんだろうな、と一瞬躊躇ったら、なんと啓吾が踊り出た。「石田さん、本当に出るの?俺と踊ってくれるの?」「……あー、うん……」躊躇いながらも石田さんが頷き、一護がぎょっとしたように二人の顔を見比べる。クラス中が目を点にしている中で、僕はどうにか状況を悟った。啓吾のお姉さんは生徒会役員だ。その伝手でプロムの前情報を得た啓吾は石田さんにフライングし、石田さんは「出る予定はないけど、出るとすれば君に付き合おう」とか答えたんだろう。当り障りなく断ったつもりだったのに、一護との言い争いで言葉尻を捕まえられてしまったと……。やるじゃないか啓吾!ルール違反の上に運が味方したけど、難攻不落の石田さんをおとしたんだから大したもんだよ!僕は珍しく彼をストレートに褒めたが、一護とチャド君はそれ以来どこか啓吾に冷たい。一護は成り行き上井上さんに同伴することになり、僕とチャド君は有沢さんたちに同行を求められたんだけど、多分一度も踊らずに終わるだろう。啓吾一人が春を満喫しているけど、肝心の石田さんは家庭科準備室でドレス作りに励んでいて、こうやって押しかけなければ話も出来ない。「石田さんは、一護と井上さんをくっつけたいの?」軽い調子で聞いたつもりだったのに、石田さんは苦悩の表情で、「……そんなつもりはない。彼女が望むなら、仕方ないというだけだ」「友達思いなんだね」苦々しげに舌打ちする。「多分、君の考えているようなことじゃない」ふうん。だったら君が何を考えているのか僕は知りたい。「恋愛より友情を選ぶとか、そういうことじゃないんだ」そうだろうね。君にはエゴの匂いがする。僕は君が好きなんじゃなくて、君の内側を覗きたいだけなんだろうかと、僕は笑いながらそんなことを考えていた。(7月6日 前日記より)
2006年08月13日
コメント(0)
(5月12日(金) 石田竜弦)やはり柄にもないことはするべきでない。平日昼下がりのデパートの屋上で暫しぼうっとした後、催事場に寄ったのはほんの気紛れだった。一月ぶりに自らに許した休日であるにも関わらず、することも行くべき場所もない。「アジアの創作手芸展」という見出しに思い出したのは、またしても厄介なことになっている出来の悪い息子のことだった。(無理に医者になれとは言わない。おとなしく手仕事だけしていればいいものを)凝った刺繍の中国ブースの前で思わず溜息をついたとき、「石田先生!」と大声で呼ばれた。医者というものは大抵顔が広いが、私は黒崎と違ってフレンドリーを売り物にするタイプではない。だからこそ主婦の群れの中で平然としていられたのだが、「君は……確か、」傍若無人な声を張り上げたのは、雨竜と同じ空座高校の女生徒だった。栗色の髪、中々目立つ容姿。黒髪の、気の強そうな少女を伴っている。「井上さん」「はーい!お買い物ですか?」私がこんなものを買うように見えるのか。腹の中で罵る。ほんの小娘だが死神関係者だ。あまりありがたい存在ではない。「石田先生って……雨竜のお兄さん?」「ううん、お父さん」「若っ!……あ、こんにちは、石田さんと同じクラスの有沢です」黒髪が軽く頭を下げた。かなり霊力が高い。しかし一般人のようだ。「こんにちは。雨竜がお世話になっています」もう高校生がうろつく様な時間なのか。帰ろう。……と思ったら、井上嬢に退路を絶たれた。「……?」「あの、チャイナドレス買うんですよね?あたしサイズ知ってますよ!」「は?」「だから、その……娘さんのプレゼントですよね?あたし先月採寸したから、当人にわざわざ聞かなくてもオッケーです!」ちょっと待て勝手に決め付けるな。確かに此処には一般向けしそうなチャイナドレスが何着も吊るされているが。私は「息子」にこんなもの着せて喜ぶような人間に見えるのか?有沢嬢はなにやらじっとりとした表情だが、どちらに呆れているのかよくわからない。「何色にします?この赤なんかいいんじゃないかなあ」「いや、別に……」私は服を買いにきたわけじゃない。どうせ着ては貰えぬ服を買ってどうする。「あ、でも、アオザイの方が似合うかも」そうかもしれない。