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1961 (
昭和36 )
年7月2日、神奈川県の金田町にある杉林の中で坂井ハツ子の刺殺死体が発見された。警察は、ハツ子の妹・ヨシ子と同棲中の上田宏を殺人の容疑で逮捕した。上田は警察の取り調べで犯行を自供し、裁判になった。
本書『事件』は、裁判で判決が下るまでを描いている。
上田の弁護士は元判事の菊地大三郎。検事から弁護士に転向する人は珍しくないが、判事から弁護士になる例は珍しい。この設定からして、裁判で何か起こりそうな予感を読者に与える。
裁判では、殺人か傷害致死かが争われた。
第二は、裁判がすすむにつれて、調書に書かれていない事実が明らかになってくる。これは、弁護士である菊地の質問の成果である。彼の法廷での質問で新たな事実が出てきて、読者に真犯人は別にいるのではないか、と思わせる。そして、菊地は、これは殺人ではなく事故だと言い出した。
第三は、本書は、1961年から『朝日新聞』の夕刊に『若草物語』という題で連載し、1977年に『事件』と題を変えて単行本になった。連載当時、世の中にはカラーテレビは存在していない、電話を持っている家は1割ぐらい、ファックスや携帯電話はもちろんない。こうした当時の様子を本書で知ることができる。
裁判というものはこうしてすすむ、ということを読者に教えてくれ、60年代初旬の日本の変化を知ることができる絶好の作品だ。
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