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風化がいわれながら、あの戦争の記憶は68年後の今も日本人の心に重くのしかかる。ゼロ戦を扱った映画「永遠の0」が公開された。妻子に再び会うため、天才パイロットの主人公は臆病者の汚名に甘んじ、激戦を生き延びようとする
▼かつて取材した元ゼロ戦搭乗員を思い出した。「私が第一線に出たころは戦争末期。撃墜なんて、とても。逃げ回るばかりで」。京都市山科区の自宅で感情を押し殺すように振り返った
▼15歳のとき、親に無断で海軍の飛行予科練習生となり、各地を転戦した。やがて戦局は悪化。極秘のロケット特攻機・桜花の部隊に配属され、無音で滑空する不気味な機体の操縦訓練を繰り返した。まだ19歳だった
▼ところが出撃を前に護衛戦闘機隊に配置換えとなり、九死に一生を得た。「あのとき死んでいたら、子も孫もいなかった」と家族の写真を手に笑った。それから十数年、消息は途絶えた。存命なら傘寿だろうか
▼無謀な戦闘を拒み続けた映画の主人公は最後に特攻を選ぶ。最愛の家族を思いつつ、失った大勢の友や仲間に呼ばれるように
▼ほとんどの日本人が「何のために、どう死ぬか」を考えていた時代に、生き続けることをあきらめなかった主人公の姿は胸を打つ。特攻を強いた理不尽で残酷な時代を二度と繰り返すまい。
[京都新聞 2013年12月22日掲載]