少なくともスリットだのミニスカートよりはいいだろう。……いやいや。「大丈夫ですよあたしが責任持って着させますから!安心して買ってください!」「……君にはそんな発言力があるのか?」「そりゃあ友達で仲間ですから。大体誕生日でもクリスマスでもないのにお父さんがプレゼントくれるのに、着たくないなんて言っちゃ駄目ですよ!」「お、織姫」「……あたしの両親なんて、本当の本気で何もしてくれないもん」そう言った彼女の目に突かれた。連れの少女もどこか揺れている。これは、かなりの事情がありそうだ。成り行きではいった喫茶室で聞いた話は、まるで新聞の社会面の丸写しだった。その陳腐さに苦笑しながら、雨竜が彼女に逆らえないのにどこか納得した。結局チャイナとアオザイとチョゴリとサリー、そしてバジュ・クバヤとかいうのを三枚ずつ買った。勿論現金ではとても足りないのでカードを使った。有沢嬢は青褪めて辞退し、強引な井上嬢も流石に驚いていたが押し通した。まあ、雨竜にこういう格好をさせるのも面白いと思う。似合いそうなものを選んだつもりだ。あの子は着ること自体は嫌がるだろうが、サンプルとしては喜ぶに違いない。必ず着せてみせると約定を取ったし、プロの写真家の伝手もある。どうにも気に食わないこの状況を、一度くらい楽しんでも罰は当たるまい。しかし雨竜はまた厄介な相手を選んだものだ。本当に馬鹿な子だ。
2006年08月12日
コメント(0)
(5月10日(水) 黒崎一護)「おい石田、お前生身の体が戻るまで休めば?」「ふざけるな」わかっちゃいたけど一蹴された。「だったらあれ、何とかしてくれよ……」虚退治は昼夜を問わない。……昼間はまだいいんだ、昼間は。おとなしくて虚弱体質の優等生石田サンは、始終優しい井上サンの手を煩わしてますってことになってるから。しかし夜ともなると、大体井上や茶渡がくる前にけりがつく。深夜に若い男女?が二人きり。俺も石田も気にしてないが、物凄く気にしている奴もいる。今も俺に、「とっとと帰れ」と霊圧でプレッシャーかけてる馬鹿親父が!くそうルキアの時は良かった。うるせーのはあっちの世界にいたからなあ。送っていくもなにも一緒の家に住んでたし。井上のアパートはチャドと近いから一緒に帰らせればいいけど、石田んところは全員の家から離れているから、あまり遅いときは俺が送っていくしかない。こいつの中身知ってて襲うほど俺も切羽詰っちゃいないが、やっぱり親は面白くないんだろうと理解は出来る。うちの親父はああだし。「傍目にはまるっきりストーカーだよな」「……煩い」俺たちの後をゆっくりとつけてくる高級車。ライトはつけていない。何時か捕まるぞ絶対。「乗せて貰えばいいじゃねえか」「僕は御免だね」おいもう丑三つ時だぜ。俺は早く帰ってゆっくり寝てえよ。いい加減親子の距離を縮めてくれ頼むから!俺はあくびをかみ殺した。
2006年08月12日
コメント(0)
(4月25日(火) 石田雨竜)「人気投票?」「うん、一学期に一回、女子の有志でやってるの。全校男子生徒対象で一人三票まで」そんなの知らなかった。……というか知りたくなかった。そうかこっそり男子のランク付けしてたのか君たち……。「ちなみに石田君は、一年の一学期の時8位で、一年では3番手だったんだよ」「え、ええ?」「黒崎君たちには黙っててね」井上さんはにこにこしたまま僕に投票用紙を渡した。黙っていてというのは僕の順位ではなく、人気投票自体だろう。まあ、黒崎も茶渡君も聞きたくないだろうこんな話。小島君や浅野君は喜びそうだけど……少なくとも僕は聞きたくなかった。8位は嬉しいけど間違いなく手芸部の組織票(要するに義理)。そして間違いなく二学期三学期では順位が落ちている(殆ど登校していないから仕方ないけど)。そして僕を人気投票に加えるということは、井上さんは100%僕を同性と認識している……!井上さんも僕に一票入れてくれたかもしれないけどそれはあくまで義理で、本命は間違いなく黒崎だ。畜生たとえ井上さんと有沢さんの二票しか入ったことがないとしても、心底羨ましいぞ黒崎一護!