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李相日(リ・サンイル)監督の最新作「国宝」を劇場に観に行こうと思っていたのですが、過去の作品を先に観ることにしました。「悪人」と「怒り」です。悪人のほうは、2010年の作品で、確かに一度観た記憶がありましたが、今回改めて観たところ要所をすっかり忘れていることがわかりました。【以下、それぞれ盛大にネタバレがあります】「悪人」は、出会い系で知り合った女性、佳乃(満島ひかり)に裏切られたことをきっかけに、殺害してしまった若い男「祐一(妻夫木聡)」をめぐる話です。祐一は、やはり出会い系で知り合った年上の女性、光代(深津絵里)とも直接会うのですが、それは殺人を犯したあとのことでした。祐一はもちろん人を殺害した悪人ではありますが、それ以外にもたくさんの悪人が出てきます。佳乃を人里から離れた路上に放り出した男、祐一を身勝手な理由で捨てた母、祐一を育ててくれた祖母をだます悪徳商法の連中、容赦なく取材合戦をするマスコミ・・・・。祐一が「悪人」として裁かれる一方で、殺人を生み出しているほかの「悪人」たちは裁かれず、また別の「悪人」を作り出している、というのがテーマでしょうか。また、祐一と祖母や光代との関係、佳乃の父と母のように、人と人とのつながりが悪人になるのを止められる可能性も示しています。残念ながら、祖母は祐一が人を殺すのを止められなかったのですが、この世の中から悪を減らしてゆくには、人と人とのつながりを強くすることなのですね。主演の2人もよかったですが、佳乃を演じた満島ひかりとその父役の柄本明、祖母役の樹木希林と味のある役者さんが揃っていて、映画の深みを増していました。「怒り」は、日中の住宅で起きた夫婦殺害事件をめぐる話です。現場に血で書かれた「怒」の文字そのままですが、「怒り」がテーマです。米兵による性的暴行事件、知的障がい者や性的マイノリティへの偏見、そして「怪しそう」という世間からの偏見とといった不条理が「怒り」へとつながります。悪人が描いていたテーマにも通じる部分ですね。怒りをはらんでしまう世の中の構造は、犯罪を生みやすいのでしょう。しかし、脚本と映像表現の巧みさから、観客もまた偏見に揺られながら殺人犯を探してゆきます。ラストまでほとんど救いの感じられない本作ですが、殺人犯ではなかったことで偏見から解き放たれた恋愛がわずかな光ですね。キャストはみな好演・でしたが、とくに宮崎あおい、松山ケンイチ、広瀬すずは良かったですね。
2025.06.14
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イランの映画、シンプルアクシデントを観ました。カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを受賞した作品です。かつて、不当な理由で投獄されたワヒドは、そのときにであった残忍な看守と、ある事故をきっかけに思いがけない形で出会います。しかし、当時は目隠しされていたために姿を見たことはなく、手がかりはその看守が義足だったことでした。ほんとうにその看守だったのか、物語はその謎をめぐって動き始めます。分野でいえばミステリーなのでしょうが、そのバックグラウンドは「憎しみ」と「赦し」という深いテーマがあります。それは人と人との関係だけでなく、国と国との関係にもあてはまるでしょう。イランは現在、アメリカとイスラエルの侵攻によって戦場となっています。イスラエルによるガザ侵攻、ロシアとウクライナの戦争ほかにも多くの地域で紛争が起きています。憎しみの連鎖はいつになれば止まるのでしょうか。そして、自身が当事者になったときに、その憎しみを止められるのでしょうか。映画の問いかけているテーマは重いです。なお、イランは今回の戦争以前に政治的に国民への弾圧が強い状態が続いていて、国民からの反発で政府が弱体化していたことも今回、攻め込まれた要因の一つとなっています。表現の自由に厳しい環境で、この作品を作ったこと自体がすごいです。
2026.05.18
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侍タイムスリッパーをAmazonプライムで観ました。劇場で上映されているときから知ってはいたのですが、題名が安易なイメージで敬遠していました。ミーハーですが、アカデミーで最優秀作品賞をとったことを知り、観てみたいと思ったのです。果たして、これがほんとうに面白い作品でした。もちろんタイムスリップをすることや、その後の展開の細かいところは現実にありえない部分も多々あります。しかし、脚本が面白いので、そういう細かいことを忘れてのめりこみました。このブログでRRRの紹介をしたときに、豪華絢爛なエンターテインメント作品はあまり好んでいないと書きました。本作品は自主製作の明らかに低予算(2,600万円だそうです)の作品ですが、エンターテインメントも素晴らしいし、その背景にある「映画づくりへの思い」も伝わってきます。主役の山口馬木也とその敵役、冨家ノリマサ、ヒロイン的立場の沙倉ゆうの、それぞれいい味を出していました。エンドクレジットを見ていると安田淳一監督の名前が撮影にも編集にも登場してきます。あるネット記事によると製作費を払ったあとの監督の預金残高は6000円くらい。それが、今は興行収入10億に達しているそうです。監督もまた「侍」だったのですね!
