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映画「藁の楯」を、DVDで、観ました。
感想は、たくさんありますが、一つは、
「人間は、悪という存在について、改めてもう一度、考える時期にきているのではないか?」
ということです。
「悪」という存在は、おそらく、人類が、誕生した頃から、存在していただろうと、思われます。
とても根深い問題だと、思います。
問題が、大きすぎて、一言で簡単に、言うようなことは、できないのですが、今回は、一般的に考えられている角度とは、違う方向から、見てみようと思います。
まず、この映画を観て、思ったのですが、「悪」という存在にも、いろいろな種類があるし、レベルも、存在するということです。
たとえば、人間が、殺人事件を犯す時にも、つい、カーッと、頭に血がのぼって、殺してしまうものもあれば、何もかも、計算しつくして、計画的にやるものもあるし、悪事そのものに、誇りやプライドをもって、やっているような悪魔の仕業ような犯罪もあります。
外国に比べたら、日本には、本当の悪魔のような人間は、それほどたくさんは、いないと思います。
この映画には、本当の悪魔のような人物が、描かれていますが、今後は、このような人間に対して、一般の社会が、どのように、接していけばいいのかが、問われることに、なると思います。
悪魔のような人物が、本当に、血も涙もないようなロボットだったら、まだ、問題は、単純なのですが、こういう人物でも、自分の家族は、愛していたり、やさしい心も、併せもっていたりするので、複雑な問題なのです。
何度か、書いたことがありますが、ご存知のように、私は、中学2年生の頃、身体が弱くて、いわゆる、いじめられっ子でした。
いつも、クラスメイトの暴力に脅えて、ビクビクしながら、毎日を過ごしていました。
心が、やすらぐのは、トイレの中や図書館だけという、最悪の学生生活でした。
自分の人生の中でも、最悪の1年間でした。
その当時、隣のクラスに、S君という凄い不良がいました。
他の不良たちとは、桁違いの悪だったらしくて、不良連中から、一目おかれていました。
なんでも、父親が、沖縄で有名な暴力団の幹部で、母親が、暴走族のトップという悪のサラブレッドでした。
ただ、ほとんど、学校にも、来ていませんでした。
あるとき、そのS君が、珍しく、登校してきたのです。
私は、最弱の男だったので、特に、S君のことなど、気にしてなかったのですが、他の不良連中は、微妙な力関係でもあるのか、皆、神経質に、なっていました。
彼が、学校に来ていたのは、わずか数日だったと思うのですが、面白いことが、起こったのです。
なんと、それまで、あれほど酷かった、私へのいじめが、S君が、登校した途端、ピタリと止まったのです。
それまで、どんなに、先生に、遠まわしに相談したり、周囲の友人に、助けを求めても、まったく止まらなかったいじめが、嵐が、止むように、なくなったのです。
おそらく、S君の前で、いじめなんかやって、目立ったことでもやったら、まずいことになるかもしれないという恐れが、いじめグループたちの中に、あったのかもしれません。
いじめグループの連中は、本当に悪質ないじめをやるのは、普通の成績の子だったり、かえって、ちょっと成績が良かったりする子が、多かったです。
不良連中は、あまり陰湿ないじめは、やりませんでした。
そのいじめグループや不良連中が、S君の前では、借りてきた猫のように、おとなしくなっていたのです。
体育の時間に、バレーボールだったのですが、一度だけ、S君と組んで、二人で、トスとレシーブを、やったことが、ありました。
誰も、怖がって、S君と組まなかったので、しかたなく、私が、パートナーになったのです。
「オマエ、下手だな... あはは」
こう言いながら、彼が、笑った時の笑顔が、今でも印象に、残っています。
とても哀しそうで、でも、ちょっとやさしそうで、それでいて、とてつもない悪の心が、同居しているような不思議な男でした。
私は、彼の怖さよりも、彼と一緒にいる間だけは、絶対に、いじめられないという安心感のほうが、大きかったので、彼と、その時間、楽しくプレーしました。
そしたら、後から、いじめグループの連中から、
「オマエ、よく、S君と、楽しくおしゃべりできるな... 怖くなかったのか?」
と、驚かれました。
その時に、
「そうか... 悪人というのは、善人の言うことなど、聞かないんだな... 悪い奴というのは、もっと悪い奴には、従うんだな」
こういう気づきが、ありました。
S君は、中学を卒業した後は、すぐに、福岡の暴力団に入って、その当時、九州で、最大の暴力団抗争が、あったらしいのですが、そこで、手柄を立てて、10代で、その暴力団の幹部に、なったそうです。
しばらく、忘れていたのですが、20歳の頃に、沖縄県全体を、震撼させるような殺人事件があって、テレビのニュースを見たら、なんと、そのS君が、主犯として、逮捕されていました。
