偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2015.10.20
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カテゴリ: 万葉

 春は花、秋は紅葉であるが、もう一つ別の感じ方というのが我々にはある。春は光によってそれを感じ、秋は風の音によってそれを感じる、というのがそれである。
光の春は花咲きて 風の音秋は葉ぞ匂ふ
 このフレーズは何年か前に「万葉調の歌に曲を付けたい」という友人の箏曲家・和麻呂氏からの依頼で、「万葉孤悲歌」と題して春夏秋冬の恋歌4首を作ったことがあるが、その時の副題として作ったフレーズである。「風の音」は「かぜのおと」ではなく「かぜのと」と訓む。
 このフレーズを作る時に小生の頭にあったのは、
ひさかたの 光のどけき 春の日に しづごころなく 花の散るらむ
                                (紀友則 古今集84)
秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる
                             (藤原敏行 古今集169)
などの歌である。
 万葉集で秋風の音を詠った歌と言えば、この2首であろう。
わが宿の いささ群竹
(むらたけ)  吹く風の 音のかそけき この夕 (ゆふべ) かも
                            (大伴家持 万葉集巻19-4291)
君待つと わが恋ひをれば わが宿の 簾動かし 秋の風吹く
                         (額田王 万葉集4-448)
 ここで言う「風の音」は、風そのものが立てる音ではない。唸り立てる強風や吹き続ける強風ではなく、そより吹く風、或は一瞬にやや強く吹き抜ける一陣の風であり、その音は風そのものの音ではなく、風にそよいで何かが立てる音である。それを風の音と捉えて我々はそこに「秋」を感じるのである。
 光の春は外へ外へと心が向かうのに対して、風の音秋は内へ内へと心が沈潜して行くのであり、沈潜した心が外界の音に対してハッと気づく、そういう形で我々は秋を感じたりもするのである。従って、それは「かそけき」音であったり、あるかなきかの「簾のゆらぐ」音でなければならないのである。
 しかし、風の音を詠った歌は、調べてみると多くはない。殆ど無いと言ってもいい。それは、色や形で表現される視覚的な言葉の豊富さに比して、音を表現する聴覚的な言葉の少なさに起因しているのだろう。言葉がもっぱら音声によってのみ伝えられるものであった時代はそうでもなかったのかも知れないが、文字化されて音を伴わず視覚のみによって伝達されるということが主流となったこととも無関係でないのかも知れない。
 そういう中で上の大伴家持の歌と額田王の歌は、見事に「音」を捉えて表現した名歌と言うべきだろう。そして、それは共に「秋」の歌であるというのも我々の心の向き方と関係しているのだろう。
 尤も、こういうのは「ニワトリと卵の何れが先か」と同じで、「感じ方」が先か「歌」が先か、と考え出すと何とも分からなくなって来るのではある。我々はものを見て何かを感じるが、それは既に内側に蓄積されたものとの照射によって生まれるもの。上の藤原敏行や大伴家持や額田王の歌を知ってしまったら、それらの歌と無関係で「秋の風」の音を感じることが難しくなるだろう。そのように、個人個人の感覚もその者が立つ風土や歴史に培われた文化によって色付けされて行くのは不可避であるからです。
 我々は、先人たちの歌や俳句などを心の襞にうち重ねて何層にもなる豊かな感受性を育てて来たと言うことでもあるでしょう。
 秋と風の音ということで何とはなしに書き始めたこの記事、何処へ吹いて行けばいいのか迷走し始めています(笑)。
 さて、ブログ記事も亦、視覚的な構成を取っていますから、音を表現するのは難しい。ということで、「葉ぞ匂ふ」の方でまとめることとしましょう。
 わが里の本格的な紅葉の時期はまだ先であるが、それでもよく見ると既にチラホラともみじする木もあって銀輪散歩の目を楽しませてくれるのである。そして、サアーッと一陣の風が吹きも来て草や木々の葉がさやぐと更にも秋なのである。

サクラ紅葉 (3) (サクラの紅葉)

春花の 桜も良けど もみつ葉の 桜の秋も 見らくしよしも (花園紅葉)

サクラ紅葉 (1) サクラ紅葉 (2)
(同上)

サクラ紅葉 (4) (同上)

 さて、ついでに昨日の大阪城公園で見たガマの穂も「秋」の景色でありますので掲載して置きます。

ガマ (1) (ガマ)

ガマ (4) ガマ (3)
(同上)

 花園中央公園では、エゴノキの実が弾ける。

エゴノキの実三態 (1) (エゴノキの実・種子三態)

 しかし、ひょっとするとこれはエゴノキの実ではないのかも知れない。小生の記憶では、エゴノキの実の皮はもっと薄いもので、剥がれるように割れて、もっと真っ黒になった種子が顔を出す、というものであるからです。この実は表皮が厚く、皺が寄って来て弾けるように割れて茶褐色の種子が現れる。こういう種類のエゴノキもあるのだろうか。17日の記事ではないが、ウリカワのようになってもいけないので、断定は避けて深入りはしないこととします(笑)。

アキニレ (6) (アキニレ)

 こちらでは、楡の実が風に揺れている。

アキニレ (3) (アキニレの種子)

 ニレにはハルニレとアキニレとがあり、春に花咲き実を付けるのがハルニレ、秋に花咲き実をつけるのがアキニレ、とまことに分かり易い。

アキニレ (4) アキニレ (1)
(同上)

 楡に秋楡、春楡があるように、銀輪散歩にも銀輪春散歩と銀輪秋散歩がある。光と共に走るのが春散歩で風の音と共に走るのが秋散歩であるが、こちらの方は何やらよう分かりまへんなあ。まあ、銀輪は春もよし、秋もよしで、額田王のように秋に軍配を上げたりはしない。

野に出でよ 光の春は 花咲きて 風の音 (と) 秋は 葉ぞ匂ふ 絶えず通はな をちこちの 万花千葉 銀輪の道 (偐家持)

 結局、何やら訳の分からぬ記事のままに本日はこれまで。






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最終更新日  2015.10.20 17:13:24
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