悔しいから一票入れてやらない。茶渡君と浅野君と小島君(入れなくてもいい気がするけど)の名前を書いて、僕は井上さんに手渡した。一週間後のスタバ。「で、結果は?」……悲しいかな人の性。不快なイベントだと思いつつ、僕は井上さんたちに結果を聞いていた。「うちのクラスだと、小島が2位」本庄さんがリストを読み上げる。女の子にしか興味のない彼女がこれに関わっているとは意外だ。「茶渡が13位、黒崎が15位とあるわ。まあ前回と似たようなもんね」全校で20位以内か。二人とも目立つからな。小島君がもてるのは知っていたけど、2位とは凄い。ぼんやりムカついていたら、有沢さんが「そういえば、今回浅野にいれた奴がいるんだって?」「あ、それ、僕だけど」別に隠す必要もないので、自己申告すると井上さん以外全員目を丸くしている。「……石田ってああいう軽薄なのが好み?」軽薄は酷いな国枝さん。「確かに馬鹿で鬱陶しいし役立たずだけど、性格はいいじゃないか。見た目もそう悪くないし」「うん、あたしも浅野君は結構好きだよ」「織姫まで……」夏井さんの呆れたような顔をしていると、何だか自分が間違ったことを口にしたような気がしてくる。やっぱり男と女の見る目は違うってことかな。(じゃあ井上さんは?)行き掛かり上浅野君のフォローをする羽目になった僕は、それが後々彼の耳に入って厄介なことになるなど、考えもしなかった。
2006年08月11日
コメント(0)
(4月21日(金) 阿散井恋次)「何でルキアと同じ制服着てるんだてめえ」軽くからかってやったら蹴りが飛んできた。危ねえな中見えるぞ。「好きで着ているわけじゃないし君の仕事を手伝う義理もないな。とっとと働け穀潰し」うわムカつく。「写メに撮ってソウルソサエティ中回すぞおい」メガネはふん、と笑った。「どうぞ?泣くのは君のほうだと思うけどね」「何?」「朽木さんに言いつけてやる。君に裸の写真を撮られて回されたって」「ちょっと待てオイこら!別にそこまでやるとは」「それより朽木さんのお兄さんのほうがいいかな」「…………俺が悪かった……」げ、現世って怖え……(涙)!(7月5日 前日記より)
2006年08月10日
コメント(0)
(4月9日(月) 黒崎一護)「おはよう黒崎君!」「い、井上?」何でお前が此処にいるんだまだ朝の7時だぞ?ちったあ石田の世間体も考えろと言いかけて、今は俺のほうが非常識だということに気づいた。「おはよう、黒崎。君も僕が学校をさぼらないかどうか不安だったのかい?」朝から元気一杯の井上に引き換え、石田はまだ眠そうな様子でしかもまだパジャマのままだ。まさか本気でさぼるつもりだったのか?「あがっていいか?」「いいよ。もう茶渡君も来ている」……考えることは皆一緒か。いつもなら殺風景な石田の部屋は、今朝は女物の服に埋まっていて、その中でチャドはでかい体を小さくして茶を啜っていた。「どうしたんだこの服」「えっへん!本邦初公開!わたくし井上織姫の中学時代の私服であります!」堂々胸を張った井上には、同い年の男にお下がりをやるというびみょーなイベントに対する疑問や皮肉など、微塵も感じられなかった。変な女だけど、環境適応能力は抜群に高いからな。「サイズはあうのか?」「昨日のうちに測っておいたけど、ボトムはぜんぜん大丈夫。トップは、体型が違うからちょっと苦しいかな」「ああなるほど」そういやこいつ俺の服も合いそうにないな、身長は殆ど一緒だったのになあと考えたら、石田にぎろりと睨まれた。「君、僕の体型についてなにか不埒な想像をしただろう」ばればれかよ。おい湯呑かたすなよ俺だって茶くらい飲みたいよ!「しかし井上と石田では服の好みも違うんじゃないか?」チャドが話を戻してくれてほっとした。俺も、石田に井上の服が似合うとは思えないし。「でも石田君、新しい服を揃えるお金がないっていうから」「これまでの服の袖や丈を詰めて、ベルトを締めれば十分だよ」「でもそれじゃ彼氏の服を借りてるみたい」俺とチャドは同時に茶を噴出した。石田の視線が必要以上に冷たいのは、こいつも同じような想像をしたんだろう。ていうか、井上も同じことを考えたんだよな。「ま、まあ、この件については井上に一任する!」「ム」「こら、勝手に決めるな!」(7月4日 前日記より)
