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6エデンはノートパソコンから目を放し、空を見た。見慣れた部屋の天井が広がっている。今やってるオンラインゲームは、ゲーム中に自分が扱っているキャラクターが死ぬような事があれば、セーブした所からやり直しがきくようになっている。だが、死ぬ度にキャラクターのレベルが下がる仕組みになっている。その為、プレイヤーはゲームのキャラクターが死ぬ事を恐れている。能力が大幅に下がってしまうのだ。エデンは窓の外を見た。新聞配達員が近所の家に新聞を配る姿が見える。「もう朝なの」エデンはぼんやりと呟いた。オンラインゲームにはまって以来、昼夜逆転してしまった。特に仕事もしていないし、親に養ってもらっている身分だし、一日中パソコンに向かう生活にももう慣れた。エデンには妹がいる。妹は生まれつき病弱で、入退院を繰り返しており、母は何かと妹に付き添う事が多かった。エデンはお姉ちゃんだから我慢しなさいと、言われながら育ってきた。お母さんに、もっとかまってほしくて仕方なかった。お父さんはいない。いつも、家でお留守番。一人で何度も泣いた。こんな環境のせいで、エデンは人に素直な感情を表せない大人になっていった。よく、他人からはしっかりしてるねって言われてきた。だけど裏では、冷たい人間って言われていたのも知ってたし、いろんな人から苦手意識を持たれているのもわかっていた。口を開けば、嫌みばかり言ってしまう。人と深く付き合った事なんてない。だけど本当は、いつだって寂しかった。今日も、いつもと変わらない一日が始まる。エデンは部屋にある冷蔵庫からジュースが入ったペットボトルを取り出すとそれを一気に飲み干し、再びノートパソコンにむかった。
2010.08.04
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5.ヒロはなんにもわかっていない。私がどれだけヒロの事が心配で、放っておけないのか。ヒロは後ろを振り向かず、足早に何処かへ向かっているようだ。何処に行くんだろうエデンはヒロの後をこっそり着いて行く事に決めた。どうやらヒロは、街の北の方向に向かっているようだ。こっちは確か、エンジェルのギルドホールがある方向じゃないヒロはイライラしているように見えた。いつものように襲ってくる黒い羽のモンスターを、鬱陶しそうに斬り捨てながら先を急ぐ。エンジェルのギルドに着くと、ヒロは躊躇わず、中に入っていった。エデンは魔法を使い、自らの姿を透明にし見えなくすると、ヒロの後に続いた。エンジェルのギルドメンバーは、ギルドバトルでの勝利を祝い、大勢で酒を飲み交わしている最中だった。そこには、アヤカと言葉を交わしたアークの姿もあった。その姿は赤い髪と赤いマントが印象的で、一度見たら忘れられない。アークは酒をグラスに注ぎながら、仲間とのんきに笑い合っていた。ヒロは、つかつかとアークに歩み寄り、酒の瓶を取り上げると、それを床に向かって投げ捨てた。瓶はパリーン!と音を立て、粉々に砕け散った。とたんに、酒の匂いが辺りに充満する。エデンはその匂いだけで、酔いそうだった。その音で、たった今まで酔っていたギルドメンバーも驚いてこちらを見た。「お前がアークだな。ちょっと面貸せや。」ヒロは、アークの胸ぐらに掴みかかった。「いきなり現れて、それはないんじゃないか。用件なら外で聞く。」アークはヒロを睨み付け、その手を振り払った。二人はギルドホールの外に出て行った。エンジェルのギルドメンバーは慣れた様子でその姿を見送った。強いギルドだ。ギルドバトルで恨みを買い、他のギルドの人間が乗り込んで来る事など、日常茶飯事なのだろう。ヒロは何がしたいのエデンはただ呆れるばかりだった。二人はギルドホールから離れ、一番近い狩り場に来ていた。木が覆い茂り、ちょっとした林になっている。「それで、俺に何の用だ」最初に口を開いたのはアークだった。「特に用はないけど、お前が気に入らなくてな!」ヒロは短剣4本を鞄から取り出すと、攻撃体制にはいった。「その紋章、アヤカと同じギルドか?」アークはそう言い、剣を構えた。「アヤカにちょっかい出してんじゃねーぞ!」ヒロはそう言い、アークに向かって短剣を投げた。アークはそれを、簡単そうに剣で払い落としてみせた。力の差は歴然だった。「何を勘違いしてる。俺とアヤカは何もない。友達だ。」「お前はそうでも、アヤカは違うんだよ!」ヒロはアークに向かって短剣を投げまくった。アークはそれを殆ど剣で落としたが、1本見逃し、それは肩にブスリと深く刺さった。アークはうっと、うめき声をあげ、それを力任せに抜くと鮮血が吹き出した。「話し合いをしても無駄なようだな。いくぞ!」アークはヒロに向かって剣を振るった。ヒロは遠距離攻撃を得意としている。。アークに間合いを一気に詰められ、接近戦となったヒロに勝ち目はなく、アークの剣はヒロの血の色に染まった。腹を斬られたヒロは、その場にうずくまり顔をしかめた。「ぐっ」鮮血が、ポタポタと滴り落ちる。地面の土が、あっという間に赤く染まった。「ヒロ!!」それを近くで姿を消し、見ていたエデンは心臓が止まりそうだった。「とどめだ。貴様に何の恨みもないが放っておけば、また俺を殺しに来るだろう。」アークはうずくまったヒロに、再び剣を向けた。「これで終りだ」その剣が振り上げられる。だ、だめ。殺される!!エデンは変身を解き、ヒロに駆け寄り抱きついた。とたんに、背中に鋭い痛みが走った。「な、なに!」背中が悲鳴をあげる。熱い...!「仲間か?!」アークは戸惑う。ヒロはようやく今起こっている状況を理解すると、アークに助けを求めた。「お、俺が悪かった!アーク、こいつは関係ないんだ、助けてくれ!」エデンの出血はとまらない。ドクドクと鮮血が吹き出す。「エデン!しっかりしろ!」エデンはぐったりしていた。ヒロは自分の服を脱ぎ、それでエデンの背中を押さえ、止血した。「ちょっと待ってろ!すぐ戻る!」このまま放っておいたら助からないと判断したアークは、エンジェルのギルドホールにいる白魔道士に助けを求めに行った。「ヒロ、バカね。私がいなかったら死んでたわ。」「エデン!喋るな!!」エデンの口から鮮血が溢れ出した。ヒロはエデンを抱き締めた。しばらくし、アークが白魔道士を連れて戻ってきた。白魔道士はエデン達の姿を見つけると、直ぐに呪文を唱え、回復魔法を使った。「間に合って...!」ヒロとアークは白魔道士の回復魔法に希望を託し、その姿を見守った。
2010.07.28
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4ギルドバトルが終わった後、ヒロは終始イライラしているように思えた。真っ直ぐな性格のヒロからしたら、作戦負けしたようなギルドバトルは苦痛だったに違いない。ギルドバトル会場から外に出ると、あっという間に日は落ち、夕焼け空が広がっていた。この時間になると、黒い羽を持つ鳥のモンスター達が大量に現れ、その黒い羽で空のオレンジ色を埋め尽くす。今日もいつものようにそのモンスターが現れ、エデン達に向かって襲いかかってきたが、「ギャー!!」悲鳴をあげたのはモンスターの方だった。ヒロが怒りに任せて、短剣を投げ、それはモンスターの眼にブスリと刺さった。視界を失ったモンスターはよろよろと地面に落ちた。通路を塞がれたヒロは、さらにイライラして瀕死のモンスターの体を斬りつけた。モンスターは絶叫し、息絶えた。「弱い者に当たってどーする。少し落ち着け。」クロノスはヒロをなだめるように言ったが、ヒロの耳には届かなかった。エデンは隣を歩くヒロを、横目で盗み見た。眉と目はつり上がり、明らかにむすっとしている。とても話しかけられる雰囲気ではない。ギルドホールに着くと、ヒロが溜まっていたものを吐き出すかのように、汚ねえ戦いしやがって!と、ぶちギレて物にあたりまくった。ギルドホールの中央にあった石像は砕かれ、破片が床に飛び散った。「おいおい、物に当たるなよ」クロノスに注意されたのが気に入らなかったのか、ヒロは会議室のイスを蹴り倒した。私は、こんなヒロは好きじゃない。たまらず、エデンは口を開いた。「ちょっと、大人げない事止めたら?何も考えずに突っ込むからよ。皆単細胞だから仕方ないわ。」「なんだと!!」「そうじゃない。だから最初からギルドバトルなんてやっても、負けるって言ったでしょう。私は反対だったわ。」エデンは冷たく言い放った。ヒロは無言で、イスを蹴り倒す。静かに睨み合いが続き、怒りの矛先はエデンに向けられた。「お前なんて、人の武器に変身して正々堂々と戦おうとしなかったじゃねーか!そんな奴に言われたくねー。」「あれは正当な魔法使いの技よ!それをとやかく言うのはおかしいわ!」二人の言い争いは、しばらく続いた。それを見かねたクロノスが、ようやく口を開いた。「ヒロとエデン、いい加減にしろ!!当分お前達はギルドホールへの立ち入りを禁止にする。それから、しばらくギルドバトルはやらない!各自技を磨き、次回までにレベルアップしておくこと。以上!」「うざっ。なんで私まで立ち入り禁止なのよ!」 ヒロはエデンの横を無言で通り過ぎると出口付近にいたアヤカに話しかけた。「だとよ、一緒に狩りできなくなるけどごめんな。」ヒロは、そのまますっと出口へ向かった。エデンも、ヒロの後を追うようにしてギルドホールを後にした。
2010.07.23
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3、<戦い>魔方陣に飛び込むと、そこには砂漠のフィールドが広がっていた。気温と湿度が高くて蒸し暑く、おまけに足場が悪い。踏み出した足は砂にうもれ、沈んでゆく。その為、同じ場所に留まっていると、動けなくなりそうだ。戦うには最悪の環境だった。せっかちなシュンを先頭に対戦相手を探すため、エデン達は砂漠を走った。「見つけた」しばらくすると、先を急ぐシュンが敵を3名ほど発見した。エデンは体力がさほどなく、砂漠を走った事でだいぶ体力を消耗していた。このままでは、足手まといになってしまう。エデンはそう思い、魔法を使い、自らの姿を剣に変えた。魔法使いが変身した武器は世界一強いと言われ、誰もが一度は使いたがる代物だ。変身していられる時間は、魔法使いの精神力が続く限り可能だが、エデンは精神力がある魔法使いとして有名だった。本当はヒロの武器になりたかったけれど、エデンはなんとなくそれを躊躇った。見ると、ヒロは先頭をきるシュンに続き、早い速度で敵を追いかけている。その後にアヤカ、たかちゃん、ユナ、クロノスが続く。ヒロが怪我をしませんようにエデンはそう願った。敵との追いかけっこは暫く続いた。追いかけても追いかけても、敵は戦おうとせず、逃げてばかりだ。「何かおかしい」たかちゃんの剣になったエデンが口を開いた。何処かに、誘き寄せようとしてるんじゃないかしらエデンは不安になった。ヒロは前線にいる。やがて、敵は狭い崖の間を通り抜けた所で足を止め、こちらに向き直った。頭のいいエデンは挟み撃ちされるだろう事に感付いたが、気付いた時にはもう遅かった。敵は前後からじりじりとエデン達に詰め寄り、後衛にいた敵の魔法使いはエデン達を目掛けてメテオを落とした。クロノスがとっさにバリアを張ったが、前の方にいるヒロ達までは届かず、メテオの直撃を受けシュン、ヒロ、アヤカは重なるように倒れた。あまりに一瞬の出来事で、応戦しようにも人数が足りず、クロノスは状況を見かねて敵に降伏すると武器を手放した。「俺達の負けだ。」敵はそれを受け入れ、相手のギルマスがクロノスに近付き、握手を求めた。勝負はついた。エデンは自分にかけた魔法を解くと人間の姿に戻り、ヒロに駆け寄った。「大丈夫?」ヒロは一人ではとても立ち上がれない状態だった。全身に酷い火傷を負っており、ぐったりとしていた。辺りには肉が焼けた臭いが漂っている。エデンは露店で買ってきたポーションを自分の口に含むと、ヒロにそれを口移しした。すると、みるみるうちに傷が癒えヒロは話せるぐらいまでに回復した。「エデン、さんきゅ。助かった。」「借しは大きいんだから!!」こんな時まで素直になれず、エデンはそっぽを向いた。
