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2006年04月01日
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カテゴリ: 日々の暮らし
郵便受けに一通の手紙。差出人は九州の心当たりのない人。いぶかしく思いながら封を切って読み始める。

「ああ、あの人のお母さんだ!」

あの人、とはまだ会ったこともないアメリカの獄中の人。何年も前から新聞の短歌の欄で時々名前を見かけていた人だ。短歌の内容から刑務所にいる人だとは察しがついたが、どんな罪なのか年齢も何も分からない。でもどの歌も胸を打つものが多く、私はいつの間にか短歌欄を開く度に無意識のうちにその人の名前を探すようになっていた。

そして去年、ある大手の出版社からその人の歌集が世に出たのだ。新聞広告でそれを知った私はすぐにアマゾンから取り寄せた。
そこには沢山の短歌のほかにエッセイや鉛筆だけで書いたスケッチも載っていて、彼が終身刑ですでに20年をカリフォルニアの刑務所で過ごしていることが分かった。

たった3畳ほどの狭い独房の中と、時たま運動に出る塀の中の空間しかないところから次々つむぎ出される歌の数々に比べ、彼よりもずっとずっと自由で広い空間にいるのになかなか作れない自分の作歌力の貧しさをほんとうに恥ずかしいと思った。

老い母が独力で書きし封筒の
        ゆがんだ英字に感極まりぬ


        夕陽の彼方に日本がある

獄窓(まど)に置きし餌に寄る野の鳥が
        「籠の鳥」なる我を眺むる

母さんに「すぐ帰るから待ってて」と
         告げて渡米し30年経ちぬ

と、まだまだ心を打つ歌が沢山ある。
ペンネームや桜島を詠った歌が多いことから鹿児島出身の方と察しがついた。
「あの山の向こう」にはエサレンがあることも分かったので、一度面会に
行けないかなと考えた。ロスアンジェルスの友達に話すと車で連れて行って上げると言う。彼女がインターネットで刑務所の住所を調べてくれたので手紙を出してみた。しかしペンネームでは届かず戻って来てしまったので、そのまま出版社に送って転送を頼んだ。

そして忘れた頃に彼からの返事が届いたのだ。
几帳面なペン習字のような字で丁寧な文面だった。しかし面会には非常に複雑な手続きが必要なこと、小包なども受け取れないことなどが書かれており、何か鹿児島の名物でも持って面会に行けたらという私の甘い考えは打ち砕かれた。でも私の気持は伝わったようでとても感激してくれていた。


ご主人が脳溢血で倒れ、長いこと一人で介護なさっていたが今は病院へ見舞いに行く毎日であることや、息子のことを思うと胸が張り裂けそうなどと書かれており、私は泣けて泣けてしかたがなかった。私に会いたいとも書かれており、今年80歳だと言うその方を思い切り抱き締めて上げたい衝動に駆られた。

お母さん、鹿児島まで会いに行きますよ。
そして沢山、沢山話をしましょう。
6月には必ず行きますからそれまで待っててください。肉親なら面会出来るということなら私がアメリカまで連れて行って差し上げます。

という手紙を昨日書いて送った。


外つ国の獄に湧き出る短歌(うた)数多(あまた)
                 罪を浄むる岩清水のごと

高き塀を越えて飛び行く鳥眺め
           帰れぬ故郷をしのぶや哀し





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最終更新日  2006年04月01日 11時57分02秒
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