ゆるぎない信念がつらぬいているから、懸賞小説で通俗性が濃くても、何版も重ねるほどのベストセラーであり続けるのだろう。
物語の筋を面白いと思い、展開を追うも良し、奥に秘められているものを知るのも良しであった。
ヒロイン陽子をめぐる物語はわが子を殺した犯人の娘を養子に迎える異常性、継子いじめ、数奇な運命、波乱万丈、急展開があって厭きさせない。何もこんなにこねくり返さなくてもと思いながらも引きずられて読む。
そのわけは単に変化に富むあらすじのみの興味ではなく、キリスト教の教示する「原罪」の意味をやさしくわかり易く表しているから、おおよその理解ができるということである。
欧米の書物は古今キリスト教に裏打ちされている、いまいち理解に苦しむわたしはこのようにわかり易くしてもらうと有難い。
その証拠に流行っている『カラマーゾフの兄弟』の新訳を読み始めたが、前よりよく理解出来るようでちょっと感激してしまった。3年前に(旧来の訳)読んだ時はミステリ風の殺人事件に興味がいって、宗教的部分は飛ばして読んでたのではないかと思える。
また、作家三浦綾子は『カラマーゾフの兄弟』を意識して『氷点』を構想したのではないかとひらめいてしまった。もちろん大古典名作の『カラマーゾフの兄弟』はその後の文学に影響を与えたのは当然、他にもたくさん触発された作品があるのだろう。
『氷点』を読むなら、正続あわせてがよいと思う。
ところで、100年間のベストセラーをおもしろく切りまくっている岡野宏文・豊崎由美の共著『百年の誤読』には『氷点』がぼろっかすにやっつけてあって、「何も今読まなくていい」とまで言い切っているのを思い出した。
でも、わたしの経験では『光あるうちに』三部作→『氷点』正続→『カラマーゾフの兄弟』はキリスト教の一端がわかるお薦めのコース。もちろんわかりたい人にだけど。
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