2010.07.04
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2.<嫉妬>結局、ヒロには何も言えないままエデンはギルドバトル当日を迎えた。エデンは早々に準備を済ませると、一人会場に向かった。本当はヒロと行きたかったが、朝から姿が見えなかった。ヒロは、アヤカと一緒にいるのかしら...?エデンにまた、嫌な感情が沸く。もう、考えるのはよそう。ギルドバトルに集中しなければ。会場に足を踏み入れると、クロノスとヒロとシュンとたかちゃんの姿が見えた。ユナとアヤカはまだ来ていないようだ。良かった、ヒロはアヤカと一緒じゃなかったのね。「あ、エデン!こっちこっち!」たかちゃんが人混みの中でエデンの姿に気付き、手招きをした。エデンが所属するギルド、ジェネシスのメンバーは固まっており、他のメンバーの到着を待っている様子だった。「皆、早いのね。」「ああ、あとアヤカとユナだけだ。」クロノスは、その間に受付を済ませてくると言い、離れて行った。会場には沢山の人がいた。歩けばすぐ人にぶつかるぐらいだ。露店も沢山出ており、回復剤や増強剤を中心にアイテムを売っていた。「私、アイテム買ってくるわ。」エデンはそう言い、露店に立ち寄った。自分の分はもう買ってあるんだけど、ヒロに何かあった時の分を買わなきゃ。「おじさん、このポーション貰うわ。」「まいど!」エデンが買い物を済ませ、ジェネシスのメンバーのもとへ戻った時には、受付を終えたクロノスが既に帰ってきていた。そこへタイミングよく、アヤカとユナが現れた。「時間までここで待機するから。」クロノスはそう言い、公園にあるようなベンチを指さし、一行はそこに腰かけてギルドバトルの開始時間を待った。エデンはわざと、ヒロの隣に腰掛けた。何か話さなければと思ったが、緊張して、何を話していいかわからない。ヒロの横顔を見やると、今までになく真剣な顔をしている。その時、「アーク!」アヤカが誰かを呼ぶ声がした。驚いて、エデンはアヤカを見た。アヤカはベンチから立つと、アークと名前を呼んだ人物に駆け寄った。何か話をしている様子だが、ここから内容までは聞き取れない。「誰かしら...」エデンは今まで会った事がない人物だったが、ギルドの紋章を見るとどうやらエンジェルのギルドの人らしい事はわかった。アヤカはアークと会話を終え、握手するとベンチに戻ってきた。「アヤカはあ~いうのが好みなのか。」ヒロが呟くように言った言葉を、エデンは聞き逃さなかった。「え?」ヒロはアヤカに見つめられると、そっぽをむいた。な、なに。今の。やっぱりヒロ、アヤカの事が好きなのかしら...ふつふつと、嫌な感情がまた顔を出した。時間になり、ギルドバトルが行われるフィールドへの道が開かれた。魔方陣の中に入れば、ワープできるようになっている。エデンは戦いに集中できないまま、魔方陣へ飛び込んだ。
2010.06.27
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1.エデンはギルドホールで、こっそりヒロの帰りを待っていた。今日は、どうしても言いたい事があるのだ。明日はギルドバトルがある。勝負とはいえ、命を落とす事になるかもしれない。心配だった。だって、ヒロは突っ走るタイプだから。戦況が不利でも、立ち向かっていくタイプだから。ギルドバトルをやる事には反対だった。ジェネシスはまだ弱いギルドだし、ヒロが傷つくのを見たくなかったからだ。エデンは明日の事を考えると、いてもたってもいられなくなり、ギルドホールの外で待つ事にした。既に日は暮れ、町の露店商人が店をたたむ姿が見える。「ヒロ遅い。」エデンはそう呟くと、ギルドホールの入り口に座りこんだ。しばらくそうしていると、向こうの方から近付いてくる、ヒロらしき人影が見えた。エデンは立ち上がると歩み寄り、声をかけようとしたが、隣に人がいるのを見て、口をつぐんだ。「あれ、エデン。どうしたんだ~?」「エデン、こんばんは。」ヒロは一人じゃなかった。最近ギルドに加入した女剣士のアヤカと一緒だった。「ちょっと涼んでたの。ヒロには関係ないでしょ。」「あっそ。行こうぜ、アヤカ。」そう言うと、ヒロはエデンの横を通り、ギルドホールの中に入っていった。アヤカもそれに続いた。アヤカがギルドに加入してから、ヒロはアヤカと一緒に行動する事が多くなった。エデンはその事を、あまりよく思えなかった。嫉妬するなんて、バカみたい。自己表現する事が苦手なエデンは、想いとは裏腹に、いつもヒロとは喧嘩になってしまう。正直、素直なアヤカが羨ましかった。待ってたのに。エデンは苛立ちを覚え、とてもヒロ達がいるギルドホールに入る気分になれなかった。
2010.06.27
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8.<私を支えてくれるひと>慌ただしく午前の授業は終わり、今はお昼休みだ。「眠い、眠い!!」「由奈いっつもそればっかじゃ~ん!」「2時間しか寝てない...」けど、昨夜は幸せだったと言おうとして、ユナはその言葉を胸にしまいこんだ。「午後からテストだよねー勉強してたんだ?」「え、テスト...」「知らなかったの!今日は化学のテストじゃない。」化学と言えば、恐いと有名な河村のテストだ。「や、やば~い!ちょっと今からやるから範囲教えて~!」「由奈らしいわね。」友達は呆れて溜め息をついた。ユナは弁当を急いでかきこみ、化学の勉強を始めた。「帰ったら、クロノスに会えるから頑張ろうっと。」「え?由奈何か言った?」「ううん、何にも!」そうして昼休みは終わり、午後からはだるい授業が始まる。クロノスがいるから、あたしは頑張れるんだわ。ユナは、テストの最初のページをめくった。ENDユナの番外編終了です☆読んでくれてありがとお♪
2010.06.27
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7,まじろ村に戻ったユナ達に、村人達の埋葬をようやく終えた村長がその姿に気付き、駆け寄ってきた。「おお!!お主ら無事だったか!」村長は笑顔で迎えてくれたのだが、クロノスの姿を見て、顔が強張った。「ケガしたのか!?大丈夫か?!」クロノスは全身血まみれだった。大量の血を浴び、それを吸収できなかったコートから、今もまだ血が滴り落ちていた。「ああ、これはまるまじろのだ。」それを聞き、村長の顔がぱあっと輝いた。「奴を倒したのか?!」「ああ。まるまじろは死んだ。」「お、おお...!!」村長は、クロノスの両手を握ると涙を流した。「これで村人達も報われる!!ありがとう、ありがとう!」ユナ達は、村長から報酬を貰い、村人達のお墓ひとつひとつにお参りすると、まじろ村を後にした。「ユナ、もう遅いし今夜は宿に泊まるか。」「うん!」まじろ村の隣の村は、歩いて行ける距離にあって、ここからはそう遠くない。隣町までの道は、一本になっており、通路の周りには木が覆い茂っている。夜風が気持ちよく、ユナは歩きながら目を閉じた。「あたし、幸せかも~」「ん?」「なんでもないw」「そか?俺、今回かっこよかったな。」「も~自分でゆってる~!!」「村が見えて来たぞ。」「あ、待って~!」急に早足になったクロノスを後ろから追いかけながら、ユナはクロノスに聞こえないように呟いた。「クロノス好き。」この広い背中を、いつまでもいつまでも追いかけていこう。ユナは心の中でそう思った。
2010.06.27
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6.<まるまじろ>ユナ達は、クロノスの魔法の光に頼りながら、相変わらず薄暗い洞窟を進んでいる。洞窟は長い。途中、コウモリの姿をしたモンスターや、アブラムシのように動きが早く、羽が生えたモンスター達に遭遇したが、ユナの武器であるムチで素早く倒し、二人は先を急いだ。「気持ち悪い敵ばっかり~」身体がぞわぞわして、痒くなる感覚を覚える。「そだな、早く帰ろ」さっきから、洞窟がどんどん狭くなっていってる気がする。土のモンスターを倒した時には、二人横に並んで両腕を伸ばしてもぶつからないぐらいの空間があったはずなのに、今は一人片腕を伸ばすのが精一杯だろう。洞窟はさらに狭くなり、やっと人一人が通れるぐらいのスペースにまで縮んだのだが、突然、道が開けた。「わっ!」クロノスが急に歩みを止め、後ろから着いてきていたユナは、クロノスの背中にぶつかった。よく見ると、そこには大きなもさもさの、灰色の毛をした巨大鼠のモンスターがいた。爪が鋭く、べっとりと血がついている。それは空気に触れ、どす黒く変色していた。人間の血なの...!マジロ村の人達の...!ユナはぞっとした。「コイツか。」ついに、まるまじろらしいモンスターを発見し、ユナ達は身を構えたのだが、巨大鼠ーまるまじろはいびきをかいて、眠っているようだ。「ユナ、静かにしてろよ。」クロノスはユナの耳元でそう囁くと、魔法の詠唱にはいった。まるまじろは眠ったままだ。クロノスは詠唱を終えると、杖から火の玉を出し、まるまじろの腹に命中させた。だが、まるまじろはびくともしない。「効かない、だと?」クロノスは違う魔法の詠唱に入り、まるまじろに雷を浴びせてみたが、やはりまるまじろはびくともしない。それを見かねたユナが、まるまじろをムチで叩いた。バチン!すると、まるまじろは赤い瞳を開き身体を起こした。怒ったまるまじろは、鋭い爪をユナに向けて降り下ろしたが、ユナは反射的に仰け反り、それをかわした。「ぶ、物理攻撃は効くみたい~!」まるまじろは、視界の隅でクロノスの姿をとらえると、方向を変え、大きな口を開け飛び付いた。鋭い牙が目に入った。「クロノス!危ない!!」クロノスは避ける暇もなく、あっけなくまるまじろに喰われた。「そんな!!!ク、クロノス...!」悲しむ間もなく、まるまじろはユナに向き直ると、じりじりと歩み寄った。「い、いや...!」 あたしも、喰われる...!!まるまじろとユナの距離はどんどん縮まり、再び鋭い爪がユナに向かって降り下ろされようとしたが、急にまるまじろの動きが止まった。腹を押さえると、苦しみだした。「ウゥゥ...!!!!」まるまじろは暫くのたうちまわっていたが、押さえていた腹が突然爆発し、その肉片が辺りに飛び散った。「な、なにが起こったの...」ユナは突然の出来事に呆然とした。目を凝らすと、人影が見えた。そこには、まるまじろの血を浴び、全身血みどろになったクロノスが立っていた。「ク、クロノス」「ユナ」あまりにグロテスクだったが、クロノスが生きている事が嬉しくて、ユナは抱きついた。「良かった!!生きてたの~!!」「あたりまえ。」「何がど~なったかよくわかんなかったけど、よかったよお!」はしゃぐユナに対し、クロノスは冷静に答えた。「まるまじろの身体の中で詠唱して、爆発させた。とっさに自分の身体にバリアをはったから、喰われても無傷ですんだ。」「そ、そ~だったの!」ユナは涙が止まらなかった。気がすむまで、クロノスの胸の中で泣きじゃくった。
