海神
は くすしきものか 淡路島 中に立て置きて 白波を 伊予に 廻
ほし 居待月
明石の 門
ゆは 夕されば 潮を満たしめ 明けされば 潮を 干
れしむ 潮騒の 波を 恐
み 淡路島 磯隠
り居て いつしかも この夜の明けむと さもらふに 眠
の 寝
かてねば 滝の上の 浅野の 雉
明けぬとし 立ち騒くらし いざ子ども あへて漕ぎ 出
む 庭も静けし (万葉集巻 3-388
)
(海の神は神秘なものだ。淡路島を中に立て置いて、白波を四国の海岸にぐるりとめぐらし、<居待月>明石海峡からは、夕方になると潮を満たし、明け方になると潮を干させる。潮鳴りがする満潮の波が恐ろしいので、淡路島の磯に隠れて、いつになったらこの夜が明けるのかと、潮の様子をうかがい待機して、眠ることもできないでいると、早瀬のそばの浅野の雉は、もう夜が明けたと立ち騒いでいるようだ。さあ、船人たちよ思い切って漕ぎ出そう。海面も静かだ。)
(注)居待月=十八日の月。満月に近く明るい月ということで、明石に掛かる枕詞。
かけまくも あやに 恐
し 我が大君 皇子
の 命
もののふの 八十伴
の 男
を 召し 集
へ 率
ひたまひ 朝狩に 鹿猪
踏み起こし 夕狩に 鶉雉
踏み立て 大御馬
の 口
抑
へとめ 御心
を 見
し 明
らめし 活道山
木立の 茂
に 咲く花も うつろひにけり 世間
は かくのみならし 大夫
の 心振り起こし 剣太刀
腰に取り 佩
き 梓弓 靫
取り負ひて 天地
と いや 遠長
に 万代
に かくしもがもと 頼めりし 皇子の 御門
の 五月蠅
なす 騒く舎人は 白栲
に 衣
取り着て 常なりし 笑
まひ 振舞
ひ いや 日異
に 変
はらふ見れば 悲しきろかも (大伴家持 万葉集巻 3-478
)
(心にかけて思うことも、まことに恐れ多いことである。我が大君、安積皇子さまが、あまたの臣下のますらおたちを、呼び集め、引き連れて、朝の狩に獣を踏み立て起こし、夕べの狩に鳥を踏み立て、飛び立たせ、ご愛馬の手綱を取り、眺めてはお心を晴らされた、活道の山の、木々の茂みに咲く花も散ってしまった。世の中はこのようにも無常のものであるようだ。ますらおの心を奮い起こし、剣大刀を腰に取り佩き、梓弓を手に、靫を背に負い、天地とともに永久に、万代までもこのようであったらなあ、と頼みにしていた皇子の宮殿の、<五月蝿なす>活気に満ちてお仕えしていた舎人たちは、真っ白に喪服を着て、いつもの笑顔も振舞いも、日ごとに変って行くのを見ると、悲しいことだ。)
(注)安積皇子の急死を悼んで大伴家持が作った歌6首のうちの1首。
春の野に あさる 雉
の 妻
恋
に おのがあたりを 人に知れつつ
(大伴家持 万葉集巻 8-1446
)
(春の野に餌をあさる雉が、妻を恋うて鳴き、自分の居場所を人に知らせている。)
雉
鳴く 高円
の辺に 桜花 散りて流らふ 見む人もがも (万葉集巻 10-1866
)
(雉の鳴く高円の辺りで、桜の花が散って流れるようだ。誰か一緒に見る人が居たらなあ。)
あしひきの 片山 雉
立ち行かむ 君に後れて うつしけめやも
(万葉集巻 12-3210
)
(<あしひきの>片山に住む雉のように、発って行くあなたに取り残されて、正気でいられましょうか。)
(注)片山=片方が山の斜面になっている場所。崖地のこと。
隠口
の 泊瀬
の国に さよばひに 我が来たれば たな曇り 雪は降り 来
さ曇り 雨は降り 来
野つ鳥 雉
は 響
む 家
つ鳥 鶏
も鳴く さ夜は明け この夜は明けぬ 入りてかつ寝む この戸 開
かせ (万葉集 13
‐ 3310
)
(<こもりくの>初瀬の国に妻問いに私がやって来ると、一面に曇って雪は降って来る。空が曇って雨は降って来る。<野つ鳥>雉は鳴き声を響かせ、<家つ鳥>鶏も鳴く。夜は明るくなり、この夜は明けてしまう。中に入って共寝をしよう。この戸をお開けなさい。)
武蔵野
の をぐきが 雉
立ち別れ 去
にし 夕
より 背ろに逢はなふよ
(万葉集巻 14
‐ 3375
)
(武蔵野のくぼ地に住む雉のように、立ち別れになって、行ってしまわれたあの晩から、夫には逢えないでいることよ。)
(注)をぐき=窪地の意か。
上二句は、「立ち別れ」を導くための序詞。
杉の野に さ躍る 雉
いちしろく 音
にしも鳴かむ 隠
り妻かも
(大伴家持 万葉集巻 19
‐ 4148
)
(杉の野で跳ねまわる雉がはっきりと声を立てて鳴くのだろう。隠り妻がいるのだろうか。)
あしひきの 八つ 峰
の 雉
鳴き 響
む 朝明
の霞 見れば悲しも
(大伴家持 万葉集巻 19
‐ 4149
)
(<あしひきの>峰々の雉の鳴き声が響き渡っている、朝方の霞は見ていると物悲しくなる。)
梅の花ひとり見つつや 2024.01.13 コメント(6)
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