その後、彼の罪状などが、どうなったかは、わかりませんが、私が、直接会った人物の中で、もっとも、凶暴だと思ったのが、このS君でした。
私は、その後、大学で、臨床心理士になろうと思って、カウンセリングの勉強など、やっていたのですが、その時、指導してくれた教授に、S君の話をしたら、
「そうですか... 実は、私も、若いころ、刑務所の中で、カウンセラーの仕事を、しばらく、やっていたことがあります。その時、殺人犯を、主に、カウンセリングしていました」
そう話始めました。
続けて、
「しかし、その仕事をしていく中で、生まれつきの人殺しという人間が、存在することに、気がつきました。世の中には、人殺しをするために、生まれてくるという絶対悪の人間が、いるみたいです」
それから、しばらく間をあけて、
「そういう人間も、やはり、この世界に存在する理由や価値が、あるのかもしれませんね... 私には、まだそれが、なんなのか、わかりませんが...」
複雑な表情をしながら、こう呟きました。
昔から、ヤクザや暴力団は、存在しています。
世界中にも、マフィアのような悪の集団は、たくさん存在しています。
これらのグループを、全て無くそうという動きも、もちろんありますが、はたして、これらを、全部無くしたところで、世界は、よくなるのか、それは、わかりません。
いつか、世界中の人々の霊性が、上がって、皆が、人格者になれば、自然に、無くなるのかもしれませんが、無理やり無くそうとした場合、どうなるかは、わからないのです。
もしかしたら、暴力団やマフィアという巨大な悪魔のグループが、存在するおかげで、チンピラクラスの悪魔たちが、おとなしくしている可能性も、あるのです。
もしも、こういった悪のグループを、無くしてしまったら、チンピラクラスの悪が、暴走してしまう、可能性もあるということです。
暴力団やマフィアが、いいとは、言いませんが、これらが、チンピラに、睨みをきかせている間は、チンピラが、おとなしくしているのです。
軍隊なども、もちろん、いいとはいいませんが、軍隊が、無くなった途端に、それまで、おとなしくしていた小さなゲリラやテロ組織が、過激になる可能性も、あるのです。
アメリカに住んでいた頃、現地の人から、アメリカでは、ギャングたちがいるエリアは、警察官のほうが、凶暴で怖いという話を、聞きました。
物分かりのいい、やさしい警官だと、ギャングたちに、ナメられるため、そういうエリアを、巡回している警官は、ギャングたちが、震え上がるようなヤバい警官が、担当しているのだそうです。
なるほど...ですね。
さらに、アメリカのある大都市は、ある時期から、とても治安がよくなったのですが、いろいろな対策を、たてたそうですが、一番、効果のあったのが、アメリカで、一番大きな組織のマフィアのボスを、市長にしたのが、てきめんに効いたそうです。
とても凶暴なマフィアのボスが、市長になったおかげで、その街のチンピラ連中が、おとなしくなったのだだそうです。
これは、ボスにとっても、嬉しいことです。
「マフィアのボス」という肩書よりも、「アメリカの大都市の市長」という肩書のほうが、死んだ後、自分の子孫たちにも、自慢できるからです。
もちろん、表向きは、その市長が、マフィアのボスということは、内緒にしているみたいですが、このように、世の中には、
「毒をもって、毒を制する」
「蛇の道は蛇」
「清濁併せ呑む」
というようなテクニックを使って、悪いシステムを、善い方向へ改善することが、けっこうたくさんあるみたいです。
日本でも、昔、有名な空海が、
「この世界には、毒というものは、存在しない。どんな毒も、微量で、適切な使い方をすれば、薬になる」
と言ったという逸話も、聞いたことたあります。
「人が、歴史を、動かしている」
とのも、真実だと思いますが、もう一方で、
「歴史が、人を、動かしている」
という側面も、あると思うのです。
たとえば、第二次世界大戦の前に、誰からが、ドイツのヒットラーを、抹殺していたとしても、やはり、ヒットラーのような別の人物が、同じことをやって、同じ歴史を、歩んだかもしれないのです。
現在も、世界を動かしているような超権力者の存在が、よく話題になりますが、これらの権力者を、皆、殺しても、やはり、同じような人たちが、また、でてきて、同じような世界を、つくるかもしれないのです。
こう考えると、
「世界そのものを、変える」
という方向も、大切ですが、一方で、
「世界に対する認識を、変える」
ということとも、同時にやったほうがいいし、こちらのほうが、即効性があるような気がするのです。
もっと、わかりやすい表現をすると、
「悪を、この世界から無くす」
こともいいのですが、同時に、
「悪の効用を、考える」
というのが、現実的で、効果のある革命になるような気がするのです。
トーマ
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