2010.06.24
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5.<土とモンスター>「さ、寒い」急に寒気がして、ユナは身震いした。あ、れ息ができる。あたし、生きてるの・・・?「勝ったな。」クロノスのこえがする...「ユナ、見ろ」再び固く瞑っていた目を開くと、土(まるまじろ?)が氷で固まり、その動きを止めていた。「た、たすかった・・・」ユナはその場にへなへなと座りこんだ。土は、ユナ達の頭のすぐ上で固まっていた。もう少し遅かったら...あたし達は土に埋もれ、息絶えていたに違いない。そう考えるとぞっとした。それにしても、二つの魔法を同時に詠む事ができるなんて...!ユナは確実に力をつけている隣の魔法使いを見やった。「ユナ、こいつまるまじろじゃないな。」「え?」「爪がない。」そういえば村の住人達は皆、鋭い爪で身体を引き裂かれていた。今襲ってきたモンスターは、爪どころか頭と身体の区別もなく、土そのものであった。氷の塊の先を見ると、洞窟はまだ続いていた。この奥に、まるまじろがいるかもしれない。「ユナ、ポーションくれ。」「うん!」ユナは鞄からポーションを取り出すと、クロノスに渡した。クロノスはそれを一気に飲み干すと、顔色が少しよくなったように見えた。クロノスは再び杖に火を灯し、それを前に向けてかざし、先を見据えた。「さ、行くぞ。」洞窟に、クロノスの声が反響する。まるまじろも、侵入者が来た事に気付いているかもしれない。「あ、待って~!」ユナはうにさんのコートの端を掴んだ。ユナ達は洞窟の奥を目指し、再び歩き出した。
2010.06.24
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4.<潜入>まるまじろの巣は、村から意外とすぐ近くにあった。「まるまじろな~んて、名前が可愛いから、とても凶暴なモンスターに思えないんだけどね。」「そだな。でも、村を壊滅させただけの強さの持ち主だ。油断すると殺られるぞ。」「殺られそ~になったら、クロノスが守ってくれるの~?」ユナはワクワクして聞いた。「いや、置いて逃げる。」「クロノスひど~い!!」ユナ達は、そんな会話をしながら巣に足を踏み入れた。中は広い洞窟になっており、真っ暗である。クロノスは呪文を唱えると、杖の先に火が灯った。それをタイマツ変わりに、ユナ達はゆっくり壁を伝いながら洞窟を進んでいく。 地面に火を近づけると、骨が見えた。「きゃっ!こ、これ人の骨じゃ...」ユナは思わず、うにさんが着ているコートにしがみつく。ちょっとラッキー... な~んてw「ユナ、敵の気配がする。」クロノスは小声でそう言うと、険しい顔になった。浮かれてる場合じゃなかった...Wユナが反省したのも束の間、「来た。」クロノスの声とほぼ同時に、敵(まるまじろ?)はユナ達の目の前に立ちはだかった。「お、おっき~!」モンスターは、土そのものであった。土まみれで、突如現れたソレは天井に届くぐらいの大きさがあり、ユナ達の姿を見つけると、覆い被さった。「キャー!!窒息させる気なの~!!」ユナは、うにさんにしがみついたまま目を瞑ったが、「??」何も起こらなかった。恐る恐る目を開くと、クロノスとユナを白い光のバリアが包んでいるのが分かった。クロノスが守ってくれてるの...!しばらくその状態が続いたが、守りに徹するのが精一杯で、クロノスの精神力も続かず、やがて、私たちは完全に土に埋まった。
2010.06.23
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3.<クエスト>クエストとは、何か困っている人から依頼を受け、それを解決し、その人から報酬として、お金やアイテムを貰う事である。困っている内容はモンスター絡みの事が多い為に、力のない者は誰かに依頼をしないと解決しない問題が多いようだ。今回ユナ達が受けた依頼は、先日マジロ村を襲ったモンスターの巣に潜入し、ボスを叩く事だ。マジロ村はギルドホールから西にしばらく行った所にあり、村長は壊滅した村を見て、途方にくれていた。「これはひどい」うにさんはマジロ村に足を踏み入れ、最初に呟いた。そこには、家が崩れ瓦礫の山と化した無残な光景が広がっていた。大地が枯れ、人が死んでいる。大人も、小さな子供も関係なく。傷口には、大きな鋭い爪で引き裂かれたような跡が残っていた。村長の話では、モンスターの夜襲に遭い、戦える者もいたが、そのあまりの凶暴さに、住民達は全滅したらしい。「わしはちょうど用事があって隣町に行っておって助かったのじゃ。まだ、埋葬が終わっとらんのじゃよ。」村長は目に涙を浮かべながら、そう言った。「爺さん、俺達がモンスターのボスを倒すから安心しろ。巣は何処にある?」クロノスは問う。村長は、住人の傷跡を見て答えた。「この爪跡は、まるまじろがやったものに間違いない。この村から北に行った所に奴は生息しておる!二度とわしの村に攻めてこないようにしておくれ!」「任せておけ。ユナ行くぞ。」「うん!」あまりの残虐さに、いつもは穏やかなクロノスに、怒りの表情が浮かんでいた。
2010.06.23
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2.<幸せな時間>いつも、オンラインゲームにイン(接続)すると彼を探すのは、もう習慣になってしまっている。ユナはギルドホールを見渡したが、彼の姿は見つからなかった。たいていこの時間は、図書室で分厚い魔法書を読んでいるのだが。せっかく、ゲームにインしたのに誰もいないなんて。私はため息をついた。調教したペットの毛まみれちゃんも、最近ギルドに勧誘したアヤカにあっさり倒されてしまったので、私の傍にあったふさふさな感覚も、今はない。「も~う!皆何処行ったのよう!」ギルドホールで叫んでいると、急に後ろから肩を叩かれた。「きゃ」後ろを振り返ると、彼ークロノスがぼーっと立っていた。「ク、クロノス」 「今インしたとこ。」探していた相手が急に目の前に現れて、ユナはアタフタした。「クロノスがゲームしてないなんて、珍しいと思ってたんだよ~!」「近所の消防訓練に強制参加させられてた。」「そ~なんだ!wあたしは今学校終わって帰ってきたとこ。」「そか。クエスト一緒にやる?」「やる!」クロノスはあまり、リアルー現実の事には興味なさそうだ。あたしは、このゲームを始めてからクロノスと一緒に行動する事が多いが、本人の口からはあまり、自分の事は語られない。クロノスのリアルの話を知っているとすれば、仕事は自営業で、スポーツジムに通っており、そこで出会った彼女がいるという事だ。彼女がいると聞いた時はショックだったが、気にしないようにしている。だって、もう好きになっちゃったんだもん。仕方ないじゃない。嘘をつくのは苦手だ。「ユナ、どした?」「あ、今行く!」先に行ったクロノスの背中を追いかけ、ユナ達はギルドホールを後にした。
2010.06.23
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1.<現実>慌ただしく午前の授業は終わり、今はお昼休憩の時間だ。ユナはいつものように、教室で友達とお弁当を食べていた。「あ~もう帰りたい!」ユナはイスに座ったまま背伸びをすると、そう吐き出した。毎日、この時間になると家に帰りたくなる衝動にかられる。家でしかできない、没頭しているセカイがあるのだ。「私、二組の新垣先輩のこと、いいと思うのよね!由奈はどう思う?」「う~ん、普通かな~?」ユナは興味なさそうに答えた。「も~由奈ってば好きな人いるの?」「いないかも~」学校の友達とは、恋愛の話題ばかりだ。主にあたしは聞き役に回るのだけど。本当は、あたしだって好きな人がいる。ただ、実際には会った事がない人だから、とても普通じゃなくて、お喋り好きな友達には言えない。だけど、あたしは彼の事を信頼しているし、どんな人かも分かっている。本当は隠したくないけれど、友達に言ってもわかってもらえないだろうと思い、あたしは嘘をつくことに慣れていた。あたしの好きな人は、この世界に存在する事は確かだ。今もパソコンの前に座り、キーボードを叩いているに違いない。お弁当を食べ終わると、一気に眠気が襲ってくる。毎晩夜ふかししており、5時間程度しか寝ていないせいだ。早く寝ないと、とは思っているが既にこの生活に慣れてしまい、なかなか普通の女子高生がおくる生活のリズムを取り戻せずにいた。今日も学校で過ごす長い時間が終わり、家に早足で帰ってパソコンの電源を入れる。オンラインゲームをロードして、慣れた手つきでIDとパスワードを入力すると、見慣れた世界が表示された。「ここからが幸せな時間ね♪」ユナは独り言を呟いた。
2010.06.23
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数ヶ月して、正しい判断ができるようになった私は、正式に病院の受付の仕事を辞めた。不思議と、心が落ち着いている。私はカウンセラーになりたいと思い、大学受験に向けて勉強を頑張っていた。オカアサンから後で聞かされたが、私は統合失調症という病気らしい。幻覚、妄想、幻聴など様々な症状を引き起こす。毎日薬を飲み続け、私の症状はしだいに収まっていったが、まだ完治はしていない。周りの人の協力無しで、一人じゃ決して治す事ができない病気だと医者に言われた。お母さんが助けてくれたの。私を産まなければ良かったと言っていたオカアサンが。私は嬉しくて涙がでた。お母さんは、勉強の合間に夜食を作ってくれるようになった。前のように男を家にあげたりしなくなった。親子関係を築くのに必死なお母さんを見ると、なんだか安心する。私は、息抜きにゲームにインしていた。ギルドホールに行き、ユナと会話をする。「アヤカ学生になるの~!テスト超多くて大変だよねーやんなっちゃう。」「大学受かったらの話だけどね!」以前とは違い、リアル(現実)の話も自分からできるようになっていた。「アヤカ、頑張れよ!俺も廃人やめて、仕事探すかな~」近くにいた、たかちゃんがのんきに言う。そこにシュンが、たかちゃんは一生ニートだろと釘を刺す。私は笑ってしまった。そこへ、ドタドタと走ってヒロがやってきた。「おっしゃ~アヤカ!狩り行こうぜ!!」ヒロはギルドホール立ち入り禁止令が解けて、戻ってきていた。以前のようにギルドが活気を取り戻していた。近くのイスで大人しく本を読んでいたエデンが、うざっと呟いた。エデンの横で、いつものように分厚い魔法書を読んでいたクロノスは、急に立ち上がると「よし!今日は皆で狩りするか!!」と言い、最近覚えたのであろう、テレポートの術を詠んだ。「うわっ!」すると、黒い大きな闇が私達を飲み込み、別の場所へと移動させた。この世界なら、私は息ができる。ユナ、クロノス、ヒロ、たかちゃん、シュン、エデン、そしてアーク。私には沢山の仲間がいる。だからもう、こわくないよ。現実世界より、ここがどれだけ温かいか。ここは私の居場所。これからも、ずっと。END この話はフィクションです。私が暇つぶしに、携帯で書いて友達に送ったものを、PCにうpしてみました。長々と読んでくださり、有難うございました。感想などなどお待ちしております☆
