あをによし 寧楽 の 京師 は咲く花の 薫 ふがごとく今盛りなり (小野老 巻 3-328 )
(<あをによし>奈良の都は咲く花がかがやくように、今盛りである。)
あしひきの山さへ光り咲く花の散り行くごときわが大君かも (大伴家持 巻 3-477 )
(<あしひきの>山までも照り映えて咲く花が散り行くようにはかなく散って行ってしまわれた我が皇子さまよ。)
梅の花咲きて散りなば桜花継ぎて咲くべくなりにてあらずや (張氏福子 巻 5-829 )
(梅の花が咲いて散ったら、桜の花が続いて咲くようになっているではないか。)
足代
過ぎて 糸
鹿
の山の桜花散らずもあらなむ帰り来るまで (巻 7-1212
)
(足代を過ぎてさしかかった糸鹿の山の桜花よ、散らずにあってくれ。帰って来るまで。)
(注)足代=和歌山県有田市周辺の地。
糸鹿の山=有田市糸我町の雲雀山。
うちなびく春来たるらし山のまの遠き 木末 の咲き行く見れば (尾張連 巻 8-1422 )
(<うちなびく>春が来たらしい。山の間の遠くの梢に<桜の>花が咲いて行くのを見ると。)
あしひきの山桜花 日 並 べてかく咲きたらばはだ恋ひめやも (山部赤人 巻 8-1425 )
(<あしひきの>山の桜が何日もこのように咲くのであったなら、こんなにひどく心惹かれることはないだろう。)
去年 の春逢へりし君に恋ひにてし桜の花は迎へけらしも (若宮年魚麻呂 巻 8-1430 )
(去年の春にお逢いしたあなたに恋い惹かれている桜の花が、迎えに来たのですね。)
春雨のしくしく降るに高円の山の桜はいかにかあるらむ (河辺東人 巻 8-1440 )
(春雨がしとしと降り続いているが、高円山の桜はどんな様子だろう。)
この花の 一枝 のうちに 百種 の 言 そ 隠 れるおほろかにすな (藤原広嗣 巻 8-1456 )
(この花の一枝の中には数え切れぬほどの言葉がこもっているのだ。おろそかにはするな。)
この花の 一枝 のうちは 百種 の 言 持ちかねて 折 らえけらずや (娘子 巻 8-1457 )
(この花の一枝の中に沢山の言葉を持ち切れなくて、折れたのではありませんか。)
(同上)
屋戸 にある桜の花は今もかも松風 疾 み 地 に散るらむ (厚見王 巻 8-1458 )
(家に咲く桜の花は、今頃は松の風がはげしくて地に散っているだろうかなあ。)
世の中も常にしあらねばやどにある桜の花の散れるころかも (久米女郎 巻 8-1459 )
(世の中も常ではないので、家にある桜の花が散っているこの頃です。)
妹が手を取りて引き 攀 ぢふさ 手折 り我がかざすべく花咲けるかも (巻 9-1683 )
(<妹が手を>取って引き寄せて束にするほどにも枝を折って私の插頭にすることができる花が咲きました。)
(注)妹が手を=「取り」に掛かる枕詞。
春山は散り過ぎぬとも三輪山はいまだ含めり君待ちかてに (巻 8-1684 )
(春山の桜は散り果ててしまっても、三輪山はまだ蕾みの状態です。あなたのお越しを待ちかねて。)
わが行きは 七日 は過ぎじ 龍田彦 ゆめこの花を風にな散らし (高橋虫麻呂 巻 9-1748 )
(我々の旅は七日以上にはなるまい。だから龍田彦よ、けっしてこの花を風に散らすな。)
暇 あらばなづさひ渡り 向 つ 峰 の桜の花も折らましものを (高橋虫麻呂 巻 9-1750 )
(時間に余裕があるなら、何とかして対岸に渡り、向かいの峰の桜を手折りたいものだ。)
い 行
き 逢
ひの坂のふもとに咲きををる桜の花を見せむ児もがも
(高橋虫麻呂 巻 9-1752
)
(行合坂の麓にたわわに咲いている桜の花を見せてやるおとめが欲しいものだ。)
(注)行合坂=国境の坂
絶等寸 の山の 峯 の 上 の桜花咲かむ春べは君を 偲 はむ (播磨娘子 巻 9-1776 )
(絶等寸山の嶺の上の桜花が咲く春には、あなたのことをお偲びしましょう。)
(注)絶等寸山=播磨の山であるが所在不詳。
姫路市の手柄山説、姫路城のある姫山説などがある。
うぐひすの 木伝 ふ梅のうつろへば桜の花の時かたむけぬ (巻 10-1854 )
(鶯が枝を伝って鳴く梅は散ってしまったので、桜の花の咲く時が近づいた。)
桜花時は過ぎねど見る人の恋の盛りと今し散るらむ (巻 10-1855 )
(桜の花の盛りは未だ過ぎていないが、見る人の恋の盛りの今こそと散っているのだろう。)
