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2013.01.01
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カテゴリ: コラム記事
日経夕刊のコラム「プロムナード」に載った作家山本兼一氏の「山岡鉄舟の生き方」と題する一文です( 2012年11月28日 )。


 山岡鉄舟は、幕末期の徳川の旗本である。剣、禅、書の達人であったことはよく知られている。

 それでいて、どんな人物であったかはほとんど知られていない。わたしも知らなかった。剣術が強くて禅を極め、書がうまい武士ならさぞや面白みのない硬骨漢だろう、くらいに想像していた。

 ところが、神田の古書店で、鉄舟の弟子がまとめた聞き書き集に出会って、まったくイメージが変わった。わたしはまだ三十代で歴史小説を書くとは決めていなかったが、その本を読んで、いつか歴史小説を書くなら、この人の物語を書こうと決めた。それぐらい面白いエピソードが山盛りなのだ。

 いちばん好きなのは、茹で卵を百個食べる話である。

 鉄舟がまだ二十歳過ぎのころ、幕府がつくった講武所で剣術の世話掛をしていた。教授の補佐といった役目である。

 稽古のあとで、同役の一人がぶつぶつ言ったいた。
「茹で卵なんていうのは、十個も食べられないもんだな」

 それを聞いた鉄舟は、むきになって反論した。


 なら食べて見せろ、おお食べてやろうーーー。

 そんなやり取りの果てに、みなが小銭を出し合い、講武所の下男に卵を買いにやらせて、茹でさせた。

 山盛りになった卵の殻を剥いて、鉄舟は食べた。だんだん苦しくなってきたが我慢してとにかく口のなかに押し込んで、無理に呑み込んだ。

 百個食べたには食べたが、それから三日間、鉄舟は寝たきりでうなされていたという。

 小学生の男の子の意地の張り合いみたいだが、どんな馬鹿げたことでも本気でやり通すのが鉄舟のすばらしいところだと知った。

 酒が大好きで、女性が大好きで、とても禅を極めた人とは思えないが、むしろ、禅を極めると無欲になると思い込むほうが間違っていることを、わたしは鉄舟に教えられた。

 性欲を断とうとしている知人に、鉄舟は「それは臭いものに蓋をするだけだ」と断言した。むしろ、とことんやってやり尽くしたほうがすっきりする、というのが鉄舟の生き方である。

 どんな下らないことも、国家の大事も、鉄舟はとことん本気になってやり通す。

 幕府瓦解の江戸開城直前、鉄舟は駿府に出向いて、官軍参謀の西郷隆盛と談判した。江戸の無血開城は、西郷と勝海舟が品川の薩摩藩邸で会談して成立したことになっているが、その前に、鉄舟が駿府で講和条件を整えてきたからこそ、海舟が会談できたのである。

 駿府で鉄舟の人柄に打たれた西郷は、鉄舟のことを「命もいらず名もいらず、官位も金もいらぬ人は始末に困るものなり」と評した。しかし、そういう人物でなければ、ともに働いて国家の艱難を乗り越えることはできないと言っている。

 日本の武士の面目は「名こそ惜しめよ」だったが、鉄舟はそれを超越した。名が残るかどうかは、世間的な評価だ。世評などは気にせず、ただおのれの信じる道を進んでいく。




昔から西郷の鉄舟評「命もいらず、名もいらず、官位もカネもいらぬ人は始末に負えぬものなり。この始末に負えぬ人ならでは、困難をともにして国家の大業を成し遂げられぬなり」を記憶してはいましたが、自分は到底その器ではない、自分には関係のない言葉と諦めていました。

然し乍ら、今の日本の政治を見るにつけ、誰か一人くらいは鉄舟のような政治家がいてくれたらと思わずにはいられません。たった一人によってであっても、日本の運命が大きく変えられると思うのですが、如何でしょうか・・。


本編へのコメントです。
(Edelstoffさん)
仰有るとおりです。


ところで先週ドイツ社会党の首相候補が、
「ドイツの首相の給料は銀行の頭取や役員の給料に比べて安すぎる!( それでも年間約2千5百万円相当 )」と言って、みんなから総すかんを食らいました。
そうでなくても、金に意地汚いという印象を国民に与えてきている政治家ですから、まさにドイツ版のロムニーです。

(偏屈老人)
Edelstoffさん
昔、日本には、「井戸塀政治家」という言葉がありました。
政治家になると、お金を使い果たし、井戸と塀しか残らないという意味ですが、それも今は昔のこと・・。






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Last updated  2013.01.02 08:11:25
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