2010.06.23
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アークは、名古屋の国立病院に小山都樹という名前で入院していると言っていた。ここは東京だ。名古屋までは新幹線で約2時間かかる。二階からバタバタと階段を降りる音がして、一階の台所にいたオカアサンが、私が形相を変え、外に飛びだす姿を見た。綾香!私は、家を出ると、静止するオカアサンの声を振り払って、駅に向かった。ずっと、パソコンの前に座っていたらしいが、思ったより走れる。頭がはっきりしてる。あなたのもとに行きたいの。駅に着くと、名古屋行きの新幹線に乗りこんだ。どうか、間に合って。名古屋に着き、私は適当にタクシーを拾うと国立病院までお願いした。「急いで下さい!」タクシーを降り、受付で小山さんが入院している部屋を聞くと、202号室だと教えてくれた。私は待合室を抜け、エレベーターで二階に上がった。202号室は、意外とすぐ見つかった。ここだ。アークは私だってわかる?今まで一回も会った事ないのに。勢いで、出てきてしまった。髪はぐしゃぐしゃだし、服もジャージだしここまで来たら行くしかない!私は覚悟を決め、202号室のドアを開いた。ガラリ狭い個室。机の上には枯れた花と、開いたままのノートパソコンがある。アークのパソコンにも、アヤカとアークが大きな木の下で並んでいるシーンが映し出されていた。そこには、ベッドに横になり複数の点滴に繋がれた、アーク―小山都樹がいた。アークは眠っていた。痩せた顔。抗がん剤で抜けてしまったスキンヘッドの頭。口の下にあるホクロ。この人が、アーク。会いたかった、会いたかった。思わず涙がこぼれる。だけど、感傷にふけっている暇はなかった。医者が、心臓マッサージをしている。看護師が慌ただしくしている。アークは眠ったままだ。俺、もうすぐ死ぬんだ。アークが打った文字が蘇った。しばらくして、医者の心臓マッサージのかいあって、アークは息を吹き返した。「都樹君!!」アークはぼんやりした目をしていて、その目は宙をさ迷った。そして、私と目があった。アヤカそう、唇が動いた気がした。アークはすぐにまた意識を失った。アークの顔に白い布がかけられるまで、私は動けなかった。名前を呼んだの?アヤカって。一気に溢れた涙は、留まる事を知らない。私はアークにすがって泣きじゃくった。私はどうやって東京まで帰ったか覚えていない。気付いたら、オカアサンの顔がドアップにあって、それはみるみる泣き顔にそまっていく。心配したのよオカアサンはそう言うと私を抱き締めた。オカアサンも、泣くんだ。私はぼんやりした頭でそう思った。何日かして、ノートパソコンを開き、ゲームに接続した。いつものログイン画面に、IDとパスワードを入力する。ああ、私が愛した変わらない世界がここにある。だけど、ここにはもう、私の一番会いたい人がいない。本当に?もういないの?あなたはどこにも。いくら名前を呼んでも、もう。消えてゆく。消えてゆく。手を伸ばし、やっと届きかけた指先。いつもこの距離だ。痛む傷さえ忘れてしまうほど、あなたの笑顔を追いかけて追いかけて、こわくなかったのに。「アーク」呟いた。分かってる。アークはもうゲームにインしたりしない。私の嗚咽があたりに反響して消える。残酷に夜は明けていく。
2010.06.23
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それからというもの、私はアークと共に行動するようになった。アークは、自分の家なんてとっくに引き払ったし、ギルドも抜けてしまったから、帰る場所がないと笑った。そんなアークについて、私もジェネシスのギルドホールには帰らず、何度も野宿をした。なんとなく、ギルドホールには帰りたくなかった。ジェネシスの皆と話すと、思い出したくない記憶が溢れだしそうで恐かった。まだはっきりとは思い出せないが、思い出してしまったら、もうアークと一緒にはいられない気がした。今日はアークと海岸にいる巨大亀を狩りに来ている。この亀は倒した後に卵を落とすので、それを食料にできる。何匹か倒した所で、アークが私を誉めた。「アヤカ強くなったね。」「そう?アークには負けるわ」アークの強さを目の当たりにしたのは、助けてもらった時の一回だけだ。だが、その時から確実に強くなっている。安心して背中を預けてもいい。「ちょっと休憩しようか。」アークはそう言い、剣を収め、私と手を繋ぐと敵が沸かない場所に移動した。そこには大きな木が一本立っており、その下には日陰ができていた。休憩するのにはもってこいの場所だ。私達は木を背もたれ変わりに、そこに腰かけた。今まで動いていたので、汗が滝のように一気に吹き出した。今日は暑いけど、爽やかな天気だ。気持ちがいい風が流れている。私は、アークの肩にもたれかかる。ずっと、こうしていたい。私は世界一幸福な女だった。その時までは。「アヤカ、俺話さなければいけない事があるんだ。」ふと、アークが口を開いた。「なに?」私は笑顔でアークの目を見た。恐いくらい真剣な目で見つめ返され、私は何か重要な話なんだと理解した。自分の心臓の、鼓動が聞こえる。「俺、もうすぐ死ぬんだ。」「え?」私は一瞬、何を言われたか解らなかった。モウスグシヌンダ頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。アークは続ける。「ギルドを抜けたのも自分の死が近いと分かっていて、あれ以上エンジェルの皆と一緒にいると、死ぬのが辛くなるからなんだ。」死ぬ...アークが?どうして?だって今、こんなに元気じゃない... 「俺、癌なんだ。」「え...」「隠しててごめんね。」本当の俺は、弱くて、いい男じゃないし...リアル(現実)でも、アークみたいに強くなりたかった。ああ、アークもこの世界を否定するの「今、名古屋の国立病院に入院してて。俺本名は、小山都樹って言うんだ。明日にでも、死ぬかもしれない。」アークの目にはうっすら涙が滲んでいた。私は、なんて言ったらいいのかわからなかった。「何もかも投げ出して、何処か遠く消えてしまいたかったんだ。ゲームの世界に入れば、現実を見なくていいから、俺はこの世界に逃げたんだ。そんな時、地下牢獄でアヤカに出会った。」ああ、そうだったの。アークが、景色が歪んでいく。私もアークと同じ、逃げてきたの。あそこには、居場所がなくてただ生きてるだけの世界なら、捨ててしまった方がいいと思って。崩れゆくこの世界大地が歪み、皆消えてゆく...!やっと思い出した。ノートパソコンから離れ、私は正気に戻った。もう、隣にアークはいない。さっきまで狩っていた巨大な亀も、大きな木も、目の前から全て消えていた。ふとパソコンの画面を見やると、たった今私がいた世界がそこにあった。アヤカがアークの隣に腰掛けているのが見える。会話は全て、キーボードで打った文字がチャット形式で画面に表示される仕組みになっており、履歴が残っている。私は履歴を辿ると、アークの打った文字に目が留まった。俺もうすぐ死ぬんだアークに会いに行かなくちゃ私は、いてもたってもいられなくなって家を飛び出した。
2010.06.23
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消えた...いや、そんなわけない。疲れているから、そう思うんだ。外に出掛けただけかもしれないじゃない。だけど、こんな夜遅くに?そういえば、ユナの姿は昼間見たことが一度しかない。ギルドバトルがあった日だからよく覚えている。夕方から夜にかけてはよく姿を見かけるが、昼間はいつも、何をしているのだろう。狩りに出掛けているかとばかり思っていたが、違うのかもしれない...明日ユナに会ったら聞いてみようそう思い、私はユナの部屋を後にした。私はなんとなく、クロノスの部屋を見に行った。クロノスはベッドで眠っていた。同様に、たかちゃんとシュンも眠っているのを確認した。良かった、皆いるじゃない。私は安心して、自分の部屋に戻ると、布団に入った。夜が明け、私は朝早く目が覚めた。起きてすぐ、ユナの部屋に行ったが誰もいなかった。ユナ、まだ帰ってきてないの...昨夜、ユナが目の前で突然姿を消した事を思い出し、もう二度と会えないんじゃないかと私は不安に思った。ギルドホールをウロウロしていると、たかちゃんに会った。「おーアヤカ。おはよ、元気か?」「う、うん。あのね、ユナって何処行ったかわかる?昨日の夜からいなくて。」「ユナ?アイツはこの時間いつもインしてへんやろ?」「い、イン?」「俺らは廃人やから、いつもインしてるけど、アイツは学生やからなー。学校行かなあかんし、昼間はインできひんのとちゃう?」学生?学校に行く?あ...ああああ私は...「私も学生だった時期があった...」私は呟いた。「お、アヤカのリアル話なんて今まで聞いた事ないからレアやな!アヤカって実際いくつなん?俺は25やで。」「私は...」いや、思い出したくない。ここに居させて...!「え、アヤカ急に何処行くん?!」気付いたら私は、走っていた。ギルドホールを抜け出し、自然と足が廃坑に向かう。私、この世界にいたいの...!アークに会いたい。なぜ、いつもすれ違いなの。廃坑に着くと、入り口付近で見慣れた赤いマントの男が、敵に留めを刺した所だった。思いが通じたのか、見間違えるはずもなく、それはアークだった。「アーク!」私は叫んだ。彼は振り返る。「ア、アヤカ?!」追いかけて、追いかけて、会いたかった顔がこちらを向いた。私達は薄暗い坑道に二人、横に並んで座っていた。二人きりだと急に緊張して、私は何か話さなければと思い、口を開いた。「こないだは、助けてくれてありがとう」「気にしないで。アヤカが助かってよかった。」アークは笑顔でそう言った。「なぜ、廃坑に?」「アークがいると思って。その...会いたかったから。」私は頬を赤らめ、うつむく。「ありがとう。俺も、アヤカに会いたかった。不思議だね、俺達そんなに会話した事なかったし。だけど、自然にお互い惹かれ合ってるなんて。」「え?アークも私の事気にしてくれてたの?」「一目惚れかな。ほら、一番最初に地下牢獄で会ったよね?実は、その時からいいなと思ってたんだ。」「そ、そうだったの..」私は顔を上げたが、まともにアークの顔が見れない。アークが私に一目惚れ?それは、私がしたのではなかったか。助けてもらったあの日からずっと、アークは私の心に住み着いている。「中途半端に言ってごめん...」アークが私の方を見て、目が合った。「つまり俺、アヤカが好きだ。」一瞬、空気がとまった気がした。アークに真面目な顔をして言われ、私は緊張して口から心臓が飛び出そうだった。「私もアークが好き。」私は自分の気持ちに正直に言葉を繋いだ。アークは肩に手を回し、私を引き寄せると唇を重ねた。私はこの時、幸せな時間がいつまでも続くと思っていた。
