セミリアイア「晩年」日記

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2019.03.02
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カテゴリ: 評論
ホワイトカラーという新興のアッパーミドル層は、「差異」に敏感である。彼らは、仕事の実質はお互いに分からない。だから、結果として得る金銭が、差異となる。しかし、給与明細を見せ合ったりすることはないから、差異のマークとして、勤務先、職種、職位、所有する車、住所、住居、衣服、子どもの教育などが登場する。

確かに年収1200万の部長と1000万の次長では、可処分所得の差はあるが、累進課税なのでまるまる200万ということはない。低所得者からみると、どちらも金持ちに見える。しかし、問題は大体同じような社会クラスに属する者同士の差異だということである。部長は次長よりも、ちょっといい車に乗り、少し高級なスーツを着る。消費論でも述べたが「隣の車が小さく見えます」、そのことのために彼らは残業も、休日出勤も厭わず働く。

もう少し新しい事例を示そう。分譲マンションの値段は、その立地によって決まってくる。だから、大体同じような所得階層の家族が同じマンションに住む。しかし、いや、だからこそ、というべきだろうが、そういう場合、差異を感じるセンサーは最も敏感に働く。タワーマンションなどでは上層階の住民は下層階の住民に優越感を抱く。

彼らの「労働」は、生きるためではなく、「差異」を示すためになされる。あるいは彼らにとって「生きる」ことの実質が「差異」を示すことになっていく。それは、「お受験」などで家族全体を巻き込んでいく。

そういう意味で、彼らの労働もまた、彼ら自身を疎外する。休日にしか家族と食事を共にできないような異常なまでの長時間労働に耐えるのは、決して食べられないからではない。同期よりも早く出世して「差異」を得るためである。

彼らの場合、もはや純粋な意味での生きること、すなわち食べること、一定の広さの住居に住むことなどは、余裕をもってできるはずだ。問題は「よりよく生きること」、いや「より豊かそうに生きること」である。それが人生の目標となり、日々の労働の目標となるのだが、それは幸福の次元の変容である。家族、仲間、友人と「ともに」生きるのではなく、彼らは自分自身のために生きる。彼らにとって、家庭は労働を再生産してくれる場であり、仲間は出世競争で打ち負かす相手であり、友人は基本的に存在しない。彼らは、他者とのわずかな「差異」を得るため、「ともに生きる」という自己自身の本質から疎外されてしまっている。

何度も言うが、これは議論を鮮明にするための極端なデフォルメであって、実際のアッパーミドル層では、その傾向が強い場合と、弱い場合があるのは当然だ。そうそうドンキホーテやハムレットのような絵に描いたような人間はいない。

自分は、その傾向が極端に弱かったとは思う。職場が、出世などということとは無縁の一列横並びの職場であったこと、二世帯住宅ではあったが自分の両親と一緒に暮らしており、核家族ではなかったことなどが大きい。業務上のリーダーには30代のうちになったが、別に偉くなったなどとは思わなかった。普通の定年の2年前にどうしても横並びの中の誰かがトップをしなければならなくなり、自分にお鉢がまわってきた。その時も、本部に呼ばれて、一度は断って帰ってきた。しかし、同僚の中には随分と面白くない者もいた。能力の低い人間ほど、そうだった。歴然たる「差異」の印があったからだ。

そしてその間は、やはり自分の本質とは隔たった言動をせざるを得なかった。もはや、以前の同僚は仲間ではなく、彼らの人事権は自分にある。基本的に誰にも相談せず自分で人事を決めた。そういう職業生活には強い違和感があった。その違和感がなくなってしまえば、自己自身からの疎外に陥っていただろうと思う。



ホワイトカラーは家庭では粗大ゴミとして揶揄され、給料さえ持って帰ればそれでいい存在になり下がる。職場では、真の味方は誰ひとりなく、下からつきあげられ、上から無理難題をつきつけられる。同じ職位の者からは足を引っ張られる。

高度経済成長を支えた彼らの多くは、今「老後」を過ごしている。肩書きを失い、接待で使ったような高い店にはとうてい行けない。家でテレビを見て過ごすというのが、彼らの平均的生活だ。もはや、再雇用などの形で働いたとしても、仕事で疎外された自己の本質を取り戻すことができるのは限られているのではないだろうか。身体は徐々に、あるいは急激に衰えてくる。

そういう中で、彼らの人生は基本的に孤独だ。





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最終更新日  2019.04.06 06:50:25


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