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ついこの間までは、日本生まれの英国人作家 カズオ・イシグロの作品を集中的に読んでいた。
彼の作品は、登場人物同志が出会って織りなす物語というよりは、自身の記憶や感情の中で結実してしまった不確かな記憶の積み重なった物語といった感じだ。
はじめに読んだ「私たちが孤児だったころ」は、時代設定も時間の推移も曖昧で、あまりにも思い込みが激しすぎる感じでなじめなかった。
しかし考えてみれば私たちの人生も主観的で、自分に都合良く積み重ねていくものだ。年おいて、思い出す昔の記憶は、輝かしかったり、哀しかったり、その時の感情に応じて都合良く思い出される。
老執事の回想を描いた『日の名残り』は、執事という仕事を全うするため、私の感情をいかに無くすかということに腐心されている。父の死にも取り乱さず、恋愛にも興味を示さず、主人に従順に仕えることが、執事としてのプロフェッショナルであると信じる主人公。皮肉なことにその主人は、政治舞台の「アマチュア」と卑下され、親ナチスの貴族として戦後失脚する。それでも主人への尊敬は消えることがない。
奇しくも昨日映画でやっていて後半から鑑賞した。チャンネルを回していてたまたま見つけたのにこの映画であるとすぐ気づいた。原作を忠実に描いていてなかなか見応えがあった。
『わたしを離さないで』
「第二次世界大戦以後の世界が核開発競争にむかわず、制御不能なクローン技術や遺伝子研究に向かったらと想像してみて下さい。この本では科学と未来について警告しようという気はありませんでした。まったく新しい視角から、人間の本質とは、何かを描きたかったのです。生きる時間がわずかしかないと知っていたら。何が重要か。愛か、友情か。死とどう向き合うか」と作者は、述べている。
自分の生きている意味があらかじめ設定されている特異な状況の中では、未来に希望を持てるわけでもなく、少年少女期への追憶のみが一層重要視されている。型に嵌められた人生の中で唯一許される甘美な思い出。大切な「私を離さないで」というテープを探してくれた同級生に抱く淡い気持ち。
死とどう向き合うか。そしてどう生きていくのか。その答えには、たどり着けそうにないけど、誰かのぬくもりが欲しい、誰かに想っていて欲しいという強い思いが『私を離さないで』という曲には、詰まっていたのではないか。
この日本人の外見ではありながら、英語で全てを書く作家には深い興味を感じる。彼が手がけた「上海の伯爵夫人」という映画も見てみたい。