2010.06.23
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その日、私は夢を見た。それなのに、まるで現実に起こっているかのように不思議な感覚だった。病院の受付に立ち、愛想笑いをうかべて患者と話している人が見える、白衣を着た男に怒鳴られている人が見える、オカアサンに殴られてる人が見える、パソコンに向かって独り言を言ってる人が見える...なに、気持ち悪い...やがてその人は姿を変え、よく知る人物になった。あ、あれは私...?いや、違う。私はこんな世界は知らない...私はこの世界でずっと生きてきたもの。?でも、ずっとっていつから?記憶が繋がらない。コノセカイッテドノセカイナノ?何が本当で、何が正しいのかわからない。胸の奥底に閉じ込めていた記憶が顔を出しそうで吐き気がして、私は飛び起きた。ゆ、ゆめ...あれは確かに私だった。だけど、私はあんな世界は知らない...!「アヤカ?大丈夫?」声がして顔をあげると、ユナの顔があった。「ユ、ナ...」「アヤカ、凄くうなされてたよ~?心配で起きてきちゃった。」そう、ユナ。この子は私の友達だ。最初の方に、狩りをしていたら偶然出会った女の子。その後ギルドに誘われて、ジェネシスに入ってクロノス達と出会った...あ、れさ、最初っていつ?私は何処で生まれたの?私は激しい頭痛を覚え、頭を抱えた。記憶が曖昧で、繋がらない。オモイダサナクテモイイノヨワタシヲ、ケサナイデユナの声が聞こえた気がした。「アヤカ、まだ完治してないんだよ。ゆっくり寝てね。おやすみなさい。私も明日、テストあるし早く寝よっと。」な、なにテストって?聞こうとしたが、ユナは既にそこにはいなかった。き、消えた?ユナ...?私は飛び起きて、ユナの部屋に向かった。だが、そこにユナの姿はなかった。何処へいったの...私はへなへなとその場に座りこんだ。
2010.06.23
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私達は、エンジェルのギルドホールの奥にある、円型にイスが並んだ会議室に案内された。高そうなイスだ。そこに腰かけ、詳しい経緯をヒカルに話す。「なるほど、貴殿方はアークを探しているのですか。」「ええ、そうなの。助けて貰ったお礼が言いたくて。」「アークは、もうエンジェルにはいませんよ。」「え?それってどういう...?」私は、よく意味が理解できなかった。「アークは先日、自らギルドを去りました。」私は思わずクロノスと顔を見合わせる。「なぜ...?」「私にもわかりません。ヒカルは深くため息をついた。アークは、ギルド創設以来ずっと共に戦ってきましたし、突然去ってしまったので、こちらが理由を聞きたいぐらいです。今何処にいるのか、検討もつきません。でも、話を聞く限りでは、彼は廃坑に最近いたという事ですね。」理由がギルマスでもわからないなんて。何かあったのかしら...私は不安になった。「またアークを見かけたら、報告願えますか?私達も探してみます。」ヒカルは真剣な目をしてそう言った。私達がギルドホールから外に出ると、既に日は落ちていた。お昼前に出てきたのに、もうこんな時間になってしまった、とクロノスは嘆いた。クロノスは、私の体調がまだよくない事を気遣って、手を引いてくれている。私はクロノスの顔を見上げて、話しかけた。「ねえ、クロノス。なんでアークはギルドを離れたんだろうね。」「俺が知るか。アヤカ、アイツの事好きなのか?」「え、え」図星だった。私の顔がみるみる赤く染まっていく。「ま、俺はリアルで彼女いるからそういうの興味ないけど。」「え?」リアル?な、に?私が立ち止まり、クロノスの手が離れた。リアル=現実?ここが、今見ている世界が現実でしょう。クロノスは何を言っているの。私は、よく意味が理解できなかった。頭が、痛い。「アヤカ、何突っ立ってる?ギルドホールに着いたぞ。」「あ、うん」私は慌てて、クロノスの背中を追いかけた。
2010.06.23
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「誰かいますかー?」私の声がホールに反響して消える。ギルドホールに入ると、中には誰もいなかった。「誰もいないな、出直そうか。」「うん...」私達は踵を返して、帰ろうとしたがドンッギルドホールの入り口付近で、大きな黒い影にぶつかった。「あ、ごめんなさい」「どこ見て歩いてんだよ!なんだ?お前達スパイか?」「いえ、私達はそんなんじゃ...」男は身体が縦にも横にも大きく、がっしりとしており、筋肉でムキムキの大男だった。武器を持っていない様子を見ると、拳で戦う武道家だろうか。「その紋章、見たことねぇな!」男は私とクロノスが胸元につけているギルドのバッジを見やった。「最弱ギルドの連中め!さっさと消え失せろ!!」「なんだと?」クロノスさんが相手を睨み付ける。「なんだオメー!やるってのか!!」男はクロノスの胸ぐらを掴み、二人はにらみ合いを続けた。「離せ」「オメー気にくわねぇな!表でろ!!」男はクロノスを投げ捨てるように後ろに突飛ばすと、ギルドホールの外に出ていった。クロノスはバランスを崩し、その場によろめいた。「大丈夫?」私はクロノスに駆け寄る。「あいつ、前来た時にはいなかったな。」クロノスは立ち上がると、着崩れた服を直し、行ってくると言うと表に出た。大男は、「おせーぞ!!」と言い、イキナリ、クロノスに殴りかかった。それはあまりにも早く、避ける事ができなかった。骨の、砕ける音がした。「クロノス!」クロノスは吹っ飛んで、近くにあった草むらが壁変わりとなり、その中に埋まった。「おいおいおい!もー終わりかよ?弱えな!!」男はフフンと喉を鳴らした。「俺に喧嘩を売ろうなんざ、100年早えーんだよ!!わかったか!」大男はクロノスに勝ち台詞を吐くと、草むらに背をむけ、ギルドホールの中に入ろうとした。だが、草むらの中から詠唱がかすかに聞こえ、男は足を止めた。それと同時に上空からメテオが降ってきた。魔法使いの最強魔法である。「な、なに!!」男にメテオが直撃し、辺りに爆発音が響いた。衝撃でいくつかあった草むらが一瞬で無くなり、葉が宙を舞った。やがて、土埃が収まると、クロノスの姿が現れた。男は全身に火傷を負い、その場でのたうちまわった。「あ、熱い!!誰か、助けてくれ!」クロノスはゆっくりと男に歩み寄りながら呪文を唱えると、杖を氷の鋭いナイフに変えた。「とどめだ。」うにさんは冷たくそう言うと、男の腹めがけてそれを刺そうとした。「ちょっと待って!」「ん」私はクロノスに駆け寄り腕に絡み付くと、それを止めた。「もういいじゃない、勝敗はついたわ!」「そだな」クロノスは魔法を解き、氷の刃を杖に戻した。私は、鼻の骨が折れ、血を流しているクロノスを放っておくことができなかった。「だ、だいじょぶ...?」「なんとか。」「と、とりあえずこれ飲んで!」私は持っていたポーションをクロノスに渡した。クロノスはありがとうと言い、それを受け取ると一気に飲み干した。あれ?あなたたち...女の声だ。私は背後に人がいるなんて、全く気づかなかった。慌てて、声がした方を振り返る。女は、クロノスの顔と、足元に転がっている大男を見比べ、何かあったんですか?と、きょとんとした。「えっと...」「失礼、申し遅れました。わたしはエンジェルのギルドマスターのヒカルです。」この人が、ギルマス。まじまじと、最強ギルドを総ている人物を見上げる。手には杖を持ち、白いフード付きのロープを着ている。「白魔道士か。」クロノスは呟いた。白魔道士とは、傷を治したり、防御力を高める魔法を使う事ができる人の職業の事だ。私はその人物に、簡単に事情を説明した。「なるほど、問題を起こした者は追放しますので、今日からもうこの男はエンジェルのギルドメンバーではありません。」ヒカルはそう言うと、大男からギルド紋章であるバッジを外した。「それから、クロノス。少し目を瞑って下さい。」ヒカルはそう言うと、クロノスの顔に手をかざした。ヒカルの手から光が溢れる。すると、みるみるうちに傷が癒えていった。治った...?今のは魔法!?「痛くない。」良かった、とヒカルはにっこり笑った。「どうぞ、中へ。あなた達を歓迎致します。」ヒカルはそう言うと、ギルドホールの中に私達を押し込んだ。
2010.06.23
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ああ、良かった。皆こんなところにいたのね。私が目覚めたのは、ギルドホールのベッドの上だった。「アヤカ!」ユナが私の発した声を聞き、駆け寄ってくる。「良かった、心配したわ!3日も目を覚まさなくて!だいぶ、うなされてたの~!本当に良かった~!」3日...もう、そんなに経つんだ...ユナは、私の身体にすがると泣き始めた。「ユナ、ありがと。」嬉しかった。ユナの目の下には、くっきりとクマができていた。ろくに眠らず、看病してくれていたのだろう。私は起き上がろうとして、身体を動かそうとすると、ピリッと全身に痛みが走った。「痛っ..!」「あ、まだ動いたらダメ。アヤカすごい怪我してて、毒が全身に回ってたの!廃坑に行ったでしょう?」はいこ...う呼んでくれたら、私も一緒に行ったのにぃとユナは悪態をついた。「そう、私廃坑で...」記憶が蘇る。「そこで確か、蜘蛛に噛まれて...私、なんで助かったの...?」ユナに問う。「アヤカと仲がいい剣士さんが、ギルドホールまで背負って来たのよ。」ユナは答えた。「仲がいい剣士...?」「ほら、ギルドバトルの会場で会った、エンジェルの人~!!」「も、もしかして、アーク?!」また、助けてくれた。お礼を言わなきゃと思い、私は再び起き上がろうとしたが、それは叶わなかった。「痛っ!」「アヤカ~!毒が完全に抜けるまで無理だよぉ!解毒剤を飲んだのも遅かったみたいだし~!」そういえば、解毒剤なんて、私は持って行かなかった。じゃあ誰が?「ユナが飲ませてくれたの?」ううんと、ユナはかぶりをふった。「解毒剤を飲ませたのは、アークさんよ。ひとつしか所持してなかったみたいで、アヤカに口移しで飲ませた後、アークさんにも少し毒が回ってしまったみたいだけど、あの人体力あるし、大丈夫だったみたい~!」「口移し...」私の顔はみるみるうちに、赤く染まってゆく。私は思わず、唇に手をやった。「ヒロが聞いたら激怒するわねw」と、ユナは楽しそうに言った。ヒロはエデンと共にギルドホールへの立ち入り禁止を命じられており、今回の出来事は知らない。「クロノスはエンジェルのギルドホールへお礼を言いに行ったとこ~さっきまでいたんだけど...」いろんな人に迷惑をかけてしまったな...私はまだはっきりしない頭でそう思った。それから2日ぐらいして、大人しくしているしかなかった私は、ようやく身体を動かせるぐらいにまで回復した。クロノス、たかちゃん、シュン、特にユナには迷惑をかけた。シュンは、信じらんねー!廃坑に一人で行くなんて。自分のレベル考えてみろよ!二度と一人で行くな!!行くなら俺を誘え!!と強い口調で私を責めた。だけど、それも優しさの裏返しだ。たかちゃんは、アヤカの看病してる間に、どこ触ってもおk?とニヤニヤして、ユナに張り倒されたようだ。もう大丈夫。私はふらふらとベッドから立ち上がった。痛みも、もうない。少し指先に痺れが残っているが、じきに無くなるだろう。ベッドの傍には、クロノスがイスに腰掛けており、杖の手入れをしていた。「お、アヤカ起きたのか。」クロノスは顔をあげた。「心配かけてごめんなさい。私、アークに会ってくる。」「アヤカ、エンジェルのギルドホールの場所知らないだろ。送っていく。」クロノスはそう言うと立ち上がり、ふらつく私の手を引いた。エンジェルのギルドホールは町の北にあり、城のように大きかった。人数も多いし、これぐらいじゃないと皆入りきらないらしい。うにさんに手をひかれながら、私は少し緊張してそこに足を踏み入れた。