2025.04.06
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今回の都知事選では、小池さんが当選されましたが、事前の予想と異なり、元安芸高田市長だった石丸伸二氏が2位の得票数でした。有権者による既存政党の枠組みへの否定とともに、若年層からの支持が集まったようです。一方で、小池さんの当選確実が出たあと、石丸氏のインタビュー回答に多くの批判が出ているようです。実際にいくつかの番組を視聴しましたが、回答方法の特徴がわかりました。(1)あいまいな質問に対して、相手の意を汲むことはしない(2)逆に、あいまいな質問については明確化を迫る(3)質問が具体化してくると、ごく短く回答する(そのため主張がよくわからない)上記の(1)と(2)については、取材側にも問題があると思われます。回答する側(とくに政治家)は、あいまいな質問に対して適当なことを言ってしまうと、のちに何度も取り上げられて批判されるからです。メディア側も多くの社が選挙特番を「なんとなく」やっているためかもしれません。都知事選の公約とか演説内容、石丸氏であれば前職時代の公約と達成度とか明確な質問をする切り口がいくつもあったはずです。しかし、番組では「石丸フィーバー」のような動きを察知して、安易に石丸氏をまつりあげようとしたように思えます。しかし、石丸氏はそのようなメディアの意図は「汲まない」し、あいまいな質問は「明確にさせる」ので、ちぐはぐなやり取りが誕生してしまったのです。しかし、上記(3)が重要だと思います。石丸氏は都知事選の公約の一つとして「政治再建」を掲げ、政治屋の一層というキャッチフレーズを打ち出していました。そして、ある番組で政治屋とは、「政治のための政治をする、党利党略に勤しむ。自分第一、これを言っているもの、やっているもの」と述べていました。しかし、自身は「政治屋ではない」としながらも、違いを明確に提示できていないのです。その番組では「自分は政治屋ではないのは当たり前でしょう」としか言っていません。安芸高田市長時代の公約には「世界で一番住みたいと思える街」にすると掲げていましたが、具体的な成果は見えません。議会答弁では、それはちゃんと見ていないから…というような主張をされています。別のインタビューではやり残したことは、すぐにできるものではなく今後5年、10年かけての課題としています。このように、問われる内容が具体化してくると論点をずらすのです。メディアもただ石丸氏の評価をその場の雰囲気で上げたり下げたりするのではなく、石丸氏が主張している論点の具体化・明確化(安芸高田市長時代の公約の達成如何や都知事選で主張していた公約にこれからどうアプローチするのか)をせまってゆくことが求められていると思います。(7月14日追記)日刊スポーツの記事で、石丸氏が読売テレビの某番組で安芸高田市での成果を問われて、最終的には答えに窮したと報道されていました。メディア側が論点を明確にすると、こうしてきちんと実態が見えてきます。https://www.nikkansports.com/entertainment/news/202407140000992.html?Page=1
2024.07.11
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1年前に書いていた記事が下書きに入ったままになっていました。アップロードしておきます。ーー図書館で生成AIの勉強をしました。しかし残念ながら若かったころよりも吸収力はすっかり低下しました。つまり、せっかく勉強してもすぐに抜けていってしまうのです。あとでちょっと思い出せるようにブログに書いておきます。「生成AI時代を勝ち抜く事業・組織のつくり方」梶谷健人(2024),日経BP,304pp.どのように生成AIをビジネスに活用するかを解説している本です。具体的にどのように活用しているのかを知りたくて読んでみました。自分なりにまとめてみます。1.生成AIの基本・生成AIのユニコーン企業(評価額10億ドル以上)は20社以上で、OpenAIがトップである。・マルチモーダルAI(テキストや画像など複数のメディアフォーマット入力に対応)、画像生成AI(テキストや画像などのインプットを通じて最終的にが画像を生成する)、コード生成AI(プログラムコードを生成したり支援したりする)などが主流。そのほかにビデオ生成AIや3Dモデル/シーン生成AIもある。・クリエイティビティは人間の専売特許ではなくなった。また、AIは競争相手ではなくパートナーと考えるべきである。2.事業にどう活用してゆくか⇒5つのステップで活用。いきなり生成AIに頼り始めるのではなく、ちゃんと意義や意味を明確にするのが大事ということだそうです。(第1ステップ)最初の仮説を立てる。(顧客、課題、その解決法を考える)(第2ステップ)優先的に検証すべき前提を洗い出す…課題のうち、何から取り組むべきなのかを明らかにする(第3ステップ)検証方法と判断基準を決定する。(第4ステップ)オフィスの外に出て検証する。(第5ステップ)学びを生かしてアイディアをアップデートする。⇒これらを通じて顧客が本当に困っている課題をどう解決するのかを考える。生成AIならではの価値が活かされる方法を考える。3.生成AIの価値とは?・筆者は7つの価値を掲げていますが、私がとくに共感するのは、「コンテンツの創造コストを下げること」と「コンテンツのマルチモーダル化」を進められるということです。・具体的にいくつかのソフトウェア(オンラインツールも含めて)が紹介されていました。"Jasper" AIライティングツールで、ブログ記事やマーケティングコピーをつくる"Picsart" 特定の商品画像のバリエーションを作成"tavas" 1つの動画を撮るだけで相手ごとにパーソナライズされた動画を作成可能"Adept" セールスフォースや複雑なサイトの操作をユーザーに代わって行う"Inworld" コンテンツのインタラクティブ化や半自動化の領域で急成長している"Glean" 社内のナレッジ情報を対話型のインターフェイスで効率的に検索できる"Tome" テキストを入力するだけで文字や生成された画像が挿入されたプレゼンスライドをつくってくれる"tldraw" ラフに図を作成したり、手書きのイラストを張るだけで実際に動くモックアップ(アプリのサンプルのようなもの)とコードをつくる”Wix" パーツのドラッグ&ドロップだえでWebサイトをつくりだすなどです。本書は、生成AIの活用について理念や枠組みを示した上で、このような具体的なツールを示しながら実践についても紹介しており、とても勉強になりました。
2025.08.10
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