2006年08月10日
コメント(0)
(4月7日(金) 石田雨竜)五感が戻ってくる。整になったつもりだったのに、ちゃんと生身の体らしきものがあって、本気で驚いた。……いや、生身じゃないかもしれない。どこか違和感がある。ここは浦原商店の一室のようだ。天井に見覚えがある。あの怪我を治せるとは思わなかった。煎餅布団を跳ね除ける。立ち上がる。どこも痛くないし機能にも問題はなさそうだ。……やっぱりどこかおかしい気がする。覚悟を決めて姿見の前に立つ。浴衣の前を広げた。「………………っ!」僕は声にならない悲鳴をあげた。多分意識も飛んでいたに違いない。気がついたら僕は裸のままへたりこんでいて、この店の店長が後ろにいて「絶景ですね~」なんていっていたのだから。何度も言うのもなんだが姿見の前だ。僕は慌てて浴衣を引っかぶった。「ううう裏原さんこれって」「ああ、石田サンの体は修復中ですよ。酷いもんです、ありゃ半年はかかりますね」「じゃあこの体は」僕は背中を鏡越しの尋ねた。とても振り返る気にはなれない。「はい、義骸です。ほんとはイケナイんですけどね、黒崎サンがどうしてもっていうし、実験のためって言えばまあ通るかと」「何の実験なんですかっ!」出来ることなら殴りたい。体が取られてなければ絶対5発は殴っている。殴ってどうなるものでもないが。「石田、起きたのか?」聞きなれた声。「ちょ、ちょっと待て黒崎!」帯を結びなおす。今ようやく気がついた、外はもう明るい。あれから何時間、それとも何日経ったんだろうか。こんな義骸、簡単に用意できるとは思えない。「……いいよ、はいってきて」黒崎、茶渡君、井上さんも来ている。皆微妙な表情なのは、もうこの「実験」について聞かされていたんだろう。「えー、石田サンの体ですが、ひっじょーにアレな状態でしたので、完全回復には月単位かかります。その間魂が入っていると色々やり辛いので、石田サンには実験をかねてこの義骸にはいっていてもらうことにしました。皆さんご協力をおねがいしますね?」人を食った口上に、三人は顔を見合わせたが、結局「……石田さえよければ別に」「いいわけないだろう黒崎!」畜生目を逸らされた。「安心して石田君!あたしがしっかりがっつり面倒見てあげるから!服も下着も選んであげるし、グループに入れてあげるし、トイレも更衣室も一緒に行くから!」……なんだか必要以上に乗り気だね井上さん。「……ム」それだけかい茶渡君!僕は未だに悪い冗談か夢としか思えないんだけど、僕がこの姿で半年過ごすことは、もう確定済みなのかなひょっとして!「いやああたしも、今更古巣と揉めたくないんですヨ」「……」「人間、それも滅却師に義骸を誂えたとなると外聞がどうも」「……」「大丈夫ですよ、学校や近所の皆さんの記憶は書き換えて置きましたから!石田サンはちょっぴりシャイな貧乳女子高生って……痛い痛い、顔はやめて、あたし女優なんだからっ!」「煩い、貴様のような変態は死んだほうが世のため人のためだあっ!」僕は怒鳴りながら浦原をがんがん蹴飛ばした。黒崎たちが止めなかったのは、僕の正当な制裁だと認めたんだろう……多分。(7月3日 前日記より)
2006年08月09日
コメント(1)
(4月3日(月) 石田雨竜)痛い!どう考えても助からないのに、痛覚が飛ばないとはどういうことだろう。僕は何時死んでもかまわないように暮らしている。冷蔵庫の中の生ものと一日分の生ごみ(今日は生ごみの日じゃなかったから)、気になるのはそれくらいだ。黒崎が何か喚いている。煩いな、今の僕にはただの騒音としか聞こえない。今日は幸か不幸か井上さんがいない。黒崎が僕を抱える。足は茶渡君が拾った。……馬鹿だな、虚に逃げられたじゃないか。叱る気力もないと自嘲し、それからようやく意識が途切れた。(7月3日 前日記より)
2006年08月09日
コメント(1)
全241件 (241件中 201-241件目)