2010.06.23
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アヤカ...アヤカ暗闇の中で、誰かの声が聞こえる。私を呼ぶのは誰?綾香その声はしだいに大きくなる。綾香!!ぼんやりと目を覚ますと、白い天井が見えた。ここは、私の部屋だ。ふと、視線を感じ、私は隣にいる見慣れた顔の女に目をやった。「綾香、正気に戻ったのね!」この人は、オカアサンだ。「綾香、もう心配いらないわ。治療したらよくなるから。」なに?この人は、何を言ってるの「薬も処方されたし、もう大丈夫よ。ゆっくり時間をかけて治していきましょう。」オカアサンの目は腫れぼったく、声はかすれている。泣いていたの?オカアサンが、なぜ。お父さんは私が2歳の時に亡くなり、それからオカアサンは女手一つで私を育てあげた。オカアサンはその後好きな人ができたが、私の存在が重荷となり、再婚する事は叶わなかった。オマエナンテウマナケレバヨカッタオカアサンは、呪いの言葉を私に吐き続けた。それからオカアサンは、恋人関係や仕事がうまくいかないと私に当たるようになっていった。悲しかった。何度も存在を否定され、死のうと思った。だけど恐くて、死ぬ勇気がなかった。私はただ生きている。オカアサンに傷つけられるためだけに。オカアサンがなぜ、私に涙を流しているの?私は状況を把握できずにいた。「あれ、皆は?」私は部屋を見渡す。そういえば、ジェネシスの皆がいない。おかしいな。私、早くギルドホールに戻らなくちゃ。「アークに会いたい」私はポツリと呟いた。オカアサンはそれを聞くと、私の両腕を掴み、怒り出した。「綾香!あなた何を言ってるの!頭がおかしくなったの!ここが現実なのよ!」私はおかしくない。よく理解できず、無意識にパソコンの画面に向かった。「ただいま、良かった。皆こんな所にいたのね。」指が自然にキーボードを叩く。現実とゲームの世界も区別できない程に、うちの子はおかしくなってしまった!と、オカアサンは嘆いたが、私の耳にはもう届かなかった。
2010.06.23
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ギルドバトルを終えてから月日が流れていた。ギルドホールには以前のような明るさは無く、静まり返っていた。ギルドバトル直後は、ヒロが、汚ねえ戦いしやがって!と、ぶちギレて物にあたりまくっていた。そこで、火に油を注ぐかのように、何も考えずに突っ込むからよ。皆単細胞だから仕方ないわと、エデンが余分な一言を言うと、ヒロの怒りは燃え上がり、その後二人の言い争いは絶えなかった。それを見かねたギルドマスターのクロノスが、当分ギルドホールへの二人の立ち入り禁止を命じた。先日行われたギルドバトルは、完全にこちらの負けだった。相手のギルドは砂漠のフィールドを知り尽くしており、狭い通路を利用した見事な作戦で勝利した。負けたのは悔しいが、仕方ない。「あの二人がいないと、静かだな。」図書室で分厚い魔法書を読んでいたクロノスが口を開いた。「そうね...」 ここのところずっと、狩りに行く時はヒロと一緒だったから、ヒロがいなくなり、なんとなく私は出掛ける気分にならなくて、時間をもてあましていた。ユナとたかちゃんとシュンは、わりと一人で行動するのが好きなタイプなので、既に朝早くからそれぞれ出かけていた。私も見習わなきゃ皆強くなろうと頑張ってるんだから私はふらっと立ち上がると、ちょっと出かけてくると言い、ギルドホールを出た。外に出ると、日差しが眩しかった。私は無意識に目を細めた。特に、行くあてはないんだけど...そうだ、アークが言ってた廃坑に行ってみようかな。私は方向も分からず、野良猫のようにふらふらと町をさ迷った。町の噴水広場の傍に、木の束を背中にしょった道案内を仕事にしているおじさんがいた。私はその人に廃坑に行く道を聞いた。「廃坑ならほれ、町を出て南へ行くんじゃ。中には強いモンスターがうじゃうじゃいるから、ポーションを多めに持って行きなされ。」廃坑は、案外ここから近かった。私はお礼を言い、情報料としてお金を少し渡すと、言われた通りポーションを沢山買い、南へ向かった。私は薄暗い坑道を進んでいる。所々、壁にクリスタルが埋まっているが、これが明かりの代わりになっているようだ。この中に入っている石には魔力があり、武器や防具によく埋め込まれている。鍛冶屋の間で、高く取引されている貴重な石である。廃坑は地下9階まであると聞いた。ようやく地下3階まで来たが、アークにはまだ会っていない。私、馬鹿みたい今日アークがここにいるとは限らないじゃないそれに、会ってどうするの私は急に恥ずかしくなった。ただ、なんとなく会いたくてここまで来てしまった。地下に行けば行く程、モンスターが強くなっていってる気がする。さっき遭遇したゴーレムは、防御力が高いうえに攻撃力もあり、ポーションを飲みながらやっとの思いで倒すことができた。攻撃を受けた肩が、ズキズキ痛む。服が破れ、傷口から血が滴る。多めに購入しておいたポーションは、もう底を尽きそうだった。坑道をゆっくり進むと、今度は巨大な蜘蛛がいた。蜘蛛は大きな足を動かし、早い動きで私に迫ってきた。私は剣を抜く暇もなく、蜘蛛が飛び付いてきたため、とっさに両腕で身体をかばった。「痛っ...!」ピリッと電撃が走る。私は蜘蛛に噛まれていた。蜘蛛はなかなか離れない。「この...!」私はようやく片手で短剣を抜くと、蜘蛛の背中にブスリと刺した。「ギーーッ!!!!!!」蜘蛛は悲鳴をあげ、ようやく私の身体から離れ、床に落ちて青い液体を背中から流し、息絶えた。ハァハァ息がきれる。私のレベルでは、この階までが限界かも。アークに会いたかったが、これ以上地下に降りるのは命を落としかねない。私は身の危険を感じ、来た道を戻ろうとしたが、あ、あれ...身体に力が入らない。手足が痺れており、身体がだるく、眠気がする。な... んで...まさかさっきの蜘蛛、毒を持ってたんじゃ... 私は消えかける意識の中で、そんな事を思った。も... ダメ私は目の前が真っ暗になり、その場に倒れこんだ。
2010.06.23
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眩しい...!ものすごい光に飲み込まれ、私の体は消えた。やがて光が収まり、恐る恐る目を開けるとそこには砂漠が広がっていた。どうやら、戦いやすいよう違うフィールドにワープしたらしい。「こんな足場が悪いところでやるのかよ!」ヒロは絶句した。無理もない。踏み出した足は砂に埋もれ、沈んでいく。真っ直ぐ歩こうとしても、どうしても体が傾いてしまう。「最悪。早く相手を全滅させて、帰ろーぜ。」シュンはそう言うと、先頭をきって走り出した。シュンは死霊術師である。死霊術師は、敵に様々な状態異常を引き起こすことができる。相手の体力や精神力を奪い去り、自分のものにすることもできる。最初にシュンに遭遇したら、敵は嫌な顔をするだろう。シュンを先頭に、ジェネシスのメンバーは後に続いた。「見つけた」シュンが足を止める。ギルド、希望のメンバーを発見した。少し距離があったが、3人ほど人影を確認する事ができた。クロノスは呪文の詠唱に入った。エデンは「私、たかちゃんの武器になる。」と言い、剣に変身した。魔法使いであるエデンの得意技だ。「おっしゃあ!行くで~!!」既に先に突っ走ったシュンに続き、たかちゃん、ヒロ、ユナと私は敵に突進して行った。数ではこちらが優勢だ。これなら勝てるかもしれないだが、希望のメンバーは私達が迫ってくるのを見て、逃げ出した。「おい!逃げんな卑怯者!!」ヒロの罵声が飛ぶ。私達は砂漠を走る。「もぉ~戦う気ないのぉ。」ユナがぜいぜい息を切らして文句を洩らした。希望の3人組は、逃げてばかりだ。クロノスが詠唱を終え、メテオを降らせたが、距離がありすぎて敵には届かない。「何かおかしい」たかちゃんの剣になったエデンが呟いた。追いかける事にも疲れた頃、ちょうど狭い通路に私達は足を踏み入れた。両側には崖があり、その真ん中が通れるようになっている。すると3人が急に足を止め、こちらに向き直った。「観念したな!鬼ごっこは終わりだ!」そう言うと、ヒロは敵に向かってナイフを投げた。ようやく攻撃が届く距離だ。ナイフはブスリと胸元に刺さり、敵はうめき声をあげた。それを引き金に、たかちゃんと私が相手に切りかかり、シュンは相手の体力を奪う術を使った。「これで終わりだ!」カキン!その時ー私は見逃さなかった。切りかかった相手がニヤリと不気味な笑みを浮かべたのを。「皆!後ろ!」最初に気付いたのは後ろから着いて来ていたクロノスだった。私は敵と戦いながら、視線のふちでとらえた光景に絶望した。か、囲まれてる...!つまり、3人はおとりだったのだ。最初からこの場所に私たちを誘き寄せて、挟み撃ちにするつもりだったのね...!!気付いた時には、全てが遅かった。挟み撃ちの後ろの部隊は4人。さらにその後ろには、魔法使いが2人控えており、すでに詠唱を始めていた。逃げられない... !!前衛の三人には先ほどから攻撃しているが、防御力が高く、なかなか倒せずにいる。もう勝負はついていた。一気に前後から攻められ、私達は引く事もできずに、全滅した。
2010.06.23
