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人が並んでいるのを見つけると何を売っているのかは分からずに、とにかく最後尾に並ぶ。そして売っている物の中から選んで買った。
電気やガスが止まっているから、何もせずにすぐに食べられるパンを探したけれど、震災後2~3週間パンは全く手に入らなかった。パン工場が被災した上に、扱いが楽なパンは避難所でも重宝していたらしく、店頭になかなか並ばなかったのだそうだ。
その日たまたま通りかかった街中の老舗のケーキ屋さんが開いていた。列もできていない。「何かあれば」と思って入ったら焼き菓子やクッキーがあった。仕方ないからパンの代わりに買おうとレジに並んだ。意外なことにショーケースの中には飾りがクリームと粉砂糖だけの、シンプルなリング型のホールケーキがあった。
私の前に並んでいた30代位の男性がそのホールケーキを買い、店主に話しかけた。「今日、ケーキを売っていてくれてありがとうございます。今日は子どもの誕生日なんです。こんな日だからケーキは手に入らないとあきらめかけていました。きっと子どもが喜びます。ありがとうございます」と。
その男性の言葉に店主は嬉しそうに笑った。後ろに並んでいた私もなんだかとても嬉しい気持ちになった。「こんな日だからこそ、ケーキを用意してあげたい」という若いお父さんの気持ちが痛いほど分かるからだ。ケーキに目を輝かせるお子さんの姿が目に浮かんだ。
リュックを背負いケーキを大事に抱えて店を出る若いお父さんの背中に「頑張って!」と心の中で声をかけた。この大震災、小さなお子さんを抱えていたご家庭は本当に大変だっただろうと思う。でもそのお子さんが心の支えでもあったのだろうと思う。
大切な人の笑顔を見たい、喜ぶ姿を見たい。人はそのために頑張っているのかもしれない。自分を大切に想ってくれる人がいること。大切に想う相手がいること。それはとても幸せなことなのだと思った。
12月29日の時点で震災の死者は15844人、行方不明者は3451人。数字を見ると感覚がマヒしてしまいそうになるけれど、そのお一人お一人に、その人を大切に想うたくさんのご家族がいる。心からご冥福をお祈りします。