記憶の記録

2009.07.04
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カテゴリ: 住宅革命
指令

 僕が乗った新幹線ひかり505号新大阪行きは、ゆっくりと東京駅から滑り出た。
目の前の折りたたみテーブルには、ついさっきホームの売店で買った深川飯とお茶が乗っている。
新幹線で午前中に東京駅から出発する時は、駅弁の深川飯が僕の朝食の定番となっている。
 深川飯はアサリの炊き込みご飯の上に焼き海苔をしき、アナゴの蒲焼とハゼの甘露煮が乗っていて、小ナスの漬物が添えられている。決して豪華ではないが、たまらなく旨い。
 本来の深川飯は、ご飯にアサリのたっぷり入った味噌汁をぶっかけて食べる。べらんめーの深川漁師が忙しく食べたのが始まりとされていて、まさに庶民の味なのだ。
 深川飯をたいらげてお茶をすする頃にはもう新横浜を過ぎている。
 目的地が大阪ならすぐに夢の中に突入するところだが、今日の行く先は、愛知県の吉良町。豊橋でひかり号を下車し、JRの在来線で蒲郡、名鉄蒲郡線で吉良吉田と乗り継ぐ。
 居眠りなどしていたら一気に名古屋!いや僕のことだから京都まで在りうる。眠らないように田村邸の見積書をまとめる事にしよう。


「シード!明日、吉良へ飛んでくれ!吉良!」所長の杉山が甲高い声でまくし立てた。
(なんだかいつもより興奮気味だ。さては、ギャラの良い仕事が舞い込んできたか?)
「吉良ですか?吉良ってあの吉良ですか?」僕も、とんちんかんな返事をしたものだ。あの吉良もこの吉良も無い。吉良といえば・・ええと、何県だったか?
「所長、吉良って何県でしたっけ?」僕は地理は苦手ではないけれど、日本中の町名を覚えている筈も無い。妥当な質問だと思ったが杉山に一喝された。
「バカヤロー!吉良も知らんのか愛知だよ、あ・い・ち!」
 怒鳴られても一向にへこまない性格が災いして、上司のウケが悪いのは承知のうえだ。僕はとぼけたまま、「そうでした、そうでした、愛知県でした。」と知ったかぶった。どうやらこのへんが可愛くないらしい。
「でも所長。田村邸の件ですが、改修工事と管理業務を依頼されたんです。早急に見積もらなければなりません。吉良の件は穴沢さんにでもまわ・・」
「ばかやろー!見積もりなんぞ移動中にやるもんだ!しかし・・よくやった。」
改修工事と管理業務を依頼されたと聞いて、杉山は急ににこやかになり、声が穏やかになった。
(ゲンキンなんだからもう・・)
それにしてもこの所長、部下が一仕事終えて帰ったばかりだというのに、楽はさせてくれない。休むまもなくの出張指令だった。


 一夜明け、僕は例の七つ道具の入ったデイパックを携えて、車中の人となった。


目的地は吉良。
吉良といえば吉良上野介義央(きらこうづけのすけよしひさ)。
少し前までは(よしなか)と読んでいたらしいが、ある文献によしひさと在り現在ではよしひさが一般的らしい。
『忠臣蔵』ではヒールに大抜擢されているが、史実とはいえ脚色された物語のことだから、事の顛末は想像の域を出ない。

午前11時10分到着。雲ひとつ無い快晴!8月に入り本格的な夏になったけれど、不快な暑さではなかった。
吉良は、気持ちの良いカラリとした暑さで僕を迎えてくれた。

つづく














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Last updated  2009.07.04 17:01:15
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