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「というわけで、皆強くなってきたし、ギルドバトルをやろうと思う。」いつもの昼下がり、クロノスがジェネシスのメンバーをギルドホールの会議室に呼び出した。ギルドバトルとは、他のギルドと対戦し、どこが一番強いギルドであるかを決める戦いの事だ。強者が大勢参加している。「やろうぜ!」ヒロは乗り気だ。「今やっても、負けると思うけど。」机の隅で、エデンが呟いた。「なんでだよ!やってみねーとわかんねーだろ!」それにヒロが食ってかかる。「まぁ、一度やってみたらいいんじゃない。どうせ負けるから。」「なんだと!」いつもこの調子だ。突進型のヒロと、冷静なエデン。正反対な二人だ。「まぁ、落ち着け~」副マスのたかちゃんが言った。「たとえ負けたとしても、やってみたらええんちゃう?今の実力もわかるし、ええ機会なんとちゃう?」な、俺ええ事言うたやろ!とたかちゃんは隣に座っているユナを覗きこむ。たかちゃんは女好きだ。「たかちゃん顔近~い!きもい~」ユナは仰け反った。コホン咳払いをしたのは、シュンである。「で、どことギルドバトルするんだよ?」シュンはクロノスを見る。シュンはせっかちな男だ。どこか冷たいかんじがするのを否めない。「う~ん、希望かな。レベル的にはいい対戦相手だと思う。」「よっしゃ!やるからには勝とうぜ!」ヒロは身を乗り出した。「うざっ。」エデンがぼそっと呟いた。夕方にはギルドバトルの申し込みは終わり、私たちジェネシスは、ギルド希望と明日対戦する事が決まった。「緊張する」ギルドホールで、私は近くにいたユナに話しかけた。「だいじょぶだいじょぶ!!あたし達、強くなったから勝つ気がするし♪」ユナは楽観的だ。「まあ、最強のギルドのエンジェルにはまだまだ敵わないんだろうけどね。」エンジェル...アークがいるギルドだ。「あそこは毎日のようにギルドバトルやってるみたいだよ~動きも軍隊みたいなんだって。」「そうなんだ。」「さ、もう明日に備えて寝よ~♪おやすみ、アヤカ!」ユナは私に歩み寄ると、頬にキスをした。どこか外国式である。彼女のスキンシップの取り方なのだろう。「おやすみユナ。」 私も眠ることにした。夜が明け、ギルドメンバー達はそれぞれ準備を調えた後、ギルドバトルが開催されるという会場に移動した。会場は町の一角にあり、中に入ると沢山の人で賑わいを見せていた。露店があちこちに立ち並び、回復剤や増強剤を中心にアイテムを売っている。いろんなギルドの人が会話をしている姿が見える。活気があって皆表情が生き生きとしていた。「時間までここで待機するから。」クロノスはそう言い、公園にあるようなベンチを指さした。他にもベンチはいくつか用意されており、腰掛けている人が何人かいる。見渡す限り、対戦相手である希望のギルドメンバーはまだ到着していないようだ。「緊張するね。。」昨夜私が言ったのと同じセリフを、ユナはポツリと洩らした。私は思わず笑ってしまった。「あ!見てエンジェルのメンバーよ!」私はユナの指さす方を見る。エンジェルのメンバーは二列に整列し、まるで軍隊のように行進し、堂々と受付を済ませた。ざっと30人はいるだろう。ジェネシスとは規模が違いすぎる。よく見ると、その中にアークがいた。「アーク!」私は思わず叫んだ。ジェネシスのメンバーが驚いて私を見た。アークはきょろきょろあたりを見渡し、やがて私に視線が注がれた。「アヤカ?」アークの口が動いた。「なんだ?お前の彼女か~?」アークは横に並んでいた人物に冷やかされながら、ちょっと行ってくるといい、列を抜け、こちらに来た。私はベンチから立つと、アークに駆け寄った。「アヤカ、久しぶり。」「名前、覚えててくれたの。」「俺、記憶力はいいんだ。ギルドに入ったんだね。」「ええ、今ジェネシスに所属してるの。」「俺はエンジェルにいるんだ。今からギルドバトルがあって。」「そうみたいね、頑張って。こないだは、地下牢獄で助けてくれてありがとう。」「いいよ、気にしないで。今は狩場変えて、廃坑によくいるんだ。また会った時はよろしくね。」「こちらこそ」私はアークに差し出された手を強く握り返した。笑顔が眩しい青年だった。「アヤカはあ~いうのが好みなのか」「え?」ヒロがそっぽをむいた。「アイツ相当強いな。」アークがエンジェルの列に戻ってから、クロノスが口を開いた。「なんでわかるの?」私は問う。「アイツの装備見たか?まず剣。あれは今一番強いと言われてる有名なものだ。相場は3億。」さ、さんおく ケタが違いすぎる...「次に鎧。あれも防御力が高い。さらに足。あれはうさぎのように早く走れるシューズで、どんなに足が早いやつでも追いつけないだろうな。」短時間の間によく観察している。さすがクロノスだ。「ま、俺と一対一で戦ったら、俺が勝つけどな。」クロノスは自慢気に言った。「なにか策でもあるの?」「相手が切りかかる前にメテオで焼く。」クロノスは真顔で答えた。「クロノスらし~」ユナは大笑いした。時間になり、ギルドバトルが行われるフィールドへの道が開かれた。魔方陣の中に入れば、ワープできるようになっている。私達は勝利を胸に、魔方陣へ飛び込んだ。
2010.06.23
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ギルドに加入してからというもの、私の生活はガラリと変わった。まず、今まで住んでいた家を引き払い、ギルドホールに移り住んだ。そして、一人で狩りに出かける事もなくなった。いつも、ギルドの誰かがついてきてくれるのだ。ギルド、ジェネシスのメンバーは私を含め7人いる。ギルドマスターであるクロノス、副ギルドマスターのたかちゃん、それにユナ、エデン、シュン、ヒロ。皆いい人ばかりだ。「今日も、鉄巨人を狩りに行こうぜ!!」探検家のヒロが、最近お気に入りの狩場に行く事を提案した。クロノスがその話を聞き、「今日は俺も行くか。試したい技もあるし。」と言った。「おし、じゃー決まり。アヤカも来るよな?」ヒロに誘われ、私は頷いた。最近は、ヒロと狩りに出かける事が多い。なんといっても、効率がいい。ヒロは遠距離攻撃ができ、一度に広い範囲に攻撃ができる。私は接近戦で、ヒロがある程度弱らせた敵を斬りつける。敵はダメージを受けていて動きが鈍く、反撃させる暇を与えない。私でも容易に倒すことができた。ヒロと二人で狩りをしていくうちに、私はだいぶ強くなっていた。新しい狩場に行き、一人で死にかけた事もあったけれど、それはもう過去の出来事だ。私達はクロノスと三人で、鉄巨人がいる海岸に移動した。今日は小雨が降っており、そのせいで視界が悪い。「おっしゃ~!どこからでもかかってこい!!」ヒロはそう言うと、近くを通りかかったカニのモンスターにナイフを投げ、一撃で倒してみせた。「弱いものいじめか?情けない。」クロノスはため息をついた。「よし!アヤカ着いてこいよ!」「うん!」私はヒロの後を追って、走りだした。クロノスが後からのんびりついてくる。この光景が、なんだか、温かい。私には仲間がいるんだ。こんなに心が潤っているのはいつぶりだろう。だって、私はずっとアイサレテコナカッタオカアサンカラモいつだって、誰かと距離を置いた付き合いしかしてこなかった。だから、今まで特別に仲がいい友達もできなかった。踏み込まれるのはこわい。だから私も、人の心に土足で踏み込む真似はしない。その方がうまくいく。いつだって私は、そうしてきたもの。でも...この人達には心を開いてもいい気がする。ダケドコワイマタヒテイサレタラドウシヨウオマエナンカウマナケレバヨカッタあ、頭が痛い...!!私は頭を押さえて、その場にしゃがみ込んだ。「お、おい!!アヤカ大丈夫か?!」クロノスが駆け寄る。「ごめん、心配しないで。」「あんまり無理するなよ。」クロノスはそう言うと、魔法の詠唱を始めた。長い呪文...敵が集まってくる気配がする。先を行くヒロが後ろを振り返り、私のもとへ戻ってきた。ヒロ一人では倒しきれないほどの数だ。私たちはあっという間に鉄巨人に囲まれた。その状況を見て、ヒロが次から次へ、敵に向かってナイフを投げる。クロノスは詠唱中だ。「クロノス!アヤカ!逃げろ!!」ヒロは叫んだ。その時...空から地上に向かって赤い隕石が降ってきた。まぶしい!私は目を瞑った。赤い隕石は、私達を囲んでいた敵を一瞬で焼き払った。敵は、その姿ごと消滅し、影だけを残した。クロノスは振り上げた杖をおろした。「間に合ったな。」助かった...「い、今のは上級魔法、メテオじゃね~か!うにさんそんなの、いつ覚えたんだ?」ヒロがわくわくして聞く。「内緒っ」クロノスはそっけなく言った。「クロノス助かった。ありがとう。」私はお礼を言った。「気にするな。それより大丈夫か?」「うん、少し目眩がして。多分、もう、大丈夫。」「今日はもう帰ろうか。アヤカ!俺が看病してやるよ。」ヒロは私を背負うと、ギルドホールへ戻る道を歩き出した。ギルドホールに戻ると、ユナが私の様子に気が付き駆け寄ってきた。「アヤカどしたの!大丈夫?」ヒロの背中から降ろしてもらい、ユナの顔がドアップに迫る。「ちょっと目眩がして。だいぶよくなった。」ユナは良かったね~!!と笑顔で私に飛び付いた。「こらユナ!俺にも抱きつけ!」クロノスの一言で皆が笑う。私はジェネシスに加入して、本当に良かったと思った。楽しく過ぎていく時間の中で、アークと再び会いたいという気持ちはしだいに薄れていった。
2010.06.23
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その出来事があってから、私は一段と狩りに身が入るようになった。アークと名乗った男は、私がやっとの思いで倒したモンスターを一撃で倒した。強かった。何度もあの時の光景が頭に浮かぶ。負けたくなかった。強くなったら、アークにまた会える気がした。私は何かにとりつかれたように、ただひたすらにモンスターを倒し続け、経験値を稼いだ。今日も、擦り傷と泥まみれになってしまった。夜も深まり、もうそろそろ帰ろうと思った時「あ!ダメ~!!」少女の声が聞こえた。あたりをキョロキョロすると、手に槍を持った小さなモンスターが私に突進してくるのが見えた。私は身の危険を感じ、そのモンスターを斬り捨てた。モンスターは、「わおーん」と言い、その場に倒れた。草むらから、少女が飛び出した。「ああああああ!!!!」少女は絶叫すると、たった今私が倒したモンスターに駆け寄った。「わ、私の毛まみれちゃんがあ!!!!」モンスター、毛まみれちゃんは、すでに息絶えていた。少女はその場にへなへなと座り込むと、毛まみれちゃんに抱きついた。「あ、あの...」私は少女に声をかけた。少女は泣きながら顔をあげると、「これ、私のペットだったの。」と言った。少女は、調教師だった。調教師とは、モンスターを説得後、自分の仲間にし、調教してより強いペットに育てあげる。そして、そのペットにモンスターを倒させ、生計をたてている人の職業の事だ。「それは、知らなかったとはいえ悪い事をしたわね・・・」私は少女に謝った。「仕方ないわ。この子が襲ったんだもの。」普通、調教されたモンスターは人は襲わない。「ちゃんと育てれなかった私が悪いの。」少女は毛まみれちゃんに、ごめんねと言うと立ち上がった。「私はユナ。見ての通り、調教師よ。」少女は自己紹介すると、深くかぶっていたフードを取ってみせた。「わ、私はアヤカ。剣士よ。」少女の顔は、たった今まで泣いていた事を忘れたかのようにパァっと輝いた。「アヤカ!よろしくね!」ユナは私に抱きついた。少女の体が私に密着する。無防備な、愛らしい女の子だった。なんだか、くすぐったい。今まで、誰かに抱きつかれた事なんて、あんまりなかったもの。ユナは、「あたしとアヤカが出会えたのも何かの縁!ねね、今日はもう遅いし、家に来ない?」と言い、強引に私の腕を引っ張った。「え」急な展開に私は少し戸惑った。「皆いい人だから、きっと、アヤカの事を歓迎するよ♪メンバー募集してるし♪」皆...?メンバー?