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『遠い国からの殺人者』は、笹倉明のミステリー小説である。〝ジャパゆきさん〟という言葉がある。アジアの国から日本に出稼ぎに来る女性のことをいう。本書は、フィリピンからのジャパゆきさんが主人公だ。
シエラはストリップ小屋の踊り子で、自分に寄生するヒロシをものの弾みから殺害してしまう。
つまり、事件直後から犯人はシエラだと特定される。刑事や探偵が状況証拠を積み上げて犯人に行き着くストーリー展開ではない。事件が起こるまでの伏線、そして起きてから裁判で判決を言い渡されるまでのことを描いている。
シエラはフィリピン人ということを隠し、アメリカ人ということで舞台に出ている。アメリカ人ではないということがばれたらコロンビア人という。フィリピン出身だと中南米出身者の半分しか給料がもらえないのだ。
第二に、ジャパゆきさんの悲哀を描いている。ヒロシはシエラのいわゆるヒモだ。32万の彼女の給料から15万をヒロシが取った。残り17万から家賃と生活費を引けば、国に充分な仕送りができない。ヒロシの機嫌が悪いと殴られる。それでも、ヒロシが出ていこうとすると、シエラは「お願い帰らないで」と言って彼にすがる。
第三に、ミステリーとしては、弁護士の赤間がシエラの正当防衛を証明して、無罪を勝ち取るために奔走する。その過程で、踊り子の実態や、彼女たちの悲哀が明らかにされてゆく。
また、この事件と別に起こった連続婦女暴行事件がかかわってくる。ここがミステリーとしての質を高めている。 踊り子を通じて展開される人間模様に重点を置くドラマチックなミステリーである。さすが直木賞受賞作。
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