セミリアイア「晩年」日記

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2021.10.22
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カテゴリ: 随想


夏ごろには「大分、コントロールが利くようになった」と思い、後1年、しょうがないから我慢するか、という心境になった。

ところが、その年の11月、再び理事長から電話があり、次年度から校長をやってほしい、という。話が違うので即座に断った。「副校長でおかしな学校運営を正すというのが役割だったはずです。大分、マトモになってきているから大丈夫ですよ」と言ったが、とにかく年内に一度本部に来て欲しいという。こちらは、人が足らず、その前年から教えだした「倫理」が、哲学畑の人間としては面白く、これは続けていきたいという思いだった。校長などやったら、できなくなるではないか、というのが本音だった。

ともあれ、理事長という職制上は学園のトップが来いと言うのだから、行かないわけにはいかない。妻には「断ってくるからね。それでもああだ、こうだ言うなら辞めてくるわ」と言い残して出かけた。この理事長は話は長いが、主要な点は言わない、という狡猾な権力者の側面を持っている人で、「そもそも副校長にしたのは、次の校長というつもりだと申し上げたはずですが」などと言う。「いえ、絶対にそのようなことは伺っておりません」「それなら、改めてぜひお願いいたします。学園発祥の地の学校の存続にに関わる問題ですから」「ですから、現在の校長も大分コントロールは利くようになってきましたし、いくら無能でもトップには修道女、というのがあるべき姿ではないですか。まあ、象徴天皇みたいなものになりますから。そうなるまで、あと1年は必要ですが、任期2年ですから、定年まで副校長のままでお願いします」「いや、やってください」「できません」。

押し問答の末、そのまま帰ってきた。実は、これは、やらざるをえないのかな、ということは話の途中で見え始めていた。修道女にまったく人材がいないどころか、それを担える年齢の修道女がそもそもいないのである。また、修道女には、それなりのプライドがあり、東京本部から地方に離れることは、彼女たちには「左遷」であり、これは企業の重役なんかと何も変わらない俗世間的な意識である。それでも、その場で承諾しなかったのは、条件闘争で優位に立つためであった。そのあたりは、自分は抜け目がないのである。

結局、一週間後、今度は電話が来て、その時に「引き受けさせていただきますが、それには条件があります。今度伺って、そのご相談をさせていただいてよろしいですか」とあくまでも相手に敬意を払いつつ返答した。

「まず、一期3年だけなら、お引き受けしますが、それでよろしいですか」これは自分にとって非常に大事な条件だった。ズルズルと意に染まない仕事を続けて、すり切れて職業生活を終えたくなかった。自分は、授業という現場で、この職業を楽しんでいたのだ。それを副校長の時点ですら奪われつつあった。それが校長で2期、3期となれば、何のために引き受けたか分からなくなる。そもそも60歳が定年なのだが、校長にだけは定年規定がなかった。

「次に、教頭以下の人事はすべて自分に一任させていただけますか。また、現校長はどこか他のところで、できれば本部で預かっていただいた方が、ご本人の精神衛生上いいと思いますが、そうしていただけますか」

この件は、明らかに精神を病んでいた現校長に対する配慮にも取れるが、要はそういう人間に残られたのでは、仕事がやりにくくてしょうがないというこちらの事情が大きい。現に、そうなって今は少しずつだが健康を回復してきていると聞くから、自分の判断は正しかったのだと思う。また、イエスマンの教頭は不要だと思った。世代を考えて、50代、40代から二人の教頭を置いたが、決してイエスマンではない人間たちだった。ただし、自分と同じく、授業が教員の仕事の中心という考え方は持っていて、授業力もある人間だった。

まあ、最初に断ったのは本気だったのだが、そのことで引き受けるからには自分の好きなようにやらせろ、という要求を通しやすくなったことは間違いない。





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最終更新日  2021.10.22 06:59:02


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