かるーな

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アーデルハイデ

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July 17, 2005
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カテゴリ: 藤原竜也
 観るにあたってまず三島由紀夫の戯曲を読んだが、よく分からなかった。そこで白洲正子「お能の見方」を読んでみた。

 「古典の勉強をするためにお能をみる、というのは邪道である」「美しいものをただ美しいと感じるのが能の舞い」

 能から持ってきたものは、セットをいじらず、途中で世界が、主役が変化すること。そこだけはっきりと感じながら、あとは美しさに素直に身を任せるつもりで観た。


 「卒塔婆小町」

 私は美輪明宏版の「卒塔婆小町」を観ているが、あまりにも前で比較できるほど覚えていない。美輪さん演じる小町は鹿鳴館の場面に変化したときに美女に装いを変えた(変身については三島氏の諒解もとっている)が、壌さん演じる小町は始めから終わりまでボロを纏ったままだった。壌さんは立ち居振る舞い、発声で美女に変化してみせた。

 だが見目麗しいかと言われればそんな訳はない。だが詩人はその小町を見て「美しい」と言う。「美」が主観的なものであることがここで強調されるのか、小町の内面の美のことを言っているのかは、わからない。内面の美を知ることで外見まで美しく見えたのだろうか。それとも、深草少将だった頃の記憶の中で見た小町だったのだろうか。(美輪版ではそこは解り易さに徹したとパンフレットにある。前世である深草少将の記憶が蘇ったものとすれば合点がいく。)

 ただ、「小町は見目麗しい」ということに納得してしまった自分がいた。詩人の目を通していつのまにか小町を見ていたのだ。

 第一場面、暗闇に「パタッ、パタッ」と何やら音がするので、接吻の音かと身構えたが、紅椿の落ちる音だった。芝居の間、セリフの邪魔になるときは止まるが、それ以外ではひっきりなしに落ちる。とても心地よい。椿の木がぐるっとめぐらされてそれに沿うように白いベンチが手前に置かれ、各ベンチにそれぞれ座って恋人達が抱き合っている。かなり濃厚な愛撫を繰り広げている。その男女は全員男優によって演じられている。太っちょの女も、可憐な若い女も、コンサバティブなスーツに髪を巻いて男にしなだれかかっているが女形である。ありそうでない、俗悪なようでファンタジックな舞台。キューブリックの映画を思い出した。

 それは老女・小町が現れてからも同じで、ボロなのだが、醜悪さはないし、詩人の酩酊ぶりも、嫌悪を感じない。この現実感のなさに酔わされる。やはり椿の落ちる音は接吻を表しているのだという気がしていた。



 恋に憧れながら逢引する男女を外から見ているだけの男だった詩人が、小町への恋に目覚めるところがあざやかな変化だった。「あっ、変わった」とはっきり思った。詩人は「きれいだ」と言ってしまったために死に至る。スローモーションで弧を描いて後ろへ倒れていく詩人の美しさ・・・そう、そこはゆっくり死んでほしいところだった。私もあんなふうに美しく破滅してみたい。そう思わせる死に方。

 最後の老婆のセリフ「あたしに色気を出しやがるんですよ」、ここを蜷川版では生かし、美輪版では削っていた。美輪さんはこの物語を「椿姫」になぞらえて見ているからだ。老婆は無償の愛の持ち主であるという主旨から、詩人に投げつけられるこのセリフを省略している(これについても三島氏自身が省略を正しいこととして認めている)。

 このセリフを生かすことで、詩人と老婆が80年前の二人に跳び、その記憶から醒め、もとの老婆に戻ったのだ、というふうな感じをより受けた。だから結局、蜷川版も美輪版も、変身するにせよしないにせよ、「内面の美からくる外見の美」とかそういうことより「鹿鳴館時代へトリップした」という見方において一致しているのかなあと思った。そこは両方のパンフレットを読み込んでみても、はっきり確認できないのだが、そういう見方の方が私にはすっきり来る。


 「弱法師」

 竜也君演じる俊徳は、意外にもイヤな奴だった。藤原竜也がやってしまえば、イヤな奴も、魅力的に存在してしまうのかと思っていたので、この竜也君は初めてだった。

 俊徳は一言でいえば「オタク」だった。何かに異常に詳しいことをすぐさまオタクとは言わない。それは単なるマニアである。マニアがオタクとなるその境界線は、人を省みることができるかできないか、というラインである。オタクは自分の世界のみを守るから「お宅」なのである。周りは全て敵。自分が許されて存在していることに気づいていない。俊徳はそんな青年だった。

 だが、芝居が進むにつれて俊徳がちらちら魅力的に見えたりする。周りの人間に対している俊徳はただのオタクだが、自分に対した俊徳は苦悩するいたいけで透明な存在に見える。それが入れ替わり立ち代りするので、こちらも徐々に警戒を緩めてしまう。

 俊徳が「戦火の記憶」にトリップした瞬間、やはり「あっ」と思うくらいに変わった。単なるオタクから民衆の穢れを背負った盲目の美少年、いわゆるシャーマンに変化した。竜也の身体は光を跳ね返し、神話的魅力に輝いた。

 夏木マリのセリフまわしは一筋縄ではいかない大人の女の色気を放ち、俊徳の存在に揺さぶられることなく泰然としながら、いたいけな俊徳を発見し、「少し好きに」なる。俊徳は級子と新しい世界へ旅立てばよかったのだが、ラスト、「僕って、どうしてだか、誰からも愛されるんだよ」と、もとのオタクとなってそこに座るのである。

 ああ、残念だったけど、「この世の終わりの景色」に確かにトリップできて、能のルールの通りに幽玄の美を体験できたのかなあと気が落ち着きかけた瞬間、バチーンと音がして、防火用の鉄扉が背景をふさいだ。そこで流れた音響に気づいた瞬間、ガツンと衝撃を食らった。

 それは三島の声だった。自衛隊駐屯地で行ったスピーチの声だった。このスピーチを終えた後、三島は切腹したのだった。



 ショックは後をひき、帰り道は三島に繰り返し語りかけようとする自分がいた。





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Last updated  July 18, 2005 12:49:46 AM
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