私はよく、意味がわからなかった。「とにかく来て!」ユナは私の腕に絡み付く。まぁ、家に帰っても、特にやる事もないし...私は少し考えた後、ユナについていく事に決めた。「わ~い!こっちよ♪着いてきて!」ユナは私の腕を引っ張りながら、町の方へ向かった。「ここが、あたしの家よ!」連れて行かれたのは、ホールだった。「お城みたい」私は呟いた。ホールの床はタイルでできており、真ん中には女の姿をした石像がある。奥の方には、見事な鳥の形をした石像もあった。「すごい・・・!」私は圧倒された。見れば、図書館や雑貨屋、会議室と思われる机とイスが沢山並ぶ部屋や、個人の部屋もある。町に、こんな場所があったなんて。「アヤカ!こっちに来て!ギルマスがいるの!」私は訳も解らず、ユナに連れられていった。よく見ると、奥の方に人影が見える。どんどん、その影に近づいていく。やがて、顔がハッキリする。ユナはその人の前で歩みを止めた。「この人が、ギルマスのクロノスよ。」紹介された男は、「こんばんは、クロノスでーす。」と挨拶した。「えっと、私はアヤカです。」少し遅れて、オドオドしながら話す。「ギルド入会希望者か?」クロノスは私の隣にいるユナに問う。「えっと、そう!そうよね!!アヤカ!」ユナは楽しそうにそう言った。「ギルド?」私は困惑した表情で、ユナを見た。クロノスはユナをチラッと見ると、ため息をついた。「また、ユナが勝手に引っ張ってきたんだろ」ユナはエヘヘと言い、舌を出した。「というわけで」クロノスは、会議室で一通りの説明を終えた後、私に向き直った。「ギルド、ジェネシスでは、メンバーを募集している。アヤカも加入しないか?」クロノスはそう言い、契約書を差し出した。ギルドとは、簡単に言うと同じ目的を持った冒険家の集まりの事だ。この世界には、既に数多くのギルドが存在し、他のギルドと戦い、最も強いギルドを決める戦いーギルドバトルがなんと言っても盛り上がる。「うちのギルドは、人がただでさえ足りないのに、まとまりもないの~。だからギルドバトルではいつも負けちゃって。」ユナが横から口を挟んだ。「強くなりたいなら、一人で狩りをするよりも、俺達と手を組んでやらないか?」ツヨクナリタイナラこの言葉が決定的だった。私は契約書にサインをし、ギルドに加入することを決めた。「よろしくお願いします」ユナがわぁっと喜ぶ。サインし終えたのを確認し、クロノスが渡したいものがあると言い、席を外した。なんだろう?しばらくして、クロノスが戻ってきた。「アヤカ、手出して。」私は言われた通り、手を差し出した。「これが、ギルドの紋章だ、なくすなよ」手の中を見ると、羽の絵が刻まれたブローチが転がっていた。これ...!たしか、アークもブローチをつけていなかったか。記憶を探る。アークは確か、天使の絵が刻まれた....私はクロノスに聞いた。「この絵は羽だけど、天使の絵がついたブローチはどこのギルドなの??」クロノスとユナは顔を見合わせた。クロノスは険しい表情で、こう答えた。「天使のブローチがついたギルドの名はエンジェル。俺達の敵だ。」クロノスはそう言い捨てた。てきアークにまた会える気がして強くなりたいのに私は、軽率に契約書にサインした事をもう後悔した。
2010.06.23
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雨続きで、なかなか狩りに出かけられなかったけれど、今日は久しぶりにいい天気だ。風もなく、ひんやりとした空気が流れる。久しぶりに、なまっていた体を動かしたくて、私はうずうずしていた。狩りをしないと、お金が稼げないし、経験値がもらえない。だからこの世界の住人達はモンスターを倒して、生計をたてている。私も、自分のレベルに合った場所で狩りをする事に決めた。家を出ると、そこには露店が立ち並ぶ。モンスターが落としたアイテムを、売っているのだ。その種類は、武器や回復剤や増強剤、素材など様々だった。ふと、目に留まる露店があった。そこには、私が所持している短剣より強い武器が売っていた。「いらっしゃい」店主はにっこり微笑んだ。私が短剣を見ているのに気付くと、「ああ、その剣は元々俺が愛用してたんだけど、もう必要なくなったから売りに出したんだ。」店主は正直に話した。威力もあるし、まあ、俺のお古だから安くしとくよ、と続けた。私は自分の短剣に目をやった。たいして手入れもしていなかった為、切れ味が悪い。何ヶ月も前に、モンスターが落として以来、ずっと愛用している。そろそろ変えてもいいかもしれない。私は露店の短剣を手にし、これ買いますと呟いた。「そうかいそうかい!」店主は大喜びで、よほど嬉しかったのかおまけにポーション(回復剤)をつけてくれた。私はお礼を言うと、露店から離れて狩場に向かった。狩場はそう遠くなく、町をでて東に少し行った所にある。ここには盗賊達が沢山いて、私を見つけるとあちらから戦いを挑んでくる。自分からモンスターを探さなくてもいいから楽なのと、盗賊は倒した後にお金を沢山落とすので、ここは私のお気に入りの場所だった。いつものように、歩いていると盗賊が襲ってきた。私は剣をふるう。盗賊はあっけなくその場に倒れ、誰かから盗んだのであろう、お金を大量に落とした。私はありがたくそのお金を拾った。武器を変えて、なんだか急に自分が強くなった気がした。もっと、モンスターが強い所に行ってみようかなぁ。今日はなんだか調子がいい。新しい武器の切れ味と、天気がいいせいで、いつもより気分が良かった。町からさらに東に行くと、そこには地下牢獄がある。まだ足を踏み入れた事はなかったが、中に入る事に不思議と恐怖感はなかった。一歩ずつ確かめるように地下への階段を降りる。中は暗い。やがて、外からの光が完全に遮断され、私は壁をつたいながら、ようやく地面に降り立った。寒い私は身震いした。中は灯りを灯す燭台が所々にあり、薄暗い。私は用心して、剣の柄に手をかけながら通路を進んだ。しばらく進むと、日本刀を持った鎧を着た武士のモンスターがいた。私は躊躇わず、それに切りかかった。初めて戦うそのモンスターは防御力があり、固かった。カキン!カキン!剣を交える音が響く。強い!今まで倒してきた盗賊とは比べものにならない!!私は先ほど露店でもらったポーションを飲みながら、やっとの思いでモンスターを倒した。息がきれる。強かったポーションはあっという間になくなり、ここはまだ自分には早すぎる狩場だと思い、地上に戻ろうと諦めたその時、「危ない!!」突然、後ろから男の声がした。私は声がした方を、振り向いた。目の前で、骸骨の姿をしたモンスターが私に切りかかろうとしていた。しまった!!まだいた!私はとっさに目をつむった。・・・?だが、いつまでたっても痛みはおそってこなかった。「君、大丈夫?」おそるおそる目を開けると、そこには崩れた骨とモンスターが落としたポーションが転がっていた。私は瞬時に理解した。この人がモンスターを倒したんだと。固まっている私に、男は声をかけた。「危ない所だったね。間に合ってよかった。」男は落ちていたポーションを拾うと私に差し出した。「これ、君が持ってて。俺はまだ沢山あるし。」「あ、ありがとう。」私はお礼を言った。「君、見ない顔だね。ここの適正レベル、90ぐらい。敵、防御力高いの多いから気をつけて。」男はそう言うと、私がお礼を言う前に、それじゃといい、地下2階に降りる階段の方に向かった。「あ、ちょちょっと待って!」私は小走りで男を追いかけ、とっさに男のマントを掴んだ。天使の絵が刻まれたバッジが目に入る。男は振り返った。「ありがとう、私ここ初めてで。助かりました。」「気にしないで。ここは俺の庭みたいなもんだから。」「そうなんですか。」「そうそう。君、名前は?俺は、アーク。」「わ、私はアヤカ...」また会ったらよろしくと差し出された大きな手を、私は握り返した。「それじゃ、アヤカ。またね!」男―アークはそう言うとマントを翻し、暗闇に紛れて消えた。赤いマントと、胸につけた天使の絵が刻まれたバッジが印象的な剣士だった。これが、私とアークの初めての出会いだった。
2010.06.23
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職場は私にとって苦痛でしかない。私は診療所で、受付事務の仕事をしていた。職員は、お喋りと噂話が好きな先輩たち、気難しい看護師、自分の失敗を認めず、すぐ人のせいにする先生と私の、五人しかいない。こじんまりとした、小さな診療所だ。お金のために、ここに留まらなければと思っているけど、押し付けられる雑用と残業の多さに、もううんざりだった。それでも仕事をこなし、先生と先輩に愛想笑いをして過ごす日々のストレスを、全部胸に溜め込んでいた。「おい、伊藤君。ここ埃があるぞ。掃除は君の仕事なんだから、やってもらわないと困るじゃないか。」先生はそう言うと、使えない奴だなとぶつぶつ文句を言い、去って言った。先輩達はそれを見て、薄ら笑いを浮かべる。受付は、動物園のチケット売り場のようなガラスばりのカウンターで隔ててあるが、中の様子は分かるようになっている。先輩達が、薄汚いブタに見えた。「ただいま」家に帰ると、22時を過ぎていた。20時に受付自体は終わるのだが、残業のせいで、いつも帰りが遅くなってしまう。特に今日は予約していた患者が遅れてやって来た。そのせいで、こんな時間になってしまった。ふと、下を見ると見慣れない靴がひとつ増えている。また来てるオカアサンの愛人。ここ毎日だ。リビングを覗き込むと、オカアサンと愛人が、ソファでドラマを見ながらイチャイチャしていた。オカアサンは私の方に視線を送ったが、すぐにまたテレビに戻した。まるで、私なんて最初から存在していなかったかのように。オカアサンの目に私は映らない。誰も相手にしてくれない。そして、私を誰も愛してはくれないのだ。私は一気に二階までかけ上がった。部屋の机の上には、ノートパソコンがある。私は助けを求めるように、電源を入れた。ここ―現実世界には私の居場所なんて、どこにもない。息が、できない。私は、生きてるの?違う、シンデナイダケもう、生きたくない私の頬を涙が伝った。
2010.06.23
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またブログ始めました☆前回のブログは2年ぐらい続けてましたが、もう見るのも辛かったので、消してしまいましたw趣味で小説を書くようになったので、表現できる場所があればと思い作りました☆日常のことも書いていきたいと思いま♪小説は、オンラインゲームREDSTONEの世界観を参考に、今回オリジナルとして書きました。(主に夜勤中にww)携帯で5月の終わりから2週間で書き、友達に読んでもらっていました。今は番外編と、もうひとつ書きたい話があったので、時間の合間に書いてます。出来次第、うpしたいと思っています。文章下手ですが、感想などなどお待ちしてます!
2010.06.23
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あーあー
2010.06.23
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