あしひきの山のま照らす桜花この春雨に散り行かむかも (巻 10-1864 )
(<あしひきの>山あいを照らして咲く桜の花はこの春雨に散って行くのであろうか。)
うちなびく春さり 来 らし山のまの遠き 木末 の咲き行く見れば (巻 10-1865 )
(<うちなびく>春がやって来たようだ。山と山の間の遠い梢に花咲いて行くのを見ると。)
雉 鳴く 高円 の 辺 に桜花散りて 流 らふ見む人もがも (巻 10-1866 )
(雉の鳴き声が響く高円山のほとりに、桜が散り流れ続ける。見ようとする人がいたらいいのに。)
阿保山 の桜の花は 今日 もかも散り 紛 ふらむ見る人なしに (巻 10-1867 )
(阿保山の桜の花は今日もまた散りしきっているのだろうな、見る人も無いのに。)
(注)阿保山は所在不詳。
春雨に争ひかねてわが 屋戸 の桜の花は咲き 始 めにけり (巻 10-1869 )
(春雨に抗いかねてわが家の桜の花は咲き始めたことだ。)
春雨はいたくな降りそ桜花いまだ見なくに散らまく惜しも (巻 10-1870 )
(春雨はひどくは降るな。桜の花は未だ見ていないのに散るようなことがあっては惜しい。)
見渡せば春日の野辺に霞立ち咲きにほへるは桜花かも (巻 10-1872 )
(見渡すと春日野の辺りに霞が立ち込め、色美しく咲いているのは桜の花だなあ。)
春日なる三笠の山に月も出でぬかも 佐紀山に咲ける桜の花の見ゆべく (巻 10-1887 )
(春日の三笠山に月も出てほしい。佐紀山に咲いている桜の花が<夜でも>見えるように。)
あしひきの 山桜戸 を 開 け置きて 我 が待つ君を 誰 か 留 むる (巻 11-2617 )
(<あしひきの>山桜の板戸を開けたままにして私が待っているあなたを、誰が引き留めているのでしょう。)
桜花咲きかも散ると見るまでに誰かもここに見えて散り行く
(柿本人麻呂歌集 巻 12-3129
)
(桜の花が咲いては散るかと見るほどに、誰だろうか、此処に見えて散って行くのは。)
春さらば 插頭 にせむと 我 が 思 ひし桜の花は散り行けるかも (壮士 巻 16-3786 )
(春になったら插頭にしようと思っていた桜の花は、散って行くのだなあ。)
妹が名にかけたる桜花咲かば常にや恋ひむいや年のはに (壮士 巻 16-3787 )
(妹の名にゆかりの桜の花が咲いたらそのたびに毎年恋しく思うのだろうか。)
山峡 に咲ける桜をただ 一目 君に見せてば何をか思はむ (大伴池主 巻 17-3967 )
(山間に咲いている桜の花を一目だけでもお見せしたら、それ以上何を思いましょうか。)
あしひきの山桜花一目だに君とし見てば 我 恋ひめやも (大伴家持 巻 17-3970 )
(<あしひきの>山の桜花を一目だけでもあなたと見ることができたら、こんなに恋しく思うでしょうか。)
桜花今そ盛りと人は云へどわれはさぶしも君としあらねば (大伴池主 巻 18-4074 )
(桜の花は今が盛りだと人は云いますが私は寂しい。あなたと一緒ではないので。)
わが背子が古き 垣内 の桜花いまだ 含 めり 一目 見に 来 ね (大伴家持 巻 18-4077 )
(あなたの旧屋敷の庭の桜の花は未だ蕾のままです。一目見にいらっしゃいな。)
今日
のためと思ひて 標
めしあしひきの 峰
の 上
の桜かく咲きにけり
(大伴家持 巻 19-4151
)
(今日の日のためにと標をした<あしひきの>峰の上の桜はこんなにも咲いたことだ。)
桜花今さかりなり 難波 の海おしてる宮に聞こしめすなへ (大伴家持 巻 20-4361 )
(桜の花は今が盛りだ。<天皇は>難波の海の照り輝く宮でお治めになるので。)
竜田山見つつ越え 来 し桜花散りか過ぎなむ 我 が帰るとに (大伴家持 巻 20-4395 )
(竜田山を越える時に見た桜の花は散ってしまうのだろうか、私が帰る頃には。)
含 めりし花の初めに 来 し 我 や散りなむ 後 に都へ行かむ (大伴家持 巻 20-4435 )
(まだ蕾だった花の初めに来た私は、散ってしまった後で都に帰ろう。)
梅の花ひとり見つつや 2024.01.13 コメント(6)
梅一輪の春咲きにける 2023.01.14 コメント(8)
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