偐万葉田舎家持歌集

偐万葉田舎家持歌集

2018.03.05
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カテゴリ: 万葉
​​ ​​ 昨日の日記に銀 輪散歩でこれまでに見掛けた鳥の写真のいくつかを掲載しましたが、その他にも、先日のケリ(鳧)を始め、雀や烏や鳩は言うに及ばず、青鷺、白鳥、オオヒシクイ、バン、鵜、カイツブリ、ヒヨドリ、セキレイ、カワセミ、ヨシキリ、トンビなども写真に撮って掲載したかと思うのだが、総じて鳥の写真は余り出来のよくないものが多い。そんな中で、先日雉を撮影することができたのは幸運でした。​
​​​(雉)
 雉は、万葉では「きじ」ではなく「きぎし」である。

(同上)
 万葉集には雉の歌は9首ある。

(同上)
 うち4首が大伴家持の歌である。
 家持の好きな鳥と言えばホトトギスが先ず思い浮かぶのであるが、どうやら雉もお気に入りの鳥であったようだ。
 ということで、今日は雉の万葉歌をご紹介して置きます。

​​​

海神 ( わたつみ ) は くすしきものか 淡路島 中に立て置きて 白波を 伊予に ( もと ) ほし  居待月 ( ゐまちづき )  明石の ( ) ゆは 夕されば 潮を満たしめ 明けされば 潮を ( ) れしむ 潮騒の 波を ( かしこ ) み 淡路島  磯隠 ( いそがく ) り居て いつしかも この夜の明けむと さもらふに  ( ) ( ) かてねば 滝の上の 浅野の ( きぎし )  明けぬとし 立ち騒くらし いざ子ども あへて漕ぎ ( ) む 庭も静けし (万葉集巻 3-388
(海の神は神秘なものだ。淡路島を中に立て置いて、白波を四国の海岸にぐるりとめぐらし、<居待月>明石海峡からは、夕方になると潮を満たし、明け方になると潮を干させる。潮鳴りがする満潮の波が恐ろしいので、淡路島の磯に隠れて、いつになったらこの夜が明けるのかと、潮の様子をうかがい待機して、眠ることもできないでいると、早瀬のそばの浅野の雉は、もう夜が明けたと立ち騒いでいるようだ。さあ、船人たちよ思い切って漕ぎ出そう。海面も静かだ。)
(注)居待月=十八日の月。満月に近く明るい月ということで、明石に掛かる枕詞。

かけまくも あやに ( かしこ ) し 我が大君  皇子 ( みこ ) ( みこと )  もののふの  八十伴 ( やそとも ) ( ) を 召し ( つど ) へ  ( あども ) ひたまひ 朝狩に  鹿猪 ( しし ) 踏み起こし 夕狩に  鶉雉 ( とり ) 踏み立て  大御馬 ( おほみま ) の  ( くち ) ( おさ ) へとめ  御心 ( みこころ ) を  ( ) ( あき ) らめし  活道山 ( いくぢやま )  木立の ( しげ ) に 咲く花も うつろひにけり  世間 ( よのなか ) は かくのみならし  大夫 ( ますらを ) の 心振り起こし  剣太刀 ( つるぎたち )  腰に取り ( ) き 梓弓  ( ゆき ) 取り負ひて  天地 ( あめつち ) と いや 遠長 ( とほなが ) に  万代 ( よろづよ ) に かくしもがもと 頼めりし 皇子の 御門 ( みかど ) の  五月蠅 ( さばへ ) なす 騒く舎人は  白栲 ( しろたへ ) に  ( ころも ) 取り着て 常なりし  ( ) まひ 振舞 ( ふるま ) ひ いや 日異 ( ひけ ) に  ( ) ​はらふ見れば 悲しきろかも (大伴家持 万葉集巻 3-478
(心にかけて思うことも、まことに恐れ多いことである。我が大君、安積皇子さまが、あまたの臣下のますらおたちを、呼び集め、引き連れて、朝の狩に獣を踏み立て起こし、夕べの狩に鳥を踏み立て、飛び立たせ、ご愛馬の手綱を取り、眺めてはお心を晴らされた、活道の山の、木々の茂みに咲く花も散ってしまった。世の中はこのようにも無常のものであるようだ。ますらおの心を奮い起こし、剣大刀を腰に取り佩き、梓弓を手に、靫を背に負い、天地とともに永久に、万代までもこのようであったらなあ、と頼みにしていた皇子の宮殿の、<五月蝿なす>活気に満ちてお仕えしていた舎人たちは、真っ白に喪服を着て、いつもの笑顔も振舞いも、日ごとに変って行くのを見ると、悲しいことだ。)
(注)安積皇子の急死を悼んで大伴家持が作った歌6首のうちの1首。

春の野に あさる ( きぎし ) の  ( つま ) ( ごひ ) ​に おのがあたりを 人に知れつつ
                       (大伴家持 万葉集巻 8-1446
(春の野に餌をあさる雉が、妻を恋うて鳴き、自分の居場所を人に知らせている。)

鳴く  高円 ( たかまと ) ​の辺に 桜花 散りて流らふ 見む人もがも (万葉集巻 10-1866
(雉の鳴く高円の辺りで、桜の花が散って流れるようだ。誰か一緒に見る人が居たらなあ。)

あしひきの 片山 ( きぎし ) ​ 立ち行かむ 君に後れて うつしけめやも
                            (万葉集巻 12-3210
(<あしひきの>片山に住む雉のように、発って行くあなたに取り残されて、正気でいられましょうか。)
(注)片山=片方が山の斜面になっている場所。崖地のこと。

隠口 ( こもりく ) の  泊瀬 ( はつせ ) の国に さよばひに 我が来たれば たな曇り 雪は降り ( )  さ曇り 雨は降り ( )  野つ鳥  ( きぎし ) ( とよ ) む  ( いへ ) つ鳥  ( かけ ) も鳴く さ夜は明け この夜は明けぬ 入りてかつ寝む この戸 ( ひら ) ​かせ (万葉集 13 3310
(<こもりくの>初瀬の国に妻問いに私がやって来ると、一面に曇って雪は降って来る。空が曇って雨は降って来る。<野つ鳥>雉は鳴き声を響かせ、<家つ鳥>鶏も鳴く。夜は明るくなり、この夜は明けてしまう。中に入って共寝をしよう。この戸をお開けなさい。)

武蔵野 ( むざしの ) の をぐきが ( きぎし )  立ち別れ  ( ) にし ( よひ ) ​より 背ろに逢はなふよ
                               (万葉集巻 14 3375
(武蔵野のくぼ地に住む雉のように、立ち別れになって、行ってしまわれたあの晩から、夫には逢えないでいることよ。)
(注)をぐき=窪地の意か。
   上二句は、「立ち別れ」を導くための序詞。

杉の野に さ躍る ( きぎし ) いちしろく  ( ) にしも鳴かむ  ( こも ) ​​り妻かも
                      (大伴家持 万葉集巻 19 4148
(杉の野で跳ねまわる雉がはっきりと声を立てて鳴くのだろう。隠り妻がいるのだろうか。) ​​

あしひきの 八つ ( ) ( きぎし )  鳴き ( とよ ) む  朝明 ( あさけ ) ​の霞 見れば悲しも
                     (大伴家持 万葉集巻 19 4149
(<あしひきの>峰々の雉の鳴き声が響き渡っている、朝方の霞は見ていると物悲しくなる。)

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最終更新日  2018.03.05 08:12:39
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